小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第一章 左廻り走路編(7)



「お、やっぱ任史じゃん」

………?
にっこりと笑う不良さん。どこからどうみても正真正銘のヤンキーにこの笑顔は爽やかすぎるだろ。。。

「あ、あの……どなたでしたっけ?」
「ひっでえな、俺だよ、俺。拓哉だよ。」



…………あ、(゜A゜)! 思い出した。

「ああ、拓哉か……ごめん。どっかの不良かと思ったよ……。」
「アハハハハ、まー確かにどっかの不良だけどな。」

なんという偶然だろう。寝過ごした先で旧友に巡り合ってしまった。

拓哉とは昔からの知り合いで、小さい頃はよく一緒に遊んだりした。
小学校高学年ごろからグレ始めて、あまり学校に来なくなった。中学に入学してからは完璧に不良になった。ときどき学校に姿を見せても、4時間目の終わりにフラッと現れては、給食を食べるとそのまま失踪していた。
俺が受験期で塾が夜遅くまである時期は、たまに駅前で拓哉とばったり会って一緒に喋ったりした。
しかし、俺が高校に合格して塾を辞めてからは今まで一度も会ったことは無かった。

約二か月ぶり。たった二か月の間に随分大きくなったなあ……

「ところでさ、お前なんでこんなとこ居んの?高校、東京なんだろ?反対方面じゃん。」
「ああ、うん……寝過ごしちゃったんだよね(笑)」
「うわあ、相当なバカwww」笑い転げる拓哉。うぜえwww

「……む。じゃあ拓哉はなんでここに居るんだよ?」
拓哉は一瞬返答に詰まったようだった。しかしすぐに笑顔を作り直してこう言った。

「ばーろ、お前と違って俺はもう立派な社会人なんだよ。忙しーの。」
「へー、そっか……」

中学の頃から拓哉がヤバイ世界に足をつっこんでいるのには薄々、気付いていた。拓哉の言う“立派な社会人”とはそういう意味なんだろう。
けれど、あえて問いただす気はなかった。拓哉には、拓哉なりの生き方があるんだろうし。

遠くで、カンカンカンと踏み切りの落ちる音がした。

「お、電車来るぞ。電車。お前は我島岡に帰るんだよな?」
「うん。っていうか拓哉も帰るんでしょ?」
「……いや。まあ千葉駅までは一緒だから安心しな(笑)」

その後、誰も乗っていない車両に乗り込み、しばらく世間話なんかもした。彼女が居ないことがバレるとさんざん馬鹿にされた。なんなんだよ、どいつもこいつもリア充かよ(怒)

「へえ~任史マジメすぎるんじゃねえの?ちなみに俺はもう脱童……」
「っ、あああ!うるさい、この変態!それ以上喋るな!!」

そんなこんしていたら、すぐに千葉駅に着いた。ホームには人が全然居ない。こりゃもう終電だろうな。

「じゃ、またな、任史!」手を振る拓哉。なんか永遠の別れみたいだな……。
「うん、健康には気をつけなよ!」
そう言うと、拓哉は可笑しそうに大笑いした。「どこのババァだよ!」


それから一人になって、今日、部活でやった人生ゲームを思い出した。最初は同じスタート地点から始まるのに、ゴールする頃には一人一人が全く違う経路を辿っている人生ゲーム。

「俺と拓哉も同じなのかな。」
ゴールする頃には…拓哉だけじゃない、自分の知り合いみんな、それぞれ全く違った人生を送ってきているんだろうなぁ。……なーんて、感傷に浸っていたりした(笑)











それから数ヶ月して、俺は知ることになるのだが、
       ………その夜が、拓哉と会った最後の夜になった。