小説カイコ ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作

第一章 幽霊からのテガミ編(8)
その後は、5時間目に倫理、6・7時間目に総合学習という爆睡コースをこなしていった。―――――やっと帰れる、と思ったら部活がまだあったね。
今日は鈴木が先輩から借りた過去問をくれるらしい。
中間考査が近い(。。川
でもたいして勉強してない(。。川川
う~ん、部活なんか出てる場合じゃないんだけどね。でもみんな出てるから休むわけにもいかないだろう。
そんなこんな考えながら校庭をジョグしていると、先輩と鈴木が追いついてきた。……二人ともテストの話してるよ(´;ω;`)
「高橋、後でテスト回すから先に帰るなよ。」鈴木が肩を回しながら話しかけてきた。
「任史くんはさ、得意なのは文系なんだって?」この先輩がテストの主。
「そうですね……文系ですね。」
「そっかじゃあ気をつけなよ~。数学はあっという間に意味不になるからね」先輩は笑いながら、俺がそのいい例だよと付け加えた。しかしこの佐藤先輩、常時学年5位以内と聞く。恐ろしや。
その時だった。カーンといい音のした野球部の流れ弾が見事、鈴木のろっ骨らへんに直撃した。鈴木は グハッ と、断末魔を吐いて倒れ込んでしまった。
「おい、大丈夫か!?」
鈴木は蚊の泣くよう声で チヌ… とだけ呟いてぐったりとした。野球部の二年生が謝りながらめちゃくちゃ取り乱している。
「とりあえず医務室に運ぼう。任史くんは足の方持って。俺はこっち持つから。」 先輩は野球部の人に医務の先生を呼ぶように指示した。よく見たら眼鏡が吹っ飛んでいたので、眼鏡も拾って先輩と一緒に鈴木を持ち上げた。鈴木は低い声でうめいて救急車は呼ばなくてイイ、とか言い出した。呼んだ方がいいんじゃないか。
医務室に着いてベッドに寝かせると、先輩は救急車の問題は医務の先生に任せよう、先生が来るまで国由くんと一緒に居てね、と俺に言い残してどこかへ消えていった。
しかし5分しても先生が来ない。俺たち以外には誰も居ない医務室はシーンとしていて、校庭の騒がしさとは対照的に静寂そのものだった。
「……カイコ」
いきなり、鈴木が耳を疑うような発言をした。
「は?」
「お前、朝、蚕、乗せてたろ。」
「あ、うん。そうだね」……コイツ本当に大丈夫か!?
鈴木はまぶたを閉じたまま話を続けた。
「俺の姉ちゃんもよく乗っけてた」
「……はあ、すごい姉ちゃんだね。」病人には逆らわないのが看病のコツだと聞く。
「でさ、俺の前の名字、時木っていうんだ」
「えっ……」前の名字?離婚かなんかだろうか。
「姉ちゃん、俺と3歳差だった……けどさ、小学生の時、死んじゃった」
そこまで言うと、黙ってしまった。どうやら眠ってしまったらしい。起きた時に困るだろうから眼鏡は枕元に置いておくことにした。それからしばらくすると医務の先生がバタバタと走って来る音が聞こえたので鈴木の看病を先生にバトンタッチした。
医務室を出るとき、鈴木がむっくりと起き上って「高橋ぃー!テスト、エナメルに入ってるから抜いとけよー」といつもの調子で俺の背中に話しかけてきたのでびっくりした。先生がああ、鈴木君意外と大丈夫そうね、と言って俺に先に帰るように指示した。
その後、どうしても気になって先になんか帰れなかった。校門のところで待っていてもなかなか来ない。ついに7時を回ったが来なかった。
7時半を過ぎて事務員さんが もう帰れ、と追い払ってきたので、しょうがなく帰ることにした。
……… 一人で帰る道は、虫の音が嫌になるくらい煩わしかった。

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