小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第二章 後編(19)



「ちょ、高橋!?」

やっと見つけた、と安堵したのも束の間。いきなり膝をガックリ地面につけたかと思うと、高橋はそのまま前のめりに倒れてきた。

「おいおい、しっかりしてよ。」
話しかけてもウンともスンとも言わない。まさかと思うけど本気で気絶したのかな。……もう、本当に世話の焼ける。
しょうがないので、きっと食堂にいるであろう鈴木の携帯に電話をかけて、助太刀を呼ぶことにした。
目が覚めたら、うんと怒ってやろうかな(笑)









                      ◆

夏も近づく八十八夜。千歳茶に染めた、新しい着物が点々と目につく。
谷津に詰め込んだように作られた棚田、棚田の数々からハリの良い、元気な田植え歌が永遠と、こだまして聞こえている。
水の流れに沿って、しっかりと左回りに巡らされた棚田のあぜ道を下りながら、僕は人々の話す噂話を何となく聞いていた。







蟲神村にはな、そりゃ美しゅう娘が居てな、


なんでも、肌は雪のように真っ白で、
長い髪と、大きな瞳は墨を流したように黒檀でな、


そりゃあそりゃあ美しゅう娘子がおるようだ。
そりゃあそりゃあ美しゅう娘子がおるだとて。

残念なことんになぁ、その娘、外には滅多に出ぬそうよ。すぐに風邪をひいてしまうんだと。
いつも家ん中んて、しずーかに、しずーかに、細い指先で機を織っているそうよ。

その娘の織る衣はな、出来の良いものばかりでんな。
ほんに、天女の衣のようだと。晴れ着に使いたい言うもんも大勢おるんだと。

だからな、人はみな娘のことを化衣胡と呼んじゃて。
蟲神村の化衣胡と呼ぶんじゃて。