二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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神様のノート 一冊目
日時: 2015/05/12 18:40
名前: 奏月 昴 (ID: rBo/LDwv)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=28346

始めまして、奏月昴と申します。
pixivでも活動していますが、別の所でも活動したくなり、こちらにやってきました。

基本pixivと同じものを載せていく予定なので、お好きな方を閲覧下さい。


とりあえず今は現在進めているシリーズ物を載せますが、ちょこちょことお引越しさせていく予定です。
設定わかんないけど興味がある方、pixivまでお越しいただけるとありがたいです。
何かいい加減ですみません…。

それでは、よろしくお願いします。


※ざっくばらんなあらすじ
会社から帰宅途中に何故か宙に浮いている少年、MZDと出会った私こと、創造者。
彼から貰った創世ノートを使い、世界と創造者の分身、奏月昴を生み出し、この世界の神様として中からの管理を命じる。
その際、昴と約束し、私の事は他言無用とすることになった。

昴は生まれたその日に、この世界で烈達つぎドカ!メンバーと出会い、仲良くなる。
ある日、創造者から教えられた創世ノートの機能である『召喚』を用い、烈達の記憶と姿、力を基にして鏡達を生み出す。

そして二学期が始まる頃、八十稲羽から悠達ペルソナメンバーが、ペルソナが現実でも呼べるようになり、流石に稲羽にはいられないという事で、烈達が通う学校に転校して来て、仲良くなった。

色々あり、十二月。烈達つぎドカ!メンバーがバトルしてから一年後、パステルくんはワンダークロックと呼ばれる巨大時計をジョーカー一味に壊されている事を思い出し、一人立ち向かおうとするも、それをつけていた烈達つぎドカ!メンバー。
彼等の力を借り、ジョーカーを倒し、ワンダークロックを無事直すことが出来た。
ジョーカー達とは和解し、現在はつぎドカ!メンバーの家に、ジョーカーは昴のいる神殿に住むことに。
ワンダークロックが壊れた影響なのか、全ての人々の体の時間が戻ろうとしており、現在、年齢はそのままで一年をやり直している。

昴の管理と私の監視、それに限界を感じた私は、MZDの提案で、戦い慣れた人をノートの世界に永住させる事を決意。
その時、私が高校時代に考えた理乃達が適任という事になり、彼女等の世界をノートの中に作り出し、全てを話した上で永住してもらう事に。現在は悠達と同じ学年で生活している。



—とまぁ、見て分かるかわからないけど、主要となる人物は、つぎドカ!、ペルソナ4、ジョーカー達、それからオリジナルキャラとして理乃ちゃん達になるかな。


「あ、簡易的なキャラ紹介は、もう一個の“ノートに刻まれた一頁”に移したので、そちらを見てくれよな。URLからも飛べるぞ。」


5/12 最終更新


『目次』

☆料理対決シリーズ
〔第一回・可憐な乙女の料理対決〕
・栗拾いからの料理対決へ&華の乙女の料理対決! >>154-160
・実食 完二&烈&鏡&悠 >>164-168
・実食 凪&陽介&クマ&風雅 >>173-177
・結果発表からのO・SHI・O・KI・DEATH☆ >>180-186

〔第二回・続・可憐な乙女の料理対決〕
・料理対決・再び >>1-7
・実食 ローズ&鏡 >>8-11
・実食 完二&リリィ >>12-15
・実食 悠&風雅 >>16-19
・実食 凪&セシル >>20-23
・実食 陽介&クマ >>24-28
・実食 フランシス&烈 >>29-34
・結果発表と例のアレ >>35-43

〔第三回・豪傑な男の料理対決〕
・何でどうしてこうなった(By昴) >>44-49
・実食 氷海&雪花 >>50-53
・実食 七海&由梨 >>56-59
・実食 鈴花&直斗 >>60-63
・実食 葉月&雪子 >>64-67
・実食 千枝&牡丹 >>68-71
・実食 理乃&りせ >>72-76
・結果発表! >>77-86 ※募集は締め切りました
・O・SHI・O・KI☆前半戦 >>94-101
・O・SHI・O・KI☆後半戦 >>110-123

〔第四回・男女混合料理対決地獄編〕
・戦いをもう一度 >>203-209
・実食 一番&二番 >>222-227
・実食 三番&四番 >>233-237
・実食 五番&六番 >>247-253
・実食 七番&八番 >>260-264
・実食 九番&十番 >>286-290
・実食 十一番&十二番 >>301-306
・実食 裏回 >>326-342
・結果発表! >>384-398 ※募集は締め切りました
・賢者に慈愛を、愚者には罰を 賢者編 >>662-671

〔第五回・料理対決・頂上決戦!〕
・評価五のための頂上決戦! >>415-420

〔番外編・審査員一新!? 選抜メンバーの料理対決!〕
・死亡フラグ立たせた奴。前出ろ。前だ。 >>716-723
・実食 一番&二番 >>728-733
・実食 三番&四番 >>738-743
・実食 五番 >>751-756
・対決 五番の料理 >>784-794
・大団円と実食 六番 >>814-822
・実食 七番&八番 >>840-848

〔番外編・挑戦者=変動審査員!? ゲストもありな料理対決!〕
・概要と募集要項 >>856※募集は終了しました


☆言葉泥棒とワンダークロックシリーズ
・言葉が消えた理由 >>435-441
・異次元に突入! >>442-446
・激突! 鈴花VSローズ >>451-455
・激突! 風雅VSフランシス >>456-460
・激突! 烈VSリリィ >>464-469
・激突! 氷海VSセシル >>470-474
・激突! つぎドカ!VSジョーカー >>478-484
・揺蕩いから、覚醒めの時へ >>485-488
・激突! パステルくんVSジョーカー >>491-497
・おかえりの味とただいまの涙 >>498-506


☆マヨナカテレビ事件シリーズ
〔氷海編〕
・虚ろな映身は現身を打つ >>523-532
・穿たれた水器(みずうつわ) >>533-537
・囚われの氷硝 >>540-545
・冷酷なる御霊 >>546-553
・氷雪の女王 >>563-568
・悪夢の終わり >>569-578
・雲の向こうに捧ぐ向日葵の花 >>582-585


☆神様・悪夢相談室シリーズ
・悪夢:ケース「赤羽 烈」>>805-808
・悪夢:ケース「青柳 氷海」 >>831-835


☆もしももしものちいさなおはなしシリーズ
・カラオケネタ >>192-195 ※募集は締め切りました
・どっちの料理ショー >>274-276


☆ノートの世界のTwitter事情シリーズ
・アカウント一覧 >>589

〔本編〕
・その一 >>590-594
・その二 >>595-598
・その三 >>606-609
・その四 >>614-616
・その五 >>622-623
・その六 >>630-632
・その七 >>633-634
・その八 >>317-319

〔番外編〕
・Let's Twitter with JOMANDA >>602-605
・Let's Twitter with JOMANDA2 >>617
・Let's Twitter with JOMANDA3 >>776-778
・異世界の料理対決 その一 >>880-888


☆新・ワイルド能力者のコミュ事情シリーズ
・烈&氷海 ランク1 >>644-649


☆短編
・はんぶんこ >>128-129
・リミットブレイクと暴走娘 >>133-135
・フラワーギフト >>140-147
・年末恒例巫女さんバイト >>349-359
・玉より食物 >>365-371
・「リンちゃんなう!-Try to Sing Ver.-」 rejected by 相方の皆さん >>510-515
・没案「第四回料理対決六番の料理」 >>516
・思いつくままに書いてみた料理対決案 >>558
・没案「第四回料理対決・その後」 >>624 答え+α >>629
・バレンタインデー☆パニック! >>681-689
・猫の猫による猫のためのお花見 >>699-704
・お知らせと次々回予告(!?) >>708-709
・ほのぼの日和 >>770-772
・小ネタつめつめ >>863
・前奏曲・異世界の第六回目 >>866-868
・お知らせと紹介と >>891-893 new!

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虚ろな映身は現身を打つ その七 ( No.530 )
日時: 2015/01/19 23:29
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0iVKUEqP)

放課後、私はすぐに、寄り道もせずに家へと帰った。
お父様のお客様は、すぐに来ないみたい。セシルも家にいてくれるし、心細さはないわね。

「…ふぅ…。」

私はドレッサーの前に座り、髪を整え、溜息をついた。
鏡に映るその顔は、とても疲れきっているように見えた。

「氷海、お茶を入れましたわ。」
「あ、ありがとう。」

そんな私を気遣ってくれたのか、誰かがオレンジのいい香りがする紅茶を持ってきてくれた。
…細身で、美しい、スタイルのいい、赤いドレスを着た女性が目の前にいた。
誰だろうと思い返す事、数秒。すぐに思い出せた。
あれは、セシル。擬人化したセシルだわ。…たまにしか擬人化しないから、時々忘れるわ…。

「あら? その紅茶、家になかったわよね?」
「理乃さんが、氷海にと調合して下さったハーブティーです。疲れた体によく効くそうですよ。」
「理乃先輩が?」
「…あの方は、恋愛事には鈍感だが、他人の不調には敏感だと、由梨さんが仰っていました。お昼時に顔を会わせた際に、氷海の変化に気がついたのでしょう。」

気を遣わせてしまったわね…。今度、理乃先輩には何らかのお礼をしなくては…。

「これを飲んで、一息吐いて下さい。今の貴方に必要なものは、きっと安らぐ時間ですわ。」
「ええ…。」

私はハーブティーを一口、含む。
いい香りと共に、オレンジの優しい味が広がった。確かにこれは、凄く安らぐ。
本当に、理乃先輩の料理の腕には頭が上がらない。今度、教えて貰おうかしら…。

「あら?」
「どうかしたの?」
「今、チャイムが鳴った気がします。」
「お客様が来るにはまだ早いけれど…。」
「おーい、セッシルー! ひっうみー!」

誰だろうと考えていると、外から元気な男の子の声が聞こえた。この声は、ローズね。

「リリィが酒持って来たぞー!」
「…。」
「リリィの声がちっちゃいんじゃないか!」
「…。」
「確かにすぐ来るだろうけど、誰か分からなかったら出てこないだろー!」

…リリィも一緒だろうけれど、声が小さいから全く聞こえないわ…。
でも、リリィがお酒を? 何故…って、烈が倒れたから、リリィが代わりに持ってきてくれたのね…。

「まったく、あの二人は…。氷海、わたくしが出ますわ。」
「お願いね。お金なら、お母様が冷蔵庫のところに張り付けておいたそうよ。」
「わかったわ。貴方達ー、近所迷惑だから、そのまま喧嘩しないで待っていなさーい。」

セシルは外に向けてそう叫びながら、一階へと降りていった。

「…。」

楽しい喧騒が、玄関から聞こえる。
…あんな風に騒げば、私も夢の事を忘れられるかしら…。

『忘れられる訳ないじゃない。』
「!?」

突然、声が聞こえ、私は前を見る。
鏡の奥には、私がいた。けど、違う。
私であり、私じゃない誰かが…そこに、いた。

『どんなに騒いだって、どんなに安らいだって、貴方が烈への恋心を持つ限り…貴方が烈への思いを閉じ込める限り、私は存在し続けるわ。』
「あ、貴方は…誰…? 誰なの…?」
『私は貴方。貴方は私。』

平然と答える、私。
鏡の奥で、クスクスと笑っている。まるで混乱している私を見て、楽しんでいるかのように。

『愛する烈と向き合う事から逃げている私よ。』
「に、逃げてなんか…!」
『逃げているじゃない。本当は烈が好きなのに、その感情を押さえつけて、烈が望んでいないという言い訳を盾にして、逃げているじゃない。』

逃げてなんかいない!
烈が望まない事を、する訳にもいかないわ!

『…頑固者ね。烈は本当に、変わりたくないのかしら。』
「二年参りの日に、そう言って」
『貴方はそれが烈の本心だと確かめた? その言葉の真意を確かめた?』
「あ…!」

確かに、真意は違うかも知れない。けど、それを確かめるのは…!

『怖いんでしょ?』
「あ…う…!」
『本当は、烈に告白して、フラれて、今まで通りにいけなくなるのが怖いんでしょ? だから何かにつけて告白をせずに、逃げてばかり。』

今まで通りにいけなくなる。確かに、そう。それが一番、怖い。
今まで通りの距離で話したり出来なくなるのが、怖い。烈が遠くにいくのが、怖い…!

『そんな風に苦しむくらいなら、こっちに来てしまえばいいわ。ここなら、そんな悩みなんて考えなくていいもの。』
「い、嫌…!」

鏡をすり抜け、私の手首をぎゅっと掴む。私を引きずり込もうとするかのように。

『ずっとずっと、この中で、烈への愛情を育みながら、過ごして』
「そんなの…そんなの、嫌よ!」

私は鏡に向け、力を放つ。
盛大な音を立て、鏡は粉々に砕け散った。

虚ろな映身は現身を打つ その八【sideリリィ】 ( No.531 )
日時: 2015/01/19 23:35
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0iVKUEqP)

「はい、代金よ。いつもありがとう、リリィ。」
「いつもは、烈君。今日は、たまたま。」
「烈がぶっ倒れなきゃ、今頃は烈が届けてたんだけどなー。」

烈君、風邪引いた。昨日の雨で。
無理もない。昨日の雨は、凄く冷たい。かく言う私も、ちょっと、鼻、辛い。ネコネコ超会議の帰り、雨に打たれた。すぐに乾かして貰ったけど、やっぱりちょっと、風邪、引いた。
にゃぐわも、高熱出して倒れたって聞いた。トビーも、今、黒が看病してる。ただ、クーは、葉月さんがいたから、助かったみたい。今、紅さんと一緒に、お話中。らーぶらーぶ。

「ところで、ローズは何故ここに?」
「烈がぶっ倒れたから、お手伝い!」

ローズは最近、何でも屋みたいな事をしているらしい。昴さんのお手伝いもしているって、本人から聞いた。
よっぽど、暇なのかな。まぁ、関係ないけど。

「そんなの、嫌よ!」
「!?」

氷海さんの声と一緒に、何かが割れる音が響いた。ガラスのような、何かが。

「氷海!?」

セシルは心配して、すぐに駆けて行った。

「おい、リリィ、どうする!?」
「後、追う。心配。」
「だよな。ボクも行く!」

私は持ってきていたお酒を玄関口に置いて、二階の、氷海さんの部屋に向かった。











二階の部屋では、氷海さんがドレッサーの前で蹲って、セシルに支えられた姿が一番に目に入った。

「氷海! どうしたの!? 一体何があったの!?」
「…な、何でもないわ…。」
「冷静な貴方がそんなに取り乱すなんて…。とにかく、腕の治療をしましょう? ねっ?」

氷海さんの腕からは、割れたガラス…ううん、鏡で切ったのだろうか、血が流れていた。
そして、セシルは氷海さんと一緒に部屋から出て行く。

「…うわぁ…粉々だよ…。何をやればこんな風に粉々になるんだろう…。」
「…分からない。…ローズ、ちょっと、箒とちりとり取ってきて。」
「片付けるんだろ? わかってるって!」

すぐさまローズは箒とちりとりを探しに、部屋の外に出た。

「…。」

私は、割れた鏡の欠片を手に取る。
その奥に見える私が、怪しげに笑った気がした。

「…変な感じ。」

上手くは言えない。けど、この鏡に不吉な何かを、私は感じ取った。





…この予感は、当たらないと、いい。絶対に…。

虚ろな映身は現身を打つ その九 ( No.532 )
日時: 2015/01/19 23:40
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0iVKUEqP)

翌朝、再び私は学校に向かう。
今日は、いるかしら。昨日の今日だから、またお休みかしら。

「…!」

いた。私の席の前で呆けているわ。

「あ、おいっす、氷海。」
「おはよう、烈。風邪はもういいの?」
「鼻がまだ本調子じゃないけど、それ以外はもう全然。それに、俺が休んじまうと、他のツッコミ属性の奴等の仕事が増えちまうしさ。」

喧嘩の仲裁という仕事を、直斗達に増やさない為に、無理して早く治したのかしら…。無理なんて、しなくてもいいのに…。

「って、お前、腕…!」
「えっ?」

腕に、何かあるのかし…って、まずいわ、傷口が開いたのか、血が出てきていたわ。

「昨日、リリィから怪我したって聞いたが…。」
「ちょっと、切っただけよ。」
「ちょっとの出血じゃねぇだろ。」

そう言って烈は私の手を取り、ぐいっ、と引っ張った。

「痛っ…!」
「あっ、わ、わりぃ! とにかく、保健室行くぞ。包帯、変えねぇと…。」

烈は私を無理矢理引っ張り、そのまま保健室へと連行していった。











保健室に着くなり、烈は養護の先生を探す。
けれど、そこには誰もいなかった。職員会議の時間だろうか。

「あれ? いねぇな…。」
「れ、烈、私なら大丈夫だから、教室に戻りましょう?」
「血塗れの包帯巻いたままでみんなに心配されていいなら戻っけど?」
「うぅ…。」

さ、流石にこのままだと直斗や鈴花が心配しそう…。
観念した私を見た烈は、私の腕に巻いていた包帯を解き始めた。

「まったく、何やったらそんな切り傷できんだよ。」
「…。」

それは、言えない。言ったら、烈を心配させてしまうから。

「まぁ、話したくないならそれでいいけどよ…。」
「…ごめんなさい。」
「何でお前が謝るんだ…ん?」

包帯を外し終えた後、烈は私の腕をじっと見た。

「…どうか、したの?」
「ん、あ、いや…。なぁ、氷海…。」
「何?」

烈は、私の手をとったまま、私の腕を見つめる。
その視線の先には…。

「えっ…!?」

黒い、鬱血した痕があった。昨日は、無かった筈なのに…!
しかも、この痕…手の、形を…!?

「何だよ、この、何か掴まれたような痕…!」
「こ、これは…その…!」
「お前、本当に大丈夫なのか!? 何か、ヤバい事に巻き込まれて…!」
「…大丈夫よ、そんな心配、いらないわ。」
「大丈夫な訳…!」
「大丈夫よ!」

私は語気荒く、烈に反論した。
…烈は驚いたような顔をして、その手にガーゼと包帯を手に取った。

「…言いたくないなら、いい。けど…。」

丁重に包帯を巻き終え、私の腕をぽんっ、と叩き、立ち上がって私から背を向けた。

「危なくなる前に、言ってくれよな? 俺に言い辛いなら、昴さんでもいいし、雪花にだって…。」
「…ええ、勿論よ。」
「約束だぞ。」
「ええ。」

私は烈に、微笑みながらそう言い残した。





…でも、何も言うつもりもない。打ち明けるのが、怖い。
打ち明けたら、貴方が…遠くへと行ってしまいそうだから…。

だから、私はこの思いを抱えて生きていくつもり。
烈、貴方への、この狂おしい愛情を…。











「…氷海ちゃん、こんなにも烈君の事を深く愛していたんだね…。」
「だけど、その当の本人は何にも気付かず。こんな事があってようやく気付いた感じだよ。」

風花の言葉に、りせは溜息をつきながらそう答える。

「…仮に、その前に気付いても…烈はきっと、悩んじゃうと思う。」

そんなりせに待ったをかけたのは、鏡だった。

「…そうですね。きっとこの時点で烈さんが氷海さんの気持ちに気付いても…恐らく、これといった進展はないかと思います。むしろ、苦しむだけだと思います…。」
「…。」

昴は黙って、鏡の言葉に同意した理乃の言葉を聞いていた。

「…話、続けるぞ。」
「あ、はい、お願いします。」

だが、その沈黙も束の間、昴はすぐに次のページをめくった。

穿たれた水器 その一 ( No.533 )
日時: 2015/01/19 23:46
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0iVKUEqP)

打ち明けてはならない気持ち。
打ち明けてはいけない思い。

烈の事が好き。
烈の事を愛している。

けど、烈は進展を望まない。
愛する人は、望んでいない。

だから、私はこの思いを抱いて生きていく。
それに、時が過ぎれば、忘れられるはず。

…そう、願っていたはず…なのに…。











いつもと変わらない学校。
いつもと変わらない日常生活を送る烈達。

「…はぁ…。」

氷海はその中で、大きな溜息をついた。

「氷海さん、大丈夫ですか?」

その溜息を聞き付けたのか、直斗が心配して声をかけた。

「平気よ。大丈夫。…ちょっと、疲れただけ。」
「ここ数日、溜息ついてばかりですよ?」
「…気のせいよ。」

氷海はそう、はぐらかすように言う。
だが、直斗には気のせいとは思えなかった。

(…どう見たって気のせいではありませんね…。話したく…ないのでしょう、ね。溜息をついている相手が…烈君ですから。)

烈との恋路に悩んでいるのだろうか、そう思った直斗は、これ以上追求する事はしなかった。
氷海もそれを望んでいるとは思えないし、他人の恋路を後押しするのは、本人がそれを望んでからの方がいい。そう、直斗は考えた。

「…はよ。」

そんな中、烈が中に入ってきた。
その表情は、どこか、暗い。

「あ、烈君。おはようございます。」
「…うん、おはようさん、直斗。」
「何か、元気がありませんね。大丈夫ですか?」
「…別に平気だけど…。」

表情を暗くさせたまま、烈は自席に座り、一瞬だけ、氷海を見てから何かを考え込むように前を向き、押し黙った。

「…?」

かと思えば、スマートフォンを取り出し、時計を見上げた。

「直斗、悪い。俺、ちょっと陽介先輩と話してくる…。」
「あ、はい。いってらっしゃい。」

それだけを言い残し、烈は教室を出ていった。

「…烈、元気なかったわね…。」
「氷海さんにも挨拶していきませんでしたね。(…何か、あったのかな? あんな烈君、始めて見ます…。)」

烈の態度に首を傾げる二人。

「ねぇねぇ、今日の学校新聞、見た?」
「見た見た!」
(あぁ、そうだわ。今日は新聞部の学校新聞発刊の日だったわね。)

そんな折り、教室の女子達の会話が聞こえ、氷海はそちらに意識を向けた。
だが、それは間違いだったかも知れない。

「“生徒会長と隠れ風紀委員の熱愛”! アタシビックリしちゃった!」
(隠れ風紀委員? …あの、まさかそれ、烈君ですか? 確かに隠れ風紀委員と呼ばれているのを知…って、えぇっ!?)
(も、もしかしてっ…烈があんな風になったのは…!)

直斗が驚きに目を見張る中で、氷海は椅子を蹴飛ばして廊下へと駆けていった。

「あっ、ちょっ、氷海さん!」

直斗も慌てて後を追う。
嫌な予感を、胸に抱きながら。

穿たれた水器 その二 ( No.534 )
日時: 2015/01/20 20:37
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)

「…嘘だ。」

人がごった返す、学校掲示板の前に張られた、学校新聞。
葉月はその学校新聞を前に、ぽつりと呟いた。

「氷海と烈…こんな事してたのか…。ちょっとビックリだな。なぁ、葉月。」
「…。」

一緒に登校していた由梨が声をかけるも、葉月は黙ったまま俯いている。

「…ねぇ、葉月。貴方は…この光景を、見たの?」
「…。」

後を追ってきていた理乃が声をかけると、葉月は黙ったまま頷いた。

「でも、私、誰にも言ってない! クーちゃんだって、きっと…!」
「わかっているわ。風達も、葉月は見たけど、誰にも話していないって語りかけている。」

理乃は学校新聞に視線を戻す。

「どうやら、別の誰かが見ていたようね。葉月達とは別の場所で…きゃっ!」

不意に、理乃の体が誰かに弾き飛ばされる。

「理乃! だ、大丈夫!?」
「え、ええ、平気。」

が、たまたま近くにいた七海が受け止め、怪我はなかった。
七海は突き飛ばした人物を見ようと、首を動かしたが、その人物を確認した時、ぎょっと目を見開いた。

「…!」

そこには、今にも泣きそうな、氷海がいたのだ。
息を切らせて、目の前にある新聞を凝視している。

「ちょっと氷海! 人を突き飛ばさな」
「黙って。」
「空気読め。」
「げふぁ!」

怒鳴り付けようとした七海だが、それは由梨と理乃の一撃で阻止され、哀れ七海はたんこぶを作って気絶してしまった。

「氷海ちゃん…。」
「う、嘘…! 誰にも、見られてないと思ったのに…!」
「…。クーちゃん以外には、見られてないって思ってたんだね。」
「ええ、そう思…。」

氷海がそこまで言うと、はっと、息を飲む。

「な、何故、葉月先輩がそれを…!? まさか…!」
「…ごめん。クーちゃんと一緒に、見ちゃったの…。」
「そ、そんな…!」

葉月に見られていた事を知り、一歩、二歩と後ずさる。

「杉山先輩が…新聞部にリークしたんですか?」

氷海の後を追いかけてきていた直斗が追い付き、葉月に問いただす。
それは、理乃が答えた。

「いいえ、葉月は誰にも言っていません。外部の人間はおろか、一緒にいる私達にも…。」
「アタシ達が聞いていないのは、アタシが保証する。それに、理乃の情報網は嘘をつかない。」
「凪君が言っていた、風の声ですね。」
「はい、そうです。…凪さんには確か話したはずですが、私の持つペンダント…風の宝珠を通じて、風達から情報を得る事ができます。…風達は嘘を言いません。」
「…わかりました。桜坂先輩を信じます。では、いったい誰が情報を…?」

直斗はその場で推理を始める。
その間、氷海は、目の前の新聞を凝視したまま、動かない。

(…知られてしまった…。)

あれ程、打ち明けないと決めた思い。
知られてはならない思い。
それが、こんな形で、全ての生徒に、烈に、知られてしまった。

(知られたくなかった。知られるのが、怖かった。だから、この気持ちを今まで圧し殺してきたのに…!)

突然の暴露。しかも、思ってもみない形で。

「…氷海、大丈夫か…?」
「…一番、恐れていた事、でした。」

由梨が話しかけると、氷海はぽつりと呟いた。

「烈に、この気持ちを知られる事が、怖かった。烈は、今まで通りの関係を…仲間として、対等でいる事を望んでいました。だから、私はこの思いを打ち明けなかった…。でも、ずっと…彼には打ち明けたい。そう、願う私もいたのです。」
「…。」
「…不思議ですよね。烈に知られたと言うのに…全然、すっきり、しないのです。」
「自分からの言葉じゃないから、だよ…。それは、氷海ちゃんが伝えた言葉じゃないから…。」

葉月が言うと、氷海は顔を俯け、「かも、知れませんね。」と続けた。

「…直斗、申し訳ないけれど、私の鞄、後で家に届けてもらえないかしら?」
「えっ、氷海さ…!」

直斗が理由を聞こうとした瞬間、氷海は校門の外へと向けて走り出した。
その目に、大粒の涙を浮かべて。

「氷海さん!」

直斗も後を追って走り出そうとしたが、その腕を、誰かが止めた。

「…直斗君、悪いけど、今は追いかけないであげて。」
「里中先輩…!?」

その腕を掴んで止めたのは、雪子と共に登校してきた、千枝だった。

「な、何故ですか!?」
「氷海ちゃんには、悩む時間が必要だと思うからだよ。…状況が、あたしと花村の時とは、全然違う。だから、ここで誰かが行っても、邪魔になるだけじゃないかな?」
「…そう、ですね。」

千枝の説得に納得した直斗は、一つ頷く。それを見た千枝は直斗を離し、雪子を見た。

「…いつもみたいに腐らないんだね、雪子。」
「私だって、空気は読むよ? …流石にこれは許せない。誰も、幸せになんかならないもの。」
「そうだね。氷海ちゃん、悩んじゃったから。きっと烈君も…悩んでると思う。」

そう言って、千枝は雪子に、鞄を渡し、雪子は黙って受けとる。

「ちょ、ちょっと千枝、何」
「七海、悪いけど、私の鞄持って先に教室行って。」
「うわっ! は、葉月まで何するつもり!?」

突然の行動に驚く七海の横で、葉月も七海に鞄を無理矢理預ける。

「…同じ属性同士、おんなじ事考えてたりする? 葉月ちゃん。」
「多分ね。」

恐らく、この二人の考えている事は同じ。それを感じ取った千枝は、葉月に聞き、彼女も頷きを返す。

「千枝、どーん!以外でね。」
「葉月もいきなり【タイダルウェイブ】かますなよ?」
「仮に死なせちゃっても私がいるから安心して。」
「洒落になりませんよ桜坂先輩!」

二人が何をするかわかったのか、程々にするよう言う雪子と由梨、そして検討違いの話をする理乃。

「ん、わかった。どーん!はしない。」
「私も魔法は使わないよ。」

そう二人は言うものの、ぽつりと「…多分ね。」と加えられたのは、気にしない。

「じゃっ、行こっか、葉月ちゃん。」
「うん。じゃあ、ホームルームまでには戻るね。」

千枝と葉月は、校舎の中に消えていった。

「…こりゃ死ぬな、新聞部。」
「…。」

由梨がぽつりと呟く横で、理乃は考え込んでいた。

(…おかしい。情報を流した存在が、風達でもわからないなんて…。)

何度風に問いかけても、情報を流した存在がわからないと返ってくる。今までになかった現象に、理乃はただ、首を傾げる。

(…それに、僅かに感じるこの嫌な気配…。何事もないといいけど…。)

嫌な予感が当たらないよう、願いながら。


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