二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 短編小説 *BSR Fate*
- 日時: 2014/04/21 17:22
- 名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)
こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)
前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります
ごゆっくりどうぞ
※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。
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- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.427 )
- 日時: 2014/12/24 13:00
- 名前: ナル姫 (ID: cKfO32ZA)
ねぇディルムッド、庭の花が咲いたら蜜をミルクへ注ぎましょう?きっととても美味しいわ。あの木に実が成ったら子供のおやつにして、雪が積もる時期には薪にしましょう。
楽しそうに言う彼女が愛しくて、まだ蕾から咲きかけの花を摘んで、彼女の髪飾りにした。少し呆然とした彼女は、少し恥じらうように、俺の挿した花を、花弁が散らないように優しく撫でた。目が合って、唇を近付ける。花のほんのり甘い香が身体を巡って、酔ったような気分になるが、いつまでも溺れる訳にもいかず、少ししたらその唇を離した。
この、生まれ育った環境と全く異なる、草木のない砂と風の大地で、そんな昔のことを不意に思い出したのは、何の気まぐれか、毛利家に身を寄せる銀色の少女が、こちらに来るついでにと持ってきた花が、あの花とよく似た香をしているからかもしれない。もしかしたら、そう思いたいだけで、古い記憶の中で嗅いだあの香とは違うのかもしれない、気のせいかもしれないけれど。
春のうらら、あの花が咲いたのは。
「……グラニア」
丁度こんな季節だったと、思い出す。
「いーやーでーすっ! ほーんと、ディルさんは乙女心がわかりませんねっ!」
「……俺は男ですからね」
日の当たる縁側で、青年の発言に少女が怒り、それに溜息混じりに苦笑すれば、女之助は不満そうに頬を膨らませた。目の前には綺麗な貝と、桐と、紐。貝の首飾りを作ろうとしているのは一目瞭然である。何でも、今日の午後直虎が来るというから、その時にあげたいそうだ。何故その作成にディルムッドが付き合わされているのかと言うと理由は単純で、おやっさんは鹿之助と偵察に出ているし、他の人はそれぞれ仕事があるしで、暇なのは執務などやったこともないディルムッドしかいなかったからなのだけど。
この貝は、海へ出かけた時に拾ってきたそうだ。綺麗なのは良いが如何せん、割れやすい。もう少し大きめの硬いものを今度用意するべきだというディルムッドの言葉が、女之助の乙女心がわかっていないという発言に繋がる。
「器用なのに勿体ないですよディルさんっ」
「…………」
「もうすこーし女性慣れしてればきっともっと……」
そこまで言って、女之助ははたと目線をあげ、ディルムッドを見る。彼は、春の日に照らされていつの間にか寝ていた。そういえば、ディルムッドは執務などやったことがないため仕事をしていない。その代わり夜なら三日くらいは起きていられるからと、ここ三日か四日くらい全く眠らずに城を見張っていたことを思い出す。仕方ない人だ、と女之助は掻い巻きを取りに行った。
「サーヴァントが逃げた?」
「あぁ、茶色い髪で、桃色の服を着た女性らしい」
ここへ来た直虎から初めに聞いたのは、豊臣からサーヴァントが逃げたという話だった。現在豊臣にいるのは赤い弓兵と青い槍兵、金色の弓兵だと思っていたが、最近になってもう一人女性が召喚されたらしい。だがその女性、どうやらハズレくじだったらしく、心ここにあらずの状態であり、何となく危ない雰囲気だったため実質軟禁していたようだが、霊体化できるサーヴァントに軟禁など不可能であり、あっさり逃げられたということだ。
「へぇ、一体何の英霊なんだろうな」
そんなことを話しながら二人が向かうのは女之助とディルムッドがいる縁側。そろそろ首飾りができている頃だろうと、話だけなら聞いていた晴久は考えていたのだった。だが、そこに女之助はおらず、ディルムッドは横になって寝ていた。そして、作りかけの首飾りが置いてあった。そこまでは良かった。これだけならまだ、寝てしまったディルムッドのために女之助が掻い巻きを取りに行ったのだと推測できたのだが……。
「……へっ……?」
女が、ディルムッドの唇を唇で塞いでいた。それも、ただの口づけではないのが分かった。舌まで使っている、深いものだ。恋愛経験のない晴久は勿論やったことがないのだが。うっすらと開かれたディルムッドの蜜のような瞳は熱に潤み、焦点の定まらない瞳でじっと女性を見つめていた。唇を離すと、女性はディルムッドの首筋に手を当て、服の下から肩に回し−−そこでようやく、晴久と直虎の脳が警鐘を鳴らした。
「待てッ! 何をしてるッ!?」
顔をあげた女性は、少し微笑んで消えた。そこでやっと、あれが逃げたサーヴァントであると二人は気付いた。二人はディルムッドに駆け寄り、瞳に光のない彼を揺さぶる。
「オディナ! おいオディナ!」
「……っ! あ、主! 直虎!」
急に現実へ戻ったように彼は目を見開いた。その目にはもう、さっきのような熱はない。
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.428 )
- 日時: 2014/12/24 13:06
- 名前: ナル姫 (ID: cKfO32ZA)
「良かった……大丈夫だったか?」
「お、俺は何を……」
「あーっ! ななな、直虎お姉様っ!?」
ディルムッドの声を遮り、女之助の大声が響く。三人が女之助を見ると、掻い巻きを持った彼女は顔を真っ赤にして泣きそうな表情でこちらを見ていた。
「あううっ、は、晴様酷いです! まだできてないのに……」
「あ、あぁ、悪い悪い。もうできてるもんだと思ってな」
謝る晴久に、がっくりと肩を落とす。それよりも、と晴久は女之助に言う。
「女之助、茶色い髪で桃色の服の女を見なかったか? 着物じゃなくて、セイバーが着ているみたいな、裾が広がってる感じのやつ」
「へ? 見てませんけど……」
キョトンと女之助はするが、その外見に他ならぬディルムッドが反応した。
「あ、あの主、その……サーヴァント? が今ここにいたのですか?」
「ん? おう」
「も、もっとどんな外見だったか聞けませんか!?」
「……何か覚えがあるのか?」
いざそう言われると、途端に自信がなくなる。否−−そう思いたくないという気持ちが働き、口から出せない。その様子にムッとした直虎が彼に詰めよった。
「何だ、はっきり言え!」
「っ……ま、まだわかりませんし……言っても……」
「良いから言え!」
「…………っ」
頑なに言おうとしないディルムッドに何か察したのか、晴久は直虎を制した。何にせよ、あのサーヴァントがディルムッドに執着しているのは間違いがなさそうだ。そうでなければあんなことをした意味が分からない。
「女之助、井伊に部屋を用意してくれるか」
「は、はい! ただいま!」
直虎は不満そうではあったが、女之助の後へ付いて行った。
「……で? 誰だと思ったんだ? ……まぁ、予想できてんだけどな」
「…………」
「コーマック王の娘……グラニアだろ?」
「……はい」
「会いたくないのか?」
「……そういう、訳では……ただ、彼女は俺を怨んでそうで……」
「…………そんなことは」
「俺は、彼女を置いていきました……グラニアは、勘の良い女性でした。彼女はあの日、ゲイ・ジャルグとモラルタも持って行くべきだと俺に言ってくれたのに、俺は軽い気持ちで、大丈夫だって、狩り場にはそれを持っていけなからって……素直に聞いておけば、グラニアを置いていかなくて良かったかもしれないのに……!」
溜息をつき、額を小突く。
「そうやって自分を追い込むのはお前の悪い癖だぞ……何言ってんだ、お前はそのお姫様を連れて逃げ回っただろうが、それだけで十分なんだよ」
「……そうでしょう、か?」
「当然だろ」
その表情が、明るくなることはなかった。
「……主、その、いなくなったサーヴァントがどんな様子だったか分かっていますか?」
「なんか、心ここにあらずで、病んでるみたいだって」
「……そう、ですか……」
「……お前は覚えてないだろうけどよ、俺と井伊がお前を起こす前、お前はそのサーヴァントに口づけされてた……見た感じでは深く」
「え……」
「しかも、そのあと絶対服脱がそうとしてたように見えたし……」
そういうと、ディルムッドの顔色が変わった。いや、顔色が余り良くないのは、寝不足のせいもあって変わっていないのだが、神妙な顔付きになった。
「……まずい」
「お、おい!」
ディルムッドはどこかへと走り出した。
直虎は、女之助に案内してもらった部屋で武装から着流しに着替えていた。白い装束を脱ぎ、服を手にした時、手が止まる。
あの女性は何をしようとしていたのだろう−−いやまぁ、わかるのだが、認めたくはない。つい最近まで彼女は彼に恋をしていたのだ。悔しさすら感じていた。
溜息をし、服を着ようとした、その時。
「綺麗な体ね」
「−−ッ!?」
後ろから、耳元で、女性が囁いた。肩に急に掛かる重みに体が固くなる。
「緊張していらっしゃるのかしら? あらごめんなさい。女性同士とは言え初めて会った人に体なんか見せたくないわよね?」
そう言うと、急に重みがなくなった。震える身体を動かし、直虎は人の気配がある方向へ顔を向ける。
茶色い髪、桃色の服−−間違いない。
「……あなた、は」
「わかってるくせに」
ふんわり微笑む彼女は、確かに美しかったのだ。
「ディルムッドとは何の関係かしら。直虎様、だったかしら?」
辛うじて冷静な判断を忘れない彼女は、バッと服を着て臨戦体制に入った。
「なぁに? 顔、怖いわ」
グラニアが言ったとき、バンバンと襖を叩く音がした。
「……来たわね」
「グラニアッ! お前そこにいるんだろ!? 直虎とはただの友人だ! 早とちりするな! 彼女は何も関係ないっ!!」
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.429 )
- 日時: 2014/12/24 13:15
- 名前: ナル姫 (ID: cKfO32ZA)
勿論、告白されたことを忘れたはずがない。だが、グラニアの前でそんなことを言ってはならない。もしそんなことを知ったらと思うと、恐ろしくて仕方ない。
彼女は狂うほどに、彼を愛していたのだから。
「だから出てきてくれ! 頼む、グラニア!」
「ふふふっ、必死なこと」
そう小さく呟く。友人を何としても守ろうとするのを、嘲笑するように。襖へ近づき、すっと手を沿えた。
「ねぇディルムッド、何をそんなに必死になるの? あぁ、貴方は昔からそうだったわ。友達を何人も何人も貫いて、その度に私に隠れて涙を流していた。寝ながら泣いているときも少なくなかったわ。言っておくけれど、私は貴方が思っていたより起きていたわよ? 貴方は、自分が寝ている時間は私も寝ていると思っていたのでしょうけど、私は貴方の寝顔を何度も見たの。それこそ毎晩のように。だって貴方、私が寝たふりするとすぐ寝ちゃうんだもの」
さもおかしそうに、クスクスと笑う。
再び直虎へ視線を向け、彼女と同じ高さに目線を合わせた。肩に手を乗せ、射抜くように彼女をじっと見詰めた。
襖の前から動けないディルムッドは、中に入るべきか否か迷った。だが、グラニアにもう言葉は届かない。ならば強行手段に出るしかないのだが……。
「ッ……」
覚悟を決めた。いざとなれば、グラニアの様子次第では、彼女を座に返さなければならない。パンッと襖を開け、中に入る。グラニアは生前と変わらない笑みで直虎を見詰めており、彼の方へは振り返らない。
「……グラニアっ」
肩を引く。ようやく彼女は彼を見た。
「……どうして、ここにいるんだ」
「どうしてって?」
「俺達サーヴァントは皆、豊臣に召喚された。俺やセイバーはそれぞれ島津と尼子に派遣されたが、お前は違う。豊臣から逃げたサーヴァントがいると聞いた。それがお前だろう?」
「えぇ、だって私の勘がいうのだもの。ディルムッドがいるって」
「……だからって」
「来てほしくなかった? 私のことが嫌い?」
「それは違う!」
−−事実、彼女はディルムッドを怨んでいた。彼女は彼が死んでから、子供も風習に従って養子に出していたため、死ぬまで一人きりだった。彼女は結局自殺をしたが、それを唆したのがディルムッドの実の父親なのだ。昔、まだディルムッドが妖精王の元で育っていた頃、養父から話を聞いたことがあった−−寂しさは、悲しさより人を壊すと。彼が死んだことによる寂しさは、彼が思う以上に彼女を壊してしまったのだと分かり、彼は後悔の念に駆られた。
−−こんなこと、彼に好意を抱いてくれている女性の前ですることではないが、もう仕方ない。
口を吸って、抱き締めるディルムッドの行動に、あぁ、そうなのだ、彼と彼女は夫婦なのだ、割り込めないのだと、彼もサーヴァントである前に騎士なのだ、そして一人の男なのだと、心の底からそう思った。
「……グラニア、分かっただろう? 俺はまだお前のことが好きだ。大好きだ。弟に殺されることが運命だったとは言え、お前を一人置いて行ったことは申し訳なく思ってるんだ」
「……」
「豊臣に、帰るつもりはないのか?」
「……貴方が豊臣に行くと言うなら、何の文句もないわ」
「……それはできない。俺には主がいる」
「じゃぁ私もここにいるわ」
「……分かった……直虎は、仕事の都合もあるしこれからもここに来るけれど、本当に友達なんだ。だから……」
「えぇ分かったわ。大丈夫、彼女にはゲッシュは課さないから」
「か、彼女にはじゃなくて誰にも課さないでくれ……洒落にならん」
「仕方ないわね、そうしてあげるわ」
一安心したのか、ディルムッドは一度息を吐き出して、直虎の方へ向いた。
「直虎、大丈夫か?」
「あ……あぁ」
差し出された手を取り、立ち上がる。立ち上がる反動で二人の距離が近づき、彼女の耳と彼の口がわずかに触れたとき、震える小さな声で、ごめん、と、聞こえた。
「……主に事情を説明して来る。行こう、グラニア」
「ええ」
仲良く手を繋いで、二人は部屋から出た。
晴久はお人よしだ。ディルムッドは何も悪くないのだし、グラニアがこの状況では仕方ないと、彼女の滞在を許した。豊臣には連絡をつけてくれるらしい。一先ず安心したが、勝手に好きに彼女が動く状況は作れないと、心の奥底で不安も感じていた。
部屋は用意して貰えた。そこへ向かう際、銀色の少女がくれた花の前を通った。
「綺麗な花」
「あぁ、そうだな」
「あの花とよく似た香がするわね」
あぁやはり、あの花の香と似ているのは気のせいではなかったのかと、思う。
「この花、何て言う名前かしら」
【よく似た、あの花の前に】
嫌いな訳がないじゃないか。
ただ自分が情けないだけで。
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.430 )
- 日時: 2014/12/26 11:22
- 名前: ナル姫 (ID: DTQ3vDnC)
「……何故お前はこんな時に来るんだそして何故市姫を連れているんだ朝來ッ……!」
「よく解らんが解ったごめん、そして私からも質問がある何故そんな顔をしているオディナ落ち着け」
「……オディナさん、必死ね…………これも市のせい……?」
二人の訪問は、織田家家臣の変態の一言から始まった。
「朝來、ちょっとお市様を連れて山陰へ行きなさい」
「突然過ぎて訳がわからないよ」
「お市様が行きたいと言うのですが私は忙しいです」
「最初からそう言えこのやろー」
そんな簡単な話であり、急とは言えディルムッドが怒る要因などないと思っていたのだが、何故胸倉を掴み上げられているのだろう私はと、朝來は頭の片隅で考えた。
「……オディナさん……とりあえず放してあげて……ね……?」
ズゾッと巨大な魔の手が生えたので落ち着きを取り戻したのか、ディルムッドは手を離した。
「……今日は明智殿はいないらしいな」
「私と市ちゃんがいたら必ずいる訳じゃないんだよ別に」
ディルムッドは彼を警戒していた。別に何かされた訳ではないが、どうやら彼の最大の敵であり苦手対象であり恐怖対象である人物と、サラサラな白髪と大きな鎌という特徴が被っているらしく、視界に入れるのを最大限避けているのだ。
「……で、どうして私は来て突然胸倉を掴まれなきゃいけないんだ? というか顔色酷いけど大丈夫なのかお前?」
「大丈夫だったらこんな顔していないだろう……」
はぁぁぁぁと、深く深く溜息をつく。何があったのだろうかと事情を何も知らない二人は疑問に思った。
グラニアが来てから一週間−−ディルムッドはかなり参っていた。魔力さえあれば食事も睡眠も基本的に取らなくて大丈夫なサーヴァントである。今まで夜の見張りという比較的サーヴァントとして楽な仕事しかしていなかったディルムッドが、一転してグラニアの面倒を見るという、現時点で尼子軍一番の重労働をしているのだ。勿論、生前二人は共に暮らしていた。だが、このグラニアはディルムッドの知る、我が儘だけど優しくて、すぐ拗ねる甘えたがりなグラニアではない。ただひたすらに、ディルムッドのみを求め、束縛しようとし、彼の周りから自分以外の女を徹底的に排除したがる。疲れる以外の何物でもなかった。そんな事情など二人の知ったことではないのだが。
そこに、当主の晴久が来た。
「あー……来たのか二人とも……何か悪いな、オディナ疲れてて機嫌悪いんだよ」
「いや、それは見て取れるんだけど……」
ディルムッドは、彼の性格を考えればかなり疲れる人だと思う。ギルガメッシュとクーの喧嘩を止めるのも彼だし、短気な三成を宥めるのも彼だし、光秀は彼が自分を避けていると気付いた瞬間やたらと彼に纏わり付いていた時期もあったし、。ただ、彼はその疲れを自分一人で解決しようとする抱え込む癖もあるため、彼が機嫌の悪さを表に出すのを見たのは初めてだった。
と、その時。
「ここにいたの、ディルムッド」
あ、と思わず朝來の口から声が出た。豊臣から逃げたサーヴァントだと一瞬でわかった。グラニアは朝來を見ると薄く微笑んだ−−のだが、勿論純粋な笑みではない。ゆっくりと、彼女に近付いた。
「……ふふ」
「…………?」
「ふふ、そうね、きっと綺麗なのね。だから好きで、嫌いなのよね」
「あ、あの……?」
「でも、それに溺れてはいけないわ。辛くなるだけ。でも切れないから不思議なのよね」
「……?」
「美しいものは、失ったときに辛くなる。自分が傷付くだけなのよ。けれど、自ら失わないで、でも、溺れないで」
「……あの、何の話か全く……」
「わからないの? 私は−−」
「グラニアッ!」
耐え切れなくなったように遮ったディルムッドの手は震えていた。その手で、彼女の細い手首を握る。
「……戻ろう」
その言葉に満面の笑みを返したグラニアは、えぇ、と返事をした。角を曲がって、二人が見えなくなると、晴久が溜息をついた。
「……ずっとあんな感じでな……何とかしなきゃならねぇのはわかるんだが、どうにもならねぇ」
「……あれが原因で八つ当たりを?」
「そんな感じ」
「……にしてもあの人、私に何を言いたかったのか……」
「……市、わかったの……」
「……市姫?」
「……人との、繋がり……綺麗で、美しくて……持っていたいの。けれど、それに頼りすぎたら…………失ったとき、苦しいの」
「…………」
晴久と朝來は黙った。
『素直に聞いておけば、グラニアを置いていかなくて良かったかもしれないのに……!』
「……部屋、用意させるわ」
晴久が寂しげな笑みを見せた。
その日の夜、ディルムッドとグラニアが朝來と市の部屋を訪れた。
「その……グラニアが、聞かなくてな」
「たまには女の子同士で寝たいもの」
「……そういうことだ」
ディルムッドの声は切実だった。グラニアの言うことを聞いてくれ、と言うよりも、まともに寝かせてくれ、頼む、グラニアの相手をしてくれ、と言うように。綺麗な、黄色と橙の混ざった甘い瞳は、これでもかと言うくらいに疲労を貯めている。顔色も悪いし、これは断れる状況ではない。
「……わ、わかった……」
「……うん、うん……市も良いよ……」
「……忝ない」
ディルムッドは部屋を後にした。
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.431 )
- 日時: 2014/12/26 11:50
- 名前: ナル姫 (ID: DTQ3vDnC)
「ふふふ、ディルムッド以外の誰かと寝るなんて、小さいときにお兄様と寝たとき以来だわ」
「あぁ……お兄さん、いたんですか」
「そうよ。けれど、私が死んでからおかしくなったみたいね。私は座に召されたから、実際の様子は知らないけど……兄ですもの、フィオナを滅ぼしたのは」
「……え……」
「まぁ、直接原因はそれでしょうけど、その要因には私とディルムッドもあるでしょうね。兄は私を可愛がってくれたけど、私は騎士と逃げて、その騎士が死んだら後を追った。しかもそれを唆したのが義理の父よ? フィオナが嫌いになっても普通よね。騎士団もディルムッドが死んだことで、彼が繋いでいた人々に亀裂が入るし……所詮はそんなものなのよ」
淡々と、朝來の目を見据えるようにして。
まるでその言葉が、彼女のいる場所を、その未来を暗示しているようで。
きゅ、と何かに袖が引かれたような気がして振り向けば、市が彼女の袖を握っていた。それを見たグラニアは、クスリと満足そうに笑って言った。
「あぁでも、安心したわ。彼が貴女に結構近付いていたから、貴女も彼が比較的苦手ではない女性なのでしょうけど、貴女にその気はなさそうだものね」
「……まぁあのキラキラは私にはちょっと……というか、自殺を唆したって……?」
朝來が知っているのは、ディルムッドの養父が妖精王ということだけだ。楽しそうにディルムッドが話をするのを聞くかぎりでは、相当彼を愛していたらしいし、甘やかしていたようだ。とにかく慈愛に満ち溢れた人だと聞いていたので、そんな人が息子の妻に自殺を唆すとは思えない。
「……あぁ、オェングス様のことではないわ。彼の実父……ドゥン様よ」
「……実父?」
「えぇ、彼と違って、癖毛じゃない、白髪の……死神」
「−−っ」
死神−−となると、恐らく大きな鎌を持っているのだろう。髪がサラサラとしていて、白髪で、大きな鎌を持つ……何と言うことだろう、その特徴は、彼女の半身である彼と一致しているのだ。なるほど、愛する妻に自殺を奨めたのが実父では、光秀を避ける理由がわかる。
「もっとも、ディルムッドはそのことを知らないでしょうけどね」
また疑問が湧いた。知らない? なら何故、光秀は避けられている? その気持ちを汲み取ったのか、グラニアは笑った。
「世の中の親は、子供を愛する人だけではないと言うことよ。あら、ごめんなさい。そんな生温い程度ではなかったわね」
「…………どういう」
「彼の父は、彼を嬲ることしか考えていなかった……そういうことよ。母親は、彼を助けようとしないしね」
織田信長、伊達政宗、尼子晴久−−他にも、親、特に母親に愛されなかった人は沢山いる。それだけでも、普通から見れば十分な不幸だと言うのに。
「けれど彼はひたむきに生きたわ。負けてはならない、死んではいけないと自分に言い聞かせて」
−−以前、クーとした会話を思い出す。
『へぇ、神の子供は目が赤いのか』
『おう、つっても、ずーっと赤いわけではないと思うけどな。どこまで子孫が続けば赤じゃなくなるのかは知らねぇ』
『つーことは、ギルガメッシュも神の子?』
『そうだぜ。まぁこの国じゃまだ知られてねぇよな、当然のことだけど』
『じゃぁ、とりあえず神に近いのはお前とギルガメッシュだけなんだな』
『あ、いや、あいつも−−』
『? どうかしたか?』
『あ、あぁいや、何でもねぇよ。た、ただディルムッドも、血はとにかく神に育てられたなって思ってな』
……クーは知っていたのだ。ディルムッドが、どんな仕打ちを両親から受けていたのか。その父が神であることを思い出して、思わず言おうとして、けれどきっと、ディルムッドはそれを知られたくないだろうと察して、言うのを止めたのだ。
全ての女性が嬌声を挙げるような笑顔の裏側に、抱えるものを知っていたから。
でもこの人は−−。
「……オディナに、無断でそんなこと言って……良いんですか?」
「勿論彼は嫌がるわよ?」
「なら」
「でもね」
ふんわりと、あくまで優しく、彼女は微笑む。
「こうでもしないと、彼は全部一人で抱えてしまうもの」
−−あぁ、そっか。
−−わかっているから、わかりきっているから。
−−だから、教えたんだ。
「さて、もう寝ましょうか? ここの夜は寒くて仕方ないわ」
「まぁ、仕方ないですよ」
布団に潜った彼女は、すぐに寝息を着いた。やっと解放された、と思い自分も布団に潜ろうとして止まる。
「……市ちゃん?」
「……この人、寂しいのね…………」
市は、グラニアの顔をじっと見つめた。
「……オディナさんと一緒、だけど…………前と、同じになってくれないの…………この人が、同じじゃないから……」
「……市ちゃ……」
「……オディナさんと、グラニアさんは…………狭くて浅い川と、小さな小さな、親に置いて行かれた小鹿さん……うん、うん……そうなのね……」
「…………? どういう……」
「……オディナさんは、親に置いて行かれて……自分で水を飲まなきゃいけないの……だから、安心できる、浅くて狭い川で、水を飲むの…………前は、綺麗な水だったのに、今は、流れが急で、水が濁って、美味しくないの……グラニアさんは、自分で流れをゆっくりに出来なくて、小鹿さんに美味しく水を飲んでほしくて、もっと流れを急にしちゃうの…………小鹿さんは、水は美味しくないけど、他の川はもっと大きくて、深いから……溺れても誰も助けてくれない……溺れるのが怖いから、濁った川の水しか飲めないの……」
市は手を伸ばし、グラニアを撫でた。
「……小鹿さんは……美味しい水が、好きだから……もっとゆっくり、流れてあげてね……?」
そして、朝來に顔を向け、言った。
「……寝よう、朝來」
【小鹿は綺麗な水が好き】
でも溺れるのは怖いから、
他の川へは行きたくない。
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