二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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短編小説 *BSR Fate*
日時: 2014/04/21 17:22
名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)

こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)

前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります

ごゆっくりどうぞ


※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。

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Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.382 )
日時: 2014/10/30 20:56
名前: ナル姫 (ID: OP8rm8tJ)

 ディルムッドが来たのを見て、クーは二人に見せた麻薬を仕舞った。
「! クーさん!」
 パッと彼の顔が輝いた。駆け足で寄るか、と思ったがそんなことはなく、普通に歩いてクーの隣に座った。
「よぉディルムッド、元気だったか?」
「はい。クーさんも元気そうで何よりです」
 微笑んだ顔は無理をしていた。元気だったか、なんて聞き、当然のようにそれを肯定したが、まぁ、顔色や体の細さを見る限り肉体的に元気とは言えなさそうだ。
 クーは長男で、少しだけ裕福な家の出だった。幼い頃長刀を習っており、それが良くも悪くも働き、徴兵制に引っ掛かった。最も、徴兵されて嫌なのは働き手の減る農家だけの話であり、クーやディルムッドなど工場労働者にとっては、六年間衣食の保障がある徴兵制は寧ろ救いの手である。
 ……ディルムッドはきっと徴兵を免れるだろう−−クーはそう思う。徴兵されて二年、随分生活が変わり、この二年毎日しっかりクーは食べることが出来ている。申し訳ないくらい筋肉も増えたし、寧ろこのまま六年の期限が過ぎても兵士でいたいくらいだ。だが、ディルムッドの今にも折れそうな手足では、気丈に振る舞ってはいるがまだ不安定な精神では、まず使われない。
 ディルムッドはいつも通り紅茶を飲んでいた。一度息をついてカップを置いたのを見て、クーは瓶に残っていたミルクをディルムッドの紅茶に注いだ。
「ミルク飲まねぇと丈夫にならねぇぞ」
「あ……ありがとうございます」
 やがて飲み終わった二人は店を出た。二人は行く方向が同じらしく、大通りを通った。路地裏を通らないディルムッドをクーは少し不思議に思ったが、物乞いでも増えたのだろうと特に気にしないことにした。
 クーさん、とディルムッドは数歩先を歩く彼に話しかける。
「どうした?」
 振り返ると、ディルムッドの血色の悪い顔は少し険しく、けれどすぐに崩れてしまいそうな表情を作っていた。
「……ディルムッド?」
 不審に思い、近付いて名を呼ぶ。瞬間、ディルムッドはその場に膝から崩れ落ちた。疲れではない。気持ち的に張っていた糸がプツンと切れたようだった。
「お、おい!?」
 ガクガクと体を振るわせ、泣きはじめる。ここだと目につく、と思ったクーはとりあえず立たせて一目につかない所へ移動した。
「おい、どうした……」
 ディルムッドは無言で、昨日物乞いから受け取った麻薬を麻袋から取り出した。クーは目を見開き、ディルムッドを注視した。
「……しつこい物乞いに……櫛をやるところを、他の物乞いに……見られていたんです……っ、その、物乞いにやれる物は何もなくて……そしたら、これを……返しても、押し付けてきて……仕事に遅れたく、ないから……仕方なく受け取りました……っ、でも、処分の仕方がわからなくて……俺、俺どうすれば良いかっ……」
 恐らく、その物乞いは飲んだ様子があればディルムッドから金を貰うつもりでいたのだろう。
 これだけなら問題はない。だがディルムッドの体は明らかに異常だった。何か確定的な何かがあったわけではないのだが、おかしい、と思った。一言で表すなら−−禁断症状。
「おい、ディルムッドまさかお前……っ」
「……っ……泊まり込みで働いている仲間に……断ったのですが、ほぼ無理矢理飲まされて……」
「……」
 ディルムッドはクーの軍服に縋り付いた。
 まさか、自分が徴兵されて二年近くでここまで工場の職場事情が深刻になっているとは思わなかった。ここ近年、生糸や絹織物の需要は急速に増えはじめ、労働者は過酷な労働条件での労働を強いられている。勿論工場経営者に金がないから労働者に金が回らない、というわけではない。経営者が私腹を肥やし贅沢な生活をしているからだ。どんなに働いても賃金はあげてもらえず、どんなに我慢しても一向に慈悲は示されない。食の確保など有り得ない。それは承知していた。だからこそ、ディルムッドやその周囲の人が麻薬に染められていないか心配だったのだが−−遅かった。まさかこんなに早く生糸工場で出回っているとは思わなかった。
 だが、精神的にはまだディルムッドは間に合う。麻薬の快楽に溺れることなく、一度服用した事による恐怖と罪悪感に苛まれている。
「落ち着け、ディルムッド。取り合えずこれは俺が処分する。もう二度と麻薬は受けとるな、絶対に飲むな。数日間は辛いとは思うが、もう一度でも使えばお前はもう麻薬を使わずに生活できない」
「……が」
「ん?」
「体、が……欲しているんです……震えて……仕事が、出来なくて……」
 言いながら袖を捲り、腕を見せる。鞭で酷く打たれた跡があった。
「どうし、よう……どうしようっ……! こんな状態で工場に戻っても午前と同じ事だ……っ、でも、でももう二度と飲みたくないのに……!」
 解決するべき問題が目の前にあるというのに、クーはどこか頭の片隅で、よくコーヒーハウスで普通にしていられたな、とどうでもいいことを考えていた。答は簡単で、ディルムッドがアルトリアを女性として好いているからなのだけれど。
 これが現実なのだと、思った。心の底からそう考えた。王に見捨てられ、上に好きなように使われ挙げ句捨てられる庶民は、何でもいいからと逃げ場を欲し、手を出してはいけないものにどっぷりとその身を浸し、己の身を滅ぼして終わる。一人だと怖いから、周りの、同じ思いでいる人を甘い言葉で誘惑して、奈落の底へ堕ちていく。そして最期にだけ冷静になり、この世の不条理と、立ち上がることの出来ない自分達を恨んで死ぬのだ。
 何とかして救わねばならない。もう仕事には間に合わないであろう泣き止まない後輩の背を撫でながら、在る筈のない解決策を、クーは必死になって探していた。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.383 )
日時: 2014/11/01 14:30
名前: ナル姫 (ID: h/hwr32G)

 うっすら目を開けると、数個の白熱電球が部屋を照らしていた。
 体が怠い。頭痛が酷い。全身に鈍い痛みが走る。
 そうか、今日もダメだったのか、とはっきりしてきた意識で確認する。
「……」

『ほらほらどうした輝く貌の騎士サマよ! やられるばっかじゃねェか、ん?』
『がっ! ぐっ……あぁっ!』
『はっはははははは! 最高だな! 流石俺の子だ、俺が好きな苦しみ方をしてくれるじゃねェか! 親孝行!』

 面白そうに魔力を纏わせない鎌を上手く操り、彼の体に無数の傷をつけた、仮面の死神の口角だけは嫌に記憶に媚びりついている。
 どうやって助かったのかが不思議なくらいだ。どうやって自分達はあの二人から逃げて来たのだろうか。よほど無我夢中だったのか、全く覚えていない。
「……糞」
 結局無意味なのか、何をしても勝てないと言うのか……いや、正攻法では勝てないのだ。そうだ、ずっと前から知っていたことではないか。情けない。何のためのサーヴァントだ。主を勝利へ導く遣い魔だと言うのに。
 自己嫌悪に陥っていると、がちゃ、とドアが開いた。ハッとして身を起こそうとした、が。
「お、起きたかオディナ」
「主っ……づっ……!」
「あぁ無理すんなよ、何せ治癒魔術使ったわけじゃねぇんだからな」
 晴久は治癒魔術が使えない。その為回復に使うのは魔力の供給のみだ。もっとも、晴久も使えるようになりたいと思っているため、現在練習中なのだが。
「……主、どうやって……逃げて……」
「覚えては……いないよな、仕方ねぇか」
 晴久は右手の令呪を見せた。一つ足りない。
「あ……」
「お前は基本俺に従ってくれるから……一つくらい、な」
「も、申し訳……」
「気にすんなって。そんなことより、協力者得たぜ」
 きょとん、とランサーが目を見開いた。晴久は一度部屋から出て、協力者であろう一組の主従を連れてきた。
 −−そのマスターであろう少女の容姿を見て、目を疑った。昔の記憶が蘇る。フィオナの砦で、小さな妹を肩車して、木の高い位置にある木の実を採っては食べていた。狩りをしに行くから女中に預けようと思ったら、思いがけず付いて来ようとした日もあった。成長してからは、周りの人と同じように戦に出ていた。もっとも、途中でフィオナを抜けた彼は、その姿を見ることなく死んでしまったのだが。
「……リーゼ……」
「ふぇっ?」
 しまった、と我に返る。慌てて頭を下げた。
「あっ、す、すまない! 知人に似ていたもので……」
「あ、そうなんですか! 私も名前がエステリーゼで、リーゼって呼ばれるのでびっくりしましたよ!」
「そう、ですか……」
 へらり、と笑って見せる。間違いない……リーゼだ。自分の唯一、家族と認められる血縁だ。晴久とエステリーゼのサーヴァントがキョトンと二人を見る。晴久は何かしら察してくれたのか、エステリーゼに声をかけた。
「サーヴァントを紹介してくれるか、エステリーゼ」
「あ、はい! この子が私のサーヴァント、アサシンの女之ちゃんです」
 ぺこり、と礼儀正しく頭を下げた所といい、その見た目といい、日本人であることが容易に予想できた。
「井筒女之助と言います。よろしくお願いしますね」
 可愛らしい女人だ、と普通に思った。もっとも女之助は男なのだが、今のディルムッドにそれを知る術はない。
「よ、よろしくお願いします……」
「エステリーゼ、アサシン、こいつが俺のサーヴァント、ランサーのディルムッド・オディナだ」
「よろしくお願い致します、お二方」
 頭を下げるディルムッド。顔を上げると、ずいっとアサシンが彼の顔を鑑定でもするように見てきた。
「……あの、アサシン……?」
「ふむふむ……ふふふー、中々良い男ですねー、でも惜しい。もう少しで女之の好みです」
「は、はぁ……」
 初っ端から調子が崩される。いやまぁ、傷が痛むので初めから調子も何もあったもんじゃないのだが。
 しかし、何故アサシン、とディルムッドは思った。いや、自分のように正々堂々戦うよりは効果があるかも知れないが。今世の妹が召喚したサーヴァントを侮辱はしない。しかしアサシン。せめてセイバーとかそういう人を連れて来てほしいとか思うのだが、まぁ叶うことはない。
「あのな、オディナ」
 声に顔を上げる。
「このアサシンは、キャスターの宝具を無効化できるかもしれない」
「……鎌のことですか? しかしあれなら俺でも……」
「あぁいや、お前のその、左手についたマークの事だ」
 左手の甲に付けられた印。どんな手を使ってでも防ぎ切れない最強の宝具−−『生死誘導権』。自由自在に内臓を取り除き、好きなときに好きなように相手を殺せてしまう技。流石に、これを彼の紅薔薇では防げない。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.384 )
日時: 2014/11/01 14:31
名前: ナル姫 (ID: h/hwr32G)

「……どういう……」
「アサシンは、敵の技の効力を『反転』することが出来ます」
「反転?」
「そうですね、例えば……ランサーさんの宝具なら、ゲイ・ボウにつけられた傷は何をしても治りませんが、それの効力がなくなるといった感じです」
「起こすの可哀相だとも思ったんだが、調度起きてくれてよかった。どうもあの死神の技は厄介だから……お前に考えて貰った方が早いかも知れないと思ってな」
 ……晴久が、『息子のお前が』と言おうとして止まったのが分かった。それに気付かないふりをして、ランサーは考えはじめる。
 ……効力の反転。無効の物が有効になり、その逆も有り得る。となると、鎌相手には寧ろ逆効果、魔力を纏わせない鎌は魔力を最大にしていることになり、魔力を最大に纏わせた鎌は魔力がないのと同じだ。だがあの死神のこと、すぐ反転の事は気付くだろう。となれば、魔力を纏わせないで襲い掛かって来るに決まっている。
 だが……生死誘導権なら。全ての内臓はまだここにある。となれば、取られる前にその反転を利用すれば。『奪う』というのは自分の手元に物質がない状況から作る事象で、『返す』というのは自分の手元に物質がある状況から作る事象だ。従って、『返す』という事を自分の手元に物質がない状況から作るのは不可能−−。
 反転は効力を逆にするという。ならば、『奪う』という行為『返す』になり、『返す』という行為は『奪う』になる。反転された、ということは、『返す』事をしないと『奪う』ことは出来ない。しかし、心臓をディルムッドが所有している限り、ディルムッドの心臓を返すことは、死神には出来ない−−心臓が奪われる可能性はゼロと見ていい。
「主!」
「おう、どうだ?」
「それなら……それなら、勝てる可能性はあります! 鎌に対抗できるのは俺一人ですので、あの死神が主達を狙って来たら少々大変ですが……俺一人より、ずっと力強いです!」
「マジか!」
 パッと晴久の顔が明るくなる。が、ここでエステリーゼが少しくらい顔をした。
「? どうかしたのか?」
「……その、女之ちゃんは宝具のコントロールがあまり出来ず……それに、反転は多くの魔力を必要とします。魔力は私が多く補給すれば済む話ですが……その死神相手に、ちゃんと出来るか……」
「……それを出来るようにするのが俺達マスターだぜ、エステリーゼ」
 くくっ、と笑った晴久に、一瞬戸惑い、エステリーゼは微笑み返した。オディナに似てるな、と言う思いを隠し、部屋を用意すると言ってアサシンとエステリーゼをどこかの部屋へ招いた。



「どうだった女之ちゃん。あの二人は」
「んー、人が良さそうでしたね、特にランサーは。まぁ、晴様が素敵なお人なのは知ってましたけど」
「晴様って……晴久さん?」
「はい、彼であって、彼でない人です」
「?」
「……生前の女之がお仕えしていたのですよ、晴様に。晴様は唯一女之を認めてくれたのです。女之は永久に、晴様の従者です」
「……女之ちゃん……」
「あぁ勿論マスターにも女之は忠実なんですよ!」
「あぁ、いいえ、その心配はしていないの。ただ……ふふっ、可愛いなって思ったのよ」
「……マスター……」
「素敵な事だわ、一人の主を思いつづけるのは」
「……マスター、マスターは女之の生き方を肯定してくれます?」
「勿論よ、こんなに可愛らしい子を、肯定しない方が可笑しいわ」
「……ふふ、マスターは可愛いものが大好きなんですね」

「どうだったよオディナ、あの二人」
「大変便りになります。コントロールが少々心配ではありますが」
「しかし良かったぜ前にチャームがあることをエステリーゼに先に言っておいて。言わなかったら場が混乱してそうだ」
「……効きませんよ、リーゼには」
「……やっぱりな、あの子お前にそっくりだったし……お前の妹なんだろ、あの子。転成して前世の記憶を失っているみたいだがな」
「……そうですね、少し寂しくもありますが……今は取り合えずキャスターです」
「……あのアサシンも、頑張ってほしいな……やっぱり」
「主?」
「……いやーな、何か放って置けねぇんだよ、何か、放って置いちゃいけねぇような気が、してな」
「……きっと、主も俺とリーゼのようなものなのではないですか?」
「ははっ、何だそれ。……と、まだ傷も治ってねぇし、今日は寝とけ。飯作って来る」
「はい」

 一縷の光を抱き、彼らが打倒を目指す先は、最強の死神。
 その先にあるのは、勝利か、それとも−−。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.385 )
日時: 2014/11/02 17:16
名前: ナル姫 (ID: Nkq2fJCI)

 ……全く、とんでもないものを押し付けられてしまったと、赤毛の魔術師は本日何度目かになる溜息を吐き出した。
「……井筒……女之助」
 −−井筒女之助……知ってる。尼子十勇士の一人だ。もっとも、確実に実在する訳ではないと思っていたが。
 押し付けられた箱の中身は針だった。どうやら、彼がその長い髪を敵に捕まれないように髪の中に仕込んでいたらしい。しかしまぁ、この魔術師に言わせてみれば、そんなことをするくらいなら髪を切れば良いとしか思えないのだった。
 ソファーに腰掛け、脱力する。
「……仕方ありませんか。出てしまったものは仕方ない−−私の問題ですしね……覚えておけよ、言峰め」
 ふん、と彼は聖遺物の贈り主で、且つ大嫌いな相手−−言峰綺礼へ汚い言葉を吐き捨て、無気力そうに令呪を見詰めた。聖遺物が何もないのはこちらの責任である。しかしまさか、自分が戦争に参加することになろうとは思わなかったのだから仕方ない……しかし何故自分はその聖遺物がない現状をうっかり言峰綺礼に零してしまったのだろうか。予想は出来ていたが、寄りにもよって自分ととても相性の悪そうなものを送られてしまうとは−−そんなことを思いながら、重い腰をあげて、漸く彼はサーヴァントを呼び出す準備を始める。
 もう三大騎士クラスとライダーは召喚されていると聞いた。となると、召喚されるのはキャスターかアサシンか。まぁどちらでも良い、と思いながら、彼は魔方陣を描き始めた。



「−−誓いを此処に。我は常世全ての善となる者、我は常世全ての悪を敷く者。汝第三の言霊を纏う七天……抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ−−!」
 ゴウッと風が吹き荒れる。収まった所でふぅ、と取り合えず安堵の息をつく。そして呼び出されたモノを確認した。
 第一印象はというと、男の癖に……と言うものだった。歴史で伝えられたより女々しい姿で、そうでありながら凛として、それはその場に立っていた。
「−−問おう、貴方が、私のマスターか」
「えぇ、相違ありません……見たところアサシンですか。まぁそりゃそうですよね。貴方にキャスターの適性があるとは思っていませんでしたし」
「……良くご存知のようですね。契約は完了ですマスター。私はこれから、貴方のサーヴァントです」
 赤い瞳が英霊を見据える。
 さて、彼からすればアサシンとは戦いではなく殺しに特化した人物が望ましい。目の前の彼はどうなのだろうか。
「……アサシン、貴方の能力についてと、聖杯への願いをお教え願いましょうか」
 本当に勝つつもりなのだな、と思いながら、アサシンは自らの能力をマスターに伝えはじめた。



「……なるほど、よくわかりました……アサシン、願いからして、貴方は貴方の生前の主−−尼子晴久を良く尊敬しているようですが」
「はい。この命も、晴久様の御身に捧げたものでございます」
「……そうですか」
 目を閉じて考える。このアサシンは結構使える。だが性格を考えれば自分との相性は最悪だ。とは言え、アサシンにしては良いステータスで喚び出せたのも事実ではあるし、手放すのは惜しい。
 彼の知り合いの中で、このアサシンをうまくコントロールし、良い方法で勝ち進むであろう人材は沢山いる。アサシンとしても、受け入れてくれる人がいるならそれを頼るだろう、最悪マスターを殺してでも。
 −−そうはさせませんけどね。
「アサシン、戦い方を決めましょう。まぁアサシンの癖に正々堂々の真っ向勝負を望むとは言わないと思いますが」
「マスターに従うのみです。マスターのお好きなやり方で望みます」
「……では言いましょう、アサシン。私はアサシンを召喚したからには真っ向勝負など認めません。機会を待ち続け、確実に殺せる場面を見極め、一撃で殺しなさい。以上です」
 冷淡に吐き出された言葉に、一瞬言葉を失った。余りにも魔術師然とした、そのやり方に、その冷たい目に、恐怖すら覚えるほどに。
「さて、取り合えずやることもありませんし……あ、あった」
 突然何かを思いだし、笑顔でサーヴァントに向き直る。だがその直後、笑顔は崩れ、冷酷な表情へ変わる。
「……令呪を以って命じます、アサシン−−我が命令には絶対服従、宜しいですね?」
「まっ……マスター正気ですか!?」
「えぇ勿論。なお貴方が、自分は尼子晴久の家臣だと言うので心配なのですよ。私との相性は確実に悪いですし? 今のうちに縛っておかねば」
 信頼されていないのが悔しいのと、余りにも計算外な事に驚いて何も言えない。普通、絶対服従など曖昧な命令は効かないはずだった。だがこの魔術師は、それを可能にしてしまう程の力量を持っていたのだ。
「っ……」
「……さて、これで今度こそやることはなくなりましたね。あ、そうそう」
 再び見た顔は、柔らかな笑顔だった。

「我が名は、木野定行−−よろしくお願いしますね」

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.386 )
日時: 2014/11/02 22:54
名前: ナル姫 (ID: wzYqlfBg)

 −−違うんだ。
 −−欲しかったのは偽りの快楽じゃ無かったんだ。
 −−逃げ場だったんだ。
 −−皆そうなんだ。
 −−苦しいから欲していた訳じゃなくて。
 −−悲しいから欲していたんだ。

 −−俺も、また……その一人。



「……よぉ」
「……どうしたクー。随分暗いな」
「……ちょっとな」
 薄く笑みを浮かべて、クーは返した。
 エミヤは今日は紅茶の準備をしていなかった。外は雨こそ降っていないものの、今にも降り出しそうな暗い空だった為、今日は早く店仕舞いをしようと思っていたところだったのだ。
「クー、ディルムッドを知らないか?」
 アルトリアが聞く。クーは暫く間を置き、知らねぇ、と答えた。
「……最近、酷く顔色も悪かったし、心配だな。何事もなければ良いのだが」
「……そうだな」
 クーが言うと、とうとう雨が降り出した。アルトリアは外を眺め、溜息。今日は誰も来ないだろうし、客に来てほしいとも思えない。あの妙に偉そうな金色にも、鉱山で働く巨漢にも、農家で働く信仰深い少女にも。表のドアに鍵を掛けて、クーには裏口から出てもらおう。そう思って裏口から外へ出て、表のドアへ回った。その時、見慣れた人を見かけた。
「……ディルムッド?」
 ディルムッドが、ドアの側の壁にもたれ掛かって寝ていた。アルトリアは彼に近づいてしゃがんだ。
「どうしたんだディルムッド、こんなところで……風邪をひくぞ? 紅茶、飲みに来たんだろう? クーもいるぞ、ほら」
 反応はない。まさか、死んでいるとは思っていなかったが。
「……なぁ、ディルムッド」
 返事はない。
「……ディルムッド?」
 段々と異変を感じはじめる。まさか、まさか、と固唾を飲んで、ディルムッドの手を取った。
「……ッ!」
 その冷たさは、雨のせいではなく。
 アルトリアは立ち上がると勢いよく店のドアを開け、クーに近付いた。殺気立った様子で彼の胸倉を掴み上げる。泣きそうな、怒りを一杯に込めた瞳で。
「お、おいアルトリア!?」
 エミヤの声を無視し、アルトリアはクーが何か言う前に言った。
「ッ……どういうことだッ……!?」
「……アルト……」
「知らないって……知らないって言ったじゃないか!! 本当は……本当は知っていたんだな!? どうしてッ……どうして、ディルムッド……」
 手に力が入らなくなったのか、アルトリアはその場にうずくまって大声で泣きはじめた。諦めたクーは、店の外へ出て、ここまで運んだディルムッドの遺体を店の中へ持ってきた。
「……どういうことなのだね?」
「……お前らは知らないだろうけどよ……こいつ、麻薬を使ってた」
「なっ……!?」
「……二年くらい前かな……工場で、泊まり込みで働いている仲間に無理矢理飲まされたらしい。それからはもう、転落だ……あれは依存性が酷い……いつか、こうなるとは分かってたんだ……どうして、止められなかったかなぁ……俺は……」
 いまだ幼く、あどけなさが残る青白い顔。その顔は悲しそうで、苦しそうで、泣きそうで−−幸福そうな。
「……何が悪いってんだよ……? 国か? 街か? 人か? 歴史か? 何が悪いんだ!? わからねぇよ! 全然見えねぇ! 何で上は私腹を肥やしている裏側で、俺達はこんな想いしなくちゃならねぇんだ!? おかしいだろ!? 全員が平等で、幸せな……そんな国があっちゃダメなのか!? こうやって何人犠牲が出ればッ……俺達はッ……!」
 −−クーも、必死だったのだろうとエミヤは理解した。言おうと思っていたのだろう、ディルムッドが死んだことを。だが、このコーヒーハウスは、憩いの場だ。ここだけはいつも平和だ。それなのに、ここにそんな、悲しい話題を持って来れなかったのだろう。ディルムッドもきっと同じだった。薬にこれ以上犯される前に、二人に全て告白したいと思っていたはずだ。彼は、いつでも正しかったから。だが−−その二人が、毎日笑ってくれるから、美味しい紅茶をいれてくれるから。だから余計に言い出しにくくなる。結果的にどんどん追い込まれ、最期は−−。

 雨と風が強く壁に当たる音の中に、少女の啜り泣く声だけが響く。クーの長い髪から、アルトリアの手から、ディルムッドの靴から落ちる雫が、コーヒーハウスの木製の床に、染みを作っていた。


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