二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

短編小説 *BSR Fate*
日時: 2014/04/21 17:22
名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)

こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)

前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります

ごゆっくりどうぞ


※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97



Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.392 )
日時: 2014/11/11 16:30
名前: ナル姫 (ID: PtJSydhi)

またネタかよ!
またネタだよ!


明治時代(1880年頃)の長崎
fateの人達はお雇い外国人とか宣教師とか

エミヤ
27歳。日本人で、お雇い外国人の住む寮の管理人。炊事に洗濯、掃除に裁縫……というか家事なら全部出来ちゃう万能母ちゃん。しかし本人は断固母ちゃんを否定。母ちゃんと呼ぶと、誰が母ちゃんだ!と返して来る。
英語と日本語を話す。

クー
25歳。西洋文化の教師。おおらかで兄貴肌な性格。幸運E。ギルガメッシュに弄られる。エミヤとは喧嘩するほどなんとやら。
出身はアイルランド。アイルランド語、英語、日本語を話す。

ギルガメッシュ
25歳。西洋の政治の教師。傲慢且つ慢心で、生徒から若干引かれてる← クーをいじり倒す。アルトリアに求婚するが玉砕。
出身はイラク。アラビア語、英語を話す。

ディルムッド
19歳。修道士。神の教えに忠実で殉教すら夢見ている。大丈夫か。荒事は苦手でいつも優しいのだが、怒るとめっちゃ怖い。イケメンだが修道士のため女お断り。いつも厚い聖書を持っている。洗礼名ネレオ。
出身はアイルランド。アイルランド語、英語、日本語を話す。

アルトリア
16歳。修道女。ディルムッドが気になっているが修道女であるため隠している。男勝り。大丈夫か。ギルガメッシュにたびたび求婚されるが、いつもこっぴどく振っている。だって修道女だから← 洗礼名ローザ。
出身はイギリス。英語、日本語を話す。

オェングス
37歳。ディルとアルトリアがいる教会の神父。愛がありふれている人。洗礼名シャル。
出身はアイルランド。アイルランド語、英語、日本語を話す。


その他農業を教えるジャンヌとか外国語教師アンデルセンとか巫女のキャス狐とか倫理教師ネロとか社交ダンスを伝えるランスとか。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.393 )
日時: 2014/11/13 19:11
名前: ナル姫 (ID: Th22uItU)

「今日は何の話をしようか」
 穏やかな午後。
 教会に集まってきた子供達に、椅子に座っている修道士が尋ねると、彼らは頭を捻った。そのうち、一人の女児が声を出す。
「ネレオさま、おにーちゃんがね、せーじのせんせーのじゅぎょーがわからないって。なんかね、せーじのせんせー、にほんごしゃべらないって」
「政治の先生……あぁ、ギルガメッシュか。確かに彼は日本語は話せなかったな……易しい英語で授業してくれれば良いけど……」
「ネレオさま、なんでことばっていっぱいあるの?」
「……そうか。では今日はその話をしようか」
 若い修道士は軽く目をつぶり、語りはじめた。何度となく読み、聞いた話。聖書を見なくても朗読できる。

 −−その昔、人々は同じ発音の同じ言葉を話していました。時に人々は東へ移り、シナルの地に平野を得て暮らしていました。
 −−彼らは互に言いました。『さぁ、煉瓦を造ってよく焼こう』こうして彼らは石の代わりに煉瓦を、しっくいの代わりにアスファルトを得ました。
 −−彼らはまた言いました。『さぁ、町と塔とを建てて、その頂きを天に届かせよう。そして我々は名をあげて、全地のおもてへ散るのを免れよう』
 −−時に主は下って、人の子が建てる町と塔とを見て、おっしゃいました。『民は一つで、みな同じ言葉である。彼らはすでにこの事をし始めた。彼らがしようとすることは、もはや何事もとどめ得ないであろう。さぁ、我々は下って行って、そこで彼らの言葉を乱し、互に言葉が通じないようにしよう』
 −−こうして主が彼らを全地のおもてに散らされたので、彼らは町を建てるのをやめました。
 −−これにより、その町はバベルと呼ばれました。
 −−主がそこで、全地の言葉を乱されたからです−−。

 子供達は首を傾げた。難しかったかな、と微笑む。
「……つまり、皆は最初、同じ言葉を使っていたんだ。でも、天国にまで届くほど高い塔を作ろうとして、神様がそれを止めるために人々をそれぞれ違う場所に追いやって、言葉も別々にした、ということだ」
 えー、と子供達から不満そうな声が上がる。
「えーって」
 いつの間にいたのか、アルトリアがディルムッドの後ろに立っていた。アルトリアは苦笑して子供へ疑問を投げかける。
「だって、てんごくっていいところなんでしょ? いっちゃだめなの?」
「……天国は、死んだ人がいくところだしなぁ……その中でも、良いことをしていた人が行くべきところだ」
「いいこにしてればてんごくいける?」
「あぁ、隣人を愛し、神の愛を受け、主のお教えを信じれば……」
 言いかけたところで、何て言っているのかわからない怒声が響く。あちゃー、と言う顔のディルムッドに、額に青筋を浮かべるアルトリア。
「ディルムッド、聖書を」
「な、何に使うつもりだ」
 聖書を取られないよう抱きしめる。神聖な聖書を、暴れる人々を(物理的に)収めるのに使うのはいけない。諦めたらしいアルトリアは何も持たずに外へ出た。その最中にも喧嘩は続いている。暴力を使わずに解決してくれる事を願うばかりのディルムッドだが−−。
「いい加減にしなさいッ!!」
 響いた痛そうな音に溜息。
「……主よ、何故彼の者達はいかなるときも暴力を使ってしまわれるのでしょうか……」
 キョトン、と子供達が置いていかれる中、拳で締められたであろう青い髪の男性と金髪の男性がアルトリアに教会の中へずるずると連れて来られた。修道女であるのにこんなにも筋力があるとは、驚きも呆れも通り越していっそ尊敬に値する。
「さぁ、先程の喧嘩を悔い改めろ、ギルガメッシュ、クー」
「……アルトリア、強制するものではないから」
「いやローザ! 俺悪くないから! 悪いのは金ぴかなんだよ!」
「貴様黙れ狗! 正しいのは我だ我は何一つ悪くなどないわ!」
 喧嘩が英語で行われていて良かったと本気で思った。日本語だったら子供達に悪影響だ。いや喧嘩自体良くない事なのだが。
 ディルムッドは立ち上がり、引きずられてきた二人に近寄った。いまだいがみ合う二人に語りかける。
「喧嘩は良くありません……そもそも、何故喧嘩していたのですか?」
「こいつが俺の授業について批判しやがったんだよ! おいネレオ! キリスト教では誹りは悪だったよな!?」
「はい。マタイによる福音書にそうございます」
「ほら見ろ金ぴか! 誹謗は罪なんだよ!」
「この我が罪だと!? 笑わせるでないわ!」
「……しかしクー様。人は皆、罪を背負うものです。ヨハネによる福音書にある通り、罪深い女に石を投げられる者はいないのです」
「あ……う……」
 反論の余地を失ったクーに、ギルガメッシュが勝ち誇ったような顔をする。とは言え誹謗も罪ですので改めて下さいと釘を刺されたのだが。ギルガメッシュは時代的には珍しく宗教を持っていなかった。というか、自分至上主義だった。そんな彼に改めろなど無駄なことではある。実際彼は態度を変えなかった。
「ギルガメッシュ……お前は本当に……」
「ま、まぁまぁアルトリア。さすがに教会で荒事を起こすのはよそう。子供達もそろそろ帰すから、二人も解放してあげてくれ」
 渋々従うアルトリア。ディルムッドは子供達に、また明日おいでと言い、彼らを返した。子供達は口々にお礼を言い解散する。ギルガメッシュとクーも顔を背けながら帰った。
 静かになった教会に、スタンドグラスを通って差し込む夕方の光が神秘的に輝く。二人は十字架にかけられたイエス・キリストの前にひざまづき、十字架を切った。口を揃えて言うには。

「明日も一日、善き日を送れます事を、アーメン」

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.394 )
日時: 2014/11/18 23:34
名前: ナル姫 (ID: aWmOh1mE)

【加害者可哀相……】
【お前馬鹿? 加害者は加害者だろ被害者哀れに思えよ】
【どっちもキチ】
【被害者も変。考えるべき】
【精神障害とか殺した理由にならねぇだろ】
【お前信じてる人の気持ち考えたら? できないの?】
【信者マジ訳わかんねぇ。地動説とか進化論とかずっと前からあんのに】
【あの家庭環境じゃ仕方ない】
【逃げ場なさすぎワロス】
【加害者以外の信者非難する奴、他の信者に謝れ】
【信者いたよww 黙れば?ww】
【俺がいつ俺は信者だって言った? 日本語わからないのか】
【どっちも庇いようがない】
【被害者も殺されて当然だろ】
【被害者がなんて言ったのかも報道されてないのに、加害者庇ってる奴何なの?】
      ・
      ・
      ・

「……ネットは大炎上だな」
 肌の黒い青年は溜息をついて、修道服を着た俯いている少女に視線を向けた。少女は僅かに顔をあげ、死んだように寝るベッドの上の病人を見た。その腕には注射針が刺さっており、それに接続された透明な管は薬剤の入ったバッグに繋がれている。
「……見るかね?」
 スマートフォンを差し出してきた青年−−エミヤに頷き、それを受けとる。慣れない手つきで恐る恐る、下へ下へと掲示板をスクロールしていくうちに、彼女の目から涙が零れ始めた。
「酷いッ……誰も、誰一人も、ディルムッドの事を何も知らないくせに!」
「……」
 フォローの言葉が見つからず、ただ、ぽんぽんとエミヤは彼女の背を撫でた。

 捜査は、一向に進展を見せなかった。
 事件の真相を知るのは、罪悪感から精神障害を起こした加害者と、今は亡き被害者、そして被害者の教え子である少女のみ。だが少女は、被害者が加害者にどんな侮辱の言葉をぶつけたのかを知らない。それを唯一知っている加害者は、まともに話もできない状況だ。
 仕方のない事だが、被害者を庇う側の世論が、早く裁けと騒ぎ立てている。だがこればっかりはどうしようもない。
「あぁ、父なる神よ、どうか御救い下さい……彼は、彼はただ貴方を信じるあまり、その侮辱を赦せなかっただけなのです……」
 少女−−アルトリアは祈った。その時、病室のドアが開く。
「……相変わらずか」
 この事件を担当している、毛利元就と大谷吉継。二人は定期的に病院を訪れ、ディルムッドの様子を見に来ていた。
「……ディルムッド……聞こえるか? 毛利様と大谷様が来たぞ」
「ヒヒ、無理に起こしやるな」
「済まないな……」
 エミヤが代わりに謝る。元就は首を振り、気にするな、と返した。と、そこにもう一人来る。
「モトナリてめぇ運ぶの手伝えよ……」
 大きな段ボール箱を持ったクーが来た。彼も勿論担当者の一人だ。彼は中に入ると、タイルの上に箱を置いた。
「何だ、それは……」
「……大量に贈られてきた、加害者宛ての嫌がらせよ」
「……」
 ごくり、と固唾を飲んで段ボール箱を開ける。スッと鼻に通る甘い香りの果実は、聖職者である彼女にはあまり馴染みがないが、日本人は青森が名産地であるそれを恐らく年中食べているのだろう。

 −−キリスト教において、『禁断の果実』と呼ばれるその赤い実を。

「っ!」
 グシャッ!
 果実は圧力に耐え切れずはち切れ、汁と実をその場にぶちまけた。アルトリアの靴の裏に、踏み潰された林檎の残骸が張り付く。
「ふざけるなッ……ふざけるな!」
「落ち着けローザ……そんなことしたってどうにも……」
「だから黙っていろと言うのですか!? 黙って見過ごせと言うのですか!?」
 その表情は、修道女と呼ばれる者のして良い顔ではなかった。怒りを込め、復讐に燃え、どこへやることも出来ない悲しみで押し潰されそうな−−悲痛な顔だった。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.395 )
日時: 2014/11/18 23:42
名前: ナル姫 (ID: aWmOh1mE)

「毛利様……まさかディルムッドを庇う方々は……こんなことしていませんよね……?」
「あぁ、しておらぬわ。彼を庇う人の中には信者も多く、庇う側の人はその仲だけで独自に掲示板を作っているらしいが、被害者を庇う人に何もしないよう、信者が呼びかけを行っている」
「……良かった」
 それを聞いて多少落ち着いたらしいアルトリアは、一度深呼吸をした後再び椅子に座った。……もっとも、それを守る連中だけではないことは百も承知しているが。
 テレビでは今日もこの事件を取り扱っていた。
『−−我々はアイルランドにて、加害者の学生時代の同級生を訪ねた。
【友達は……いませんでしたね。皆平等に扱ってて。やっぱり当時からちょっとおかしくて……信じすぎてた感じで。中学生の時とか、理科の時間に、地動説とか進化論とかの授業になったら暴れ出したとかそういう噂も聞きましたし……】(学生時代の同級生 O氏)
 −−当時から、熱狂的なまでの信者だった加害者−−何故、こんなにもキリスト教を信仰していたのか。O氏の案内で、我々は彼の故郷を訪れる事が出来た。
【ここが……あいつがいた教会です。大学上がる前に日本行っちゃったんですけど……この近くに家があるんですけど、多分もうすぐ……取り壊されちゃうんじゃないですか。蔦まみれですし……】
 −−ここが、彼の生まれた家であるらしい。ここで、彼は父から虐待を受けた。
【何故、彼は虐待を……?】
【……なんか、父親が母親が不倫してるって勘違いして、ディルムッドは母親を庇って】』
 ブツンとテレビが消えた。一瞬ぎょっとするが、何てことはない。寝返りをうったディルムッドが偶然リモコンの電源ボタンを押したようだ。寝顔と顔色は良いとは言えない。悪夢でも見ているのだろうが、起こしても起きないだろう。
「……被害者の教え子は、精神障害こそ起こしていないが、加害者相手に殺意すら抱いている。源氏物語のように、生き霊に苦しめられておるのかもな」
 まぁ、源氏物語では殺すほど恨んでもいなかったが、と元就は付け足した。
「……マァ、とにかく早いとこ弁護士をつけることを奨めるわ」
「そうだな……俺もアイルランド出身として、協力するしよ。立場上、どっちの味方とかは出来ねぇけどさ」
 そう言い残し、三人が去ろうとした、その時だった。
「う、ぁ、ああ……」
「ディルムッド?」
「……どうした、ネレオ」
 アルトリアとエミヤがディルムッドに視線を移す。彼は、青白い肌をより一層青くし、ガタガタと四肢を震わせていた。起こさなければ、瞬時にそう判断し彼の肩を揺さぶるが、ディルムッドは悪夢に束縛されたままだった。
「ディルムッド! ディルムッド!」
「う、うぁ……」
 ふ、と暗い橙の目が見開かれる。
「う、うあああああああっ! さわるなっ! さわるなぁッ!! あっ−−ゲホッ! ケホッゲホッ」
 肩に置かれたアルトリアの手を払い退け、激しく咳込む。注射針は取れていた。エミヤが背を摩り、その間にクーがナースコールを押した。すぐに医師と看護師が駆けつけ、嫌だと全力で抵抗する彼を押さえ付け、数錠の精神安定剤と睡眠薬を飲ませた。即効性の睡眠薬は、彼をすぐに眠りに落とした。再び静脈に注射針が刺される。
 −−この光景も見慣れてしまった。それがどうしても悔しい。
「……ディルムッド」
 彼の精神は、いつ安定してくれるのだろう。
「……大丈夫、大丈夫だから」
 気休めの言葉で慰めながら、裁判が遅くなることを、少女はぼんやりと予測していた。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.396 )
日時: 2014/11/20 23:14
名前: ナル姫 (ID: z1wpqE.E)

「……貴方方にも返すものがあります」
 静かに言ったアルトリア。中に入り、何かを持つとまた出て来た。アルトリアは睦美に、クーが持ってきた段ボールと、その中身を見せた。
「……ディルムッド宛てに贈られてきた、大量の林檎です」
「……へっ……?」
 睦美は何も知らなかったのか、キョトンとそれを見つめた。
「……一つ踏み潰してしまいましたが……食べ物ですし、ライターよりは役に立つでしょう」
 皮肉めいた物言いで、アルトリアは床の上に段ボールを置いた。
「……お引き取り下さい」
「おい修道女の嬢ちゃん、そりゃぁあんまりじゃねぇかい?」
「ええ、そうですね……しかしディルムッドに会わせるわけにはいきませんし……意味もないでしょう」
「……ネレオと君達が会っても、彼は茫然自失としたまま、何も反応を示さないか、または……まぁ言い方が悪いが、また発狂するか、どちらかだろう」
「……ネレオ?」
「……ディルムッドの洗礼名です」
「信者っつーか修道士だったのか、あいつ……」
 元親がわずかに納得した顔をした。だが睦美に睨まれ、ばつが悪そうに顔を反らす。
「だからっ……だからその態度が気に食わないって……!」
「気に食わないからディルムッドと会っていかがなさるおつもりですか!? そちらにライターを投げ込んだ方々を殴ったように、ディルムッドを殴りますか!? 言葉で説きますか!? 今の彼には何をしても意味がないのに!」
「……ッ」
 言葉に詰まる睦美。わかっている。どんな状況であろうと、精神を患ったのが気に食わないからと言って患者を殴れば、世間もマスメディアも、こちらを非難するだけだ。そうなれば非常にまずい。もし裁判でディルムッドが有罪となっても、状況が状況なだけに罰はそこまで重くないだろう。加害者とはいえ精神病患者を殴れば、睦美の罪の方がきっと遥かに重い。
 喧嘩が止まったとき、すみません、と遠慮がちな声が聞こえた。見れば、ディルムッドの食事を運んできた看護婦が困り顔でいた。
「あ……も、申し訳ありません」
 道を開け、看護婦が通れるようにする。失礼します、と看護婦が声をかけるが、返事はない。彼女は構わず中に入り、睦美の位置からは見えないディルムッドに声をかけるが−−。
「ぁ……くっ、来るなっ! 来るなぁぁッ!!」
「!」
 アルトリアが慌てて中に入る。ドアが閉まり、何をしているのかは見えないが、少しすると収まったのか、看護婦とまた出て来た。
「……さっき安定剤を飲んだばかりなのに、これか……」
「え、は……安定剤飲んであの状態のか!? さっき!?」
 エミヤが肩を竦めて肯定。睦美と元親が呆気に取られる。
「……加害者の、健康状態は?」
「……芳しくありません。あの日から食事は摂りませんし、点滴で何とか栄養を補っている状態です。幼少のころから受けていた虐待で身体も元々弱いですし……被害者を殺した日も病み上がりで、熱は下がっていましたがまだ顔色も悪いからと止めたのですが……少し散歩をするだけだからと、出て行った後でした」
 睦美の言葉にアルトリアが答える。
 −−あと一日、治る日がズレていたら、あの場所に行っていなければ、あの日に雨でも降っていれば……こんな悲劇は起きずにすんだ。
「っ……何なんだよ……何なんだよ! 被害者はこっちなのに!」
「落ち着きやれ。マァ人の命は確かに大きいが、時に精神的な被害は人の命より大きくなると言うことよナァ」
「それが甘えてるって言うんだろ……ちゃんと自分のしたこと受け止めろよ!」
「受け止めた上でのあれなんだよ、嬢ちゃん……つーか、受け止めたからこうなったんだ」
「でも!」
 ふ、と何かを感じた。怒りにも似た悲しみ。絶望にも似た殺気。それが、目の前の小柄な修道女が放つものだとは、一瞬理解ができなかったけれど。
「……先程から甘えだの逃避だの……そんなにも私の仲間を非難したいのですか」
「お、おいローザ……」
「修道女であるからには、私は地球に生きる者全てに慈悲をもって愛する義務があるとわかっています。しかし、私だって人間です。不完全です。仲間を一方的に否定ばかりする輩に、与える愛などございません!」
 緑色の瞳が開かれる。鋭い眼光が睦美を貫いた。
「貴女は……貴女は想像できますか? まだ小学校にすら行っていない幼い少年が、毎日毎日、母を庇ったからと父親に蹴られて殴られて、ご飯ももらえなくて、真冬の夜に家から追い出されるなんて想像できますか!? 母親は庇ってあげているのに、自分を守ることだけに精一杯で彼を愛してはくれない! 父親と母親は目の前で血を流して死んで、頼りにした親戚の家ではどこに行っても邪魔者扱いされて! ちゃんと大人しくいい子にしているのに、舌打ちされる気持ちがわかりますか!? 最後には教会を頼り、小学校にあがってすぐ洗礼を受けて……彼は神を信じはじめました。慈悲深い父なる神は、全てを救ってくださると、愛してくださると、その言葉をただひたすら信じ、聖書の教えだけを読んで、科学的に証明された地動説と進化論すら信じようとはしなかった! 彼の心は、キリスト教の上に辛うじて成り立っていたのです! ……けれど、その教えを、その心を否定されました……見ず知らずの女性に、神を信じた自分の十三年間を侮辱されたのです! それでも、それでも貴女は彼を責めますか!?」
 大人しそうな少女から聞かされた加害者の人生は、想像が難しいものだった。ただ分かるのは、本当に、頼るものが何もなかった−−それだけだ。受けるべき愛情の欠落、向けられない同情の瞳、それが少しずつ、だが確実に、彼を狂わせた。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97



この掲示板は過去ログ化されています。