二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 短編小説 *BSR Fate*
- 日時: 2014/04/21 17:22
- 名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)
こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)
前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります
ごゆっくりどうぞ
※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。
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- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.372 )
- 日時: 2014/10/09 18:50
- 名前: ナル姫 (ID: pymfwt0Q)
平和家族最期(誰も報われない)
「聞いてくれグラニア! フィンがとうとう俺達のことを認めてくれたぞ!」
俺の声は多分相当浮かれていたと思う。仕方ないとは思うのだが。数年前、ゲッシュの重みに屈して王国の姫君を連れて逃げ出した。エリン中を逃げ回り、やっと手に入った愛しい人。誰にも渡したくないと、初めて俺に独占欲を教えた人。勿論、フィンとの和解は表面だけの冷たいものだ。養父を通じて漸く成立したものだ。それでも、俺はこの上なく嬉しかった。
「今日からここが家だ。定住できるというのはありがたいな」
「えぇ。ありがとう御座います、ディルムッド」
「俺は何も……フィンの慈悲さ」
改めて家を見渡す。広い庭もあるし、生活に困ることはなさそうだった。
「グラニア、体調は悪くないか?」
「はい」
尋ねたのには訳ある。グラニアは妊娠していた。何だか照れ臭いが、これもまた非常に嬉しいことだ。
「男の子だったら、きっと貴方に似て美しく強い子になるわ」
「女の子だったら、きっと君に似て愛らしく優しい子になるよ」
目が合って微笑み合う。幸せ過ぎた。どうしようもなく幸せ過ぎた。今は、他のことなどどうでもよかった。オスカーやディアリン、りっちゃんやファーガス、コナン達との仲は大丈夫だろうかとか、フィンとどうしたら昔のようになれるだろうかとか、そんなことは一切考えられないくらいに。
「この子が生まれて家のことが落ち着いたら、一度俺の故郷に行かないか?」
「貴方の? ……ブルー・ナ・ボーニャへ?」
「あぁ、きっと母も父も養父も、弟も歓迎してくれる」
「えぇ! 是非! 是非行きましょうディルムッド!」
−−大丈夫。
−−きっとすぐ、フィンとも解り合える時が来る。
季節は巡り、やがて生まれたのは男の子だった。俺の酷い癖っ毛は継がれず、取り合えず安心した。グラニアのような、茶色のサラサラとした綺麗な髪だ。
俺としてもグラニアとしても子供なんてものは初めての経験であり、まだまだ落ち着くことはなさそうだった。
ある日の夜だ。扉を乱暴に叩く音がした。こんな夜中に誰だと思い戸を開ける。首無しの騎士が、そこにはいた。
「うわっ!?」
「!? ど、どうしましたディルムッド!?」
俺の声に驚いたグラニアが起きてきた。だがすぐに冷静になり、目の前のそれを確認する。
「『……お前は……少し傷付くぞディルムッド、久々とは言え』」
「……あ……セル姉……?」
俺が幼少時から世話になっているデュラハンだった。
「えっと……」
「あぁ、彼女は俺の友人で、デュラハンのセルティだ。安心してくれ、死期を伝えに来た訳ではなさそうだ」
「『ディルムッドが世話になっています、エリンの姫。と、こんな悠長に挨拶している暇はないんだ』」
「何かあったのか?」
「『ブルー・ナ・ボーニャが大変なことになっている。詳しい話は道中で話すから、槍と剣を用意して戦える格好に着替えろ!』」
「わ、わかった」
訳が分からないまま着替え、馬に跨がる。
「気をつけて、ディルムッド」
「あぁ、すぐ帰るよ」
「……それで、何があったんだセル姉」
「『ロクが王に反乱を起こした』」
「!? 父さんに反乱!?」
「『あぁ、それで、それを止めようとしたブルベンが、ロクに……』」
「……まさか、殺されたのか……!?」
「『……あぁ』」
「そんなっ!」
「『まだ話は終わってないぞディルムッド』」
「え……」
「『ロクはブルベンの霊に魔法をかけ、猪に変えてしまったんだ。そして、ブルー・ナ・ボーニャの破壊を命じた』」
「ブルー・ナ・ボーニャの破壊!?」
「『あぁ、妖精やドゥン様が止めようとしているが、まだ猪は止まっていないだろう』」
「……止めても、ブルベンは……」
「『……あぁ、戻らない』」
「っ……」
奥歯を食い縛った。実の弟ではない。父の違う弟だ。自分と弟では妖精達の扱いも違ったし、俺達は頭の出来も槍や剣の扱いの上手さも顔さえ違う。それでも俺には大切な、たった一人の弟なのに。
「……ブルベン……」
「『……気持ちは理解しているが、感傷に浸っている暇はない……急ぐぞ!!』」
長い時間を掛けて馬を走らせ、ブルー・ナ・ボーニャへ着いたのは翌日の日が沈みかけた時間だった。
確かにブルー・ナ・ボーニャでは一匹の耳と尾がない巨大な猪が荒れ狂っていた。妖精達が応戦している。木などを倒す音が聞こえた。
「『王! ディルムッドを連れてきました!』」
「! ディルムッド! 良かった、来てくれたか!」
父さんはブルー・ナ・ボーニャの近くの砦にいた。そこには実父もいた。
「話は聞いた、でも、どうしてロクさんは……」
「どうやら、私がディルムッドに王座を継がせようとしていると勘違いしたらしい……私は二人が継がないと言うなら、どちらにも継がせるつもりなどなかったと言うのに……ブルベンに反発され、錯乱したようだな……」
「ロクさんは今どこに?」
「あそこだ」
父さんは王宮の近くの円筒状の塔の上を指差した。なるほど、あそこからブルー・ナ・ボーニャが壊れるのを眺めているのだろう。
「ディルムッド、あの猪、ロクを殺せば止まると思うか?」
実父の質問に詰まる。
「……それはないでしょう」
「だろうな、ロクはそんな生温い輩じゃねェ」
「やってみる価値が、ゼロとは言いませんけど」
「……そうか」
ブン、と大きく鎌が振られる。
「狂乱に陥った魂は、とっとと回収しねェとな……ブルベンの魂は術式が破壊されればそのうち安らかに眠るだろうが、ロクの魂はそうもいかねェ。あれ自体が悪霊となる」
赤い瞳が仮面の奥から覗いた。
「ディルムッドも来い。色々問い質したい事あるだろ」
「……はい」
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.373 )
- 日時: 2014/10/09 18:56
- 名前: ナル姫 (ID: uLF5snsy)
「ふ、ふはは、ははは! 良いぞブルベン!! もっとやれ! もっと、もっと、もっとだ!!」
「−−止まれ」
低い声で言う。笑い声は止まり、狂ったように続いた笑い声が止まった。俺の紅薔薇はすぐにでもロクさんを殺せるように構えられている。
「やっと来ましたか、『ゴシソクサマ』」
「あぁやっと来たよ、ロクさん」
「見てください、素晴らしいでしょう? 美貌はどこへやら、あの猪の醜いこと」
「そうか、俺には貴方の方が醜く見える」
「御冗談を」
「冗談だと思うなら構わない−−なぁ、何でこんなことした?」
「……さぁ、自分にもサッパリで」
「どうして……どうしてッ、ブルベンを殺した!? いつでも正しく有能で、アンタの背中を追って、アンタに憧れてドルイドになったブルベンを!!」
「聞いたのですよ、王は貴方に王座を継いでもらうつもりだと、貴方がそれを受けたと……フィン殿から」
「な−−っ!?」
俺はそんなこと一言も言われていない。うけた覚えもない。小さい頃から継ぐつもりはなかった。ただ騎士に憧れて、でも死神の子だと何を言われるか分からないから、何て父さんが気を使ってくれて目の色を変えてくれたりした。
俺は継ぐつもりはなかった。
フィンが嘘をついた。
俺をおとしめるために、嘘をついた。
「嘘だッ……嘘だ、嘘だ、嘘だァッ!!」
「見苦しいからおやめなさいゴシソクサマ」
ロクさんは言うと、くいっと親指を立てて俺がいるのと反対方向を指差した。塔の展望台部分は狭く、俺の位置からでは何を指差しているのか分からなかったため、少し身体をずらしてそれを見る。
「ッ−−!!」
そこにあったのは、惨殺されたブルベンの遺体だった。
「ブルベンッ!!」
ロクさんを押しのけ、ブルベンに近づく。
当然だが、呼んでも揺さぶっても起きない。瞼は開かれたままで、血は体中に媚びり着いていた。肌は冷たく、硬い。
俺はブルベンの瞼を閉じ、遺体を抱えた。
「ッ……!」
−−フィン。
−−俺はそんなにも、そんなにも貴方を怒らせたのか。
−−そんなにも失望させたのか。
−−俺の故郷を、壊滅させたいと思わせるほど。
−−関係のない弟すら、死に追いやってしまうほど。
……俺のせいだ。
「……ごめん……ごめん、ブルベン……俺が……俺が……っ」
俺が馬鹿なことをしたから、とは言えなかった。この期に及んで言えなかった。言ってしまえば、俺のグラニアへの想いが偽物になる。
「……おい、ロク」
「はい?」
「あれの術式はどこだ」
「あの猪の、中心ですよ。ずたずたに身体を切り裂かなければ届かない」
「そうか、なるほど、解った」
魔力を感じた。振り返ると、実父の鎌は魔力を纏い、その刃を少しだけロクさんに突き刺していた。
「地獄で懺悔するんだな」
膝が付き、体が倒れる。
「クッ……ハハッ……ハハハッ! まだ! まだだ! 終わらせぬ! 壊せ、全て壊すんだブルベンッ!! ブルー・ナ・ボーニャを破壊し尽くせェッ!!」
ゴウッと魔力の暴風が吹いた。ブルベンを抱える腕にも自然に離さないように力が入った。ロクさんの魔力は、猪へと注がれた。そして、小さく笑いながらロクさんは死んだ。実父はそれから出てきた黒い何かを鎌で切り裂き、首飾りへ送り込んだ。
「どうやら、術式自体に魔力を溜め込んでやがるな」
「……でも、ロクさんから送られて来た魔力なら……殺さなくても、そのうち止まるのでは」
「ばーか、それはねェよ。お前、あいつがそんな奴だとは思ってねェだろ……ブルベンはドルイドとして優秀だった。魔力量だって凄かった……つまり、父親はもっと……って事だ。最期、自分の魔力全てをこいつは猪へ送り込んだ。きっと、何の抵抗もなければ……いや、妖精ごときの抵抗じゃ、ブルー・ナ・ボーニャなんかあっという間に破壊しちまう」
「……そりゃ、そうですよね……」
解ってる。『殺さなくてもそのうち止まる』だなんて、俺の願望でしかない。
「……ほら、行ってこいディルムッド」
「……え」
「実質、俺とブルベンには何の関係もねェ。なのにそんな死神の手に裁かれたら可哀相だろうが。兄ちゃんが、眠らせてやれ。あいつは苦しんでる」
「……」
躊躇っている暇はない。これは罰だ。グラニアを愛した罰。主に背いた罰。勿論グラニアが悪いとは思わない。誰が悪いとは思っていない。これは定めだ。俺はこうなる運命なのだ。ダーナ親族の母神、女神ダナの思し召しだ。こんなものは言い訳にしかならないとは解っている。けれど、グラニアを愛したことを間違いだとは思いたくないから。
俺は立ち上がり、頷いた。塔から飛び降りた。妖精達が相変わらず精一杯応戦している所へ割り込む。
「退け」
「! ご子息様!」
「ご子息様危険です!」
「大丈夫だ……俺は半神だから、普通より体は丈夫だ……お前らも、疲れただろ?」
猪は、俺に向かって突進してくる。術式があるのは猪の中心。それなら上から刺すのが一番楽だろうが、そう簡単に背後を許す事もないだろう。
「さぁ、ブルベン……手合わせしようか……殺し合いみたいにな」
ギィン、と牙と槍が交わる。パンッと弾き、構え直してまたぶつかった。
「グッ……ドルイドの癖に体鍛えたなっ……! その志は嫌いじゃないぞ!」
端から見れば、猪相手に独り言を言う怪しい奴にしか見えないだろうが、何か言っていればブルベンか答えてくれる気がしていた。力がとにかく強い。それに毛の一つ一つは丈夫な針のように鋭く固そうだった。
妖精達も俺の援助に入りはじめた。サラマンダーやニンフ、スプリガンやノーフにシルフなど、沢山の妖精がブルベンを止めようとする。
猪は俺達へ走りはじめた。何としても俺達の壁を突破し、王宮を破壊するつもりだろうが、そうさせる訳にはいかない。槍でガードするが、その槍でさえ折れるかと思うほど。
「ッ……ブルベンッ……聞こえてるだろッ……あんなに……従順ないい子だったじゃないかっ……兄さんの言うことっ、聞いてくれよ……!」
語りかけても変わらない。でも語りかけずにはいられない。
だが、もうそろそろ終わらせなければ。
ブルベンを殺さなければ。
『貴方の弟よ、ディルムッド』
『ディルムッドはお兄ちゃんなのよ』
『さぁ、優しく呼んであげて』
『ブルベン、と』
『生まれたとき、とてもベン・ブルベンの山が綺麗に見えたの』
『この子も貴方のように、綺麗になるように』
『だからブルベンなのよ』
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.374 )
- 日時: 2014/10/09 19:32
- 名前: ナル姫 (ID: .k4fGJqC)
結局、ちゃんとブルベンと呼んだのは、大分後の話だった。どっちから言い出したのか、ブルベンを『うーちゃん』と呼びはじめたせいで。小さい頃のあだ名に、意味なんてないれけれど。
「ふふ……ブルベンからどうして、うーちゃんになるんだよ」
どうでもいいことが脳裏を過ぎる。
「……ごめんなブルベン……俺のせいで殺す事になって」
猪は助走をつけるためかその辺を走り回り、また俺達へ向かってきた。
「ザック、キーヴァ、巨人化してブルベンを止めろ! 数秒で良い!」
「はいご子息様!」
俺はタイミングを見計らって上に跳ね、二人がブルベンを止めたその瞬間、猪の背に着地した。
「ちょっと痛いだろうが……我慢しろよ……!」
ゲイ・ジャルグで直接狙うよりは、一度ゲイ・ボウで深めに傷をつけた方が良い。俺はゲイ・ボウを背に垂直に立て、一気に突き刺した−−が。
「!? なっ−−!」
バキン、と大きな音がした。光景に目を疑った。
「ゲイ・ボウ、が……!」
割れた。
「そんな……! うわっ……」
スプリガン達の抑える力が限界だったのだろう、突如動き出した猪に振り落とされ、背中から勢いよく着地する。
「ご子息様!」
「平気だっ……! 二人とも! もう一度行けるか!?」
「はい!」
「アイリーン! ゲイ・ジャルグを持っていろ!」
「はい!」
同じことをもう一度。今度は両手でベガルタを持った。
「ふっ!」
ベガルタを突き刺す。だが、それも簡単には通さない。
「クソッ!」
今度はベガルタとモラルタの両方を持ち、二本で同じ場所を刺した。すると、漸く肉が裂ける。その途端、大きく猪がいなないた。耳をつんざく様な声で。ブルベンが痛みに泣いているようで、罪悪感が募る。
「悪いブルベンッ……! 我慢してくれ!」
ずたずたに切り裂いていく。術式には恐らく魔導書が使われている。体の中心に刃を進めていくと、それらしきものが中に見えた。
「! あった!! っ!」
またも猪が動き出す。背中に乗ったままではゲイ・ジャルグをアイリーンから受け取れない。降りるしかなさそうだが、キーヴァもザックも疲れきっている。一度降りれば再び乗るのは難しい。だが選択をする間もなく、俺は振り落とされた。
「クッ……!」
「ご子息様……」
正直、針のような毛の上にいれば、足は傷まみれだし、先ほど地面にぶつけた背中もまだ痛かった。だめだ、クラクラする。もう猪の背には正直乗れない。そうすると、もう道は一つだ。
アイリーンから槍を受け取り、顔をあげる。再び暴れ出したブルベンは、俺達にまた突進してくる。術式の位置は覚えている。こういうのは得意だ。大丈夫、大丈夫だ。
「……行くぞ、ブルベン……」
薔薇を構える。
「まさか、ご子息様……!」
「やめてください! 死んでしまいます!!」
聞く訳がないだろ。
俺がお前達の説教とかを聞くのは、おやつに吊られた時だけだった。
「−−破魔の(ゲイ)……」
ごめんな、ブルベン−−。
「紅薔薇ッ!!」
『−−兄さん』
『兄さんは将来何になりたいの?』
『……騎士だな』
『フィンが団長のフィオナに入って、武功を上げる』
『兄さんらしいね』
『ブルベンはどうしたい?』
『僕はドルイドになりたい』
『父さんのように』
『はは、お前らしいな』
『……なぁ、ブルベン』
『何?』
『俺が武功をあげて、お前が優れたドルイドになったら……』
『一度手合わせしないか?』
−−届いた。
確かに手応えを感じた。勿論、俺と猪が最大限近付かないと届かないとは分かっていたから、最大限に近付いていた−−詰まるところ、俺の腹部にも、猪の牙でできた大きな穴が空いている訳だが。
猪は光に包まれて消えた。最期に一言だけ……ありがとうと聞こえたのは、気のせいではないと思いたい。猪が完全に消えると、俺はその場に仰向けに倒れた。
「ご子息様ッ!」
「ご子息様! ご子息様ぁ!」
妖精達が、みんな俺の顔を涙目で覗き込んでいた。
「ディルムッド!」
「馬鹿が! 無茶なことしやがって!」
皆が駆け寄って来る。もう、うっすらとしか目を開けない。
「待っていろディルムッド! 今医療魔法が使える者を……」
「も、う……いいよ……とう、さん……俺は……きっ、と……ゲホッ……こうなる運命…………だった」
「何を……」
「ロクが言ってたんだ……オェングス、アンタがディルムッドに王座を譲るという話を聞いたとな……フィンが、ロクに嘘を吹き込んだらしい……ディルムッドへの、私怨で」
父さんに実父が説明する。そうだ、その通りだ。
償いとして、俺の命を差し出せと言っているのだ。
第一、俺がこの先も生きてしまえば……。
俺のせいで死んだブルベンに、申し訳がない。
「俺が、ここで……死なない、と……きっと…………まだ、続く……フィンの、私怨が……」
「ッ……テメェ馬鹿ッ! 女房と餓鬼残して簡単に死ぬつもりか!?」
「だ、から、死な……ないと……俺に、対する、恨みで……二人に、害が……行く前に」
「ディルムッドッ……」
……ブルベン……。
『手合わせって……』
『騎士の兄さんが強いに決まっているじゃないか』
『お前は魔法を使えば良いさ』
『俺は使えないから』
『あぁ、なるほどね……良いよ、やろうよ!』
『じゃぁ決定だな!』
『負けないからね?』
『こっちこそ』
−−結果は、引き分けだな。
1700年後−−。
「ふ、笑えんな……まさか、ここでお前に出逢うとは……運命とは皮肉なものだ」
「同感だよ……けれど、この状況だと手抜きは出来ないよ、兄さん」
「あぁ、そうだな……」
……全く、こっちの気も知らないで。
兄の心弟知らず、と言ったところか。
……まぁ、どうでもいいか。
「良いのか? キャスターではランサー相手に大変だろう?」
「良いよ、僕としてはまだ、兄さんと手合わせした記憶ないから」
「……そうか」
ヒュン、と呪符の巻かれた−−とは言え、もう宝具の正体はばれているのだが−−紅と黄の薔薇を回し、構える。
「フィオナ騎士団の双つ槍、輝く貌のディルムッド−−推して参る!」
「生憎、名乗れるような二つ名は無くてね……ドルイド、ブルベン・マクロク、参る!」
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.375 )
- 日時: 2014/10/11 20:01
- 名前: ナル姫 (ID: nq7vYh80)
「我が兄の名に賭け、必ずや貴方に勝利を、マスター!」
「あらお兄ちゃん、久しぶりね。勿論手は抜かないわよ?」
「乙女の頬に高潔な騎士が癒えない傷を作るつもりなの!? 見損なったわお兄ちゃん!」
クラス:ランサー
身長:160cm、体重:52kg
血液型:不明
誕生日:不明
属性:中立・善
イメージカラー:翡翠
好きなもの:チョコレート、苺
苦手なもの:暗い空気
パラメータ
筋力:B-
耐久:C
敏捷:A
魔力:D
幸運:B
保有スキル
妹の特権B+
『世話好き』『お節介』『心配性』『優しい』などの性質を持つ男女全てが、彼女に攻撃するのを躊躇うスキル。魔力で抵抗可能で、当然サーヴァント以外にも効くのだが、攻撃目的のない人々が掛かると犯罪まで及んでしまう可能性がある。ディルムッドの黒子と違いコントロール可能。また、普通のサーヴァントには有効だがディルムッド相手だと効き過ぎてしまうため使わない。
宝具
破魔の紅薔薇B
兄、ディルムッド・オディナの死後彼女に譲られた魔槍。その刃の部分が触れた瞬間、その場所だけ魔術を打ち消す、宝具殺しの宝具。
呪いの黄薔薇B
同じくディルムッドの死後に譲られた魔槍。傷付けるとその傷を癒さない短槍。使用者が敗退する、または槍そのものを破壊しないと傷は治らない。
真名はエステリーゼ。『リーゼ』と呼ばれる。
ディルムッド・オディナの歳の離れた実妹であり、諸事情あり幼い頃から、既にフィオナで過ごしていたディルムッドに育てられていた。ディルムッドの真似をして体を鍛えていたため運動神経は抜群で、ディルムッド同様特殊な飛躍術を獲得している(ディルムッドは妖精から教えられた)。度胸も根性もある性格で、何かとへたれな兄を馬鹿にする節があるが、一応お兄ちゃんっ子。ディルムッドはリーゼを溺愛し、大切にしていた為かも知れない。
成長してからは兄同様騎士となり、戦場へ出るようになる(ディルムッドは止めて欲しかった)。
ディルムッドの死後、剣と槍は全てリーゼに譲られた。フィンを恨んでいるが、復讐しても兄は喜ばない、と言う思いから何もしていない。だがフィオナに居づらくなったため、兄の養父のいるブルー・ナ・ボーニャへ帰り、その後はオェングスと静かに暮らした。
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.376 )
- 日時: 2014/10/14 23:42
- 名前: ナル姫 (ID: 8zRCentP)
「ディ、ディルムッド!?」
「はい?」
大声で言ったセイバーに声を返したのは、翡翠の装束を身に纏った美少女だった。薄めの翡翠の服は胸の下までで、白い肌は腹部が露出されている。左腰から少し下の右腰にかけられたベルトが一本、その下に真っすぐ巻かれたベルトが二本、大きめの半ズボンは膝上10センチほどで、灰色の革の生地に黒で波のような模様が入っている。靴は足の形にフィットした膝下くらいの高さのブーツで、ズボンと同じような模様が入っていた。黒いくせっ毛は長く、蜜色の瞳は憂いを帯びていた。足れ目で、白い肌は頬だけ桃色に薄く染まる−−絵に描いたような美人、ディルムッドをそのまま女性にしたような容姿だった。
「あぁ、いえ……何でも」
「ディルムッド……兄のことをご存知ですか?」
「……!?」
さて、事の発端は何だっただろうか。
学校に夜遅くまで残り部室の掃除をしていた士郎は、帰ろうとした時にサーヴァント同士の戦いを目撃してしまい、橙の髪に緑の装束のアーチャーに射られてしまった。その後、ランサーのマスターである凜に蘇生されるが、アーチャーは彼が帰宅した後も彼を追い、もう一度彼を射ようとしたところで−−偶然、士郎の元にセイバーが召還された。
その後、彼の家に来た凜から聖杯戦争のことを聞き、その日は士郎も凜に見逃して貰ったのだが、翌日の学校で凛と死闘状態になってしまう。セイバーが霊体化出来ない、ということで凛と士郎は暫く共闘することになり、凜のサーヴァントが現れて−−。
今に至る。
いやまぁ、別に構うことはないのだ。ただ……その娘が、ブラコン気味でなければ。
「あ……兄!? ディルムッドの妹なのですか!?」
「はい! 兄のことを知っているなら私の宝具も隠す意味ないですし……ばらして良いですよね、マスター?」
「……そうね、良いわランサー」
「はい! 輝く貌のディルムッド、ディルムッド・オディナが妹、フィオナ騎士団の紅一点エステリーゼ・オディナで御座います!」
ピシッと姿勢を整えて笑顔で名乗る。妹がいるとは全く知らなかった。あまり有名な英雄ではなかったのだろうか。
「で……」
蜜の瞳をキラキラと輝かせ、セイバーをじっと見つめる美少女。何を聞かれるかは……わからなくないが。
「兄の戦いはどんなものでしたか!?」
「あぁ、その……」
『赦さん……断じて貴様らを赦さんッ! 名利に憑かれ、騎士の誇りをおとしめた亡者共……その夢を我が血で汚すが良い……! 聖杯に呪いあれ! その願望に災いあれ!! いつか地獄の釜に堕ちながら、このディルムッドの怒りを思い出せェッ!!』
−−言えない。
「騎士道に則った、素晴らしい戦いでした。その精神の為に、私への有利が無くなることを気にせず、この街のためにその黄色の槍を折ったり……主に従順な態度をとり……ま、まぁ! この私には敵いませんでしたがね」
得意げに言ってみるが、笑顔は引き攣っていないだろうかと不安になる。だがそんなことはなかったのか、エステリーゼは満足そうに笑った。
「よかったー、お兄ちゃん不満とか全部中に閉じ込めてある日突然爆発させるタイプなので何かあったらどうしようかと……」
「そ、そうだったんですか……」
「……でも、兄は優しい人でしたよ。私との歳が離れているのもありましたが、私のことはとても大切にしてくれて……私なんかは、そんな兄に何も恩返し出来ませんでしたけど」
嬉しそうに、だが悲しそうに話す彼女を見て、ますます言えなくなる。大好きな兄が主に裏切られ自害、挙げ句この世を呪いながら消えたなど悲しすぎる。
「しかし兄が敵わなかったとは……相当強いのですね、セイバーさん?」
「へ?」
「お手合わせ願います!」
「私は構いませんが……」
「い、いや待ってくれよランサー! 俺のセイバーに魔力供給とか出来ないし……」
「問題ありません士郎、ご飯を!」
「腹が減っては戦は出来ませんからね!」
「いやいやいやいや!?」
「うっ……ダメですか……?」
瞳をうるうるさせて士郎をじっと見つめる。士郎が押されないわけない。
「……う……わ、分かったよ……はいはい、ご飯作れば良いんだな?」
「ありがとうございます!」
あ、これどうしようもねぇし俺の立場下だわと気づいたのは今更な訳だけど。
【ルビーと騎士王と妹ちゃんと少年】
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