二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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短編小説 *BSR Fate*
日時: 2014/04/21 17:22
名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)

こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)

前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります

ごゆっくりどうぞ


※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。

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Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.312 )
日時: 2014/07/08 14:38
名前: ナル姫 (ID: khvYzXY.)

「ーーっ!」
「漸く捕まえたぜ……麗しの騎士サマよぉ!」
 成実の槍に捕らえられた黄薔薇は空中に弾き飛ばされたが、翡翠の騎士がそれ程度でうろたえる筈もない。一旦下がり、落ちてきた黄薔薇を片手で難無く受け止めた。
「楽しくなって来たじゃねぇか、うん?」
「俺は貴様と戯れるためにここにいない」
「悲しいねぇっと!」
 言いきった瞬間突き出してきた槍にはやはり炎。紅薔薇でそれを打ち消し、黄薔薇を突き出すが、寸でのところで避けられてしまう。と、その時だった。
「ーー!? な……!?」
 湿気と熱気に包まれる空気。それが相手の技によるものだと理解するのに時間は要らない。ディルムッドが怯んだ隙に成実は彼に攻撃を繰り出した。が、ディルムッドが朦朧とする頭で防ぐ。
「き、さま……何を……!」
「いやぁ、伊達の家臣が言ってたもんでよ、南蛮人等は日ノ本のじめじめとした暑さになれてませんってな。凄いぜ、うちの家臣は。宣教師に会って実際に話をしたらしいからな。だから熱気を増やしたんだよ、内側から弱らせるために」
 成実の言葉の半分以上は言葉として認識はしたものの、意味を捕らえることは最早不可能だった。暑い、苦しい、それだけが頭を支配する。
「それと、術者にはこの熱気は通じない、ってまぁ、それくらい分かるか」
 つかつかと歩みより、成実は刃を向けた。が、その瞬間。
「っ!」
 ディルムッドが長槍を思いっ切り振り回し風を起こすと、成実の起こした熱気は吹き飛び元の空気に戻った。
「……まぁ、そこまで簡単じゃねぇか。悔しいけど、そうこなくちゃな」
「……伊達成実、貴様の作戦は見事だ。だが……」
 足れ気味の瞳が、橙を睨む。
「それで負けるなど安易な考えは止して貰おうか」
「……はっ!」
 橙の口元が歪む。
「良いねぇ良いねぇ! 良いじゃん! あぁ、テメェの負けず嫌いと俺の負けず嫌いは最高によく似てる! 最高だ! じゃぁもう仕方ねぇなぁ!」
 成実は橙の陣羽織を脱ぎ捨てた。
「言っておくが……俺は結構な戦闘狂だぜ?」
 言うが早いか、パンッと地面が爆ぜる。だが最速の目がそれを見逃す筈もなく、成実の刃を黄色の薔薇が受けた。
「まだまだァ!!」
「っ!」
 激しい攻防戦が始まった。今までやっていた物よりも、より早く、鋭く、激しく、熱い。炎に翡翠が飲まれたと思えば、黒い鎧が傷付く。炎と火花と金属音が混じり合う中、一際大きく高く音が鳴り、炎の熱気に起こされた砂埃の中から一本の槍が高く舞い上がった。それを見た政宗や政哉、その他伊達家の家臣達が息を飲む。
「そこまでっ!!」
 凛とした声が響く。見ると豊臣軍司の女性が、足元から黒い影を伸ばしており、それは今だ立ち込める砂埃の中へと続いていた。槍が地面に落ちる。
「済まないね涼影、砂埃を沈めてくれるかい」
「あ、はいはい!」
 ふわっと風が起きる。強すぎなく、だが弱すぎない調度良い風で、砂埃は静まった。見れば、武器をなくした成実は紅薔薇に深く足を切られ座り込んでおり、ディルムッドは緋色の影に動きを封じられていた。彼の黄薔薇は、あと少しで成実の喉を切り裂かんとしていた。
「全く、お前の薔薇に喉をすこしでも裂かれたら治るもんも治らんよ。わかってんのかい?」
 緋色がディルムッドに近づく。騎士は黄色の瞳で彼女を睨んだ。
「……邪魔をするな、緋色」
「聞いてんのかね、この餓鬼は。おい駄狗」
「狗ゆーなっての」
 言いながらクーは政哉を降ろし、緋色とディルムッドに近付いた。ディルムッドの右腕を掴み、下ろせ、と言う。彼は素直に従った。
「成実」
「……」
「今回の敗因はお前自身だよ。分かってるね?」
「……あぁ」
「今後、気に入らないからと喧嘩を売るのは禁止だ。それも、相手の刔られて嫌なところをわざわざ突くな……と」
 さて、この悪餓鬼はどうするべきかねぇと彼女は溜息。
「お仕置きはあとにしてやる。言うことがあるんだろう? この御武家サマにな」
「……」
 ほら、と促す。彼は漸く口を開いた。
「……裏切られて死んだ」
「……」
「上司の妻になるはずだった女に泣きつかれて、忠義ではなく愛を選んで、女を連れて逃げた。数年後に許されたが、その後に策略に嵌められた。俺を助ける余地はあったのに、上司は俺を見殺しにした」
 成実がわずかに目を見開いた。
「お前が俺を気に入らない訳は分かる。俺だって己の性を何とかしなければいけないと思っている。だが上司を最後まで信じていたことを後悔はしていない。寧ろ当然の報いだと感じている。俺を背徳の臣へと駆り立てた彼女のことだって恨んでいない。自分の前世に後悔はない……半兵衛様から武士のことを聞かされたとき……嬉しかった。この、俺達が知らなかった極東の地にも、俺達と同じような精神を持って戦う集団がいると思って……武士の精神に期待をするなと言われれば期待はせん……俺が今回貴様に勝ったからと言って騎士が武士に勝るとは言わん。だが、これだけは覚えておけ」
 蜜色の双眼が成実を見据えた。
「フィオナは決して弱くない。試験中に死ぬ者もいた、俺だって仲間を殺してしまった。その度に俺の心にも傷が増えた。フィオナは俺の居場所であり、フィオナの騎士は皆俺の強く逞しい友人だ。俺という一個人が気に入らないからと言って、フィオナを馬鹿にするな。……本当ならここで貴様の首を胴体から切り離してやりたいところだが……」
 黒い魔女と青の騎士を彼は一瞥した。
「……二度はない。今後一切フィオナに対する侮辱を口にするな」
 ふ、と武器が消えた。紅色の薔薇に深く切られた足をみて、彼は右手を差し出す。
「立てるか?」
 成実は最初キョトンと手を見つめ、やがて苦笑した。
「……だから、甘いんだっつの」
 言いながら、その手をとった。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.313 )
日時: 2014/07/10 22:29
名前: ナル姫 (ID: lFtbIZgG)

僕愛×fate
僕愛ネタバレ警報
ランサーとセイバーは一度既に交戦している。

 世界を残酷だと思ったとこは一度や二度ではない。それでも、余りにこれは酷すぎると感じたのは初めてだ。初めて神を恨み、初めて運命に嘆いた。
『そうか……ランサーは、貴方でしたか』
 無感情に呟いた赤は、前と変わらない薄い笑みを浮かべていた。自分より数歳若い姿。彼は、自分と戦うことに全く躊躇いを感じていなかった。キャスターのクラスとして現界した幼なじみ、ランサーとして現界した自分。それも、実の兄と弟の下に。
 ーーでもまぁ、休ませるつもりなんかさらさらねぇよなぁ、このお坊ちゃんは。
「ランサー」
「ん、どうした、梵天」
「アーチャーのマスターがわかった。町に出るついでに探すぞ」
「……」
 何なんだ、この坊主は。
「……普通探すために町に出るんじゃねぇのか、マスターよ」
「普通はな。だが下手に動いても相手を刺激するだけだ。そこでだな」
 数分後、そこには革物の服をきた青年がいた。
「梵天、何だこりゃぁ」
「今風の服を着ていろ。木を隠すなら森の中だ」
 ーーマスターのこの顔つきと身長じゃぁ友達というより……止めよう。これ以上考えたらいけない気がする。
 ……まぁ、最近戦い続きで全く休んでねぇしな。
「御意に、我が主さん」


___



「うむ、やはり誰も気にかけぬな」
「そ、そうかぁ……?」
 政宗は満足げだが、ランサーは慣れない。霊体化せずに町を歩くなど……と何となく変な気持ちだった。と、その時。
「ーーッ!」
「……ランサー?」
「何かいる……」
 政宗もランサーと同じ方向を見た。と、そこに現れたのは……。
「! ランサー……それに、ランサーのマスター!」
「セイバーじゃねぇか、何してんだこんなところで。一人か?」
「貴方達こそ……」
「俺はマスターの付き添い」
「ふ、最近甘い物不足で色々と満足できぬ生活故な」
「テメェ今さらっと本音言ったな」
 くすっ、と笑うセイバー。ランサーも苦笑を漏らした。
「セイバー」
「どうした、ランサーのマスターよ」
「貴様よもやここで戦いを起こそう等と言うつもりはあるまい」
「勿論」
「ならランサーの話相手にでもなっていてくれ。儂は何かしら買ってくる。そこの公園にでもいろ」
「おい梵天。護衛はいんねぇのか?」
「貴様と歩いてると周囲の目が辛い」
「やっぱり同じこと考えてたか! 俺達森の住民じゃねぇよな!?」
「断じてそうではない!! そんなことしたくない!!」
「よかった!!」
 離れながらも大きな声で会話するのを見て、セイバーは笑いそうになっていた。
「はぁ……貴方達主従は本当に面白いな」
「困ったもんだぜ、あれも」
 公園行くか、とランサーが誘う。セイバーは頷いた。
「実はアーチャーのことを調べていてな。最後に召喚されたと聞いたから」
「あぁ何だ、俺はてっきりマスターがテキトウにアーチャーのことがわかったなんて言ったのかと思ったぜ」
「いや、実は前から召喚はされていたらしい。ただ、召喚した人が戦いを拒否して、令呪を従弟に譲った、という話だ」
「そうなのか?」
「あぁ、真偽は定かではないがな」

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.314 )
日時: 2014/07/10 22:36
名前: ナル姫 (ID: lFtbIZgG)

 真面目そうなセイバーを見ていて思う。そういえば、と彼は口に出した。
「お前、その……良いのか?」
「うん? あぁ、問題ない。マスターは寛大だ。少し公園のベンチで休むくらい……」
「いや、そうじゃなくてよ、情報を俺に流して良いのかって……」
「ダメなのか?」
 キョトン、とセイバーが首を傾げる。ランサーは非常に微妙そうな顔をした。
「……あのなぁセイバー……俺は一応敵なんだぜ?」
「まぁそれはそうだが……構わない。私達が正々堂々と雌雄を決するのに、ソレトコレトは関係ない話だからな」
 ーー清澄な闘気ーー。あぁ、そうか……騎士ってのは、そんな奴らなんだな……。
「武士は、きたねぇぞ。騙し騙されなんて茶飯事だし、真っ向勝負なんて抜かしておいて、後ろから斬るとか普通にあるし、敵を潰すためなら嘘の情報だって流す……同じように人を殺してきた手でも、お前らの手より数倍汚いだろうさ」
「……随分悲観するのだな、ランサー。お前は武士である自分が嫌いか?」
「いや、誇らしいよ……主の下で散々戦って、散々殺してきたけど……それでも俺は武士であるのが好きだった。けど……親友が死んだ時、急に怖くなったんだよな……」
「……どうかしたのか?」
「そいつ、凄く献身的、というか……自分を卑下しててさ、最期散々な死に方しても、自分の主に、『こんな最低な自分には勿体ない幸せな人生だった、ありがとう、最後まで一緒にいれずに申し訳ない』って……泣きながら笑ってたよ。多分、やっぱり死ぬのは悲しかったんだろうなって……あいつは何も悪くなかった。でも大人達の勝手な解釈で自分の一族を下に下に見続けて卑下して、自分の本当の気持ちに耳を塞いでた。たまに残酷だったけど、あいつは優しい奴だったよ。……そんな奴の死に全く悲しまない大人達が憎くて憎くて堪らなくてさぁ……その場で斬ってやりたかった。まぁ俺の代わりに、俺の主が友人を死に追いやった奴らを攻め立てたんだけどな。お前らはあいつ個人から、何かあいつを死に追いやらないと気が済まないことをされたのかって、されからこんなことをしたのだろうって、一人一人申し出ろ、あいつに何をされたか詳しく言えって……誰も何も言わなかったよ……」
 セイバーはただ目を見開いて、彼の友人の死に絶句していた。
「怖かったな……あんなに良い奴があんな死に様なんて、俺は一体どうなるのかなって思うと……」
 わずかに震える片手をもう片方の手で押さえ付ける。だがその手も震えていた。
「だから、な、セイバー……あまり俺に期待するな。いざとなれば俺はお前を後ろから討つくらいのことはするからよ」
「くだらない」
 予想外の言葉にランサーはセイバーを見た。見れば、彼女は笑っていた。
「それはお前の前の話だろう、ランサー」
「……」
「今お前は、私と同じ三騎士クラスの一人だ。私はお前を好敵手と認める。だから、そんなしけた面をしないでくれ」
「セイバー……」
「私はその時のお前の気持ちをすべて理解することは出来ないが……大切な人を失う悲しみは、分かる。ただ、悲しみだとか、罪だとか……そんなことは一切関係ない、武人としてお前と最高の戦いがしたいと思えたんだ。だからーー」
 体が拘束された。突然のことに青の少女は驚き、数秒固まっていた。
「らん、さー?」
「……悪い、少しこのままにしてくれ」
 頬を伝う雫に、疑問を覚えた。涙など、とうの昔に忘れた筈だった。それに、こんな時に流れて来るなんておかしい。
「なぁ、セイバー……俺変だ。お前に武人として認められてうれしいのに……涙止まらねぇ」
「そうか……それはな、ランサー……『嬉し涙』だ」
「あぁ……これが、『嬉し涙』か……初めて流したわ……」
 強く抱きしめて来る槍兵の背に自分も手を回した。貴方の心の傷が、いつか少しでも癒えますようにと願いながら。

 ーー寒い、けれど……暖かいな。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.315 )
日時: 2014/07/21 11:50
名前: ナル姫 (ID: 5YBzL49o)

某なりきりスレの会話より


 母様が泣き叫ぶ。
『止めて! お願い! 止めてぇ!!』
 俺は頭から水を被る。
 聞こえてきたのは高い泣き声。まだ小さな妹の。
 足音が近付いて来たけど、俺の身体は動かない。
『その子達は関係ないの! 止めて!!』
 足音は止まらない。俺の身体は容赦なく蹴り飛ばされた。
 足音は遠ざかる。が、また来る。
 目に映ったのは、強化魔術を施されたであろう、包丁。
 それは、俺と妹ではなく、身篭っている母親へと落とされた。
 耳を裂くような悲鳴。妹の泣き声は酷くなる。

 ーーどうして……。
 ーーどうして、こんなことに……。


 3年後ーー。
「つーわけで、今日はディルの奢り!」
「じゃない!」
「なんでだよーMVPじゃんおーごーれーよー!」
「だから、何でMVPが奢る!? 逆だよな? 普通逆だよな! 別にMVPだからって賞金とか貰えないからな!?」
 夏、中学校生活最後のバスケの大会。俺達は三位で、次の大会へは進めなかったものの、俺は今大会にてMVPに選ばれた。大会の帰り、どこかで外食していこうと言う話になったのだが、何故か俺がMVPだからと理由になっていない理由で奢れ奢れと言われている。
「じゃぁスタメン分だけで良いから! 奢れ!」
「だから! 奢る理由がないから! 人の話聞こうか!」
 くだらない話をしながら、結局マクドナルドとかに入るんだろうなぁと考えていたら案の定マクドナルドに入ることになって。呆れるほど楽しくて、目を背けたいほどに美しく、見つけにくいほどありふれた日常の中にいた。こうやって皆といるときだけは、あの地獄を忘れられた。けれど、わかっていた。
 どんなに一般人のふりをしても、俺はどうしようもなくあの魔術師の息子であると。

 父も母も、どうしようもない人間だった。二人とも魔術師だったが、母は才能がないからと家から捨てられ、父は才能があり長男でありながら余りに横暴な性格ゆえに実家から勘当された。二人は出会い、結婚し、やがて俺が生まれ、十二年後に妹が生まれた。だが、二人の仲は決して良好ではなかった。
 二人の結婚の目的は愛ではなく、才能のある子を作り、いつか自分達を捨てた家に復讐することだった。だからこそ二人は長男の俺に才能がないことに絶望し、俺への興味が薄れていくと共に二人の仲も日に日に悪化した。家庭内暴力が日常化する中で、母は不倫相手を作った。だがその頃母は妊娠していて、子供ももうすぐで生まれるというところだった。勿論その子も、完全に俺を諦めた両親が俺の代わりに作っただけなのだけれど。
 出産後、母はすぐ不倫相手との子供を作った。だが父にそれが知られ、小さな命は母の胎内でたった三ヶ月の灯を断たれた。
 その夜、異常な悲鳴を聞き付けた人が警察に連絡し、父は逮捕され、母は病院に運ばれ一命は取り留めたが、精神が錯乱し精神関係の病院へ入れられた。俺と妹は母の不倫相手の上司に引き取られた。
 現実感のなさ、それに疲れ、加えて余りに残酷な光景によって心が空っぽになった俺に、養父は選択肢を出してきた。
 ーー魔術師になるか、否か。
 俺は即座に否と答えた。勿論、十二の俺は今まで魔術師になるために修業を積んできたが、成果は得になかったし、何より、俺の頭の中で魔術は、人殺しの道具であると認識されてしまった。
 やることもなく、向上心もなく、ただつまらない日々を送る中で、俺はある日、自分が本気で上を目指せるものを見つけた。敵を抜いたときの優越感、オフェンスを止めた時の達成感、シュートが決まったときの快感。仲間とパスを繋ぐのも、ドリブルで突き進むのも楽しい。シューズの音、ボールの跳ねる音、ボールがゴールをくぐる音、何もかもが好きになれた……バスケットボール。
 バスケに触れる中で俺の心も段々と傷を治し、俺の人生に楽しさを生み出した。
 それでも、心の奥底では、俺は魔術師の子供だった。

「ただいまー」
「おにーちゃんおかえりーっ!」
「うおっと!」
 飛びついてきた妹を抱きしめる。あの日まだ一歳にもなっていなかった妹のリーゼは三歳になっていた。大切な唯一の家族。可愛くて愛嬌があって素直で純粋、まさに完璧、とか言ったらバスケ部員に『シスコン』と言われた。認めざるを得ないが、シスコンで何が悪い。
「おー帰ったかディルムッド。遅かったな」
「友達とマック行ってた」
「おぉそうか。今日はMVPおめでとう」
「……誰から聞いたのそれ」
「お前の友達の保護者からメール回って来てな」
「……ビックリさせようと思ってたのに」
「すまん」
「えむぶいぴーってなぁに?」
「お兄ちゃんが、今回一番凄い人だったってことだ」
「そーなの!? やったー! おにーちゃんすごぉーい! こんどきんめだるつくってあげるー!」
 あ、可愛い。ダメだ可愛すぎる。これは『リーゼちゃん下さい』という友人に嫁には出せん。
「ありがとうリーゼ。じゃぁこれは金メダルのお礼に」
 俺は鞄からマクドナルドの袋を出した。妹に買ってきたお土産。
「まっくのあいすだー!」
 アイス、というかマックフルーリーだが可愛いから許そう。嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。
 妹の成長を見詰める中、日に日に俺の中で強くなっていた。

 妹に家族のことを教えない、そして、魔術とは無関係の人生を歩ませる決意が。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.316 )
日時: 2014/07/21 11:51
名前: ナル姫 (ID: 5YBzL49o)

 だが一年半後、俺の決意はある日突然折られてしまう。
 高校に入ってから俺は寮暮らしで、丁度養父の仕事も忙しかったためリーゼは俺の部屋で暮らしていた。それは夏休み、俺達が養父の家に一度戻った際に起きた。
 俺達の祖父……実父の実家、ブライト家の現当主であるリンガル・ブライトが急に家を訪ねてきたのだ。俺はその日友達と遊びに行っていたため、訪ねてきたのを知ったのは帰宅後だった。勿論、お爺様の顔なんか見たことがなかったが。
「……お爺様は、何だって?」
「……お孫さんが、身体が弱いそうだ。また、才能もそんなにあるわけではない」
「……叔父様が、普通だったらしいしね。父様は才能があったけど……」
「あぁ……」
 リーゼは既に寝ている時間だった。
「俺は修業止めちゃったし」
「あぁ……そこで、何だが……エステリーゼを、実家に引き取りたいそうだ」
「なっ……!」
 思わず立ち上がった。
「そんなっ……急にどうして!?」
「リンガルさんがリーゼに才能を見出だした……それだけだ」
「何だそれ……自分が勘当した人の子供を引き取るだと!?」
「あぁ……数日後、また来るそうだ」
「ふざけてる……! リーゼを魔術師にはしない! だからお爺様にも……!」
「落ち着きなさい、ディルムッド。リーゼが拒否すれば良いのだから」
「拒否すれば良いって言ったって、リーゼはまだ五歳なんだよ!? どの選択が最良かなんて分かる訳無いじゃないか!」
 何とか断らなければ、と言い訳を短い時間の中で考えた。当然、俺の脳では限界があり、うまい言い訳など思いつかなかったが。
 数日後、予告通り現ブライト家の当主、リンガルとその次男であるアルステア、その一人息子で御曹子である、リーヴがやってきた。
「初めまして、となるかな? 愚か者の息子よ」
「……初にお目にかかります、リンガル・ブライト様。ディルムッドと申します」
「こんにちは、リンガルさま」
「うむ、あやつとよう似た顔をしておるのぉ、忌ま忌ましい」
「っ……」
「まぁ、良い。アルステア」
「お前達の叔父にあたる、アルステアだ。……リーヴ」
「り、リーヴ・ブライト、です」
 リーゼと同い年の従弟……やはり俺達と似た顔をしていた。
「さて、では早速本題に入ろうか。エステリーゼを引き取らせよ。その者こそブライト家の当主に相応しい」
「……ディルムッド」
 養父が俺の背を押すように俺の名を呼んだ。
「……リンガル様、エステリーゼはまだ五つです。まだ当主だ何だとそんな話をするのは早いでしょう」
「早いから良いのだ。早くからブライト本家に馴染ませ、立派な当主に仕立て上げる」
「っ……大体、自分で勘当した人間の子供を引き取れると御思いですか!? 父が貴方に捨てられた時点で、私も妹も貴方とは全く関係のない人間です! なのにっ……」
「勘当しても親戚は親戚だ。道理に適わぬことはない」
「っ……」
 あの夜の光景が脳裏を過ぎる。
「でしたら……あくまで血の繋がりがあって、引き取るのが道理だと言うのならば……何故あの日俺達兄妹を引き取ってくれなかったのですか!? 面倒だったのではないですか!? 魔術師として没落し、財力もなく、魔術回路を持たない人間すら生まれるような家です! そりゃそうですよね、それなのに狂暴だった長男の才能がない息子なんか引き取りたくないですよねぇ!? 挙げ句逮捕されているような人ですしね!」
「ディルムッド!」
「でも貴方はリーゼに才能を見出だした! それに没落した家を何とか立て直したい! だから今更になって……」
「止めなさいディルムッド!」
 父さんに言われ、何とか我に返る。まだ言い足りなかった。
「まぁ、兄の意見はどうでも良い。エステリーゼよ、御主はどうしたい?」
「耳を貸すなリーゼ。聞かなくて良い」
「魔術師にはなるか?」
 リーゼは、困惑していた。当たり前だ、いきなり現れた人が自分を引き取るだの引き取らないだの、五歳の女の子にそんな話は分からない。
「……まじゅつって、なに? おとうさんカンドウってなに? たいほされてないよ、おとうさんはここにいるよ?」


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