二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 短編小説 *BSR Fate*
- 日時: 2014/04/21 17:22
- 名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)
こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)
前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります
ごゆっくりどうぞ
※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。
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- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.442 )
- 日時: 2015/01/17 10:03
- 名前: ナル姫 (ID: TQfzOaw7)
【 むかしむかしのおはなしです。
あるところに、かわいいおひめさまと、かっこいい騎士がいました。
ふたりはまいにち、おはなばたけであそんでいました。
おひめさまは、きしのことがだいすきでした。】
「……父上と母上が亡くなった」
そう呟いた少女が羽織る青のマントが、静かに風に揺れた。
「……事故ならば仕方ないとは言え……寂しいことだな」
翡翠色の装束に身を包んだ青年は何も口にしない。
「……四年ぶりか……再び会えて嬉しいぞディルムッド」
「……姫、俺は」
「分かっている。私の決断を聞きに来たのだろう?」
少女は振り向き、ひざまずく青年を見る。馬鹿だな、お前はと、口にしながら。
「……私がお前を殺すはずが、ないじゃないか」
青年の顔が青ざめ、その顔をあげた。
「だがっ……貴女は分かっていない! 俺を生かすことで、この先ここの家臣が貴女をどう思うか! この国の民が何を思うか!」
「わかっていないのは家臣達だ」
彼女は彼の手に自分の手を乗せた。
「彼らはわかっていない……この国で最も、正しく真っすぐで、優しくて、誠実な騎士が誰であるか」
手が震え、俯いた。
「……しかし」
「私は貴方と同じ、父も母もいなくなった……なぁディルムッド、今一度、私の側にいてはくれないだろうか」
ぽた、と温かいものが触れる。彼女の、涙だった。
「……忠誠の、キスを」
そう命じた彼女を少し見詰めたあと、彼女の左手をとり、口づけを落とした。十六歳という若さで王となった少女は、震える声でありがとうと呟いた。
−−四年前、ディルムッドの父が死んだ。病に蝕まれた身体をディルムッドは必死で看病していたが、疲労が貯まりきって少し居眠りしている間に、彼は死んでしまった。余りにも突然すぎて、ディルムッドの頭は父の死を漠然と捕らえるだけでしっかりと認識できていなかった。
その翌日、彼は城の家老達に呼ばれた。話の内容は、残酷な彼の出生だった。オェングスは本当の父ではないと、お前の父は、お前が生まれる前にこの国に反乱を起こそうとしたドゥンという男であると。だが、その妻の腹から生まれた子が余りにも美しかったから−−お前は今日まで、オェングスの元で育つことができたのだと。姫はお前を気に入っていらっしゃるが、本来なら近づくべき二人ではないと。
ディルムッドは元々、自分とオェングスは似てないと理解していた。実の父ではないのかもしれないと予感していた。だからこそその事実を受け入れた。
「お前は今十四、後四年で成人になる。その時、王がお前の処分をどうするか決めるのだ。成人になれば死刑が法的に可能になる。きっと、死刑は言い渡されるだろう。良く覚えておけ、貴様の命はあと四年だ」
あっさりと彼は事実を受け入れた。理不尽な言い渡しに頷いた。その日から彼は、幼なじみである姫君と会うことはなくなり、父がいなくなった屋敷で一人、孤独な生活を強いられてきた。
−−だが、ディルムッドが十八になった昨日、王と王妃は死んだ。若くして王を担うことになった姫君に、彼は自分の処分を聞きに来たのだ。
……わかっていたことだった。彼女は自分を殺すはずがないことを……彼女に殺せるはずがないことを。
…………彼が彼女の想好意を、受け取れないことを。
「……我が身は、長く貴女のお側に」
貴女の騎士として。
だが果たして、彼がいて良いということはなかった、決して。
だが誰一人、彼を否定し、排除しようとはしなかった。出来なかった。王として君臨する彼女が大切にした命を、否定できる訳がないのだ。だが、いつか排除せねばと−−そう思っていることは、王も分かっていた。
また、若すぎる王には失敗もあった。国内では徐々に反乱が起こりそうな雰囲気が濃厚となり、皇室に対する嫌がらせなども増えていた。
「……王はどうですか?」
「……だいぶ気を病んじまってるよ……良いのかディルムッド、行かなくて」
「……しかし俺が王に近付いては……」
「気持ちはわかるけどよ、でもお前は王のこと一番よくわかっているじゃねぇか。なのに」
「俺は四年間彼女に会っていなかった!」
クーに大声で反抗したディルムッドに、少しぎょっとして目を見張る。その後、消え入りそうな声で、すみません、と呟いた。
「……あんまり悲観するなよ……お前は悪くねぇんだから。古臭い奴らが血縁がどうのこうの騒いでるだけだ」
「……どうすれば、良いのでしょう」
ん?と思わず聞き返す。
「……王は、どうすれば元気になりますか?」
「だから、会うしかねぇって。王、毎日お前に会いたがってる。お前は、王のためにその身を尽くすって誓ったんだろ?」
クーは、王に会うように頼んだつもりだった。勿論、そう簡単にいかなくなるなど、全く知らないで。
数日後、王への批判がなくなった。理由はわからない。唯一知っているのは、クーとディルムッドだけだった。
ディルムッドがいつも通り屋敷の玄関に上がると、勝手に上がっていたらしいクーが迎えた。また来てるぞと、言葉を沿えながら。ディルムッドは薄く笑い、はい、と小さく言った。
届いていたのは大量の手紙。死ね、殺されろ、自害、自刃しろ、死んじまえ−−−−。
ディルムッドがとったのは、噂の流布によって王の精神を一時的に救うことだった。ディルムッドの悪い噂を流すことで王の失態から市民の目を逸らす−−とはいえ、噂というのはすぐに消えてしまうため、次から次へと根も葉も無い噂を流さねばならなかった。結果、来たのが大量の批判手紙だった。
「大丈夫かディルムッド……」
「俺なら平気です。ただ……いつ家来の方々が反応するか」
はぁ、と溜息を吐き出す。クーは、こんなことは止めてくれと言いたかった。だが、言ったところで聞かないだろうし、今更そんなことを言っても何も変わらないことも分かっていた。
「……ディルムッド」
はい、と振り向いた彼に浮かぶのは、諦めきった笑顔。その笑顔が辛くて、何でもねぇよ、と返した後に、そっと心の中で思う。
お前は、それで良いのか?
精神的な面から体調を崩しかけていたアルトリアは、最近ではすっかり元気になっていた。
「安心したぜ……元気になってくれてよかった」
「すまなかったな、クー。もう平気だ。まだ、やることも沢山あるのに……くたばっていられないな」
ふんわりと笑う顔に偽りはなく、取り合えずクーはほっとした。だが、まだ安心とは言いきれない。王としては、理由はわからないが取り合えず自分を批判する声が消えた−−それくらいだろう。だが、その裏では……。
「……どうしたクー、顔色が悪いぞ」
「……」
いや、何でも、と言うつもりでいた。言おうと思えば言える言葉だったし、サラサラと言える言葉だった。
だが彼は、あえて言うのを止めた。
「……話がある」
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.443 )
- 日時: 2015/01/17 10:18
- 名前: ナル姫 (ID: TQfzOaw7)
バンバンッと勢いよく戸を叩く音にディルムッドは強制的に目を覚ました。ぐしゃぐしゃと既に寝癖のついた髪をさらに掻き回し、誰だ、こんな夜中に……と呟きながら戸を開けた。
「……王!?」
「……ディルムッド」
「な、何をしているのですかこんな夜中に!」
「聞きたいことがある。家に上がらせろ」
「え、ちょっ……」
止める間もなく、夜中勝手に城を抜けだしディルムッドの屋敷に来たアルトリアはずんずんと中へ進んでいった。部屋の戸を次々と開け、何かを探しているようだった。まさか、まさかとディルムッドの鼓動が早くなる。そのうち、捜し物を見つけたのか、一つの部屋に入った。まずい、と感じるが、ディルムッドが彼女を止めることは出来ず−−。
「……この手紙は何だ、ディルムッド」
怒りを込めた瞳で問われ、ズキンと心臓が痛む。
「……そ、れは……」
どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
「……よ、よくわかりませんが……こ、国民から……」
彼の嘘は、お世辞にもうまいとは言えない。
「ごまかしても無駄だ、全部聞いている」
「……誰、から」
「一人しかいないだろう」
裏切られたのだな、と自嘲的になるのと同時に、尊敬する先輩騎士を少しだけ恨んだ。
「……ディルムッド、そんなことしなくて良い。私はもう大丈夫だから。気が付いたんだ、父上と母上を亡くして弱気になっていたが、それではいけないと。私がこの国を担うのに、このままでは駄目だと。もう心配はいらない、良いな?」
「……はい」
蜜の色をした瞳は暗いまま。
「……こんなもの、毎日届いたら気が滅入るだろう? ゆっくり休め、流した噂は何とかして消そう」
噂など、消そうと思って消せるものではないのに、と心の奥底で王を嘲笑ったりして。
結局、噂は中々消えなかった。手紙は毎日届くし、遂に家来の視線も痛くなってきた。だが王にはその事実を隠して隠して隠しつづけて、見つかってはいけないと強い意思を押し通す。
その日、騎士達は互いに鍛練を行っていた。
「……おい、大丈夫かディルムッド……顔色酷いぞ」
「あ……は、はい、大丈夫です……ご心配なく」
へらりと笑うが、その顔には生気がない。だが、休むような人間ではないよな、とクーはディルムッドから視線を反らした。
「……」
やるせない想いに駆られていると、ふと横にいる筈のディルムッドの気配が消え、同時に、何が地面に落ちる音がした。
「っ! ディルムッドッ!!」
「ディルムッドが倒れた!?」
「あぁ、目も覚まさねぇし、顔色も酷い……」
アルトリアは瞬間的に全てを悟った。
−−あの馬鹿。
「……心配しなくて良いって言ったのに……!!」
「……やりすぎたんだよ、アイツは……世間から噂を消せなくなるくらい、流しすぎたんだ」
「どうして止めなかった!?」
「アイツが危ないからって言って止まると思うのか!?」
王を叱責する言葉の意味は、アルトリアが一番よくわかっていた。
「……行くぞクー、ディルムッドの屋敷へ」
「……御意にな」
二人は馬に乗り、できるだけ急いだ。すぐに屋敷には着いたのだが……。
「ッ! ディルムッド!? ディルムッド!!」
「あんの馬鹿ッ……! おい鍵を開けろディルムッド!! 聞こえねぇのか!?」
「……」
ディルムッドは二人が屋敷のドアの前で扉を叩き喚いているのをその扉の前で聞いていた。いつまでも止まない怒声と、煩い音に背を向けて奥へと歩き出した。フラフラと覚束ない足取りで、時々膝から崩れそうになりながら。ベッドの前まで来て気が抜け、そのまま倒れ込む。
−−もう、会ってはならない。
−−王が、本当に前に進むためには、俺が死ななければならない。
−−……この国に、身命を捧げなければ。
−−命を救われた意味がない。
いまだ、戸を叩く音は止まない。
−−あぁ、必死になって。
−−まぁでも、その音さえ、俺が死ぬのには何の関係もない。
渋る体を無理矢理動かし、用意しておいたナイフを掴む。一瞬で痛みを消すためにはどこを刺すのが良いだろうか。やはり首の動脈が死ぬのには一番だろうか。
そんなことを考えていると、突然体が動かなくなった。あぁそんな、このまま寝てしまっては、その内に二人が入ってきてしまう。せめて、この部屋の鍵を閉めておきたいのに。徐々に意識が薄くなる。次に目を覚ますのはどこだろう、またここですぐに目が覚めるのか、医者の隣か、クーの家か、どこだ。自分は眠るのだという推測は、やがて別のものになる。あぁ、そうか、自分が今堕ちて行くのはほんのひと時の眠りではない、永久の眠りなんだ、そうでなければ、こんなに体が冷えたりしない。死んだことがないから確かではないが、きっとそうだ。
次に目が覚めるのはいつだろう。その翌年にはもう俺はいるのか、十年後か、百年後か、千年後か、もっともっと先の未来か−−まぁ、いつだって良い。だが、どうか花の沢山咲き誇る時代で、国で、
−−−−もう一度、貴女と−−−−
「本当は、この手で殺したかったんだ」
自殺を図ろうとしたのか、ナイフを握ったまま硬直した身体に傷はない。
「……ドゥンの子供という名目を今更着せて、この手で貴方を殺したかった……勿論、表向きの話だ」
落ちる涙は、落とした口づけは、物語の中では、死んだ人が蘇るための魔法であった。だが現実で、死は絶対不可避であり、変えることが出来ないものだ。
青い髪の青年に言うわけでも、目の前の死体に言うわけでもないように、彼女は言う。
「私の恋を、受け取らなかった罪で、貴方を−−」
殺したかった。
【 きしは、くにのためにしんでしまいました。
おうさまになったおひめさまは、それをくやみました。
しかし、そのご、くにはへいわになりました。
おうさまは、ずっと、きしのことがだいすきでした】
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.444 )
- 日時: 2015/01/26 22:43
- 名前: ナル姫 (ID: aU3st90g)
その日青年は、今まで一度も喧嘩したことの無かった祖父と、初めて声を荒げて喧嘩した。
『ふざけるなッ!! ディルムッドは誓約を強制されただけだ!! なのに処罰なんて狂ってる!!』
『よく聞けオスカー! 騎士は女子供に優しくするものだ、だがその前に主に忠誠を誓うものだ!』
『そんなこと言って、本当は姫様が逃げたのが悔しいだけだろ!? いいよ、俺が自分で二人を連れ戻して来る! 絶対殺させたり何かしねぇからな!』
−−そう言って、彼は砦から感情任せに飛び出してきた。走って走って、走りつづけて、最後にディルムッドと姫を見たと言う場所まで馬を走らせた。
そして、数日後の夜にたどり着いた場所に。
「ッ−−、……」
声が出なかった。
広がる限りの死体、死体、死体−−その先に小さく見える、親友の、返り血を浴びた後ろ姿。自分が来たことには恐らく気付いていないであろうその背中に、大声を上げる。
「っ、ディルムッドーーーーッ!!」
はっと、頭が動き、視線が彼に向いた。
「……オスカー……」
オスカーは馬から降り、死体を踏み越えてディルムッドへ近付いていく。たまにあるぐにゃりという感覚をしっかり踏み締めながら、死した身体の硬さを確かめながら。
「……やめろ、くるな、きちゃだめだ、くるな、こないで、こないでぇ……っ」
膝からその場に崩れ落ちる。だがオスカーは怯まずに、まっすぐディルムッドへ向かっていった。そして、その目の前にきて。
「……ディルムッド」
顔をあげない彼の髪を掴み、無理矢理自分の方へ向けた。
一瞬、ほんの一瞬だが、思わず顔をしかめた。窶れて顔色の悪い頬に、いつも以上にまとまりのない髪、目は恐怖の色を帯びており、やや赤く潤んでいた。
だが引かず、口に出す。
「……姫様はどこだ」
「…………」
「グラニア様はどこにいるんだよ?」
「……ない」
「ディルムッド!」
「言えない」
小さく、だがはっきりと声に出す。
「……ふざけんのか、お前」
「ふざけてない」
「……なら、どうするべきか分かるだろ。立て、姫様の居場所を教えろ、それで、一緒に帰るんだ」
「できない」
もう戻れない、彼は言った。そして、ようやく立ち上がる。
「……待たせてるから……行かなきゃ」
そう言ってディルムッドが背を向けた瞬間、オスカーの中の何かが崩れた。すらりと、ディルムッドの背後で刃物が光る。
「ッ!」
その背に、わずかに傷みが走る。反応に遅れなかったおかげで、幸い傷は浅かった。キッと友人を睨みつける蜜色の瞳が差刺さる。オスカーは、剣を構えた。
「どうしても行くっていうなら、俺と戦って、殺してからにしろ」
「……」
ディルムッドは無言だったが、そのうち、長い槍を器用に回し、構えた。
暗雲が立ち込め、雨が降りはじめる。二人はじっと互いをみつめあい、静かに呼吸を整え−−同時に駆け出した。
キンッガンッガキ、ギシ、と金属音が響く。
「っ!」
「くっ!」
強さは互角。止まない攻撃に、息をつく間もない。
紅の槍と長い剣が互いの身体に傷を付けていた。幼い頃良く行った組み手とは違う、正真正銘の殺し合をやることになるなど、あの頃は全く思わなかったけれど。
−−一体、どのくらいの時間戦っていたのだろう。気がつけば、空からは雲が姿を消し、夜はそろそろ終わりを告げていた。明るくて星が見えづらい。
激闘を制したのは、ディルムッドの方だった。目の前で倒れたオスカーにとどめを刺す力はもう残っておらず、いつのまにか上がっていた雨が作った水溜まりに膝を落とした。
「はぁ……はっ……」
槍を地面に突き刺し、何とかもう一度立ち上がる。その時、後ろから、彼を呼ぶ声がした。
「……ディルムッド」
「……グラニア」
彼がオスカーに、もう戻れないと言ったのには理由があった。
彼は昨日、グラニアに手を出した。もっとも、グラニアがそうなるように彼を挑発したのだが、それでも行ったことに違いはない。
彼はもう、吹っ切れていた。姫様と呼ぶのはやめた。敬語を使うのもやめた。自分達は恋人であると−−そう、思いたいと、いつからか思うようになっていた。
彼女のことが好きだった。
「……行きましょう、ディルムッド」
「……だが、」
「殺したくはないでしょう?」
「……」
頷き、差し出された手を取り、二人は先を急いだ。
直後、うっすらと目を開けたオスカーは、自分が生きていることに憤慨した。
「……ッ、殺せって、言っただろ……」
はらはらと、涙が零れ出す。
その空は、憎らしいほどに青かった。
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.445 )
- 日時: 2015/01/29 00:00
- 名前: ナル姫 (ID: Ma3wYmlW)
「……………………」
『−−問おう、』
『貴殿が、我がマスターか』
『おう、お前のマスター、尼子晴久だ……よろしくな』
『主よ、真名でサーヴァントを呼ぶのはお止めください。弱点に繋がります』
『良いじゃねぇか。俺はな、オディナ。ランサーとしては勿論、人としてのお前も評価したいと思ってんだよ』
『……死神、ねぇ……悪いけど、俺の見解から言わせてもらえば、お前は死神なんかじゃねぇよ。たとえ血の繋がりがあっても、お前は立派な騎士だ』
『いき、ろ』
「っ…………、主……」
あぁ、駄目だ。痛い。どうしようもなく、痛い。
裏切り者と罵られ、策略によって命を絶たれた、『ディルムッド・オディナ』という存在を無条件で、暖かく認めてくれた人。絶対的忠義を果たそうと思えた人を、おれは、おれが−−おれの、せいで。
駄目だな、と頭を振る。晴久にも散々、自虐癖を直せと指摘されたのに全く直っちゃいない。溜息を吐き出すのと同時に、あの、と遠慮がちな声が聞こえた。起きねばならないが、生憎そんな気になれずに狸寝入りをした。キィ、と小さく音を立てて扉が開いた。
「……あれ……寝ちゃった、の?」
「………………」
「……起きたらで良いんだけど……ご飯作ったから、良かったら食べて」
寝ている相手に、金吾はおどおどと話しかける。彼が、狸寝入りしているのをわかっているように、だがそれをやめさせる訳でもなく、単に言葉を届けたいと言うように。
「……僕も、頑張ってみるから」
最後にそれだけ、呟いて。
がちゃ、とドアが閉まり、金吾の気配が遠ざかったのを感じると、ランサーは目を開けた。上半身を起こし、机の上に置かれた料理に目を向ける。
「……」
『簡素なものですが食事ができております、食欲がありましたら是非』
『あ、おう、食う。つか作れんのか、すげぇな』
『別段凄くは……先程てれびで『三分クッキング』なるものがやっておりまして、材料があったのであとは見よう見まねで作っただけです』
ややふらつく足取りで机に向かう。温かくて、おいしそうな料理。だが食欲は無かった。魔力があれば十分であると言うこともあるが、食べる気になれなかった。
思えば、金吾と天海に出会ってから何も口にしていない。食欲はないし、それどころか、時折食物を見るだけで吐き気がするときさえある。主には悪いが、今は食べる気が湧かない。やることもない。
……セイバーと同盟を組んでいたときは、何をしていただろうか。あぁ、そうだ、食事を作ったり、死神やトリックマスターへの対抗策や戦法などを考えていたんだ。トリックマスターが付けられたマークを消したり、そのために十分に魔力を貯めたり。
交戦権がなくなり、家から出ないマスターを持った今では、それももう無意味窮まりないのだけど。
深く溜息を吐き出し、薄暗い空を眺めた。
同盟を組むことで彼は同意しましたよ、と天海から聞いたのはその日の夜だった。正直彼は、またセイバーと同盟を組めることを期待していたのだ。
「誰と同盟を……?」
「そのうちわかりますよ」
クツクツと笑う天海に二人はついて行った。
「……ディルムッド君は、誰かこの人が良いってあるの?」
「……セイバーは……とても頼りになりました……なので」
そのまで言って、ふとセイバーのマスターである切嗣の言葉を思い出す。俺がセイバーと同盟を組んだところで、また自分では彼女の足を引っ張るだけなのではないか、と。
「ふふっ、残念ながらセイバーではありませんねぇ」
「……」
他に、ましなものなどいない。やがて、三人はとある家に辿り着いた。晴久の母親の拠点ではないことは確認でき、取り合えず 胸を撫で下ろした。だが中に入って、息を飲んだ。
「−−ッ!!」
「ふふふっ、お待ちしてましたよ」
ばくん、ばくん、と心臓が鳴る。
「生きていらっしゃったのですね、ランサー」
「……トリック、マスター……」
思わず後退り、ドアにドンッとぶつかる。
「なっ……なりませぬ天海殿ッ! 金吾殿ッ!!」
「どうしました? ふふふ、あぁそういえば、貴方は赤の女王に目を付けられていましたねぇ」
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.446 )
- 日時: 2015/01/29 00:10
- 名前: ナル姫 (ID: Ma3wYmlW)
「でも好都合ではありませんか。セイバーにご迷惑かけなくて良いでしょう? それに今、私と女王は喧嘩中なのですよ」
「だ、が……っ、か、帰りましょう金吾殿! トリックマスターは……」
「ヒッ!? で、でも、天海様が……」
「なっ……」
ひくり、と心臓が動いた。
−−呼吸ができない。
ダメだ、ダメだ、天海はこの際どうでもいい、だが金吾と自分だけは……と、ディルムッドはドアノブへ手を伸ばしたが、その瞬間に気付いた。ディルムッドの顔がはっとしたのを見て、ニィとトリックマスターが粘つくような悪意を込めた笑みを零す。そして、ゆっくりと口を開いた。
「すみませんねぇ、ここのドアは、内側に開くのですよ」
ガタガタと手足が震える。やがて立つことさえできなくなってその場に膝から崩れ落ちた。左手を床につき、右手でぐしゃりと髪を握り潰すように掻いた。
−−こんなことなら、自刃でもした方がましだった!
そんなこと思ったところで、彼は結局自刃などしないだろう。
晴久の最後の言葉を覚えているから。
生きろという、切実な願いを聞いたから。
「でぃ、ディルムッド君……」
金吾の心配そうな声は、辛うじて音として認識は出来たが、何て言っているのかは分からなかった。
「ふふふ、そう悲観なさらないでくださないな。死神を倒したいのでしょう? もっとも、貴方には自分からの交戦権がありませんので、何かしないと倒せませんけれど」
左手で拳を握る。そういえば、と彼女に声をかけられる。
「ランサー、トラペゾドロンはいかがなさいました?」
「……あ」
そういえば。晴久に逃げろと命令されてはセイバーの拠点にも寄れずひたすら逃げたため、あれはまだセイバーの拠点にあるはずだ。
「……その反応を見る限り、セイバーの拠点でしょうか。うふふふっ、まぁ構いませんがね。どうせ女王のものですし」
ウィッカーマンが答えると、後ろからサターがやってきた。
「光栄だなぁ、あの名高いフィオナ騎士と同盟だなんて。まぁもっとも、本人は全く賛同したがっていないようだけど」
彼の神経を逆撫でるように、サターは言葉を紡ぐ。睨みつけるランサーに、クツクツと笑った。
「そんな顔しないで欲しいな。良いじゃないか、僕等があの死神を倒すから、君は裏でサポートしてくれれば」
「……印を外せ、と……それだけだろう」
「あはっ、ご名答」
「……天海殿から、金吾殿も天海殿も、魔術を止めたと聞いた……魔力の量を考えて、うまくいくとは限らない」
「し、印って、何のこと……?」
「おや? ランサーのマスターは、何もご存じないのですか?」
ランサーは金吾に、何も教えていなかった。晴久が負けたことと、自分が逃げてきたこと以外、何も。それに感づいたウィッカーマンは、反応を楽しむようにつらつらと、ディルムッドの心の傷を突くように言葉を連ねた。
「貴方の知り合いである尼子様を殺したのは、貴方のランサーのお父様ですよ?」
「えっ?」
「つまりそのサーヴァントは今回の戦争で自分の父親と本気の殺し合をしている」
「印とはその左手にあるものです」
「見せたらどうだい、ランサー?」
「うふふ、綺麗な模様でしょう?」
「それがあれば勝ったも同然でね」
「しかしランサーは、一定の値以下の強さのものを外せるのですよ」
「もっともそれは、膨大な量の魔力を伴って初めてできるのだがね」
「私たちはその力を買いました」
「だから彼は今生きているんだ」
「彼の父は酷いものですよ」
「実子を嬲り楽しむからな」
「彼の人生は父に翻弄されて、最期には命を落としました」
「まだ小さな子供達と、駆け落ちした愛する妻を残し−−」
「うっ、煩いッ!! 煩い、煩い、煩いッ!!」
突然大声をあげたディルムッドを、悦に浸るように二人は見つめた。金吾はオロオロとして、だが取り合えず、ディルムッドが父と争っていることだけは把握して、その肩に手を置いた。
「だ、ダメだよディルムッド君、お父さんと喧嘩なんて良くないよ!」
「……金吾殿は、わかっていない……!!」
ぎり、と歯ぎしりをした。
「アイツは……俺のことを子だ等と思ってはいないし、俺だってあんな奴が親だなんて思いたくない! アイツは弟を殺し、俺と母に暴力を振るった!」
「で、でも……そんなの良くないよ、仲直りしようよ」
「アイツが仲直りなんかできるような奴だったら、主は今頃っ、いま、ごろ……」
『けどなァ、俺は考えるっつっただけだぜ?』
また、パラパラと流れる。人の前では決して口にしなかった言葉を思わず零した瞬間、あの時ああしていれば、こうしていれば、という、もうどうにもできない悔しさと悲しさと虚無感が込み上げて、言葉にもならない感情が涙として溢れ出す。
「ふふふ、嫌なことを思い出させてしまったようで……まぁ、こんな狭い玄関で話すというのもなんですので、どうぞ御上がり下さいな」
くつり、と笑った目が脳裏に張り付いて剥がれない。
外はちょうど、雨が降り出したところだった。
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