二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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短編小説 *BSR Fate*
日時: 2014/04/21 17:22
名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)

こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)

前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります

ごゆっくりどうぞ


※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。

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Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.362 )
日時: 2014/09/28 18:37
名前: ナル姫 (ID: ASdidvAt)

「えぇ、お久しぶりですね……え? あははっ、そんな! それは違いますよ。えぇ、うちのはそんな大したもんじゃないですからね……あぁはい、良いと思いますよ。うん、いえいえ大丈夫です。お使いに行ってますから。はい、はい…………うん、そうですね、それも愉しそうだ……と、そろそろ帰ってきそうなので切りますね。えぇ、では、今夜会いましょう」
 通話を切り、机に置いたところでドアが開いた。
「ただいま戻りました主」
 臨也が用意した黒い服を着たランサーの顔は、普段と比べれば比較的晴れやかだ。昨夜、彼と同じ騎士道精神を持つサーヴァント……セイバーに出会った。アルトリア・ペンドラゴン、ブリテン国の王、騎士王と伝えられる少女である。結局昨夜決着が着くことはなかったが、二人はまた今度、正々堂々と決着をつけることを約束した。
 臨也は戦いの始まる前言った通り、戦いに干渉はしてこなかった。それがランサーには唯一良いことだっただろう。戦闘にまで介入する口煩いマスターであったら、本当にこのマスターを殺しかねない。
「ねぇランサー。キャスターとそのマスターがわかった。今夜仕掛けよう」
「はっ、キャスター陣営はどこに?」
「一般民家……だけども、歩き回っている可能性もある。町をうろついて探すとしようよ」
 畏まりました、と頭を下げた英霊を見下ろした後、臨也は生首を手に持って外を眺めた。
「綺麗だろう? この街は今日も明日も明後日も、英霊とそのマスターに壊されて、隠匿によって事故として処理されるんだ」
「……」
「あぁ君達英霊を責めているわけではないし、独り言だと思って流してもらって構わないよ? 隠蔽工作も楽ではないだろうに本当大変だよねぇ。あぁでも、見てみたいなぁ……ここの人達はある日突然日常が崩れて、街が壊れて、帰る場所を失って、食べ物を手に入れることが出来なくなったとき……どうするのだろう」
 臨也の独り言には慣れているのか、ランサーは受け流して良いと言われたため、主に見向きもせずに淡々と買ってきた商品を袋から取り出していた。ガサガサ、という音に反応して、臨也は独り言を中断した。そういえば、とランサーへ歩み寄った。
「買ってきた?」
「はい」
 彼が取り出したのは家電のカタログだった。
「おーありがとう! ネットで見るもの良いけどやっぱりこういうので選ぶのも良いよね? ねぇ?」
「サーヴァントには分かりかねます……して、何故こんなものを?」
「んー、今俺達池袋にいるじゃない? でもここってぶっちゃけ池袋でも端っこなのよ。もうちょい真ん中に行きたくてさぁ。あと、家具ならそのまま移動すれば良いじゃんとかそういう言葉は言わせないから悪しからず」
「……」
 言葉を失う。得に会話を続けたいとも思わないので別に構わない、寧ろ好都合なのだが。袋から牛乳を取り出し冷蔵庫に入れる。しかし驚いた。ランサーの常識からすれば牛乳は牛から搾り取るものだ。それがこの時代、この国では手軽に手に入る。
「……主」
「ん?」
「その……先程のミルク、少し頂いてよろしいでしょうか? それと、コップを一つお貸し願います」
「良いけど……飲むの?」
「いえ……」
 ランサーは牛乳のパックを開け、コップに注いだ。それを窓際に置く。
「? 何それ?」
「私が幼少期、妖精王の元で育てられた事は主もご存知の通りです。様々な妖精に助けられましたが……得に世話になった妖精に、エルフという妖精がいます。エルフはその家に良いことをもたらす妖精で、良いことがあればエルフのお陰とされるのです。良いことがあれば、感謝のしるしとして、窓際にミルクを置きます……これは、『良いこと』の前払いです」
 子供じみているな、とは自分でも思うが、こうして気休めでもしないといけないとランサーは思っていた。
「……」

『如何にも。そういうお前はランサーと見て相違ないな?』

 心が奮えるような、清らかで、それでいて強い闘気。一太刀受けるごとにその剣は重く、心が躍った。しかし、罪悪感もあった。
 −−楽しんでしまった。
 −−楽しむ、等と……。
 −−そんな、そんな余裕は俺には存在しない筈だ!
 臨也はパソコンに向かっており、こちらに関心はないようだった。少し睨むような視線で後ろ姿を眺める。
 −−この主との信頼関係は築けないだろう。あっちも俺を信じていないし、俺も主を信頼できない。
 −−だが首の所有権を持つのはあちらだ。俺が戦いに興じて決戦を引き延ばせば、奴は首を破壊するだろう。
 −−もっとも、聖杯が手に入らなければ首がなければあの主には『天国へ行く』ための手立てがない……簡単に破壊しないとは思うが−−。
 頭を振った。今はそんなことを考えている暇はない。成すべき事は一つ、そう、聖杯を取って来れば良いのだ。それで済む。
 今のところ強敵はセイバーだ。勿論、騎士クラスのアーチャーも強いのだろうが、今のところ会っていない。あと会ったサーヴァントはライダーだが、あのライダーとは戦闘したわけではないから力は知らない。他はアサシンとバーサーカーとキャスターで、今夜そのキャスターに会う。勿論、前世でどのような英霊であるかにも依るが、キャスターは最弱のサーヴァントとされる限り、厄介な技を使わない限りは勝てるであろう。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.363 )
日時: 2014/09/28 18:43
名前: ナル姫 (ID: ASdidvAt)

 ……セイバーのマスターであるあの少年……あの少年はマスターとしての素質は分からない、だが……未熟な魔術師である事は間違いなさそうだ。セイバーも途中で大分消耗しているように見えたし、魔力の供給が不十分だとも思える。
 当然、ランサーとしてはかの騎士王とは万全な状態で雌雄を決したい。だが、もしもセイバーへの魔力供給が慢性的に不十分で、そこにマスターが付け込めばそれが叶うことはまずないと見ていい。
「……主」
「うん?」
「……セイバーのマスターの情報はございますか?」
「聞いてどうするの?」
「……どうする、ということも……ございませんが……」
「ならどうだって良いじゃない」
 臨也は立ちながら言う。
「っ……しかし主……」
 ピッと鋭い痛みが走った。赤い液体が流れる。臨也は少し赤っぽい黒の瞳と先端が血に濡れたナイフをランサーに向け、ニッコリと微笑んだ。
「ランサー、君が今夜対戦する相手は誰だ?」
「……キャスター、です……」
「そう。君は今、キャスターとの対戦にだけ目を向けていれば良いんだ。それ以外のことは考えるな、命令だ」
 言い切ると、切れた頬を治した。
 赤黒い瞳は、ランサーにとって辛い色だった。それでも、騎士として主の目を見ないことが許される筈もない。
「……申し訳……ございません」
 窓際のミルクが揺れることは、無かった。




 そして夜、二人は街へ出た。深夜零時を回った池袋の街にある店は段々と明かりを消し始め、住民も家へ帰っていく中、臨也とランサーだけが街の中心部へ向かう。
 臨也は一つの鞄を持っていた。中身は勿論首だ。負けそうな時の脅しに使うことはまず間違いない。
 人影は見当たらない。今宵は引き返した方が良いのではないか、とランサーが思いはじめた丁度その時、気配を察した。
「……主」
「いたかい?」
 振り向きざまに問う臨也に頷けば、黒は口角をあげた。
「……誘い出しています。キャスターの可能性は低いかと」
「行ってみなけりゃ分からないよ……行こうか」
「……はい」

 小さな廃工場。噂では、『カラーギャング』なる組織の一つである、『黄巾族』とか言う黄色い布を身につけた人々が集まる所であると、ランサーは臨也から聞いていた。
 −−いた、青い装束に身を包んだサーヴァントが。だが、クラスが分からない。何故なら、その手に持っていたものは−−朱の槍なのだ。
「……お前は」
「よぉ、アンタはランサーか? 俺はキャスターだ。よろしくな」
 おかしい。キャスターならば普通は自分にとって有利な戦いができるフィールドを構築し敵を待つものではないか。それが、このキャスターはわざわざ敵を誘い出した。しかもフィールドの用意も無しに。臨也も、キャスターのステータスを見て、妙にハイスペックだと思った。
「そんな顔するなよ、大方本当にキャスターかどうか疑ってるんだろ? 良いじゃねぇか、こんなキャスターがいても」
「……無論」
 ブン、と長い槍を振る。
「さぁ、交戦と行こうか」

 キン、カンッ、ギシッ!
 耳に痛い金属音を夜空に響かせ、二人の英霊は刃を交えた。バチッと弾き合い、一度下がった。キャスターは紅薔薇に少し切られた頬の血を拭い、空中に何かの文字を刻んだ。傷が消える。その時、ランサーが口角をあげた。相手の正体が解ったのだろう。
「……まさかとは思っておりましたが……よもや、このような場所でお手合わせの栄に授かるとは……恐縮でございます」
「ハッ、流石にルーン魔法なんざ使えばばれちまうか? どうだったよ、俺の建てたブルー・ナ・ボーニャの居心地は」
「贅沢なものでした。自分には勿体ないくらいに」
「ははっ、ダグザ様に献上したんだがなぁ……本当は。でもオェングスが奪っちまって」
「う……そ、それは本当に申し訳が……」
「いやいや、お前が気にすることじゃねぇよ。ダグザ様にとってもオェングスは大切だったみたいだしな。お前も、オェングスやマナナンに大切にしてもらったろ? ……フィオナの若武者、輝く貌のディルムッド」
「……はい……ルー神の御子、クー・フーリン様」

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.364 )
日時: 2014/09/28 18:48
名前: ナル姫 (ID: ASdidvAt)

 ケルト神話出身のランサーとしては、ケルトの太陽神ルーとコノア王の妹であるこの英霊に出会えた感激は一通りの筈がなかった。ディルムッド・オディナがフィオナの騎士として活躍する300年も前の大英雄、ケルト人の中で語り継がれた伝説。ディルムッド自身も養父から何回も聞いていた、英雄伝というよりはお伽話のヒーローのような感覚で捉えていた憧れ。そんな存在と手合わせできたのだ。この相手ならたとえ負けても栄誉ある敗北であり、悔いはない。だが同時に焦燥に駆られた。槍裁きはランサーである自分よりも相手の方が一枚も二枚も上手である。
 −−俺が勝てるのか? ……否。
 −−勝たなければいけない!
 細く長い槍を器用に回し、構え直す。
「申し訳ございません……しかし、魔術師に召喚され、英霊としてこの身命を捧げ、聖杯へ願いを托す身! 光の御子殿、恐れ多くもその御身、獲りに行かせて頂きます!」
「はっ! 俺は聖杯なんかに祈りはなくてね、死力を尽くした戦い望んでんだ。相手が俺だと解って怖じけづいたり遠慮したりする奴ならこっちから願い下げしてるね! 良い度胸だディルムッド! 赤枝の騎士クー・フーリンが受けるぜ!」
 再び苛烈に混じり合う刃。火花を散らし、高い音を鳴り響かせ、突き出しては弾く。まさに、槍を得意とした英雄同士の本気であった。
「やるじゃねぇか! じゃぁ、そろそろ開帳だな」
 キャスターは数歩下がった。槍を構える。
「『刺し穿つ死棘のゲイ・ボルグ』ッ!!」
 あえて、放ったのだろう。遠い後輩の腕を試すために。幸運が高くなければ避けることの敵わない槍。だが、あえて避けよう等と考えなくても良い。
 心臓を貫くという結果に対し、槍を投げると言う原因の因果関係。その話は、そう、幼い頃から聞いてきたのだ。
 彼の赤い薔薇は、『宝具殺しの宝具』。そして、投げられた不可避の槍−−ならば。
 −−その因果を、『打ち消す』のみ!!
「『破魔の紅薔薇ゲイ・ジャルグ』ッ!!」
 長槍を突き出す。二本の赤い槍は刃の先端でぶつかり、軅て投げられた槍が弾かれた。
「さっすが、マナナンから貰っただけあるな」
「そちらこそ、スカハサ様が数多くいた弟子の中で、御子殿にだけ与えられた槍……正直、冷や汗を掻きました」
 ディルムッドは落ちた相手の槍を拾い、やんわりとパスをするように投げた。勿論、騎士として当然の行動だとランサーは思っている。だが勝利を重視する臨也がその行為を気に入るはずもなく、鋭く目を細めるが、ランサーは気付かない。
 暫く激しい打ち合いが続くのを臨也は見守っていた。一度離れた時自分のサーヴァントを見ると、相手よりも傷が多く見える。
 自分だってそれなりにディルムッドを高いステータスで召喚したつもりだ。それなのに、いくらクー・フーリンが大英雄と語り継がれるほどに強い英霊でも、キャスターとして召喚されたサーヴァントに負けて良い訳がない。
 とは言え、ディルムッドをキャスターとして召喚できなかったのは吉と出たかも知れない。もしディルムッドとクー・フーリンのクラスが逆に召喚されれば、ディルムッドはクー・フーリンには勝てないだろう。勿論、死神の子の力が規格外だと言うなら、負ける心配をする必要はないかもしれないが。
 何にせよ、自分のサーヴァントは相手のサーヴァントに苦戦している。白兵戦が得意なランサーが、キャスターに押されている。いくら槍の扱いが得意なキャスターとは言え、屈辱的なことではある。
 −−持ってきて正解だったな。
 ランサーを治癒する。もう一度走りだそうとするのを声で制した。
「ランサー」
 ランサーが主を見るより先に、キャスターが目を見開いた。信じられないものを見ているような顔。ランサーは、予想できていた自体に顔をしかめた。
「ッ……!」
「ふざけているのかい? キャスター相手に騎士クラスが負けるなんて許さないよ?」
 生首に近付けられたナイフの刃に、月光が反射する。勿論ランサーだってふざけいる訳がない。ただ、どうしても後一歩、光の御子に槍裁きが届かないのだ。
「ふ、ふざけている訳では!」
「口答えはするな」
「やめッ……!」
 これはただの脅しだ、とはわかっていても、臨也がじりじりと刃を近付けるのが恐ろしくて仕方ない。
 −−何だ? あの生首は……?
 −−神?怪物?半神?人に至ってはありえねぇし、神とも違うような……となると…………妖精?
 首の正体が何であれ、あれが遠い後輩の弱みであることには変わりがない。何の縁がどう巡ったのかは知らないが、奇妙なことになっているのだろうとキャスターは予想した。弱みを握っているマスターが、それを武器にサーヴァントを脅しているなど、彼が許せることではない。だが、ディルムッドの前でそのいけ好かない人間を殺す訳にもいかなかった。
「……こっち向けよ、ディルムッド。どうやら、厄介なものに絡み取られたらしいな、お前は……」
「……」
 無言の肯定。キャスターは苦笑した。
「とっとと決着つけようぜ。残酷なこと言うと、気の毒だって言って慈悲で負けるつもりはねぇけど」
「……慈悲で負けられては……困ります」
 笑っていたが、余裕がないのはキャスターにもわかっていた。
 −−痛々しいな。
 金属音は響きつづける。

 魔術師と槍兵の勝敗は、まだ誰にも分からない。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.365 )
日時: 2014/09/29 23:30
名前: ナル姫 (ID: Ql2tRr6x)

「……それで、切嗣。これは一体誰の聖遺物なの?」
「さぁ、それが僕にも詳しく伝えられていないんだ。有名な英雄ではないからね……」
 切嗣とアイリスフィールはとある采配を見つめながら話していた。
「……昔存在した戦国武将の末裔らしいよ。心当たりがないこともないんだけれど」
「? 予想がついているの?」
 一応は、と切嗣は言う。アイリスフィールに背を向け、魔方陣を書きながら言った。
「それはね、アイリ。日本の米沢という場所から贈られてきたんだ。そこは400年前、伊達という一族が治めていて、その家来に木野という一族がいた。頭脳が優秀な一族だったらしいよ」
「……じゃぁ、有名な一族なのではないの?」
「それが、数多くある伊達家の記録の中で、その存在を確認できるのは『成実記』という日記の中だけなんだ。他の資料で、木野家に関して書かれていると思われる部分は黒く塗り潰されているんだ」
「……では、キノという家が架空であった可能性もあるのね」
「いや、それはないね。近年、米沢にある森林が伐採されたんだけど、そこの土地から無数の墓が発見されたんだ。いくつかの墓には木野と刻まれていたらしいから、存在はしたのだろう。でも何かしらあって、存在をなかったことにされたんだろうね。でもまぁ、あそこまで記録の少ない一族の末裔だ。得体の知れない奴が出てきてもおかしくないね」
「……戦国武将、ということは、騎士にも近いものかしら」
「さぁ、僕はその辺の事情はさっぱりだ。騎士道精神の武将もいたろうし、そうではない人もいただろうしね。何にせよ、武将となれば騎士クラスで召喚されるのが妥当だとは思うけれど……さて、準備は整った」
 切嗣は曲げていた腰を伸ばし、魔方陣を見た。一度頷き、アイリスフィールに祭壇に采配を置くよう指示をした。アイリスフィールが言う通りにし、切嗣はそれを見届けると呪文を唱えはじめた。
「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する。素に銀と鉄、礎に石と契約の大公。素には大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ王冠より出で、王国に至る三叉路を循環せよ」
 一度息をつき、再び空気を吸う。
「−−−−告げる。汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に−−我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ−−!」
 ゴウッと強く風がうねる。風が収まり、目を開けるようになると、まず目に入ったのは赤の陣羽織だった。続いて赤い髪、白い肌、黒の甲冑−−。
 サーヴァントが目を開けば、その瞳も赤かった。

「−−問おう」

 手に持ったものは、弓に違いないのにも関わらず−−。

「汝が、私のマスターか」

 それは、魔術師であったのだ。
「……君は……」
「?」
 切嗣が思わず口に出すと、赤のサーヴァントは首を傾げた。
「君は、何者なんだ……?」
「やれやれ……喚び出すサーヴァントの真名も知らずに召喚したのですか? 呆れたものです……とは言え、我が一族に関する記録は殆ど消されてしまった様ですし……まぁ、良いでしょう。我が名は木野定行……伊達政宗の家臣ですよ」
 木野定行−−成実記の作者、伊達成実と伊達家十七代当主伊達政宗の親友と言われる男だ。成実記の中では、木野家最後の天才であり、優しい人間であったが、時に残酷な一面も見せる−−そんな人物だったと語られている。
「さて、貴方とそちらの女人のお名前は?」
「あ、あぁ……僕は衛宮切嗣、君のマスター。そして、妻のアイリスフィール・フォン・アインツベルンだ」
「なるほど……契約は完了ですマスター。この戦争に参加すると言うことはそれなりに実力のある魔術師であることは疑い様もございませんので、私はそれに応じた御名前に恥じぬ戦いを致しましょう」
 忠義に厚そうなところは、騎士に通じるところがあるかもしれない。だが彼は騎士道精神を持つ人間ではなかった。
 正直、これは直感だ。だがわかった。この男は残酷だ。
「さて、マスター。私の性分として戦い方は先に決めておきたいのですが、如何なさいましょう?」

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.366 )
日時: 2014/09/29 23:36
名前: ナル姫 (ID: Ql2tRr6x)

「戦い方?」
「マスターが、私に騎士のような正々堂々とした戦いを望むのなら従います。しかし中にはそのような戦いを望まないマスターもいるでしょう? 例えば、マスターが私に他のサーヴァントを後ろから射ろと言うのなら射ましょう。マスターを殺せというなら殺しましょう。場合によっては私がサーヴァントの相手をしているうちにマスターが他のマスターを殺すのもありでしょうね。マスターは、どのような戦いを御望みですか?」
 切嗣は戸惑った。自分は、マスターを失ったサーヴァントとサーヴァントを失ったマスターが再契約することを危惧し、サーヴァントを倒す際にはマスターも殺そうと思っていた。だがそれをサーヴァントに先に指摘されるとは思っていなかった。
「……そうだな、一番最後の案が……やりやすいかもしれない」
「ま、待って切嗣! 貴方はサーヴァントのマスターまで殺すつもりなの!? それにキャスター! 貴方はこの戦争に一般人の流血の代わりとして喚ばれた英霊の筈よ? それなのに……」
 キャスターは数回瞬きしたあと、あぁ、と言って納得したような顔をした。
「そうでしたそうでした、私についての記録がないのですから、木野家についても知りませんよね」
 脈絡がない、と最初アイリスフィールは思ったが、当然ながらそんなことはなかった。
「我が木野一族は裏切りに裏切りを重ね続け意地汚く生き残ってきた一族です……最も、重ねた罪は余りにも重く、最期は裏切りによって断罪されました。私も死ぬ予定でしたが……生き残ってしまいましてね……木野は、やるのならば徹底的に敵を潰す一族です。勝つためなら手段は選ばない、とは言い過ぎですが、敵にとって希望となる種子を残さない。私はそうして乱世を戦って来ました」
 キャスターは弓矢を構えた。勿論放つつもりはないのだが、いつ放ってもおかしくないような目付きで二人を見る。矢の先端には、炎が灯っていた。
「木野の赤は、血と炎の赤……敵は、それが何者であろうとも跡形もなく燃やし尽くす。無駄な慈悲がある生温いマスターなどお断り致します」
 スッ、と弓矢を下ろした。矢の先端の炎が消える。
「それと、奥方様。騎士と武士は違います。武士の中に騎士のような幻想を抱くのはお止めください。少なくとも、私の中に騎士道精神などございません」
 言い切った赤に切嗣は思った。このサーヴァントは、自分の思想に最も適したサーヴァントであり、自分の理想に最も反するサーヴァントである。この男は平和など望まない。だが、平和を願う自分には確実に誠実である。
「……アイリ」
「?」
「僕とキャスターは行動を別とする。君が代理マスターとしてキャスターに付いていてくれ」
「そんな!」
「君には不安なことだろう。それはわかるよ……だが、頼む。世界の恒久的平和の為に」
 アイリスフィールは少し俯いた後、頷いた。
「……では、よろしくお願い致します、奥方様」
「え、えぇ……こちらこそ、キャスター」



 数日後−−。
 ヒュン、と空を裂いて矢が木掛けられた的の中心に刺さった。後ろでそれを見ていたアイリスフィールは、驚いたように口を開けた。
「戦国武将って、皆矢は百発百中なのかしら?」
「そんなことは……私だって、生前は滅多に矢など用いりませんでしたし」
 苦笑してキャスターが答える。当初、とんでもないサーヴァントが召喚されてしまったとアイリスフィールは思ったが、話してみると意外といい人であるし、残忍なのは戦闘時に関するときだけのようだ。娘であるイリヤスフィールにも良くしてくれている。
「……ねぇキャスター」
「は」
「切嗣の夢を叶えてね」
「勿論。世界の恒久的平和など、それこそ聖杯に願う他叶えることは出来ぬ祈りでしょう。それに、願いがどうであれ私は私を召喚したマスターに従うのみです」
「……そう」
「マスターは如何なさっていますか?」
「イリヤに会いにいっているわ。もうすぐニホンに発つのですもの」
「御息女に……奥方様は、宜しいのですか? 御息女とのお別れをせずとも」
「えぇ、あの子もそのうち分かるわ。だから良いのよ。あの子も私と同じアインツベルンの女ですからね」
「……細かい事情は分かりかねますが、深く詮索は致しません」
「ふふ、紳士ねキャスター。それにしても貴方、その格好で良いの? 召喚された時は武装していたのに」
「動きづらいのですよ、武装は。それともその格好の方が良かったですか?」
「あ、いいえ、そんなことはないの。ただあれも素敵だったのにと思って」
「……素敵などと、勿体ない」
 苦笑した赤のサーヴァントに、アイリスフィールは期待していた。
 黒のマスターと赤のサーヴァントの願いは叶うのか。

 その結末や、果たして。


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