二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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短編小説 *BSR Fate*
日時: 2014/04/21 17:22
名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)

こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)

前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります

ごゆっくりどうぞ


※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。

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Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.332 )
日時: 2014/08/19 16:24
名前: ナル姫 (ID: v.swDAoc)

どうしてもセルティとディルの絡みを見たくて考えた結果。
なりきりの時計塔時空。セルティが首を盗まれる前。


 直感した。
 水浸しの床、左足首と壁を繋ぐ足錠、傷だらけの体は全身が痛い。
 両親はいない。今のうちになんとかしてこの錠を外して逃げなければ自分は死ぬのだと、学校に行っていない少年でも分かった。
「にげ、なきゃ……にげなきゃ……」
 細い腕に体重をかけ、俯せの体を起こそうとするも、ガタガタと震える両腕は中々体を持ち上げられない。少し起こしても、すぐに力が抜けてまたべしゃりと水浸しの床に落下した。それでも、譫言のように彼はつぶやき続けた。
「にげな、きゃ……ころ、される……」

 彼は通常ではありえないと思えるほどに魔術が苦手だった。
 生まれてから十二年、物心がついたときには既に彼の足と壁はは足錠で繋がれていた。両親は彼に、素晴らしい魔術師になって実家に復讐するのだと彼に教え込んだ。
 −−だが、彼は魔術というものが丸でできなかった。ブライト家に伝わる水魔術も、強化も医療も。
 学校には行っていない。学校というのがどんなものなのかも知らない。明かりは専ら蝋燭で、勿論電球なんてものはない。電球すらないのだからテレビや冷蔵庫なんてものだって存在しないし、存在すら知らない。
 彼が知っている物事は、魔術に関係する言葉と、両親の家族関係、両親が自分を愛していないこと、自分はただの復讐の手段であること、そして鞭やナイフなど、自分を躾するのに使う道具だけだった。勿論、両親は自分に数学や英語、国史なども教えたが、お世辞にも教えるのがうまいとは言えなかった。特に国史など何を言っているのか丸で理解できない。
 五日程度の断食は当然のように、二週間に一度は存在した。一日に四百や五百回鞭で打たれるのくらい慣れた。今日だって飯を抜かれてもう四日目くらいにはなるし、朝早くから起こされてもう四百近くは鞭が飛んで来ている。
 両親は先ほど、どこかへ出かけた。そのうちに水くらいまともに扱えるようになれと言い残して。

「しぬ……にげなきゃ、にげなきゃ……」
 けれど体は、動かない。
「……さむいよ……とう、さま……かあさま……」

   


「『……どうした、シューター?』」
 首無し騎士の乗る馬車が止まったのは森の中の山小屋のような場所だった。窓はない。人の気配すらもなかった。
「『ここに誰かいるのか?』」
 シューターと呼ばれた馬は頷く。騎士は降り、戸を叩いた。だが誰も出ない。もう深夜だ。寝ているのかも知れない。だが騎士も何となくこの家が気になった。こんな電気も通らないような家に誰が?
「『……』」
 好奇心に負け、騎士は戸を開けた。鍵はかかっておらず、簡単に開いた。そして彼女は信じられない光景を目にする。
「『子供……!?』」
 浸水した床の上に傷だらけの子供が体を丸めて倒れている。カタカタと震えながら、何か譫言を呟いていた。
「『しっかりしろ少年! 酷い熱だ……何か温めるものは……』」
 家の中を見渡すが、そこには溶けてドロドロになった火の消えた蝋燭や鞭があるだけで、少年の体を温めるものはない。仕方なく、自分のつけいているマントを彼女は外し、子供の体に巻いた。体を摩って温めていると、意識が戻ったのかうっすらと彼は目を開いた。
「……だ、れ……?」
 朦朧としているためか、首のないその姿に大声をあげることもなく、彼は尋ねた。
「『名乗るほどの者でもない。ゆっくり眠るといい、少年。このマントはあげよう』」
 耳に聞こえる、けれど心にも直接聞こえるような不思議な声。
 何故か安心した少年−−ディルムッドは、そのまま深い眠りに落ちた。首無しの騎士−−セルティ・ストゥルルソンは少し微笑み、馬車からマットを持ってきてその上にディルムッドを寝かせた。
 整い過ぎだろうとも思える顔に細く小さい体。濡れた髪を撫で、彼女はその場を去った。


 昼寝をしていたセルティがその綺麗な首を岸谷森厳に盗まれるのはその一週間後。彼女は首を追いかけ日本へ渡った。
 ディルムッドの父が母を殺そうとしたのは一ヶ月ほど後のこと。彼と生まれたばかりの妹はオェングスという男性の元へ引き取られた。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.333 )
日時: 2014/08/19 15:34
名前: ナル姫 (ID: dfKYMG8n)

 −−十四年後。
「セルティ何見てるの?」
『あぁお帰り新羅』
 同居人にPDAを差し向け、再びテレビを見る。
「芸能ニュース?」
【アイルランドのバスケットボール選手がとんでもなくイケメンらしいぞ】
「へぇ……」
 新羅も一緒になってテレビを見た。
 確かに画面には、この世のものとは思えないほどの美男子が映っていた。画面の斜め上には、『噂の超イケメンプレイヤーにインタビュー!』という文字が出ている。黒い癖っ毛はオールバックにされているものの一筋だけ落ちている。足れ気味の目には蜜のような甘い色の瞳。形の良い唇。色白の肌。長い逆さ睫毛。座っているから定かではないが身長も高そうで、筋肉もあった。英語で話していて、下に翻訳が出ている。
 女子アナが彼に様々な質問をしていた。
『これだけイケメンだったらモテるでしょう?』
『【うーん……モテるけど、恋人がいるんだ】』
『えー! それはショック……!』
『【済まないな】』
 苦笑しながら言う美丈夫を見て思う。
 −−何だろう、このプレイヤー、いつかどこかで見たような……。
『そんなディルムッドさん、実は子供の時不思議な体験をしたんだとか聞いたんですけど……幼少期は、大変なご体験をなさっていたんですよね?』
『【あぁ、俺は両親に虐待されていたし、父は母を殺そうとしていたよ】』
『えー!? その、不思議な体験、というのはいつ頃の話ですか?』
『【十二歳の時だね】』
『具体的には、どんな……』
『【その夜、両親は出かけていて、俺だけが家にいたんだ。夕飯は食べさせて貰えないし、大量の水をかけられていたから、このままじゃ死ぬと思って逃げようとしたんだけど、足錠が外れないし、もう三日くらい食べてなかったから体が動かない。鞭で打たれたりもしたしね】』
『えー! 死んじゃうじゃないですか!』
『【俺もそう思ったよ。でも、神様の御慈悲かな……水のせいで冷えて熱を出して、そのうちに意識を失ったんだけど、暫くすると誰かに体を温められていると気付いて、目を開けたんだ。そしたら、そこにいたのは首のない騎士で、俺を摩ってくれていたんだ。あの時は熱で朦朧としていたからかな、何故か悲鳴をあげたりしなくて、何となく直感で、その人のことを信頼したんだ。名前を聞いたら、名乗るほどの者ではないと言われたんだけど……俺はそのうちまた眠ってね。気がついたら、自分はマットの上に寝ていて、しかもマントに包まれていたんだ。最初は夢だと思っていたんだけど、夢じゃなかったんだな】』
『えー、それは怖いですよね……?』
『【はは、そうだな。今思うと、あれはデュラハンだったんじゃないかと思うよ】』
『デュラハン?』
『【アイルランドやスコットランドに伝わる妖精。死期の近い人の家を尋ねる首のない騎士なんだ。まさか本当にいるとは思わなかったが……けれど、家は山奥にあったしあんなところを人が通るとは思えないし、きっとあれはデュラハンだった。何故か俺を助けてくれたに違いないよ。あのままだったら俺は死んでいた。感謝してる】』
「へぇ、セルティの仲間かもね」
 そして、彼女の記憶が蘇る。
 −−こいつ、あの時の!
「セルティ? どうかしたのかい?」
【あ、いや、何でもないさ】
 −−そうか、死なずにすんだんだな。しかも今はこんなに立派になって、プロとして活躍しているのか…………。
 −−良かった……。
 そのうちにインタビューは終わり、告知の時間になった。国際バスケの試合が行われるらしい。
【新羅、絶対見るぞ!】
「ちょ、どうしたのセルティ!? 気に入ったの!?」
【知り合いの成長を見たいんだ!】
「え? え? まさかあの人助けたのセルティ!?」
 混乱する新羅を差し置き一人興奮するセルティ。
 新羅は困惑しながらも、好きな人のために番組表をチェックするのだった。



このあとセルティ一度新羅とアイルランドに行って、ディルと会って感謝されていれば良いと思う

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.334 )
日時: 2014/08/20 12:32
名前: ナル姫 (ID: GX8mvGbi)

ネタ
誰得?俺得!

セルティとディルムッドの姉弟友情
※セルティがもう余裕で1700年くらい生きてる← でも若い←
※聖杯戦争in池袋の世界
※時間軸は一巻のちょっと後
※四次はここに絡んで来ません

セルティ・ストゥルルソン
「『走るなディルムッド! 怪我をしたらどうする!』」
「『そんな……済まない、ディルムッド……守れなくて……済まない……!』」
【申し訳ないが、私は貴方を覚えていないんだ】
アイルランドのデュラハンという妖精。ディルムッドの実父のドゥンに仕えていた。ディルムッドとも勿論面識はあったし、それなりに可愛がっていたが、ドゥンが妻の不倫で出来た子を殺して以来、異父弟の怨霊に殺される運命を背負ったディルムッドを心配し、幼少のディルムッドをますます気にかけるようになる。
ディルムッドからは『セル姉』と呼ばれている。懐かれてる。しかし仕事(死期の近い人の家を訪ねる)もあるので中々ずっと一緒にはいられない。
ある時、ディルムッドがフィオナに入ったのを切っ掛けに、全く会わなくなってしまう。しかもディルムッドがブルー・ナ・ボーニャを出るときに彼女はいなかった。
セルティが最後に見たディルムッドは腹部を猪に貫かれた死体で、守ることが出来なかったと後悔する。
1700年ほど経ったある時、首が盗まれる。首の気配を追って日本へ。そして池袋にて20年。しかし首は見つからない。しかし新羅とは両思いに。
その時、聖杯戦争が勃発。ランサーとして召喚されたディルムッドと再会するも、首を盗まれたことでセルティはディルムッドのことを忘れてしまっていた。そのことで、ディルムッドは聖杯に願いをかけることになる。


ディルムッド・オディナ
「セルねえ、おしごといってらっしゃい!」
「まさか、セル姉……夢みたいだ、聖杯に招かれて、この世界でまたセル姉に会えるなんて!」
「セル姉、の……首……そんな、そんな……! どうして、どうして! 主ッ!」
死神・ドゥンの一人息子で、妖精王・オェングスの養子。
幼少期、母の不倫が原因で異父弟に殺される運命を背負うが、それを心配したセルティに守られる。だが本人はフィオナに入るまで自分の異父弟の怨霊が自分を殺そうと思っていることなど知らず、自分に猪を狩らないというゲッシュがあることも知らなかった。
お姉さん気質のセルティに良く懐き、彼女を『セル姉』と呼び慕っていた。自分がフィオナに入るためブルー・ナ・ボーニャから出る際セルティはいなかったため、オェングスに「自分なら大丈夫だから心配しないで欲しい」と伝言を頼む。
異父弟の怨霊が現れた際は運命を受け入れ、相打ちになって死亡。死ぬ間際、「守ろうとしてくれたセル姉に申し訳ない」と言い残して死んだ。
そして、第五次聖杯戦争にランサーとして現界。折原臨也のサーヴァントとなる。「主に忠義を尽くすこと」が狙いなので、聖杯は臨也に譲るつもりでいた。しかしこの世界でセルティと再会し歓喜するも、セルティの記憶が首を盗まれたことで欠如していることに嘆き、彼女の首を取り戻すことを願いとする。その後、臨也がセルティの首を所持していることに絶望し、忠義と友情に挟まれることになる。
結構神の血が混ざっているが、どちらかと言えば妖精さん。

岸谷新羅
「……そう、セルティの幼なじみなんだね……可哀相に」
「セルティーッ! 君はやっぱりさいこぶっ!」
「答えてよ臨也……君じゃないの? セルティの首を持っているのは」
24歳。セルティの恋人で日本のセルティを最も良くわかっている人物。セルティの首を盗んだ森厳の息子だが、新羅自信それは知らない。
セルティと再会できたにも関わらず、覚えられていないディルムッドを気の毒に思う。
魔術師の家系ではないので聖杯戦争に直接は関与しないが、臨也がセルティの首を持っているのではないかと疑っている。

折原臨也
「君は俺のサーヴァントなんだから、主の言うこと聞かなきゃ、ねぇ?」
「へぇ、そう、あの化け物のねぇ、そこは流石死神の子供といったところ?」
「この首は君が聖杯を取ったら返してあげるよ。それまではお預けだ」
セルティの首を所有する、ランサーのマスター。優秀な魔術師で、聖杯に托す願いは『天国へ行くこと』。ランサーとしてディルムッドを召喚するが、本人はディルムッドの父が死神であることを知っていたため、キャスターとして召喚したかった様子。そのため真っすぐ騎士道の考えを持つ彼とは相性が悪く、徐々に自らのサーヴァントを『死神の子供』と言ったりわざわざセルティの頭を破壊しようとしたりと、彼を侮辱し弄ぶ外道。戦法は彼にすべて任せている。
そもそも人外が嫌いなので本当ならばサーヴァントにも頼りたくはない。
属性は風。


その他戦争参加者
セイバー
アルトリア・ペンドラゴン。騎士同士、ランサーと尋常に勝負をすることを望む。望みは故国の復興。

衛宮士郎
セイバーのマスター。巻き込まれる形で戦争に参加。正義の味方を目指す。

アーチャー
エミヤ。色々と皮肉な性格だが、なんだかんだでお人よし。臨也が首を所有しているのを偶然にも目撃する。

遠坂凜
アーチャーのマスター。御三家の一つ、遠坂家の当主として参戦。

ライダー
イスカンダル。色々なものが色々と破天荒。セイバーを王と認めない。

平和島静雄
ライダーのマスター。召喚したのは幽だが、戦いを拒否し静雄に令呪は譲られた。臨也大嫌い。

キャスター
クー・フーリン。ディルムッドの先輩的存在。聖杯に望みはなく、死力を尽くした戦いを望む。ディルムッドに同情する。

言峰綺礼
キャスターのマスター。外道。とにかく外道。折原臨也と繋がっている。

アサシン
ハサン・サッバーハ。沢山の人格を持ち、姿を増やすことができる。

園原杏里
アサシンのマスター。妖刀を身体に住まわせる。臨也に嫌悪されているため、真っ先に狙われる。

バーサーカー
サー・ランスロット。セイバーの生前の家臣。

間桐雁夜
バーサーカーのマスター。この時空のおじさんはちゃんと魔術師です←

書き終わって気づく絶望空間

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.335 )
日時: 2014/08/21 22:28
名前: ナル姫 (ID: qZXNCSUo)

 −−頼む。
 −−なぁ頼む、待ってくれ、逝かないでくれ。
 −−頼む!

「……セルティ?」
 はっと彼女は起きた。見れば、この間相思相愛だと認めた人がいた、尤も彼女に顔はないのだが。
「何だか凄くうなされていたみたいだけど……大丈夫?」
【あ、あぁ、大丈夫だ。済まないな】
 PDAを向け、大丈夫だと伝える。新羅は安心したようで微笑む。
「そういえば、今日は臨也が来るらしいじゃない?」
【あぁ、また粟楠会だ。報酬だか何だかをたっぷり貰ったんじゃないか?】
「ありそうな話だねぇ……」
 −−先ほどの夢、恐らく昔の夢だろう……誰か、大切な人がいた気がするが…………。
 −−誰、だったか……。



「やぁ久々だね臨也。……ん? 後ろの美人さんは誰?」
「彼はディルムッド。諸事情あってうちに住むことになったんだ」
 ディルムッドと呼ばれた美男子はへらりと笑い軽く会釈をした。
「へぇ、そうなんだ。私は岸谷新羅。よろしく……って、日本語わからないか。何人?」
「アイルランド。けど英語話せるよ」

 三日前、折原臨也は聖杯戦争に参加すべくサーヴァントを招いた。真名はディルムッド・オディナ。ケルトの英霊だった。しかし彼は失敗したと思った。彼はディルムッドをキャスターとして召喚したかったのだが、それより先にキャスターが召喚されたのか、それは叶わなかった。しかし、ランサーであっても必ずや聖杯を捧げると、さらに自分の願いは主への絶対的忠誠のみであると言い切ったディルムッドを、一応気に入ってはいた。ディルムッドとしては、何となくこの主に違和感のような何かを感じていたのだが。
 今日臨也はディルムッドをセルティに合わせるつもりだった。とは言え色々と話のつじつまを合わせなければならないため、日本語はわからないという事にしてある。慣れない現代の服に戸惑いながらも、ディルムッドは困ったように笑っていた。
「と、来たね」
 トントンと階段を下りる音。そこでディルムッドは目を見張った。英霊である彼にはわかった。この猫耳ヘルメットの黒い女性が人間ではない事に。
【全く、何の用だ臨也】
「不機嫌そうだなぁ、どうせ暇でしょ、頼まれてよ」
【暇じゃない。撮り溜めていたドラマを消化するんだ】
「暇じゃん」
 呆れながら返す臨也。ライダーらしき女性は肩を竦め、それは誰だ、とPDAで尋ねた。
「彼はディルムッド。うちの居候。日本語お勉強中」
【ほう、中々いい男じゃないか。まぁいい。そんなことより仕事とは何だ?】
「それがねー」
 臨也は仕事内容を説明し始めたが、小声のため聞き取れない。しかしまぁ、居候という表現をされると気分が悪いが、残念ながら日本語がわからないという設定上、それは言えなかった。
 −−……にしても、アレは何だ……? 人では……ないよな? 妖怪? いや……妖精? どちらにしろ何故こんな街中に……。
 彼女もディルムッドに対して同じ感情を抱いていた−−人間ではないだろうと。
「そういうこと、じゃぁ頼んだよ」
 黒い女性は奥に行った。馬が鳴くような音が聞こえる。
 新羅が声を出した。
「いってらっしゃい−−セルティ」
「−−!」
 ディルムッドの脳裏に過去の記憶が蘇る。
「あっ……」
 設定など忘れ声をかけようとしたが、声はバイク音に掻き消され、届かない。漆黒のバイクは去って行った。幸い新羅には声を聞かれなかったようで、新羅はただ彼女が向かった方向を見ているだけだった。
「帰るよ、ディルムッド」
 言いながら服の袖を引っ張る。臨也は新羅に別れを告げ、池袋に構えた戦争用の別宅へ向かう。
「さっきはどうして黒バイクに声をかけようとしたの?」
「……それは、その……確信ではありませんが……もしかして、昔馴染みかなぁと……思いまして……」
「なるほどねぇ、まぁ俺にはどうでもいいけど。この後うちに来るから、その時は声かけて良いよ。日本語で二人で話しなよ」
 戸惑いながら翡翠は顔を上げた。
「え……しかし」
「いやね、アレも人外だし、君が人間じゃない事くらい気付いたと思うし。聖杯戦争のことさえ教えなければね」
「……」



 そして数時間後だった。玄関のチャイムが鳴る。
「お、来たかな」
 コーヒーを飲んでいた臨也が腰を上げた。玄関へ続く通路に出た臨也に続き、怖ず怖ずとディルムッドも通路に顔を出す。黒い彼女は、大きな鞄を臨也に渡した。
 不安だった。さっき、臨也が彼女に自分の名を言ったとき、彼女は何も反応しなかった。けれど−−。
 −−確かめたい。
 ディルムッドは走り、彼女の腕を掴んで外に出た。そして、家の裏庭へ引っ張っていく。一連の動作を客観的に見ていた臨也は、大胆だなぁと言うように、ヒュウ、と口笛を吹いた。
【な、何だ急に?】
「あ、あの!」
 日本語お勉強中と臨也に言われたため驚き、セルティは混乱した。
【日本語、わからないんじゃ……?】
「わ、わかるんです! あの、俺が日本語話せることとか、こうして話したことは誰にも絶対に話さないでください!」
 訳がわからなかったが、とりあえずセルティは了承した。
「あの、貴方は……デュラハン、ですか?」
 はっと猫耳ヘルメットが動く。PDAを打てないほど興奮しているのか、コクコクと頷いた。
「えっと、1700年くらい……生きてますか?」
 またもコクコクと結構なスピードで彼女は頷いた。そしてディルムッドは生唾を飲み込み、次の質問へ移る。
「……貴方の名は……『セルティ・ストゥルルソン』、ですか?」
【……どうして……分かるんだ?】
 PDAに映し出された質問には答えず、彼は泣きそうな、嬉しいような顔をした。
「やっぱりだ……」
【?】
「夢みたいだ……! 聖杯に招かれ、この世界でまたセル姉に会えるなんて!」
 そしてセルティは感づいた。
 −−あぁ、この子はきっと……私が忘れているだけで、私の昔馴染みなんだ……何かがあってこの世に来て、肉体を授けられたんだろう。私のような異形もいるのだ、昔の魂が肉体を授けられたくらいでは驚かない。
 残酷だ、とは分かっていながらも、セルティは返事を打ち込んだ。
【すまないが……私は貴方を覚えていないんだ】

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.336 )
日時: 2014/08/21 23:20
名前: ナル姫 (ID: Wx6WXiWq)

 スッ、と彼の美しい顔から血が引き、表情が消えた。そのうち俯き、自虐的な笑みを浮かべる。
「あ、あはは……それは、そうだよな……もう、1700年経ってるんだし……最後に会ったの、十五くらいだったし……す、すみません! その、忘れてください!」
【いや違う! 待て! ちょっと待て!】
 逃げだそうとするディルムッドの腕を掴み、PDAをずいっと近づけた。
【私は首を盗まれて、自分の能力などそれ以外の記憶が欠如しているんだ! 時間云々とかそういう問題ではない!】
 目をぱちくりさせるディルムッド。本当、なのか?とたどたどしく尋ねる姿に、何かを思い出しそうになるが、どうしてもわからない。
【あぁ】
 三日前、召喚された時の臨也との会話を思い出す。

『で、君の願いは何かな? 願いがあるから招きに応じたんだろう?』
『いえ……我が望みは主への絶対的忠誠のみ。聖杯はマスター一人にお譲り致します』

 −−それが今になって、聖杯が欲しいなど、許されることだろうか。
 それでも彼には、叶えたい事が出来てしまった。
「……わかった」
 彼は彼女の手をきゅっと握った。
「……俺がセル姉の首を取り戻す。必ず、取り戻してみせる」
【……本当か?】
「あぁ、必ず……だから、待ってて」


「聞いてたよ。まぁ予想できてたけど」
「……知っていたんですね、彼女に記憶がないことを」
「情報屋を甘く見ないでくれるかな、英霊」
 で、何か言うことがあるんじゃないの?と主はサーヴァントを急かす。
「……はい……叶えたい事が出来ました。聖杯の力を持って……私が姉と慕っていた彼女の……セルティの首を、取り戻したいのです」
 知っていたけどね、と言うように臨也は苦笑する。
「良いよ、叶えてあげよう」
「え、しかし、主のお望みは……」
「大丈夫、一緒に叶えられる願いだ」
 そういえば、彼は主の望みを聞いていない。一緒に叶えられるなら問題はないはずだった。だが何故だろう、とんでもない予感がしていた。
「主……?」
「でもさぁランサー。新羅とセルティは相思相愛だよ? 首が戻ったら彼女は池袋の20年なんて忘れて、母国に帰るんじゃない? 君と一言二言会話をしてね」
「そ、れは……」
「今の想い人と、過去の君との記憶、どちらを優先させるんだい?」
「……えっと……それは……」
 勿論、自分を優先したいのだろう。だが優しい騎士は他人を無視して自分を優先させようなど考えない。彼は人間ではないが、そんないかにも善人らしい悩みは人間が好きな臨也には大好物だった。
「君が悩むのは分かるよ。そんな君に問題だ」
「? ……!!!」
 顔を上げ、絶句した。
「これ、なーんだ?」
 言うなれば、心臓が素手で握られたような感覚。
「あ、あ、あああっ……!」
 主が高らかに掲げたそれが生首だったからではない。
 主が持っていたのが、セルティの首だったからだ。
「そ、んな……セル姉の、首……どう、して……! どうして! 主ッ!!」
「くっ、あははははははははは! 良い反応だ! だから言ったじゃないか、叶えられるって!」
 愉しそうに笑う彼に殺意すら湧いた。この男は全て分かっていたのだ。自分とセルティの関係まで知っていたとは思えない。だが自分がセルティに覚えがあると言ったときから何となく分かっていたのだ。妖精王の養子、まして死神の子ならば当然デュラハンと交流はあるだろうと。ならば再会したとき首を求めるだろうと。だからこそ臨也は彼に、日本語で一体一で会話することを許したのだ。
 そして、違和感の正体を掴む。その男は、誰よりも歪んで人が好きで、その人間の浄も不浄も、愛憎も、平和も争いも、何もかもを愛する、故に人を苦しませることすら簡単にやってのける−−そんな男だと。
 下唇が切れた。血が流れるがそんなことは気にならない。ただ人懐っこい彼は、始めて他人に……それも主にこの言葉を発した。自分を見殺しにした主である伯父にも、キャスターとして召喚される際は内臓を寄越せと言ってきた実父にも、言わなかった言葉を。

「この、外道……!」
「憎ければ殺せば良いさ。でも、代わりの魔術師なんかそんな簡単に見つかるかい? まぁ俺を殺せば首が帰ってきて満足だろうけどね。あぁでもそれでは、主への絶対的忠誠が出来ないねぇ?」

 分かっている。この男を殺すのは騎士のやるべき事ではない。向き合って話さなければならない。だがディルムッドには分かっていた。この男には何を言っても無意味な事くらい。
 新羅、という人物に見せていた爽やかな笑顔はどこへ行ったのか、青空のような声は言葉によってこんなにも醜く響くのか、どうでもいいことが脳裏を過ぎった。今すぐにでも刺し殺したかった。だが、彼の中にある何かが、衝動を押さえた。
 −−セル姉は、抵抗の出来ない人間を刺し殺して首を返して貰っても嬉しくはない……そんな俺の成長を望んではいない。寧ろ、騎士でありながら卑怯にも抵抗のない主を討てば、軽蔑の目を向けられるだろう。
「……主を殺すつもりは毛頭ございません」
「ふぅん?」
「ですが主! 必ずやこれだけはお守り下さい!」
 悲痛の顔で、ディルムッドは叫んだ。
「聖杯は必ずこのディルムッドが主に捧げます! ですから! その暁にはその首を私にお渡し下さい!」
「……良いだろう……まぁ、取ってこれたら、ね。期待してるよ、騎士サマ」
 軽蔑されているとは一瞬でわかった。

 上等だ、小さく小さく呟かれたその言葉を主が聞いていたのかいないのか。


 その答えは誰も知らない。


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