二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

短編小説 *BSR Fate*
日時: 2014/04/21 17:22
名前: ☆Milk☆ (ID: EM3IpZmD)

こんにちは!
題名とか親レスとかが色々変っちゃってごめんなさい(汗)

前は主にバサラとバサラクロスオーバー専用でしたが最近fateが増えてきたためfateも題名に加えちゃいました←
そんな感じに意味が行方を失った短編小説始まります

ごゆっくりどうぞ


※リクエスト受け付けてます。長くなりそうなリクエストや、あまりに抽象的なリクエストはバッサリ無視いたしますので悪しからず。
※荒らし、チェンメ、悪コメはご遠慮ください
※バサラは主に伊達軍、fateは槍兵と弓兵を偏愛してます
※私のオリジナル小説、『僕と家族と愛情と』とリンクしてる時も多々。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97



Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.397 )
日時: 2014/11/20 23:19
名前: ナル姫 (ID: z1wpqE.E)

「……わかった」
 睦美は顔をあげた。
「……でも、一応様子だけ見せてくれよ……何もしないから」
 刑事の三人が顔を見合わせる。やがて溜息、扉を開けた。まずエミヤが入り、続いて元親、睦美、アルトリアが入った。最後に刑事が入る。入ってまず、踏み潰された林檎が目に入った。
「……ネレオ」
 エミヤが話しかけるが、ベッドから反応はない。
「……」
 睦美と元親がその姿を初めて目にした。想像以上に細く、青く、空っぽだった。だが、初めて会った時にも思ったことだが、綺麗な顔つきだった。
「……ディルムッド、聞こえるか?」
「…………」
「橘様が来たんだ……大丈夫、危害を与えに来たわけじゃないから……」
「…………」
 エミヤが頭を振る。瞳は開かれているのに、何も聞こえていないように、何も見えていないように、何の反応も示さない。だが、ふと唇が動いた。何を言っているのかは聞き取れない。アルトリアが口元に耳を寄せた。
「……『貴方方、貧しい人たちは幸だ……天の国は貴方方のものである』……ルカによる福音書のお言葉です」
「……?」
 アルトリアは思い出すように語った。
「……『貴方方今飢えている人は幸だ。飽きたりるようになるからである。貴方方今泣いている人は幸だ。笑うようになるからである』……そういったお言葉が並べられています」
「……知らねぇよ……そんな理屈……」
「信じるか信じないかは自由です」
 アルトリアが視線をディルムッドに落とす。彼ならきっと、最初から最後まで一言一句違わず言えるのだろうと思いながら。
「……満足したかね? ……これが今のネレオ……ディルムッドだ」
「今は安定している方よ……やっと薬が効いてきたか」
 自分だって、あの日、頭の中が混乱して泣き叫んだ。泣いても泣いても足りないくらい泣いて、恨んでも恨んでも止まないくらいに恨んだ。殺してやると思った。
 ……本気で、思って、いた。
「……とりあえず、今のところはこんな具合よ……いつ元に戻れるか知れたものではないわ」
「ちゃんとカウンセラー呼ばないと駄目かもなぁ……つっても今のディルムッド、こういう部屋の中で自分と誰だか知らない人が一緒だと、さっきみたいに拒絶するし……ゆっくり待つしか方法がねぇってのも、難しいよな……」
 クーが溜息をつく。睦美と元親は諦めたように肩を落とした。……すっかり、毒気を抜かれてしまった。そろそろ帰ろうかと思ったその時。
「う、あ、ああ……」
「ディルムッド?」
「……め……なさい…………ごめん、なさい…………ゆる、して……くだ、さ…………」
 ハラハラと、開いたままの橙の瞳から透明な雫が零れ落ちる。
「……やだ……いやだ…………」
 そして、最後に消え入りそうな声で。
「………………しにたい…………」
 相変わらず、瞳は瞬きすらしない。
「……橘様」
「……何だよ」
「貴女は言いましたね、臥辺様は、神を信じていたと……裏切られたと」
「……」
「……ルカによる福音書には、こうも書いてあります。……『笑っている人は災いだ。悲しみ泣くようになる』」
「……そうなんだ……本当ふざけてるよ」
「……幸福な人には、必ずいつか不幸が訪れます……臥辺様の場合、それが火事だった……貴女はそれを、神が裏切ったと言いました……そうではありません……神は、不幸な人を救うから、幸福な人をおとしめるなんて……そんなことはしません。彼女には、大きな不幸が訪れてしまった。不可避の偶然であり、運命です」
 でも、と彼女は続けた。
「それでも変わらずに……神を信じつづければ、彼女は救われたのではないですか? 不幸が訪れた人には、必ずまた幸福が訪れる……その幸福が、どんなものかはわかりません。けれど、信じる者は救われる−−偉大なる父は、迷える子羊を見捨てません」
「……」
 知るかよ、ともう一度言って、睦美達は扉へ向かった。
「……なぁ、毛利」
「なんぞ」
「そいつ逮捕された時、どうだった?」
「貴様が一番知っていると思うがな、睦美……錯乱しておったわ」
「あっそ……その精神死んでるイケメンに言っといて、死にたきゃ勝手に死ねば良い。でも、キリスト教で自殺は禁止だよな?」
「……フン、質の悪さは健在よな」
「知るか」



「……ったくおめぇは……あの状況見てそんな言葉出るかぁ?」
「知ったことかよ……加害者は加害者だろ。教授を殺した本人だ」
「……そう言いつつ、林檎もって帰るんだから変な奴だよ」
「目の前で食ってやろうと思ったけどね」
「……まぁ、ゆっくり待とうや。世間は暫く黙らねぇとは思うけどな」
「……」
「……睦美」
「……ん?」
「……もし、殺されたのが、お前と全く無関係の無神論者だったら……お前は加害者と被害者、どっちを庇うんだ?」
「……さぁね」


「……彼女が君の言葉に納得してくれれば良いのだが」
「……去り際にあんな言葉を言う人が聞くわけないでしょう」
「否めんな」
「……何にしろ、ディルムッドの回復を願うばかりです」
「そうだな……弁護士も頼まなくてはならないし……やることは山積みだ」



 また、だ。
 またあの笑い声がする。
 −−ふふ、ふふふ。
 やめろ、笑うな、そんな笑い声もう聞きたくない。
 黙れ、黙れ、頼むから黙ってくれ。
 −−やれやれ、弱いですね。
 耳に張り付いて剥がれない。
 いっそのこと耳を削ぎ落としたい。
 −−耳を外したって、声は聞こえますよ?
 煩い! そんなこと分かってる!
 −−おやおや……ふふ、仕方のない人です。
 あ、ああ、苦しい。
 伝えなきゃ。苦しいっていわなきゃ。
 *****に言うんだ、なぁ、気付いてくれよ。
 ……あれ……?
 −−どうしました、ふふ。
 誰、だっけ……?
 −−誰に伝えるのか、その名を忘れてしまいましたか?
 −−どうやら、安定剤は効き目がないようで。
 安定剤……そんなものを、飲んだのか……?
 −−その質問、今日までで何回目でしょうね?
 何回も、俺は質問を……?
 −−ええ、私に聞いていたわけではないと思いますが。
 −−まぁ、苦しければ叫べば良いでしょう。
 −−そしたらまた強制的に薬を飲まされて、無限ループですがね。
 ……貴女から逃れることは、できないのか。
 −−えぇ、当然でしょう?
 ……………………。
 −−そんな顔をしないで下さいな。
 −−それと、あの子から伝言です。
 −−死にたければ、死ねば良いでしょう。
 −−ふふふ、素敵な言葉でしょう?

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.398 )
日時: 2014/11/22 16:14
名前: ナル姫 (ID: Rl7BkXtL)

「……済まないが、私では手に負えない。他の弁護士を当たってくれ……申し訳ない」
「……いえ……ありがとうございました……」
「……これで三人だぞ……どうする、ローザ」
「……毛利様が、一人紹介できると……明日、連れて来るそうです」
「……私は仕事だが……うまくいくといいな」



「おいこら来てやったぞ松寿!」
「やっとか!」
「やっとっておま、これでも大急ぎで帰ってきたんだからな?」
 五日後、駅で元就が待っていたのは灰色の髪の男性だった。
「何だよ火急の用って。弁護士に休みなんて中々ねぇんだぞ?」
「承知の上ぞ。晴久、貴様アイルランド人の修道士が日本人の大学教授を殺した事件を知っておるか?」
 彼は尼子晴久。元就の古くからの友人であり、弁護士である。最近、面倒な相談ごとが終わり、暫く休暇を取ってイギリスへ行っていたのだが、元就に話があると言われ、急遽戻って来たのだった。
「あぁ知ってるよ。イギリスでもちょっとだけニュースになってた。日本でも大騒ぎらしいな、世論が」
「その通りよ」
「まさか俺にその弁護やれってのか?」
「それ以外あると思うか」
「いや思わねぇけどさ……」
 そんな会話をしていると、クーが車に乗って駅へきた。二人を乗せ、車は再び発進する。
「悪いなぁハルヒサ、急に呼び出して」
「構わねぇけど……これどこ向かってんだ? 拘置所じゃねぇのか?」
「中央病院ぞ」
「は?」
 疑問符を発生させる晴久に、まぁそのうち分かると返した。元就は晴久に事件の詳細を説明し、晴久は何となく理解したようだ。そして病院に着く。受付を通りすぎ、エレベーターに乗って上の階へ行く。そして、一番奥の部屋へ行き着いた。扉の前で、一人の少女が祈っていた。
「……修道女……?」
「アルトリア? 何して……」
 クーが言いかけた、その時。
「いやだぁぁぁぁぁぁッ!! はなせッ! さわるな! よるなぁぁぁぁぁぁッ!!」
「安定剤を! 早く!」
「はい!」
「ディルムッド君落ち着いて、大丈夫よ」
「いやだ! たべない! たべないッ!」
「押さえて!」
「はい!」
「が、ぐっ!? あ、あああああああッ!!」
 絶叫が響き渡る。晴久は呆気に取られてその声を聞いていた。
 目の前の修道女は、俯いてカタカタと震えながらただ祈っていた。やがて絶叫がやみ、医師と看護師が出て来て、アルトリアに一礼し、エレベーターの方へ歩いていった。そしてやっと少女は顔をあげ、三人へ顔を向けて頭を下げた。
「……すみません」
「貴様の謝ることではないわ。それよりも、連れてきたぞ」
「……尼子晴久様ですね。ローザと申します。本名はアルトリア・ペンドラゴン。ローザとお呼びください」
「あ、おう……よろしく。で……加害者は……?」
「中にいる奴よ……貴様はやたら人を取り込むのが上手い故、あの困った患者も任せられるのではないか」
「……おい、まさか……精神病なんじゃねぇだろうな」
「さすが優秀よ。更に言えば身体的な健康も悪いぞ」
「マジかよ……嘘だろ……」
 その場で肩をがっくりと落とすが、その目の前に同じ教会で教えを説いていたのであろう修道女がいることを思い出し、決まりが悪そうに背筋をただした。
「ま、まぁとにかく会ってみないことには始まらねぇか」
「受けてくれるのか?」
「……とりあえずな。手に負えなかったら他を当たってくれ」
「言っておくが貴様四人目だぞ」
「えっ」
 まずアルトリアが部屋に入る。続いて晴久、そして元就とクーが入った。患者の様子を見て顔をしかめる。真っ青な顔で、辛そうに横になっていた。時々、口からヒュウ、と音が漏れる。
 −−死にそうにしか見えねぇな。
「ディルムッド、聞こえるか? 毛利様が、弁護士を紹介してくれたんだ」
「……ぅ、ぁ……」
「ん? ……あぁ、そうだな、大丈夫、神は救ってくださる。そう信じて来たじゃないか」
「今は大人しいな……ローザ、先ほどは何があった?」
「……ディルムッドの健康状態が、もう点滴だけでは足りなくて……是が非でもご飯を、流動食でも良いからとにかく食べさせねばならないと言われて……与えようとしましたが、拒絶反応が酷くて……」
「……なぁ、これカウンセラーとかは……」
「つけたが意味がなかったわ」
「おい待て……!」
「とりあえず二人だけになってみよ。暴れ出したらローザを投入する故安心するが良いぞ」
「何を安心すれば良いんだ松寿ー!?」
 閉まった扉に手を伸ばすも届かない。
 しん、とした空気。ベッドの上で息をするだけの患者を今一度見つめた。
「……あー……えっと、聞こえるか? ……ディルムッド、だったか?」
「…………」
「えっと、俺は尼子晴久だ。安心しろ、俺はお前の味方だ」
「…………」
 安定剤を飲んだからか、叫んだりはしない−−が。
「ふ、ふふ、ふ……」
「?」
「よわい、よわい、って、ふふっ……なにも、みない……しらない…………ふはっ、は、あはは……つら、あ……こわい、きらい……かみ、は、かみは、うらぎらな……ちがう? ちがう……うらぎ、らない……うらぎ、た、な、ら……それ……は……あ、あああああ……こわい、こわい、いやだ、こわい、いやだ、いやだぁ……」
 なるほどな、と妙に納得してしまった。確かにこれではカウンセラーも手に負えないだろう。信じていた神に裏切られ火事に遭い、愛する家族をすべて失った被害者。初めから家族などないに等しく、空っぽの心を信仰で埋めようとした加害者。確かに相容れないはずだ。
 −−たしか、侮辱された……んだよな?
「あぁ、怖いよな……でも信じてくれ……大丈夫だからな」
「うううぁ……」
「……」

『加害者は、狂っていると思えるくらいのキリスト教信者よ。何でも、幼い頃から父親から虐待を受けておってな、しかも、ある日母親と父親が目の前で死んだらしいぞ。その後は親戚をたらい回しよ。最終的に教会に引き取られ、洗礼を受けたと言うことよ……頼れるものが、宗教しかなかったのであろ。しかも被害者を味方する人間の作った掲示板では、加害者本人が父と母を殺したのではないかと根も葉も無い噂が広がる始末よ』

 −−虐待か。
 思い出すように、ディルムッドに晴久は語りはじめた。
「……ディルムッド…………俺、母親に嫌われてたんだ……いや、過去形じゃなくて、現在進行形だけどな……」
「…………」
「親父は早く死んじまうし、ジジイはやたら厳しいし……でもな、ディルムッド……」
「あ、あああ……」
「俺には、仲間がいたんだよ……俺みたいな奴を支えてくれる奴らがさ…………そうか、あぁ、そうだよな……」
「ハッ……けほっ」
「とと、大丈夫か? ……うん、俺の母親は生きてる……でも……そうだよな」

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.399 )
日時: 2014/11/22 18:19
名前: ナル姫 (ID: Ma3wYmlW)

「お前の親は、仲直りしたくても、会いたいと思っても……もう戻って来ないもんな……寂しいよな……辛いよなぁ……」
「あぅぁ……う……」
「……ごめんな、俺、母親のこと諦めてるから……お前の心は、理解し切れねぇんだ……でも、愛されない辛さは……理解できるから……そうだよな、まだ小さかったのにな……それに、お前はきっと、優しいもんな……」
 一人で話している内に、彼の瞳から一筋の涙が落ちた。それは患者の手に落下する。相変わらず、瞳は暗かった。
 その言葉が、何故出て来たのかは分からない。偶然かもしれない。ディルムッドの好きな聖書の一節だったからかもしれない。理由はともかくとして、晴久が泣いているのが分かったからかしれない。晴久が泣いているのは分からなかったが、手に落ちたのが涙だと理解したからかもしれない。真実は分からないが、彼は言ったのだ。
「……あなたがた……いま……ないているひとたちは……さいわいだ……わらうように、なるからで……ある……」
 これがルカによる福音書に書いてあるもので、数日前もこれに似た一節をディルムッドが呟いたことは、晴久には知るはずもない。短い言葉だが、人生は苦楽の繰り返しだと−−今泣いたら、次は笑えると言うような言葉だった。
「……慰めて、くれてんのか……?」
 弁護士失格だな、と感じながら、晴久は苦笑した。


「……静か、ですね」
「相手を認識していない……または、誰かいることすら理解していないか…………」
「それか、晴久を受け入れたか……どれかぞ」
 と、キイ、とドアが開いた。目の腫れが引くのを待っていたのか、晴久の目は普通だった。
「どうだったよ、晴久。会話になったか?」
「いや、会話になんかならねぇよ」
「……そう、ですか……」
 肩を落としてアルトリアが言うが、晴久はキョトンとそれを見つめた。
「……ははっ、誰が降りるなんて言ったよ」
「え?」
「とりあえず、患者がとんでもない状況なのはよくわかった。逆に考えろよ、精神がもうちょっとまともだったら、それこそ弁護の余地はねぇぞ? 精神が完全に近いくらい崩壊していりゃ、被害者が何て言ったのか分からなくても、よっぽど酷いこと言ったってことくらい分かるだろ」
「では、尼子様……」
「あぁ、任せとけ、あいつの弁護は俺が引き受ける」
「っ……! 恩に着りますっ……!」
 ぽろぽろと嬉し涙を流しながらアルトリアは深く頭を下げた。元就とクーは安心したように笑う。
「さて、ローザだったか? こうなったからには証言者として協力してもらうぞ?」
「はい、了解いたしました」
「加害者の過去とか、最近の様子とか……できるだけ細かく教えちゃくれないか?」
「問題ありません。分かる範囲でお答えしましょう」



「なるほど、確かにそれでは仕方あるまいな。実は俺もこの事件はニュースで目にしたときから気になっていてな、いやなに、関わるのは面倒だとは思ったが詳しく話を聞くと随分興味深い」
「……じゃぁ」
「良いだろう、受けようではないか。相手がどんな弁護士をつけるかはしらんが、精神崩壊して他人を拒絶する加害者を弁護しようなど、そんな輩そうそう現れまいよ」
「知ってることは全部教える。だから、出来るだけアイツの罪を重くしてくれよ。本当は死刑くらいして欲しいんだからな」
「はっ、死刑は無理に等しいな! それどころか無実になる可能性すらある」
「……認めない」
「あぁ、だろうよ。どんな理由があろうと人殺しだからな。だが覚えておけ、加害者に罪を償える能力がないと判断されれば無実だ。おまけにこの事件、加害者が無実となる材料は大量に揃っているが」
「…………構わない。無実になったら……それほど相手が純粋で繊細で、教授があまりにも酷かった……それだけなんだろ」
「わかっているじゃないか。嫌いではないぞ? くくっ、まぁいい。どこまで相手を低くできるか、楽しみになってきたな!」



 −−こんばんは。
 ……また貴女か。
 −−また私ですとも。ふふふ、今日は落ち着いていらっしゃるようで。
 ……そう、なのか?
 −−ええ、貴方はここに入院してからの記憶がないのですね。
 ……貴女を殺して……それから……それから?
 −−うふふ、やはり。
 −−想像できていた返答ですよ。まぁ精神障害なら仕方ないですね。
 毎日、貴女が俺を苦しめる……それ以外は分からない。
 −−おやおや、毎日貴方の横でひたすら祈っている少女をご存じない?
 え……?
 −−薄情な修道士。彼女が悲しみますよ。毎日、貴方は彼女の名を呼ぼうと一生懸命なのに。
 ……*****?
 −−えぇ、そうです。その子は毎日貴方の隣にいますが、存じていらっしゃらないようで。
 −−けれど不思議。彼女が貴方に話しかけている間、貴方は随分大人しい。
 ………………。
 知らない。
 −−だから、薄情ですと。
 ……人の、信仰を侮辱した貴女が……薄情などと言えるものなのか。
 −−ふふっ、言われてみればそれもそう。
 っ……っ…………。
 −−ふふ、どうしました? 苦しそうですね。体調不良では?
 煩い……俺に話しかけるなっ……!
 −−では夢から覚めてください。まぁ覚めたところで、子供のように喚いて薬飲まされますけどね。
 −−この夢にまた堕ちて来るのですから、同じことですよ。
 嫌だ、いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!
 あぁ、*****、*****、助けて、助けて!

「はっ……ぅ……」
「……中々下がりませんね」
 電子音を立てた体温計を抜き取り、アルトリアは呟く。
「不安定なのだろう……仕方もない」
 夜になって病院に来たエミヤが、溜息を吐き出した。
「だがまぁ、弁護士が決まってよかった。ローザ、私は帰るが君はどうする?」
「……今日も泊まります」
「……少し教会へ帰った方が良いのではないかね? このままでは君まで体調を崩しかねん」
「大丈夫です……それに、夜中にディルムッドが喚き出しても大変ですので」
「……そうか」



 −−事件発生数週間前。
「……妻は浮気なんかしていないの一点張りで……私は妻を愛しているのですが、怒らせてしまって……今は別居しているんです」
「……なるほど、良く告白なさいました。奥様を愛していらっしゃるのならば、一度疑ったことを謝って、目を見てちゃんと話し合いをしてください。決して暴力に頼ってはなりません」
「……妻は、真実を話してくれるでしょうか」
「えぇ、勿論。誠心誠意をもって接すれば、必ず」
「……はい、ありがとうございます……妻に嫌われた気がして、自信がなくなっていたのですが……そうですね、もう一度しっかり話し合います」
「神は貴方を御救いになります。貴方方夫婦が末永くお幸せでいらっしゃることを、アーメン」

 ……彼はあんなに、幸せそうに、教えを説いていたのに。

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.400 )
日時: 2014/11/23 17:58
名前: ナル姫 (ID: vsc5MjXu)

リーガルハイの影響受けすぎ注意

「第一、証言人が少な過ぎる。お前だって加害者に向かって教授とやらが何と言ったのか知らないのだろう?」
「そっ、そうだけど!」
「加害者の回復の見込は正直ないが、唯一それを知る加害者が回復しない限り裁判は起こせん」
「っ……何だよっ! クソッ! クソッ!」
「落ち着けよ睦美……」
 元親が睦美を宥める。仕方もないことだとわかっている。だが、こちらが怒っているからといって精神障害を起こした患者を裁判に引っ張り出せば確実に症状は悪化する。ただでさえ他人を拒絶し、体調も日々悪化していると聞くのに。
「……相手は弁護士付いたのか?」
「あぁ、付いたと聞いた」
「なっ……!!」
「相手の弁護士は、尼子晴久……名前くらいは聞いたことあるだろう」
「……」
 元親がわずかに神妙な顔をした。知り合いか、とアンデルセンが聞く。元親は頷いた。
「……毛利の旧友だ」
「なるほどな……奴は取り込み上手だ。しかも、自身も虐待経験がある。まぁ加害者の味方をしても不思議ではあるまいよ」
「っ……くそ……教授っ……」
 −−事件発生から一ヶ月半。それぞれ弁護士も揃い、情報をかき集め、加害者の容態を抜けば準備は揃っていた。世間の目も段々と反れ、他の話題に集まっている。まだ、まだ、騒ぎ立てる連中がいるうちに裁判をしないといけないと、睦美は焦っていた。
「気持ちは分かるがな、裁判をしろと騒ぐ連中がいる、それはつまり加害者の気持ちを考えろという連中もまだいるということだ。世間の目が完全に反れてから裁判を始めようが今から裁判をしようが有利不利には何の変化もないぞ?」
「っ……」
 どうしようもないことは分かっていた。だが、どこの力が働いたのか、ディルムッドが回復しないまま裁判が始まることになったのだった。
「どういうことですか!」
 それを伝えに来た刑事を、叫びに近い声でアルトリアが責める。元就は、諦めろ、というように首を振った。
「分からぬ……どこで誰の力が法廷に働いたのか……」
「っ……」
 そしてハッとした。大友様だ。そうだ、大友様は初めから知っていたんだ。私たちの反応を試しにこの間ここに来たのだ。裏で手を回して、こちらが不利になるように−−!
「……ハッ、大友の餓鬼、好都合だな」
「……尼子様?」
「良いじゃねぇか、被告人質問のない裁判なんて滅多にねぇがもしかしたら有利に働くかもな。それに、完全回復しないまま裁判に引っ張り出したらこっちがオディナを殺しちまう。異例だが裏ででかい力が働いたなら仕様がねぇ。この裁判勝つぞ」
 ニッと口角をあげた晴久に、アルトリアは不安げに頷いた。
「……どうか、神の御加護のあらんことを」
「おう。アルトリア、お前も証人尋問に呼ばれる。お前は俺や相手の弁護士の質問に正直に答えてくれればいい」
「……はい」

 そしてその一ヶ月後−−初公判が開かれた。

「橘睦美、被害者の教え子であり、彼女を慕っていた人物だ。被害者が加害者に何を言ったかは知らないのだったな?」
「……あぁ。ハンカチを取りに行っていた」
「キリスト教信者だと分かったか?」
「……最初は、私服だったから気がつかなかった。でも、立ち上がった時に、ロザリオが見えて」
「つまりそういうことだ。ロザリオを持っていてもまさか狂的なまでにキリスト教を進行している修道士だとは気付くまい。地動説を説こうが進化論を説こうが被害者に何の落ち度もない。加害者が勝手に殺しただけだ……以上です」
「橘睦美さん。加害者に変わった様子は?」
「……顔色が悪かったこと以外、特には。でも、仲間の修道女、加害者は病み上がりだったと聞いた」
「被害者は、加害者がお前らの話を聞いて思わず立ち上がったとき、謝ったか?」
「……いや」
「加害者は元々病弱だった。きっと修道士ということもあって外に出る機会も人より少なかったはずだ。だから多少の具合の悪さは無視して外に出る。被害者は相手がキリスト教信者であるにも関わらず悪びれもせずに加害者を侮辱した。病み上がりの人間は基本的に不安定だ。精神が揺らいで思わず首を絞めても同情の予知がある。これは加害者が一方的に悪い話ではない。以上です」

「アルトリア・ペンドラゴン。洗礼名ローザ。素敵な名ではないか。裕福な家に生まれながら茨の道を選んだ、かのローザから名を頂いたのか?」
「……はい」
「ふん、まぁいい。随分ネットでは被害者も加害者も叩かれているな。これに対して意見は?」
「異議あり。この事件に関係ない質問だ」
「ある。世論を最も顕著に示すネットが関係ないだと? 笑わせるな」
「……酷い意見だと思います、どちらも……」
「まぁ修道女なら致し方あるまいな。中には、加害者が自ら両親を殺したと言う意見もあるが?」
「それはありえません! あの事件は、ディルムッドの父が母を殺した後、自殺をしたということで片付いたはずです!」
「だがあの事件は不明な点が多すぎる。俺も独自で調べたが、包丁は何故二本使われた? 何故加害者は警察の質問に何も答えなかった?」
「……そ、それは……」
「異議ありッ! 関係ねぇっつってんだろ!」
「つまりだ。加害者は周りの人間誰にも事件の真相を話さなかった。キリスト教を信じている癖に神を信じないで事実を告白しなかった。偽りの信者である可能性もある」
「そんなことっ!」
「ある。加害者は本当にキリスト教を信じているのか? もしかしたら、地動説を聞いて暴れただの、そういった類の話は全て加害者が作り上げた偽物かも知れない。本当に奴は精神を患っているのか? 単に腹の立つことを言われたから殺して、自分にはあくまでも悪気はなく、出来るだけ罪を軽くできるように演じているだけじゃないか?」
「……違う」
「どうだが。以上です」
「…………加害者の最近の様子は?」
「……悪くなる一方です。無理矢理流動食を流し込んでも、熱もあるのですぐに吐き出してしまうし、呼吸困難に陥ることもあります。でも、他人を拒絶するので、中々それを治すことも……」
「飯を吐いて、呼吸もできなくて、他人を拒絶する。これが演技だと? これのどこがだ! 加害者は紛れもなく病んでいる。被害者が加害者にとんでもない侮辱をした証拠だ! 以上です」
「異議あり。そもそも、何故侮辱したと分かる? 逮捕当時から錯乱していた犯人が、侮辱されたとでも言ったのか?」
「……っ侮辱されなきゃ、ああはならない」
「それは殺した罪悪感が奴を押し潰しているだけだとしたら? まぁ演技だろうがな」
「っ、テメェいい加減にっ……」
「そうだろう? 修道女、お前事件の真相を加害者から聞いたことは?」
「……いえ」
「見ろ、長年共に教えを説いてきた修道女にも話していない」
「っ……」

Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.401 )
日時: 2014/11/23 18:00
名前: ナル姫 (ID: vsc5MjXu)

「伊達政宗。橘睦美の友人だな。以前加害者に会ったこともあるらしいな」
「すれ違っただけだ。でもまぁ、偉いhandsomeだったから覚えてた」
「奴についてどう思う?」
「……あの時は修道服を来ていたから修道士だと気付いた。でもまぁ、よくよく考えてみりゃぁなんか怪しいよな。あんなにいい顔持ってりゃ何もしなくても女は寄るだろうし、それなのに欲に溺れないって……ありえねぇだろ、人間として」
「加害者は確かに顔もいい。男であっては羨ましい限りだ。それなのにそれを無駄にするか? 修道士である前に男である人間が。以上です」
「被害者について、何かあるか?」
「……いつ殺されてもおかしくはねぇなって思ったよ。本人で言ってたらしいし、正直な話、news見たときも遂にかとしか思わなかった」
「被害者は色んなところで恨みを買う人間だった。被害者の人間性にも大分問題がある。以上です」

「エミヤシロウ。アルトリア・ペンドラゴンと加害者の友人か。加害者の信仰をどう思う?」
「彼の信仰は本物だ。貴様や世間が何と言おうとな」
「はっ、まぁどうやらアルトリアとか言う女に気があるようだしそう言うのは当然か」
「何……?」
「異議あり、関係ないことだ」
「ん? あぁ、そうだったな。失礼した」
「被告人側、質問は?」
「……いえ、信仰が本物と言ってもらえるだけで十分です」

「オェングス・ラフェアル。洗礼名シャル。加害者の住んでいる教会の神父だ。貴方も加害者から過去の話を聞いたことはなかったな?」
「父にどんなことをされたのか、ということしか……」
「なるほど、自分を保護した神父にも言わないわけだ。以上です」
「加害者の人となりは?」
「信用できる子です。勤勉で真面目で、たまに融通のきかない時もありますが、優しい子なんです」
「……以上です」

「ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。加害者と面識があり、相談に来たとこもある。加害者の印象は?」
「まさに好青年、というべきだろう……だが、いつも笑顔で胡散臭いと思ったこともある」
「以上です」
「被告人側、質問は?」
「っ……ありません」


「畜生……論点がズレてきてやがる……つか俺達完全に不利だ」
「うまく相手に乗せられているようだな」
「不甲斐ねぇ……」
「……」
 病室で、アルトリアはエミヤから借りたスマホで掲示板を見ていた。泣きそうな目で、画面をスクロールする。
【加害者信用できねぇw】
【キチは加害者だったか】
【加害者庇ってた自分が馬鹿だったわ、すまん】
【ほら見ろ】
【いやいや被害者の弁護士無茶苦茶だから】
【妙に納得する被害者の弁護士】
 見終わったのか、椅子にスマホを置くとアルトリアはカーテンを開けた。そして病院の入口を見る。沢山の記者が押し寄せているのをエミヤとクーが必死に押さえている。十三年前の事件の真相を無理矢理ディルムッドから聞き出そうとしているのだろう。あんなのが一気にこの部屋に来たらディルムッドの容態が悪化してしまう。
「……テレビつけてみるか」
 晴久の声に反応した元就がリモコンを押し、テレビをつける。
『裁判の中で疑われ始めた、加害者の信仰と過去。唯一全てを知る加害者に話を聞こうと病院に記者が押し寄せていると言います。現場の遠坂アナウンサーと、中継が繋がっています』
『今、加害者の入院している病院の前です! ご覧ください! 沢山の記者が押し寄せています! 記者達を、加害者の友人である青年と刑事が二人で押さえています!』
『加害者の様子はどうなっていますか!?』
『今お前達と話せる状態じゃねぇ!』
『加害者の信仰は結局どうなのでしょうか!』
『帰れ! 貴様らを入れればネレオの病状が悪化する!』
『十三年前の事件について何かありますか!?』
『私達が知るわけないだろう!』
「……消してください。ディルムッドが起きてしまいます」
「……分かった」

 その後も続く公判で、加害者側は不利になる一方だった。
「お前凄いなアンデルセン……」
「ふん、単に事件当時のことばかりで話し合っていたら拉致が明かないしこちらが不利だ。その点、完全には明らかになっていない事件を使って加害者を不審な人物に祭り上げるのは簡単だからな。相手は相変わらず目覚めないし、死にそうだとも言われている。まぁ安心して良いのではないか?」
「……ありがとう。どこまで罪は重くできる?」
「問題はそこだ。精神が治らない限り、罪を負う能力はないと判断される。そうなれば、死刑は勿論のこと懲役刑も危うい。かといえ、加害者が治って被告人質問に持ち込まれたら不利になるかも知れないな」
「……そっか」

「……オディナが、立ち直ってくれればな……」
「被告人質問は明々後日だったか?」
「あぁ……まぁ、多分俺が変わりに質問を受ける形になるんだろうな」
「……そうか」
 ネットでは遂に、死刑にしろという意見まで出てきた。どうやら、十三年前の事件はディルムッドが犯人だという説でネット住民は一致したらしい。その分も踏まえた刑と言うことだろう。
 アルトリアは、頑張ってパックに入った流動食を食べさせようと頑張っていた。先に安定剤を飲んだおかげか、駄々をこねる子供のように首を振るだけで喚くことはしなかった。
「大丈夫だディルムッド……何も怪しいものは入っていないから……」
「あ、う……」
「……ディルムッド……」
 アルトリアの顔も疲れきっていた。仕方のないことだ。ほぼ毎日病院に泊まっているし、ずっとディルムッドの様子を見ているのだから。
「……無理はすんなよ、ローザ」
「……はい」
 晴久は一人、対策を考えていた。恐らく、これほど多く加害者が不利になる証言をする人物が多いのも宗麟の策略だろう。こちらだってディルムッドを有利にできる証人をもっと連れてきたいが、彼の出身はアイルランドだ。連れて来るのはできない。うまい対処法も、思い浮かばなかった。
「……なんとかするさ、それに、治らなかったら罪は言い渡せない」
「……はい」

 そして遂に、被告人質問の日が来たのだが……。
「……駄目か」
「……すみません」
「いや……来るか、アルトリア」
「……いえ。ここにいます。エミヤが代わりに行ってくれますので」
「そうか……じゃぁ行ってくるわ」
「はい……どうか、神の御加護を」

 −−おやおや、行かせてしまって良いのですか?
 ……何の話だ。
 −−分かっている癖に。今日は被告人質問ですよ?
 そうか……本当は、俺が行くべきなのか……。
 −−そうです、ほら、早く起きないと。
 −−うふふ、どうしました、いつもは煩いと振り払う癖に。
 ……聞きたいことがある。
 何故、貴女は神を信仰するのが無意味だと言ったんだ?


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97



この掲示板は過去ログ化されています。