彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第1章 『誰かの不幸、他人事』



窓際の一番後ろ。
1ヶ月ごとに行われる席替えの6回目は、教師の目が届かない、好ましい位置になった。
ただ一つ不満があるとすれば、クーラーの風が当たり過ぎて、冷えるってことくらいかな。

「あ、また近くじゃん。 ちょいーっす」
「どうも。 いちいち振り向くなよ? うるさいから」
「ひでーなー」

前の席の吉川とそんなことを話しながら、チラリと視線を隣に向ける。
席替えで浮き足立っている他の奴とは違い、一言も喋らず、誰とも目を合わせようとしない女生徒がいた。
園松ミユキ。
学校でも美人だと有名な子で、顔を見ると、ああなるほどなと思うくらいべっぴんさんだ。

「金曜の6限目に席替えねえ。 こういう心情で帰るのか」
「どういった心情になってんだよ」
「なんかさ、席替えした日って興奮しねえ? 月曜早く来い! みたいなさぁ」
「どんな性癖だよ、吉川」

入学したての中学生か。 でもちょっとわかるかも。
吉川はケラケラと笑いながら、俺と同じように、視線を俺の隣に向ける。
吉川の視線を無視し、園松ミユキはさっさと帰る準備をしだす。 担任の話が終わらないうちに、おそらくカラであろう鞄を持って、席を立った。

「ちょっと園松さん。 まだ話してるから、座って」
「それは、私にとって関係のあるものですか」

担任に真っ正面から言い切り、強気の姿勢を見せる園松ミユキ。

「関係あるでしょう。 一週間前に亡くなった末永くんは、ここのクラスだったんだから」

いまの発言もどうかと思うけどね。
わざわざ末永の死をむしかえさなくても。

「末永くんのことは、残念です。 でも、私にとって彼はただの他人です。 それに、どうして今さらその話をするんですか」
「……犯人がまだ見つかっていないから、気をつけてって言ってるんです」
「私には、末永くんの死をむしかえして、私たちの不安感を煽っているだけに思いますけど」

ぐうの音もでない、かな。
そう吐き捨てて、園松ミユキは平然と教室から出て行った。
担任は簡単に話をまとめて、あと4分を残して授業を切り上げた。

「すっげえよな相変わらず……。 園松ってけっこう言うこと外れてないよな」
「そうかな。 バカ正直なだけじゃない?」
「いやいやそれだけじゃねえって。 超こえー」
「あんがい、弱虫だったりもするんだけど」
「なんか言ったか? ヨワムシ?」

もう靴箱の所まで行ったかな。

「なんでもねえよ。 んじゃ、俺用事あるから。 じゃあな」
「ん、おう。 じゃあな」

教室を出て、彼女の後を追うため、小走りになる。
ああ楽しみだ。
いろいろと、いろいろと。