彼女が消えた理由。
作者 / 朝倉疾風

第3部 第2章『愛しいくらいに、残酷な』4
『今日も学校に来てなかったけど、どうしたよ』
「ちょっと緊急事態。 吉川、おまえこっちこれる?」
『今から? ……10分もあればいけるけど。 それ、園松関係してんの?』
「俺、大ピンチなわけよ。 ちょっといまもダメージくらってる」
『わかった、行くよ。 駅で待ってろよ、陽忍』
園松ミユキが、消えた。
これが自らの意思による家出や、失踪には思えない。 俺が安藤さんを送る数分前は、普通だったんだから。
誘拐とも考えにくい。 玄関にあったミユキの靴がなくなっていた。 それに、アパートの3階で誘拐、というのも犯人のリスクが高いだけだ。
「警察に言わなくていいのかよ」
「それも考えたけど、大事にしたくない。 マスコミとかにバレたら、またうるさいから」
駅で合流した吉川に、ミユキが消えたことを説明すると、彼は不安そうな表情をあらわにした。
もっともなことを言ってくれたけど、警察はダメなんだ、
それでなくても、蓮奈さんが殺されて数社が心境を聞きに電話をかけてくるほどだった。 あんな目には、もうあいたくない。
「だけど、もし何か事件に巻き込まれてたらどうするよ。 縁起でも無ぇけど、園松の叔母さんを殺した犯人だって、まだ見つかってねえんだから」
「関係、あるのか?」
蓮奈さんが殺された事件と、今回のミユキが消えた理由と。
「もしもの話だよ」
「あー、ここにいた。 もっしもーし、そこのニーチャンら」
俺は無視したのに、吉川が振り返る。
仕方なく声がしたほうを振り向くと、どっかで見た顔があった。
金髪の、ちょっとヤンキーな雰囲気の。
「ああ、ニーチャンらって言っても、そっちの、なんか眠たそうな奴な」
「……………あ、あの人だ」
スーパーの雑誌売り場で財布を落としていった、金髪の男の人だ。
あと、どこか憂いげな男も一緒にいる。 こちらは新顔だ。
「あの時は財布拾ってくれてどーも。 入ってた名刺のおかげで電話かかってきたときは、マジで焦ったわ。 持ってきてくれた奴の特徴聞いたら、アンタだってすぐわかった。 礼が言いたくてな」
礼が言いたい……。 それだけで駅周辺を連れとたむろしているか?
「いいですよ。 わざわざどうも」
「おう。 ……あ、名刺の俺の名前読めたか? 読めなかったろ」
「確か、月が無いみたいな感じですよね」
「あれ、“つきな”って読むの。 俺、星野月無っていうんだわ」
ニコリと笑った、星野さん。
俺は星野さんよりも、その横でじっとこちらを見ている男が気になった。
吸い込まれそうなほど目が黒い。
「あの、すいません。 俺たち急いでるんですけど」
少し焦ったように吉川が星野さんに言う。
「ああ、悪いな引き止めて」 「アンタの名前は?」
星野さんの隣にいた男が口を開く。
いきなり名前を聞かれて、面食らった。 しかも俺限定。
「すまんな。 コイツ、少し変な奴だから」
「いえいいですよ。 …………陽忍です。 陽忍千尋」
名乗ってから立ち去るのって、ゲームの主人公みたいだと思う。
これだと、パーティの仲間は吉川ってことか。 なんか頼りないな。
さて、ミユキという仲間を捜しだして、冒険の書なるものにデータ保存だ。

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