彼女が消えた理由。
作者/朝倉疾風

第2章 『青空のように心が晴れたなら』5
△日常が堕ちる
本日、給料日なり。
バイトの自給は800円。 バイト先は家から近いし、高校の先輩もいるから、けっこう面白い。
高校1年の夏から始めているけど、やめる気はない。
「あ、アニメ録画しとくの忘れてた」
んー、陽忍は録画してくれてるかな。 またアイツの家で観させてくれねえかなぁ。
あそこのテレビ、けっこうデカいんだよなぁ。
俺の家のテレビ、なんであんなに小さいんだろう。 数年前に買ったものからかもしれない。
自転車で、街頭も住宅もない田ぼ道を走る。
暗いから前がよく見えないのが難点。 自転車のライトだけだと視界が狭い。
ふと、その暗闇の中を見た。 真っ暗で、園松の瞳の色に似ていた。
「…………え、」
あ?
振り返る。
誰かと、すれ違った。 すれ違って、なにか、え、あ?
「 は?」
倒れる。 自転車ごと。 受け身は、とれない。
痛い。
というか、なんだこれ。
「え……血? なんで、俺、刺さ、」
誰かが、俺のほうへ近づいてくる。
暗くてよく見えない。
「明かりが眩しいのがいけないんだよ。 わたしは何も悪くないよ」
女……?
ソイツが屈みこんできて、俺の顔をのぞきこむ。
「ねえ……人を捜してるんだよ、わたし」
「け、けーさつ……ッ」
「人を捜してるんだよ。 聞こえてる? わき腹を刺しただけで、死にはしないよ」
自転車のライトがソイツの顔を照らしだす。
顔半分が、なんか……え、コイツ、なんだよ。
ひ、
「 」
「うるさいなぁ。 静かにしなよ」
化け物だ。
なんだ、コイツ。
普通じゃない。
なんで、顔面が、こんな……ッ。
「わたし、ヤスっていうんだ。 ねえ、サイを知ってる? アンタの制服はサイのそれにそっくりだ」
手が伸びてきて、頬を撫でられる。
その手がやけに冷えていて、恐ろしい。
携帯に手を伸ばして、震える手で適当に番号を押した。
コールが、鳴る。
「誰に電話してるんだろう……。 お友達かな」
はやく、出てくれ。
はやく
はやく
はやく
はやく
はやく
はやく
『はい、もしも 「救急車! 救急車、たすけ、やだっ!」『………吉川?』
陽忍の声。
ホッとしたのと、目の前にいるワケの分からない奴がいる恐怖で、自分でも恐ろしくパニックになった。
「な、んかっ、変な……なんだコイツ、誰だよッ」
『おちつけ吉川。 いまどこよ』
「白伏公園の近く! はやく、なんか……ッ、あっ、ああああああ、」
携帯を持っている手を、蹴られた。
血が溢れているわき腹を、遠慮なく指でなぞられる。
「変なヤツって……わたしのことだよな」
ソイツが、笑うのが、見えた。
あ、れれ。
なんか寒い。
あ、れ。

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