彼女が消えた理由。

作者 / 朝倉疾風



第3部 第1章『その日、彼女が泣いた夜』3



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彼女と出会ったのは、公園だった。

真夜中に仲間と花火をしていたら、彼女がやってきた。

いまどき誰も着ないような白いワンピースに、何故か裸足だったのを覚えている。

金髪やらの集団に彼女はひとりで声をかけた。

「楽しそう。 わたしも混ぜて」

男だらけのグループに、臆することもなく。 

試しに線香花火を渡すと、子どもみたいにはしゃいでいた。

「名前、なんていうの」

「ヒロカ」

俺が14歳のとき、ヒロカは27歳だった。


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ミユキの手をひいて近所のスーパーに買い物に行く。
傍から見れば同棲中の恋人か、兄弟か。 それとも友だちか。 どう見えるのかは分からないけど、絶対に親同士が浮気していて殺人事件にまで発展した10年前の被害者とは見えないだろう。

「お菓子、買っていい?」 「どうぞ」

蓮奈さんが殺されてから、依存しきる人間がいなくなったいま、ミユキは俺にも徐々に近寄るようになってきた。 俺が近寄るのではなく、彼女からの接近はアリらしい。

ミユキが菓子を選んでいる間、暇なので並んである週刊誌を適当に見ていた。

「…………あ」

蓮奈さんを見つけた。
『超人気美人漫画家、自宅で殺害される』 と見出しがある。

「蓮奈さんだ」

あの人、人気の漫画家だったのか。 全然知らなかった。 ペンネーム……七星悠貴。 これでななせゆうきって読むのか。

「へえ……これ知ってるけど、蓮奈さんが描いたのか……」
「あっれ、おかしいな。 今週の無ぇじゃん」

横からぬっと現れた人影に少し驚く。 金髪が視界に入り、あ、ヤンキーだと思った。

「今週の週刊誌……どこだどこだ……あ」

男の目が、俺の持っている週刊誌に向けられる。 目と目が合った。

「えっと……どうぞ」 「んにゃ。 えーよえーよ。 見たい所だけ見せてくれたら」

軽い口調で男は言いながら、週刊誌を覗き込む。

「お、ちょーど見たいページだ。 俺、この人のファンだったんだよな。 ショックだわ」
「そうなんですか。 俺はあんまり漫画とか知らないから……」
「珍しいね、今時の子にしては」

ポンッと肩を叩かれて、そう耳元で囁かれた。 男はそのまま自動ドアに吸い込まれるように出て行った。
記事、あんまり読まなかったみたいだけど、よかったのかな。

「ポテチ、うすしお味にした」 「っ、びびった」

ミユキから話しかける事なんていままでなかったから、少し新鮮。
彼女の手には見慣れたスナック菓子が握られていた。

「んじゃあ、帰ろうか」 「……これ、なに?」

ミユキが屈みこんで、財布のようなものを拾った。 デザインが奇抜で、それが本当に財布なのか一瞬分からなかった。

「──あ、さっきの人が落としたのかも。 名刺か何か入ってない?」
「ある。 ……星野……なんて読むの?」

ミユキが差し出した名刺には、『星野 月無』とあった。 名前の読み方が分かりにくい。

「普通は読み方も書いてるんだけどな。 ……つきなし? 分からない」
「これ、どこに届けるの?」
「交番。 この近くにあったから」

野暮用ができたけれど、ミユキは嫌な顔ひとつしない。
確実に以前より丸くなったというか、俺に依存方向を向けている。

「帰ったら、ご飯食べような」 「うん」

平日の昼なのに。 俺とミユキは学校にも行かず。
そういえば、吉川に会ってないと、思った。