彼女が消えた理由。
作者/朝倉疾風

第2章 『青空のように心が晴れたなら』4
家に帰ると、どうしてかそこに五鈴がいた。
「よっ」 「……鍵、どうしたの」 「大家さんに兄デスって言ったらくれた」
ああもう。 どうして鍵を渡しちゃうんだ。
コイツは俺の足を折ったんだぞ。 謝罪もナシになんだコイツは。
図々しいというか、なんというか。
「しばらくここに住ませてもらうわ。 俺、こっちに家無ェから」
「あのさあ、少し横暴すぎだろ。 言っとくけど、俺はアンタを兄とは認めてねぇから」
「別に認めろとは言ってねェよ。 まあ、テキトーに」
ソファの上で、俺が滞納していたお酒の缶を転がしている。
酔っているのか、ほんのりと頬が赤い。
「×××は見つかったか?」
「いや、だから俺は探さないって。 面倒くさい。 ただでさえ妙な転校生からも人探しをおしつけられてるのに」
なんか、妙にタイミングが重なってるよな。
系統も、似ている。 五鈴もヴィジュアル系を好んでいるようだし。 着ている服装もそれっぽいし。
「どんな生活してんのかと思ったら、けっこうマシだよな」
「両親の遺産があるから」
けっこう資産家だったからな、あの人たち。
「……両親、ねえ。 10年前に全員死んだんだろ。 何があったのか知らんけど」
「ちょっと、酒の後片付けちゃんとしろって」
なんとなく過去に触れられたくなくて、話をかえる。
五鈴は不服そうにしていたが、丁寧に缶を並べ始めた。 こういう所は、母親に似ている。
缶をビニール袋に入れていると、携帯が鳴った。
「おまえのじゃねぇの? 俺じゃねえし」
「あー……クラスメイトからだ」
吉川からだった。
珍しいな。
「はい、もしも 『救急車! 救急車、たすけ、やだっ!』 「…………吉川?」
電話越しから聞こえてきたのは、吉川の悲鳴にも近い混乱した声。
いきなりの大声に、思わず耳がキーンとなる。
『な、んかっ、変な……なんだコイツ、誰だよッ』
「おちつけ吉川。 いまどこよ」
『白伏公園の近く! はやく、なんか……ッ、あっ、ああああああ、』
きれた。
一方的に。
「────ちょっと、出てくる」
「は? どこによ」
「白伏公園」
もしや、これは吉川ピンチじゃないか?

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