彼女が消えた理由。
作者/朝倉疾風

第2章 『彼女の過去=彼の過去』4
土日はミユキの家に出向いたこと以外、特になにもなかった。
ずっと家にいて、外になんか行かなかった。 暇と言えば暇だったけれど、ときどきミユキが癇癪を起して対決したくらい。
それ以外は本当に時間が余りすぎて、久しぶりに学校が恋しくなった。
「そういえば席替えしてたっけ。 隣だったよな、俺ら」
「外で話しかけないで。 ていうか、なんであんたと一緒に学校行かなきゃならないの。 わたし自転車で行く」
「バカ。 もう自転車じゃ間に合わねえって」
そんなやりとりがあって、いまミユキと駅のホームにいる。
朝なのにけっこう暑い。 昼くらいからまた温度が上がるらしいけれど、冗談じゃない。
暑さのせいか口数も少なく、ミユキなんかどこぞのヤンキーみたいに地べたに座りこんでいる。
おっさん座り。 ギリギリパンツは見えてない。
「あれれ……。 陽忍くん?」
この暑さのなか聞くと少々イラッとする声。
振り向くと、徳実さんがうちわで自分をあおぎながら立っていた。
「おはよう。 今日めちゃくちゃ暑いよね」
「本当にね」
「でも……ぜんぜん暑そうに見えないなあ」
暑いよねと同意見を求められたから肯定したのに。 いや、実際暑いけど。
そんな徳実さんが、俺のすぐ隣でペタリと座り込んでいる少女、ミユキに気づいた。 ミユキは興味なさそうにぼんやりと線路のほうを見ている。
「────彼女?」
「そうだよ」 「死んじゃえ」
下から否定と殺意のこもった声が聞こえたけど、無視。
「あれ、でもその子……あれだよね。 史人の彼女だった子……だよね」
「ふみと?」
「末長のこと。 わたし、あいつと小学校から同じなの」
末長って下の名前史人っていうのか。 知らなかった。
「俺とミユキもそうだよ。 もう10年の付き合いになる」
「幼なじみってわけね。 んーまあでも、わたしのはもういないしね」
末長の死を、はははと笑いながら語る幼なじみ。
強がっているのか、本当にただの昔話でしかないのかは、わからないけど。
「史人はさあ凄く優しいよ。 わたしにだけじゃなくて、みんなに優しい。 いじめられていた子がいたら助けるし、泣いていた子がいると慰めるし……。 なんだか、陽忍くんみたいだな」
「俺みたい?」
冗談だろ。
どこが似てんだよ。
「陽忍くんだって、孤立している子がいると放っとけないタイプじゃん。 んー……そう見えるよ。 みんなから頼られてる。 親しくされてる。 すごく史人とそっくりだよ」
踏切の音。 電車がもう来る。
ミユキがのっそりと立ち上がり、首をコキッと鳴らせて、はじめて徳実さんを見据える。
「ぜんぜん似てないから」
驚愕した徳実さんの顔。
2番線に電車がきて、ミユキがさっさと乗り込む。 想像していたよりあまり人は乗っていなかった。
抜け殻のように電車に乗り込んだ徳実さんとは、一度も視線を合せなかった。

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