彼女が消えた理由。

作者 / 朝倉疾風



第3部 第2章『愛しいくらいに、残酷な』3



アパートに帰宅して、俺は、茫然とした。


ミユキが、消えてる。


「………………………は?」

なんだこれ。 なんの冗談だよ。 なんでミユキがいないんだよ。
意味わからん。 さっき安藤さんを駅まで送って、帰ってきて。 わずか10分も経っていないのに。

「ひとりで出かけたとか……?」

ミユキがひとりで行ける場所と言えば、学校くらいだ。
どこかに隠れてることはないだろう。 そんなキャラでもないし。

「なんでいねえの。 靴……もねえし」

焦るな。 落ちつけよ。 携帯、携帯は持ってないのか。 どこに行ったんだよ。 あんなに家から出ないミユキが、どこかに行ったなんて。
いや、それ以前に。

「消える理由がわかんねぇよ」

ミユキが消えた理由が、本当にわからない。
自分から外に出たのか? 考えづらいけど、そうなんだろう。 なら、どこに行ったんだよ。 見つけなきゃ。
捜さなきゃ。
ひとりは嫌だから。

「ミユキ……ッ」

何だろう、この嫌な感じ。 モゾモゾするというか、何か嫌な予感しかしない。
どうして。
こんなに胸騒ぎがするのは、いつ以来だろう。

ああ、10年前だ。



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彼女は、どこか性に関しての知識が乏しく、幼稚だった。

たくさん男が居たようで、彼女自身、売春に似た行為をしていた。

だけど、傷ついた様子は全く見えなくて。

それどころか。嬉しそうに男に媚びている彼女を見て、腹が立った。

「なんでそんなに男が好きなの。 誰に対しても足開けるの」

あえてキツい言い方で彼女にそう言うと、彼女がへらっと笑って、

「わたし、気持ちいいこと好きなの」

サラリとそう言った。

「だから、誰でもいいの。 ブサイクじゃなかったら」

「……嘘、だろ」

「……そうね。 まあ、半分嘘ね」

彼女が、高校時代からの親友だと紹介したひとりの少女を好いていることは、わかっていた。

その親友の名は、千里というらしい。

ヒロカは、千里を好きだけど、彼女には園松という男が既に居て、

自分は親友のままなのだとも、言っていた。

「こんなに千里のこと好きなのに、気づいてももらえないのよ」

「告白すれば?」

「同性愛者のわたしを、彼女が受け入れてくれるわけない」

「俺にしたみたいに、誘えばいいじゃん」

無理よ、と。

ヒロカは笑った。



「わたし、千里は穢したくないもの」



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