彼女が消えた理由。
作者/朝倉疾風

第1章 『誰かの不幸、他人事』3
高校から俺の住むアパートまで、少しかかる。
自転車では時間がかかりすぎるため、電車を通行手段に使っているけど、こんな夏場で電車を待っていることが苦痛だ。
暑いし。 電車の中はクーラー効いてるんだけど。
こんななか、ミユキは自転車で帰ったのか。 片道で40分かかるぞ。
「まあ、人ごみ苦手そうだしな」
そんな憶測をたてて納得し、一人頷いてみたりした。
なんか、変な目で見られてるよな。
主に、隣にいる女子高生に。
「………………………」 「……………………」 あ、目があった。
そのまま、じいっとお互いがお互いを見つめあう。
なんか、ドラマみたいだな。
ここはひとつ、男がリードせないかんだろうということで。
「俺の顔になにかついてる?」 自分でもクサいと思う台詞を言ってみた。
「ううん。 2組の陽忍くんかなって」
「そうだけど」
誰だっけ。 女の子の知り合いが多すぎて、いちいち覚えきれん。
別に、自慢じゃないけど。
「わたし、5組の徳実柚木っていうんだけど……。 知ってる?」
「とくみ……徳実ねえ、徳実……。 中学校同じだっけ?」
「全然違うクラスだったけどね」
エヘヘと笑う、徳実柚木。 以下、徳実さん。
どこにでもいそうな、可愛らしい系の女子。 この印象につきる。
「前から陽忍くんと話してみたかったわけ。 なんか皆が陽忍くんはカッコいいって言ってるから」
「それはどうも。 で、徳実さんから見て俺はどうだった?」
「カッコいいよ」
「それはよかった」
言われ慣れてるから、もう赤面とかしない。
チェリーボーイは卒業したわけよ、俺も。
「あのさあ、陽忍くんは彼女いるの? っていうか、好きなコいる?」
「好きなコねえ……。 それっぽいのが一人いるよ」
頭の隅に浮かんで消えるのは、いつだってあの子だ。
「でも絶対に俺のことを好きにならない子でさ」
「失恋決定みたいな感じかな」
「そうだよ。 …………なに。 俺に気があるの?」
踏切のうるさい音がして、右側から電車がやってくる。
乗っている人は少なくて、ホッとした。
「興味あるよ」
中に入って、一気に汗がひいていくのがわかる。
涼みながら振り返る。 徳実さんが何か言ったような気がしたから。
「何か言った?」
「なにも言ってないよ」
嘘。 本当はちゃんと聞こえていたんだけどね。

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