彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



番外編 『きみが触れるかげ』2






息を吐いて、温かい体温の残るシーツに体を埋める。
脱力感。
今日、何日だっけ。

「……家の人は?」 「あいつら、仕事で家あけてるから」

隣で同じように息を吐いているミユキが、チラリと時計を見る。
夕方の6時だった。

「あんたのこと、放ったらかしなんだ」
「ただの遠い親戚だし。 あと1年ちょいの我慢。 高校生になったら一人暮らしする」

あっそう、と興味無さそうに返事をし、ミユキが起き上がる。
首に、俺が噛んだ噛み跡が残っていた。

「噛むのやめてよ。 痛いし、痣になる」
「ごめん」

ミユキと肌を重ねるようになったのは、いつからだろう。
最初は、ただ、ミユキがヒロカに見えて。 ちょうどそういうのに興味をもつお年頃で。

──ヒロカ……。

「わたしを、おかあさんだと思ってこんなことしているの?」

軽蔑するわけでもなく、無表情な瞳で彼女は聞いてくる。

「まさか。 俺はちゃんとミユキが好きだよ」
「わたしはアンタのことも、アンタとそっくりなあの女も大嫌い」

ミユキが母親であるヒロカに似ているように、俺も自分の母親に似ているらしい。
そのことが、ひどくミユキを不快にさせているらしい。

「じゃあどうして俺とこんなことしてんだよ」

別に拒否されたら止めるのに。

「───アンタに、わたしとおかあさんは違う存在なんだって知ってもらうためよ」

園松ミユキが、笑う。
それは今日、クラスの女子に見せた笑顔ではなく、どこか不敵で、妖艶で、官能的な笑み。
ヒロカに、似ている。

「いつまでもおかあさんの幻想を見ているんじゃなくて、早く目を覚ましてほしい。 わたしは、おかあさんの身代わりじゃないの」

そうは言うけれど。
自分の存在が母親ではないと証明するために、母親の身代わりになっている彼女の行為は、矛盾している。
矛盾だらけだ。

ミユキが俺を嫌いだと言いつつもこうして関係を保っていることも、俺はミユキが好きだと自覚しているのに、ヒロカの影を追っていることも。

むじゅんだらけ。