彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第2章 『彼女の過去=彼の過去』7



ミユキはまだ眠っているし、酒を飲んだ蓮奈さんも寝てしまった。
まだ学校に行くまで1時間ほどある。
ミユキの隣にもどって、横になるけれど、眠れないから。


少し、昔話をしようと思う。

俺の母親は、ミユキの母親と高校時代からの親友で、卒業して就職して、お互い結婚しても、付き合いは続いていた。
感情の起伏が激しく、いつでも強気な母親と、おとなしめのミユキの母親は、性格が合ったのかもしれない。

ミユキの母親が、夫と離婚したときも、母親は彼女をなぐさめていた。
俺が小さいときから、当たり前のように家に来て、息子のように可愛がっていてくれた。 家族ぐるみのつきあい。

──千尋の「尋」 はね、わたしの名前からとったの。

──千里が、あなたの名前にわたしの漢字を使ってくれたのよ。

──来年から一緒の小学校になるわね。 この子、わたしの娘のミユキ。 仲良くしてあげてね。

ミユキと会ったのも、そのころだった。
俺の母親が、帰りがいつも遅くなる父親とひどい喧嘩をしだしたころ。
あの人は娘と一緒に家に来て、父親の帰りが遅くなると愚痴る母親の相談相手になっていた。

──千里はいつもわたしを助けてくれたよ。

──だから、いつでも頼ってちょうだい。 わたし、あなたの力になるから。

そして、10年前。
その相談事から、1年後。

すべての嘘がばれ、淑女の仮面は壊れ、俺の母親は殺人者となった。

「……………………」

そしてその怒りは、その時一緒にいたミユキに向けられる。
ミユキが、俺の父親と彼女の母親との子どもなのだと誤解したらしい。
2人を惨殺した後、泣き叫び、嘔吐し、失禁しかけのミユキに、

「                           」

刃を、むけた。
むけた、むけた、むけた、
それから、っ、殺した。 だれがだれを? おれが、がっ。
俺が、ころした
みゆきを守るために、おれが母親をころした
ちが、血が、チ、がついて、みゆきが、ないてて、

それからそれからそれからそれからそれからそれから、、

あれ、蓮奈さんだ。 蓮奈さんがなんか俺をよんでる。
なんでーだーろーうなーっ
っていうか、苦しい。 人間やめたいかも。 そんなお年頃。
うわー洪水だ。 なあんも聞こえない。 あ、でもちょっと苦しいかも。


──自分の母親が、アンタの父親と浮気をしてから?


そうかも。 だって普通さあ、ヤるか? だって、俺ら見たんだよ。
ミユキと、ふたりで。
そしたら、さあ、なんだあれ。

「俺さあ、女とヤるときいっつも、尋花だと思ってん、だよね」

思っていた言葉が口から出た。
驚いている、蓮奈さんの顔。
そりゃそうか。 自分の姉とのことを妄想してるって言われてんだから。

「尋花はなんで親父を選んだんだろうな。 俺が大人になったら、尋花、好きになるのに。 なんで、俺じゃなくて、親父なんだろ」
「────泣いてるよ、千尋」

──チヒロ。

──千尋、わたしの名前 「ヒロカ」っていうの。 よろしくね。

──おばさんって呼んでほしくないなぁ。 ヒロカって呼んで。

「泣いていいよ、ガキ」
「                          」

死にたい。