彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



番外編 『きみが触れるかげ』1



「園松、遅刻だ。 さっさと席に座れ」

熱血な男教師が、今日もミユキに説教する。
今年赴任してきた担任は、いろんなことに熱血で、すごく面倒くさい。
学校に連絡もいれず、堂々と遅刻をしたミユキは、担任を視界に捉えず、自分の席に座った。

「もう中2だぞ、園松。 ちゃんと挨拶くらいできんのか」

理不尽に挨拶を要求する担任。
ミユキは鬱陶しそうに担任を睨み、 「……おはようございます」 小さく答えた。
それに満足したのか、担任は何も言わず授業を進める。


園松ミユキは、学年で一番可愛いと評される、俺の幼なじみだ。
幼なじみ、というか、お互いの親が浮気していた仲なんだけど。
あの事件後、俺とミユキは同じクラスになることはなかったんだけど、中学2年生になって久しぶりにクラスが一緒になった。

中学の奴らなんて、俺たちと同じ小学校だった奴のほうが多いんだから、自然と俺らふたりの過去は広まっていて。
俺はこの性格だから、それなりに喋れる奴もいるけど、ミユキは違う。

「あんな性格だから、皆から逞しいとか思われるのかね」
「………独り言でかいよな、陽忍」

前にいた吉川が振り向く。 そんなに大きかったか?

「ごめん。 ……吉川、あほ毛たってねえ?」
「ええっ? マジで? うっそどこだよ!」
「ここ」

吉川はいい奴だ。 小学校の時から仲がいいけれど、事件のすぐ後に、誰も俺に話しかけてくれなかったのに、コイツだけは気楽に接してくれた。

「吉川はポヤ~ンとしていていいよな」
「………それ褒めてる?」




休み時間は、ミユキの周りに女子数人が集まる。 バカでかい声の女が一人いて、そいつのおかげで離れて喋っている俺と吉川にも、会話の内容が筒抜けだった。

「ミユキまじやっべぇよ。 あのゴリラ相手にあの態度!」
「絶対アイツ悔しがってるよ。 もっと言ってやんなよ」

ケラケラ笑う女子の中心で、ミユキも笑っていた。
俺には決して向けない、笑顔。

「園松って意外に女子から人気だよな。 キツいし、けっこう同性から嫌われるタイプかと思ってた」

ぼんやりと吉川が言う。
コイツはミユキのことを好きなんだろうけど、見てるだけでいいっぽい。 憧れなんだと言っていた。

「大人相手にもキツいこと言うから、カッコいいんじゃねえの」
「美人だしな」
「ああ」

ヒロカに似ている。
忘れたくても、ヒロカの顔と瓜二つの奴がいるんだから、仕方ない。 ヒロカのことなんか、大嫌いだと。
言ってやりたいのに。

未だに過去にすがっているのは、俺なのかも。