彼女が消えた理由。

作者 / 朝倉疾風



番外編 『きみが触れるかげ』6



ミユキの自殺未遂を機に、宮脇はクラスの皆から避けられるようになり、期末の終わりには引っ越ししてしまった。
当の本人であるミユキは、手首の傷が治ると何事もなかったかのように学校に来て、ひとりで普通に学校生活を送っていた。
誰も彼女に近寄らなくて、担任でさえも、彼女を見ないようにしていた。

「園松って、苦しいんだと思う」

放課後、日誌を書いていた俺に吉川が近づいてきて、そう言った。
同情などしていない、ポソリと呟いた声。

「どうして?」

手を止めずにたずねる。

「わかんないけど……俺は園松のことを可哀想とかは思えないけど、すごく苦しいってだけはわかる」
「そうだな。 俺もそう思うよ」
「────お前は同情されることも、過去に触れられることも嫌いだってことは知ってるけどなあ、俺はお前を友だちだと思ってる。 俺はお前が好きでもある」
「ど、どうも……」

直球で好きだと言われると、少し胸がざわっとする。
慣れてないから。

「だから、俺はお前と一緒にいる。 お前の過去のことは人並みに知ってるけど……まあ、園松とのこととも。 だけど、俺はお前を他の奴らと同じように扱ってるし、まあ、園松は少し近寄りがたいけど!」

一気にそこまで言って、吉川ははぁっと息をつく。
ゼエゼエ言ってるけど熱烈な告白をどうも、と思う。 それだけでもないけど。

「だけど! 俺は園松もお前も同じだし、つうかお前は親友だし。 なんかずっと友だちでいやがれバカヤローみたいな!」

事件後、小学校でまともに話してくれたのはコイツだけだった。
いま思うと吉川がいて助かった部分もある。 こういうときとか。

「友だちでいるって。 俺バカじゃないし」
「お、おう。 …………ど、どうも」

照れんな。

「で、わざわざ残って俺にそれを言うために来たの?」
「いやあ……ふふふ。 なんか、お前ときどき分かってなさそうだから」
「いや? ちゃんと分かってるよ」

痛々しいくらいに。
優しさを向けられると少し戸惑って、自分が優しさを向けるのは少し怖い。 人間をやめたくなる時もあるし、投げ出したくなる時もあるけど。
吉川みたいな人間と触れ合っているときは、そんなに嫌でもない。

「俺も吉川のこと、嫌いじゃないし」
「──お、おう……」

だから照れるな。

「日誌もう終わるから。 俺が出て行ったあと、鍵、職員室まで持って行って」
「おう! ……え、俺が?」