彼女が消えた理由。
作者 / 朝倉疾風

第3部 第3章 『届くことのない恋文』4
俺が……ミユキの父親に会った?
「何言ってんだよ、五鈴。 ミユキの父親は、ミユキが生まれる前にはもういなかったじゃねえか。 それからヒロカはずっと独身だったろ」
ミユキに父親がいるのか?
「だけど、一度会ったじゃん。 ……ああ、お前けっこう小さかったもんな。 お前が5歳くらいのとき」
「どこで? どこで会ったんだよ」
過去を何度も振り返っても、そんな記憶はどこにもない。
ミユキの父親という衝撃な人物との遭遇だったら、俺は絶対に覚えてるのに。
「ここの近くのスーパー。 俺が糞親父と喧嘩して家から出たとき、お前もついてきたじゃん。 スーパーで涼んでたら、高校生が話しかけてきたじゃん」
五鈴が親と喧嘩して家出、なんてことはしょっちゅうだから、覚えてない。
「すっげえヤンキーでさ。 絡まれるって思ったけど、お前にアイス渡して、『ミユキのこと、よろしくな』って言ってた。 んで、俺がじっとそいつ見てたらさあ、」
────俺、ミユキの父親。 ヒロカはレズだけど、これらは内緒にしててな。 陽忍五鈴クン。
「そう言われて、すっげえビックリした」
「……あ~なんとなく……覚えてる……気もする」
顔はよく覚えてないけど、ドラマに出てくる不良みたいな男……のような気がする。
ああ、思い出せない。 声とか、顔…………ダメだ、まったく。
「そいつにはあれから会ってねえけど、たぶん地元の奴だろうな」
「なんでわかるんだよ」
「ここらでしか販売されてない、マコト★トコマのキーホルダーをつけてた」
……ああ、なんか商店街を賑わせようとかで、マスコットキャラクターみたいなのがいたな。
なんか……タヌキみたいな。
「俺、そいつ見つける」 「は?」 「それで、ヒロカのこととかもいろいろ聞く」 「なんでだよ」
コイツはバカじゃねえのか?
「ヒロカが同性愛者なら、なんでミユキが産まれるんだよ!! なんでうちの親父と関係もったんだよ!! いろいろ不自然すぎるだろう? ただでさえミユキが消えて、切羽詰まってんのに……っ、それより、そんなことよりも……」
10年前、ヒロカは俺の母親に殺されてんだぞ。
「ヒロカの気持ちが……わからねえ」
ああ、ハッキリと分かってしまった。
俺は園松ミユキを好きなわけじゃない。
いまでも、俺は、あの頃と同じだ。
園松尋花を、愛してるんだ。
△ △ △ △
ヒロカがどうして俺に何も言わずに子どもを出産し、育てていたのかはわからない。
だけど、久しぶりに再会したら、2歳くらいのミユキがいて、驚いた。
「可愛い……」 「そりゃ、キミとわたしの子どもだから」
撫でてみると、ふやふやと柔らかかった。
これが自分の子どもなのだと、素直に嬉しい。
「おろすって言わなかったか?」
「少しだけ……気が変わったの」
「なんだそりゃ。 情でもわいたのか?」
ふわふわしたミユキを抱いて、完全に母親の表情をしていたミユキは、
ゆっくりと俺を見て、ぞっとするほどキレイな声で、顔で、言った。
「まさか」
そして、こうも付け足した。
「復讐するの。 わたし、復讐者になるんだよ」

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