彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第3章 『影濁り、闇現る』4



曳詰ヤス。

彼女はあまりに不自然で、あまりに違和感があった。
髪の毛はサイとは違い、無理やり脱色している。 目もカラコンを入れており、ビー玉みたいな青色だった。 だけど、前髪が長くて顔の左半面が隠れている。
性別は女らしいけど、男だと言われても納得のいくほど、中性的な顔立ちだ。

「いままでどこにいたよ。 心配はしてねぇけど、何しでかすんだってハラハラした」
「ここ数日まともに寝てないんだ。 サイの家で寝られる?」
「好きにしろ」

わかった、と了承して、ヤスがふいにこちらを見た。
目が合う。
不安定な存在を前にして、背筋が戦慄く。

「こいつは同じクラスの陽忍千尋。 おとなしい奴だから、あんまからかうなよ」
「ひしのぶ……。 ああ……ふうん。 かっこいいね」
「棒読みじゃんか」

あ、しまった。
思わずつっこんでしまった。
こいつには色々と聞かなきゃならんことがあるのに。

「なあ、単刀直入に聞くけど。 アンタが吉川を刺したのか?」
「よしかわ……? んー……同じ制服を着ている奴なら、刺したけど」
「それ吉川だよ」

怒りより呆れがきた。
人を刺すことに何の罪悪感も感じていないようだ。

「なんで」
「どうして刺したかって? 最初は自転車のライトが眩しかったから。 傷口を弄ったのは、わたしのことをヘンだって言ったからだよ」

ヤスの手が伸びて、俺の首元に触れる。 血管をなぞって、軽く爪でひっかく。
亡霊だ、と思った。
こいつの存在自体、この世にあるとは思えない。 薄気味悪い。

「そこまで」

横からサイがヤスの腕を掴む。
軽く舌打ちをし、ヤスは手を振り払った。

「ってゆうか、お前は見つけたのかよ」
「全然ダメなんだよね。 ここら辺探しても、見つからない。 どうしようか」
「……? 妹は見つかったんだろ。 まだ誰か探してもんのかよ」
「んー、まあ実はヤスよりもこっちのほうが重要なんだけどよ。 アンタ、知ってるか?」






「ノリトって奴を、探してんだよ」










目が覚めても、「あの人」 はそこにいるものだと思っていた。

「彼」 ではなく、僕を見てくれると信じていた。

だけど、そんな都合のいい夢は所詮ハッタリで。

「あの人」 はやっぱり、過去に縛られたままだった。


「僕は×××じゃない。 ねえ、名前を呼んでよ。 ×××じゃないよ」


何度言っても聞いてもらえない。

怖い。

ただ、恐ろしいだけだった。

この恐怖をどこで紛らわせればいいのか。

僕らは愛情に飢え、ふたりで何度も悦楽に浸りながら、夜を明かした。