彼女が消えた理由。
作者/朝倉疾風

第5章 『もしも、その嘘が虚偽だとしたら』2
もうすぐで10月だ。
秋といえば、みたいな感じで小学生のとき、自分にとっての秋を紙に書かされた記憶がある。
俺、なんて書いたっけ。 ……昼寝の秋って書いた覚えがある。
「着替えがもうないの」
真っ白な病室。 薬の匂いが少しキツい中、園松ミユキはしれっと俺に言い放った。
「わたしの家からとってきて」
「そういう事は蓮奈さんに言えよ。 なんでお見舞いに来た時に言わなかったんだ」
「忘れてた」
忘れたって言えば何でも許してもらえると思うなよ。
「俺がお前の家行ったら、絶対に部屋とか探索する」
「────変態じゃないの」
「仕方ねェだろ、好きな女の部屋なんだから」
真面目に引かないでほしい。 こっちが苦しくなる。
でも、俺なら服とか持ってくる最中に下着盗みそう。 ……ああ、冗談です。 冗談だと言っておきます。
「あいつ、生きてるの?」 「誰のことだよ」 「名前知らない。 頭のおかしい奴」
曳詰ヤスのことだろうか。
「左の顔がケロイド化してるやつ?」
「そう」
「あいつは退院して、今は精神科行ってるけど」
あのとき。
白伏公園で対峙していたミユキとヤスを、間一髪の所で止めた。
ヤスの鳩尾を思いっきり殴り、気絶させたのは我ながら正当防衛だと思う。 ミユキも刺されていたし。
その傷が思ったより深かったため、ミユキただいま入院中。
まあ今回はミユキはけっこう蚊帳の外だったよな。
彼女からしてみれば、クラスメイトにジュースあげてたらその妹に誤解されて刺されたっていう。 いわば被害者なんだから。
「せーしんか……。 ふうん。 頭のおかしい奴が行く所ね」
「まあ、ねえ」
「あんたは行かなくていいの?」
挑発的なミユキの口調。
俺が攻めると恐怖で歪んだ顔になるくせに、こういう時は本当に女王様顔だ。
「行かなくていいんだよ」
「────曳詰くんの目と、アンタの目、似てるから。 行くのかと思った」
嫌味な女だな。
俺をあんなのと一緒にしないでほしい。
「なあミユキ。 捜しても見つからない人間が居たとしたら、おまえはどうする?」
曳詰サイから聞いた、今回のオチ。
けっきょくノリトという奴は数十年前に死んでいて。 彼らが望んでいた結末にはならなかったというわけだ。
しかも、
そのノリトが死んだ理由に少なからずあいつの父親が関係していたらしい。
どんなバイオレンスな状況だったんだよ。
「もう捜さない」
俺の質問にたっぷり数十秒は考えて、ミユキは答える。
「そんなに捜しても見つからないなら、もういいやってなる」
「そっか」
もういいや、か。
「だけど」
ミユキは少しだけ楽しそうに、口角を上げて、
「わたしが隠れている人なら、ずっとずっと捜してほしいと思うけれどね」

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