彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第2部 『傷が抉られ、身が弾けて』2



入院生活は本当に退屈だ。
やることと言えば、テレビを見たり、高校の課題をやったり、一人トランプをしたり、恋人(仮)といちゃこらしたり。

「────ッ!」

痛いのか、おもいきり手首に爪を食いこませている。 病院内だから叫ばないようにと告げ、ハンカチを噛ませている。
病室には俺たちしかいないけど、一応。 ミユキの悲鳴は大きいから。

「さ、いあく。 死ね。 死んじゃえばいい」
「死ぬのは嫌かな。 ミユキが俺を殺してくれるのならいいけど」
「殺人犯になるのは嫌よ」

冷や汗を浮かべたミユキの口元が、微かに緩んだ。
その表情がひどく官能的で、ゾクゾクする。 俺って変態なんだと実感させられる。
口の中でミユキの肉を転がしながら、血の味と共に飲み込む。

「────好きな子のでも、苦いな」
「悪趣味。 そういう所、本当に最悪」
「前に蓮奈さんに言われたわけよ。 俺は本当はミユキのこと大嫌いで、もともと好きだった尋花の面影を追ってるだけだって。 本当にそうだとしたら……少し残念かもな」

この感情が、本当はなんなのか分からないまま。 こうして体を重ねることは、むなしいだけなのに。

「わたしを、おかあさんだと思ってこうしてるの?」

今度は軽蔑の面が表れた。 コロコロ表情が変わるくせに、笑顔は見せてくれたことないな。
こういう色めいた表情もするんだけど……。

「まさか。 尋花のことはもう何とも思ってない」

未練タラタラだけど。

「なら、ねえ。 どうして、こんなことしてるの」
「どうしてだと思う?」

甘く苦い悦楽を楽しみたいとは思っても、恋しいとは思わない。
幼い頃に焼きついた、尋花と俺の父親の汚らわしい行為を、いま俺たちがしていると実感すると、少し自虐的になる。

「どうして、俺たちはこんなことをしてると思う?」
「わからない」
「ミユキは俺のことが好き?」
「大嫌い」

大嫌い、か。
それもそうか。

「じゃあ、アンタは?」

俺の腕の中で、首筋を血に染めたミユキが尋ねる。

「アンタは、わたしのことが好きなの?」

俺はキミのことが大好きで、大嫌いだ。