彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第4章 『傷に触れ、痛みに触れ、心に触れ』4





この本を読んで、俺はすべてを悟った。

これに出てきている 「少年A」 というのは、俺の父親なのだと。
そして、俺の父親があれほどまでに求めていた 「彼」 は、実はふたりいたことも。

ひとりは、紅桜ノリト。 彼は幼い頃に殺されている。
これも父親がやったと思う。
思えば、この少年があの人をここまで狂わせた、最初のノリトなのだろう。

もうひとりは、祝詞という少年。
この少年は、俺の父親と精神病棟が同じだったらしい。

「……はは」

最終的に。
この祝詞という少年は、恋人である茅野ヒナトという女性を失って、自殺している。

「……ははははははは」

なんだこれ。

著者、天川ナチ。 誰だよ。
なんでこいつ、俺の父親がぜんぶ悪いみたいに言ってんの。
暴露本か、これ。
つうか、本にまでなってたのか。 俺の父親は。

「はっはははははははははははははははははははははははははははッ」

なんだよ。
ノリトなんか捜しにこなくても。
本屋の隅で売られてる本を見りゃ、わかったことなのに。
おかしいな。

何してんだろ。

最初から、ノリトなんていないのに。

「お客様、店内ではお静かに 「うるせぇッ!」

あの人はいつも、俺たちをノリトと呼んだ。
母親がつけてくれた、サイとヤスという名前は、一度も呼んでくれなかった。


──キレイな心で育ってほしいと、沙衣とつけたの。

    すべからく美しく育ってほしいと、夜須とつけたの。


与えられた名前も廃れて、いつしか意味を失くした。
ただの、サイとヤスになった。

「じゃあなんで……俺らはノリトって奴の身代わりかよッ」

ヤスに、こんなこと言えるか?
ノリトは死んでいました。 父親の醜態は本にまでされていました。
俺らは完璧に、加害者の子どもです。

言えるか?

ノリトが居てくれれば、親父は 「俺たち」 を見てくれると信じていたのに。

「チクショウ! 糞がッ、信じねえぞッ! ノリトは生きてる、生きてる、生きてんだよチクショウッ!」

こんなの、誰が信じるか。
信じるもんか。

「ねえ、ちょっと 「うるせぇっつってんだろ……、」

怒鳴る勢いは消えて、茫然としてしまった。
そこに居たのは、予想外の人物だった。

「園松……ミユキ……」