彼女が消えた理由。

作者 / 朝倉疾風



第3部 はじまり『眩しい朝を嫌う』



田舎町の片隅にある、和装風な一軒家。
床を歩けば、ミシリと音がたちそうな、古い造りの家。
しかし、家の中はキレイにされていて、壁紙やインテリアは洒落た雰囲気を漂わせていた。

いつもと変わらない、10月半ばの、涼しい秋のひと時。

ただ、そのリビングに座りこむ一人の少女と、その片隅に横たわっている一体の死体の存在が、平凡な日常の歪みを意味していた。

「あぁあ……おば、さん……」

声にならない声でそれだけ言うと、少女の顔に恐怖が生まれる。
いま、彼女の目の前に広がっているのは、10年前にトラウマとなった赤い血と、大切な唯一の肉親の死体だった。

「うそだ……あ、あぁあ……あ」

学校から帰宅したら、叔母が死んでいた。
少女は完璧に自我を崩壊させ、両手を頭にやって、痙攣しだした。

「……ち……ろ、ちひ……ちひろ……」

少女が呼んだのは、自分が最も苦手とする少年の名だった。

「いやだ……あぁ、ああぁあ、ひろ……ッ」

過呼吸状態となった少女の懇願する声は、当然少年の耳に届くことなどなく。
そのまま、血だまりの中、少女は気を失った。




 △           △          △




中学ン時に、すっげえ美人な女に会った。

大人なくせにガキみてえで、世間を全然知らなくて。

そんなコイツを、俺は愛していたのか?

なあ、ヒロカ。

俺はいまでもお前を愛してると思うんだ。

過去はどうあれ、「いま」は。