彼女が消えた理由。
作者/朝倉疾風

第1章 『誰かの不幸、他人事』2
小走りで靴箱まで行ったんだけど、園松ミユキはもういなかった。
もう帰ったかと思ったけど、チャリで登校していたことを思い出して、自転車置き場に行ってみる。
いた。
後ろ姿がもう美人さんだから、すぐにわかる。 ていうか、めだつ。
「先生にあんなこと言うとか、フツーできねえよ。 すげえな、ミユキ」
ビクリと、華奢な肩が震える。
続いて、ひどく拒絶するように睨まれた。
「ンな怖い顔すんなって。 超ぶっさいくになってるぞ」
「関わらないで」
無視。
「席隣になれてよかった。 いっぱい話せるし」
「話すことないじゃない」
「でも、末長のことは意義ありかな。 なんで関係ないみたいな言い方したわけ」
あんなに仲良くしてたのに。 てか付き合ってただろうが。
「いなくなったら、そこで終わり。 死体がわたしのこと、構ってくれるはずないから」
「俺なら、ずっとミユキに構ってやれるけど」
「遠慮する。 ていうか、近い」
俺に内緒で、末長とニャンニャンやってただろうが。
怒らないけど。 俺とミユキはただの幼なじみだし。
「そこどいて。 わたし帰りたいから」
「おまえさあ、末長殺したりしてねえよな」
5月の終わり。 末長は自宅で何者かに撲殺されていたらしい。
この平凡な田舎町で、ちょっとしたニュースになった。 まだ犯人はつかまっていないらしい。
「なんでわたしが末長くんを殺すの。 あなたは何が言いたいの」
「俺ら、付き合わねえ?」
苦虫を噛み潰したような顔をされた。 そんな意外だったかな。
「俺、めちゃ甘やかすよ?」 「わたし、あなたが嫌いなの。 死んでほしいって思ってるの。 そこをどいてほしいとも思ってる」 「わかってるよ」
俺がどかないから、ミユキは自転車に跨ったまま、進めないわけだし。
「ぜんぶわかってる。 もう何年の付き合いだと思ってんだよ」
「どいて」
「どかない」
「じゃあ、もういい」
ミユキがペダルに片足を置き、 「轢くから」 突っ込んできた。
片手でカゴを止める。 ガゴンッという音と、衝撃。 ミユキの体が一瞬浮く。
不快そうに顔をしかめられた。
「俺はミユキが好きなんだけど」
決して、嘘ではない。
ずっと昔から好きだった。
どんな綺麗な女と付き合っても、寝ても、片隅にあるのは、
「わたしは、あなただけが嫌い」
「うん。 わかってんだけどねえ」
道の横に避ける。 これ以上やると、本気で殴られそうだったから。
通り過ぎる後ろ姿を見送りながら、ため息をつく。
「殺されるかと思った」

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