彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第2章 『青空のように心が晴れたなら』3



すべての授業が終わって、退屈になる。
部活もバイトもしていない俺としては、かなり放課後の暇ってやつが天敵だ。
もう誰もいない教室でひとり。 ぼんやりとしている。
ミユキはいつもどおり自転車で片道40分ほどかかる通学路を帰っているんだろう。

「電車で帰ったほうが早いのに……」 「電車通なんだ」

びっくりした。
びっくりしすぎて声がでなかった。
後ろに人がいることすら、気づかなかった。

「ありゃ。 もっと驚くかと思ってたんだけど。 意外と鈍チン?」
「────帰らねえの?」

曳詰サイがいた。
いつ入ってきたのかは知らない。 後ろの扉が開いているから、きっと後ろから入ってきたんだろう。

「なぁ、アンタが陽忍千尋サン? かわいい名前よな」

俺の質問を無視して、ソイツが話し始める。
フレンドリー気質満載だけど、どこか気味が悪い。

「女の子らが噂してた。 この学年でいっちゃんイケメンな奴だって」
「ああそう」

俺と初めて喋る奴は、たいてい皆そう言う。 ……徳実さんもそうだったっけ。

「俺、キレイな子が好きなわけよ」
「………………は?」

なにが。
そういう前に、いつのまにかすぐ後ろに曳詰の顔があった。
よく見ると、まつ毛も白い。 ていうか長ぇ。

「だから、アンタのこともダーイ好き♪」
「────あいにく、男にキョーミないんだ」
「あっはははは。 言うねえ」

冷たくて長い指が、俺の頬をなぞる。
耳を飾っている十字架のピアスが、光に反射する。

「俺もだっつーの。 野郎相手にコーフンするとか無いよ。 なにマジに答えてんの? 笑える。 テメェそんなに笑える奴だったのな」

急に態度が豹変し、曳詰が俺の机にドカッと座る。

「それが本性か。 人当たりのいい曳詰クンじゃないな」
「はっ。 ちげェよ。 俺はそんな優しい人間じゃない。 ていうか、ぶっちゃけこんな高校、来たくなかったわけよ」

転向初日で化けの皮を剥いだ彼は、癖なのかその白髪を指でクルクル弄りながら、にやりと笑った。
その笑みが、どこかしら五鈴と似ている。

「人を、捜してんだ」
「人?」

不思議がる俺を見て、少し得意げな表情になる。

「俺より年下で、ヘンな趣味持ってるやつで、肉体的性別は女。 髪は俺より薄い色。 あ、コイツは脱色してんだけどな」
「それは……俺より警察に言ったほうが」
「ヒネに言っても同じだろ。 あんな奇抜な奴、そうそういねぇから、いたら俺が探してるって伝えといて」

ああ、やっとわかった。
コイツは俺の大嫌いなタイプだ。

「俺、帰るから。 その子っぽいのを見つけたら、声、かけとく」
「リョーカイ」

曳詰……か。
関わりあいたくない奴。 っていうか、本当にいい迷惑だ。