彼女が消えた理由。
作者 / 朝倉疾風

第3部 第4章 『復讐者』2
なんか呼ばれた気がしたけど、気のせいかな。
「千尋、おまえ何ボケーとしてんだよ。 園松ミユキの父親探しに行くっつってたのに」
「あー手掛かりがなかった」
「ていうか、寒ぃから暖房つけろ。 あとうぜぇからテンション下げるな」
なんで五鈴は俺の家にまた居候してるんだ。 チクショウ。
「そういや、お前の留守中電話きたぞ。 安藤恵登ってやつ。 園松蓮奈の殺害現場に、数本の頭髪が落ちてたって。 あと、目撃証言で、男が園松蓮奈の家の周りをチョロチョロしてたって」
うーあー……。 そういや、俺と吉川がまだ捜査中の蓮奈さんの家に行ったけど、それバレたらややこしいな。 後で安藤さんに言っとくか。
「で、その目撃された男ってどんな奴ですか?」
『年齢は20代~30代ほどの若い男。 身長とかもスラリとしていて、モデルみたいな人らしいです。 近所のお婆さんからの情報ですけど』
「顔とか見てないんですか」
『なにぶん、お年寄りっすからねえ。 でも、なんかすごくキレイな人だったらしいっすよ。 ジャニーズ顔っていうんですかねえ』
ミユキの父親だろうか。 五鈴の記憶によれば、あいつとさして年は離れていないらしいし……。
いくらなんでも若すぎるか?
「わかりました。 またなにか分かったら教えてください」
『はいはーい。 あ、ちょいと待ってください』
「なんでしょうか」
『これは刑事とかではなく、俺一個人として思うんですが……』
「どうぞ」
『アンタ、園松ミユキに人生振り回されてるけど、それでいいわけ』
なるほど。 なかなか他人には理解できない領域での質問だな。
では、回答をさしあげよう。
「それでいいんです」
園松ミユキのことは憎いけれど、彼女はヒロカに似ている。
あまりに似すぎていて、ときどきヒロカだと思うくらい。
だから、俺がミユキを愛している理由なんて、本当は────
「俺は、後悔してませんから」
『そうっすか。 ならよかった。 んでわ、またミユキさんにも会いに行きますんで』
ミユキ、いないのに。
電話をきって、脱力感が襲ってくる。 そうだ。 彼女はいない。 どこかに消えた。
「刑事、なんて言ってたー?」 「ああ、なんかさ………」
だから、予想もしてなかったんだわ。
急にファックスで、蓮奈さん殺しの犯人からメッセージが来るなんてさ。

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