彼女が消えた理由。

作者 / 朝倉疾風



第3部 第4章 『復讐者』4



安藤さんからの電話がきれたあと、ファックスが届いた。
見た瞬間、吐き気と少々頭痛が襲ってくる。 震える手でしっかりと紙を握り、ゆっくり息をした。

「刑事サン、なんて言ってた?」
「特に何も……言ってねえよ」
「そかそか」

動揺するな。 近くに五鈴がいるんだから。 悟られちゃダメだ。

「俺、少し出かけてくるわ。 いま無性にするめが食べたい」
「親父か、テメェは」
「27歳にもなるアンタに言われたくないな」
「まあ、そうか。 ……俺も、おつかい頼んでいいか?」

五鈴がいつものように訊ねてくる。

「なにが欲しいの?」
「ビールと何か甘いモン。 バウムクーヘンとか」
「俺、未成年なんスけど。 ビール買えんだろ」
「なんとかしろ。 絶対に買ってこい」

ムチャぶりだな……。 というか、コンビニなんて本当は行かないんだけど。

「わかった。 んじゃあすぐ戻るから」
「千尋」

今度はなんだよ。
面倒くさくてしょうがないけど、一応振り返る。 「……………………」 真剣な顔の五鈴がいた。

「絶対、買ってこい。 絶対、だ」

ううん。 やっぱり敵わないな。 バレバレだ。
五鈴が何を考えているのか、何を思って俺にそう言っているのかはわからないけど。 俺がやろうとしていることは、全部、五鈴に筒抜けらしい。
軽く頷いて、アパートから出る。 行き先は、もう分かっている。 ご丁寧に住所まで書きやがって。
チクショウ。


『園松ミユキについて、話がある。 場所を指定しておいたから、すぐに来てほしい。 彼女を、園松蓮奈と同じような目に合わせたくないだろう?』


挑発的な文章。 ワープロの文字が俺を嘲笑ってるようで。

「指定の場所、ミユキの家じゃねえか」

ひどい焦燥感と高揚感が俺を湧き立たせる。
チャリをこぐスピードが速まる。 ああ、早くしないと。 早くしないとなぁ。





△             △             △



ヒロカが殺されたと聞いたとき、彼女の復讐心は俺に伝染した。

たった一人の愛娘も施設に入れられ、親権が蓮奈に渡ると聞いたとき、

自分にはもう何もないのだと、絶望を感じた。

だけど、それでも、俺は。

ミユキを奪い返し、陽忍家に復讐してやる。

ヒロカが壊したかったものは、すべて、この俺が壊してやる。

何年かかろうが、必ず。

「ミユキ、俺は千尋と会ってくる」

ああ、楽しみだ。 愉しみだなぁ。

すべてを知って衝撃を受けるアイツの顔がみたい。

死ね。

苦しんで死ね。