彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第2章 『彼女の過去=彼の過去』2



部活も入っていないし、バイトもしていないから、土日はけっこう暇だったりする。
携帯のメール受信履歴に残っている名前は、吉川と、クラスイトの女子数人。 女子からはカラオケに行かないかとか、ボーリングしようとかのお誘いだった。 やんわりとお断り。
あの子らと歌うよりは、ミユキといたほうが退屈しない。

俺が作った卵焼きとみそ汁、そして冷ややっこを黙々と食べる。
白米を口に運び、音もなく租借するミユキを見ていたら、目があった。

「なに」
「箸の使い方キレイだなって。 豆腐も崩れてねえし。 叔母さん、行儀作法とかに厳しかったりする?」
「────おかあさんがうるさかったから」

さいですか。
まあ考えたらミユキの叔母さんがゴチャゴチャ言わないか。 あの人はそんなことで怒らないし。
それ以上言うこともなかったから、つい癖でリモコンに手が伸びる。
テレビ、オン。
ちょうど朝のニュースがかかっていた。

「……………………」

末長のニュースも、かかっていた。
ミユキを見たけど、興味無さげにみそ汁を啜っている。

「犯人、まだ見つからないか」

自宅で何者かに花瓶で頭を叩かれる。 争った形跡はないから、顔見知りの犯行らしい。
両親ともに仕事で不在だったらしく、第一発見者は、パートから帰ってきた母親だった、と。

「末長もまさか自分が死ぬなんて思ってなかっただろうな」
「毎日自分が死ぬことを考えている人なんて、いるの」
「いるんじゃねえの? 自殺願望がある人とか」

あー、死にてえなって思うんじゃん。
そう言ってもミユキは首をかしげ、不思議そうに

「そんな毎日死にたいのなら、とっとと死ねばいいじゃない」
「単純に考えたらそうなんだろうけど。 実際はうまくいかないもんよ」

あの感覚はなんだろう。
死にたいと思っているはずなのに、気づけばその日が終わりかけている。 その繰り返し。
今日こそ死んでやると思っても、本能がそれを拒絶する感じ。
生きることも億劫なはずなのに、その日が終わるとホッと肩の力が抜ける。

「ミユキ、後でミユキの家に着替えとりに行こう。 昨日、学校からそのまま来ちゃったし」
「──────いいけど」

ミユキの家。 久しぶりに行く。
俺にとってもミユキにとっても、触れたくない記憶の原点がある場所。
傷を負った場所。 死を学んだ場所。 あんなに血を浴びたのは初めてだった。

「よくうちに来られる気になったね」
「いちおう、ご挨拶ということで」

死んだ俺の両親も、ミユキの母親も、きっとこんなこと、予想してないんだろうなあ。