彼女が消えた理由。

作者 / 朝倉疾風



第3部 第2章『愛しいくらいに、残酷な』5



△          △         △         △


ヒロカは、よく日記を書いていた。 27歳の大人が子どもみたいだと、からかった。

「これは、ラブレターなんだから」

そう言われて、内容を見せてもらうと、親友である千里という女子に

あてた恋文が綴られていた。

「もう、彼女は結婚して、子どもがいるの。 五鈴という名前なの」

そう言う彼女は寂しそうで、とても苦しそうだった。

「千里は、わたしが同性愛者ということも、男相手に媚びていることも

全然知らないの。 きっと、嫌いになっちゃうよね」

親友である千里への想いを、必死にこらえる彼女を見て、胸が痛くなる。

大事そうに日記を鞄にしまいこみ、ヒロカは俺の頬に手を這わせてきた。

「なに……ヒロカ……」

「わたしねえ、千里のこと大好きだけど……キミのことも好きだよ」

27歳にしては童顔で、言動も子どもだけど、こういうときだけ、別の顔を見せる。

まだ14歳だった俺は、彼女に夢中で。


だけど、所詮はまだ中坊のガキで。



だから、受け入れられなかったんだ。





ヒロカが、妊娠したことも。
その腹に宿る赤ん坊が、俺の子どもだってことも。





ふたつめの、後悔は。




「ミユキ」というその赤ん坊を、俺が、ヒロカより、愛してしまったことだった。