彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第1章 『誰かの不幸、他人事』4



「じゃあわたし、こっちだから。 バイバイ」



電車から降りてすぐに、徳実さんと手をふってわかれた。
ずっと話してみて、案外淡白な子なんだと好印象を抱く。
甘ったるく喋る女子ほど、面倒くさいことはない。
駅にある駐輪場に停めてあった自転車に乗って、自宅へと帰る。

駅から、俺の住むアパートはけっこう近い。 自転車でスイスイと行けば、20分もかからない。 電車での時間が長くて退屈だけど。
人通りの少ない田舎道を走りながら、生ぬるい風をうける。 正直、汗だくのシャツがへばりついて気持ち悪い。

「はあ、夏はやく過ぎてくれないかねえ」

ほぼ無意識にペダルをこぎながら、俺の住処、もとい古アパートに到着する。
自転車を停め、無用心に鍵をかけなかった。
エレベーターがないので、3階まで階段を使わないといけない。
暑い。 この距離が長い。 エアコンのタイマーセットしてたかな。 今日はたぶん、お客さんが来るんだろうけど。

やっと階段を登りきり、鍵を出しながら、ふと扉の方をみて、

「あ、ぇ…………ん?」

ミユキが扉の前で突っ立ってた。
あら、けっこう速いのな。 もう少し時間がかかるかと思ってたんだけど。

「どういうつもり?」
「どんだけチャリこいだわけ。 もうちっと時間かかる予定だったんだけど。 俺、クーラーいれてるか自信ねえんだわ。 暑かったらごめんな」
「質問に答えて」

三白眼で思いきり睨まれる。 その手は震えていて、いまにも殴りかかってきそうな勢い。

「おばさんが旅行中の間、きみを預かってほしいと言われた。 今日から一週間。 素敵な同棲生活のはじまり」
「そんなこと、わたし叔母さんに聞いてない。 さっき家に帰ったら鍵がしまってて、ポストの中に置き手紙があった。 そこで初めて知ったの」
「俺から言うって言ったから。 んで、俺はミユキに言わなかった。 ミユキは絶対に嫌だって言うからな」

誰かに依存しないとまともに生活できないミユキにとって、一人で留守番なんてできるはずない。 そこはミユキの叔母さんもわかってるわけか。
こいつ、昔から甘えただったからな。

「ちなみに拒否権はないよ」 「す、末長くんの家に泊まらせてもらう」

冗談だろ。

「末長は死んだし、まして他人の面倒を一週間も見てくれるわけないだろ。 末長の家族の人が迷惑する」
「末長くんのお母さんは優しいよ。 わたし会ったことある」
「さっきまで死んだら終わりとか言っておいて、いざ自分が困ったら助けてもらおうってか。 性格悪過ぎ」
「あんたに言われたくない」

それもそうだ。 否定しない。

「ミユキ、言うこと聞いてくれないと、怒るよ」

俺は人より性格が悪い。 タチが悪い。 思い通りにことが進まないと、イライラするし八つ当たりもする。
だから、ミユキが嫌がろうが何しようが、どうでもいい。

「おいで」