彼女が消えた理由。

作者 / 朝倉疾風



第3部 第3章 『届くことのない恋文』2



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「妊娠してた」


その日の夜、ヒロカに告げられた告白は、俺の人生を変えるものとなった。

空白の時間が過ぎて、俺は、ヒロカの腹を無言で撫でていた。

「…………誰の子?」

「キミだよ。 じゃなかったら、打ち明けるわけないじゃん」

「…………産むの?」

「まさか。 おろすわよ。 いらないし」

薄いネイルを塗った足の爪を弄りながら、ヒロカがサラリと言った。

「え……おろすの?」

「だって、子どもなんて邪魔なだけだし。 産んだ所で育てられない」

ハッキリ言い捨てる彼女を、母親として、人間として軽蔑する気はない。

ただ、初めてできた自分の子どもを見てみたいとは思ったけど、

ヒロカは27歳だし、俺はまだ中学生だし。 養えるわけないから。

「でも、一応名前はあるの」

「おろすのに名前つけてんだ」

「うん。 女の子だといいから、女の子の名前考えた」

「じゃあ……発表して」

そのときヒロカが言った、まだ見ぬ赤ん坊の名前。

愛着も執着もなかったけど、数年後。 俺は知ることになる。


ヒロカが俺に嘘をついて、子どもを産んでいたことを。