彼女が消えた理由。
作者 / 朝倉疾風

第3部 第3章 『届くことのない恋文』2
△ △ △ △
「妊娠してた」
その日の夜、ヒロカに告げられた告白は、俺の人生を変えるものとなった。
空白の時間が過ぎて、俺は、ヒロカの腹を無言で撫でていた。
「…………誰の子?」
「キミだよ。 じゃなかったら、打ち明けるわけないじゃん」
「…………産むの?」
「まさか。 おろすわよ。 いらないし」
薄いネイルを塗った足の爪を弄りながら、ヒロカがサラリと言った。
「え……おろすの?」
「だって、子どもなんて邪魔なだけだし。 産んだ所で育てられない」
ハッキリ言い捨てる彼女を、母親として、人間として軽蔑する気はない。
ただ、初めてできた自分の子どもを見てみたいとは思ったけど、
ヒロカは27歳だし、俺はまだ中学生だし。 養えるわけないから。
「でも、一応名前はあるの」
「おろすのに名前つけてんだ」
「うん。 女の子だといいから、女の子の名前考えた」
「じゃあ……発表して」
そのときヒロカが言った、まだ見ぬ赤ん坊の名前。
愛着も執着もなかったけど、数年後。 俺は知ることになる。
ヒロカが俺に嘘をついて、子どもを産んでいたことを。

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