彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第2章 『青空のように心が晴れたなら』2



夏休みが明けたと同時に、俺の入院生活は終わった。


「転んで骨折して入院してたんかい。 うわあ、悲惨すぎる」
「うるせえよ吉川」

8月末にあった登校日にもこれなかった俺としては、吉川と顔を合わせるのは1か月ちょいぶり。
クラスメイトも、焼けていたり髪をバッサリ切った奴もいたり、少し新鮮だ。

「マジでか……骨折とか小学生以来してねえな」
「いや、しなくていいから」
「まあな~。 ……えっと、園松! 園松は、なにしてた?」

吉川が俺の隣に座っているミユキに声をかける。 かなり勇気をだしたみたい。
急に後ろから話をふられ、ミユキが鬱陶しそうに、

「特になにも」
「そっか……まあ、そんな日もあるって」

微妙にフォローになっていないフォローをいれて、吉川が笑う。
きっとコイツはミユキに声をかけたことが勲章なんだろう。

「陽忍、吉川、アンタらうるさい」

いままでずっとペラペラ喋っていた担任に注意される。
朝のホームルームが長すぎて、正直面倒くさい。 さっさと終わらせてくりゃいいのに。

「じゃあ、紹介します。 曳詰くん、入ってきて」

担任が誰もいないはずの廊下に向かって呼びかける。
……ああ、そうか。
転校生が来るのか。 なんかさっき女子らが噂していた気がする。
転校生……ねえ。
キョーミもないし、どうでもいい。 正直、俺の気分を害さない性格の奴だと助かるんだけど。

教室の扉があいて、誰かが入ってくる気配がする。
それと同時に、クラスメイトの驚きの声。
何事かと思って頭をあげて 「転校生」 の顔を見た。

「─────わーお」

素直に口からまずその言葉がでた。
いやはや。 なんだコイツ。

「はじめまして。 曳詰サイっす。 どーぞよろしく」

白髪。
真っ白な、髪だった。
毛が傷んでいないことと、色にムラがないことから、それが生まれつきなのだとわかる。
皆からの視線を一斉に受け、その男子生徒は喋り始めた。

「こんなナリだからヤンキー扱いされるけど、違うから。 あーでもピアスとヴィジュアル系は好き。 あと、ギターもやってっから」

軽々しい口調と、いかにもモテますオーラーがでている。
ていうか、身長がかなり高い。

「なんかみィんな髪ばっか見てるけど、うん。 コレは地毛だから。 染めてもねェし、脱色もナッシング。 遺伝なんだわ、親の」

自己紹介でこんなにペラペラ喋る奴も珍しいというか……。
少し変わってるというか。
第一印象をそんな感じで見定めていっていると、ふいにソイツと目があった。

「………………………………」
「………………………………」

目も、少し薄い。 なんだろう……どこかで見たことあるな。 気のせいか。
何も喋らず、じっと睨んでいると、ソイツの視線が俺から、

「………………………………」

隣のミユキに移動した。
そんな視線に気づくはずもなく、ミユキはぼんやりと黒板を見ている。
転校生のことなど、他人事。 まるっきり関心がない。

「センセ、俺の席どこよ。 なるべく窓際がいいなァ。 クーラーガンガンあたるっしょ」

軽く笑いをとって、ソイツが指定されて席へつく。
その際、隣を横切って行ったけど、香水の匂いがした。

「…………きつ」
「ん、なんか言ったか? 陽忍」
「なんでもねえよ吉川。 少し、匂いに酔っただけだ」