彼女が消えた理由。
作者/朝倉疾風

第2章 『青空のように心が晴れたなら』6
血だらけで倒れている吉川を見つけたときは、心臓が止まるかと思った。
無我夢中で名前を呼んで、最悪の場合を想像して震えた。
救急車の中でも吉川は目を覚まさなくて、本当に怖かった。
こういうとき、自分は正常な人間なのだとホッとする。
友人が血だらけになっているのを見て、焦りや恐怖を覚えるのは、正常な人間なら当たり前だろうから。
見た目ほど傷はなんともなくて、吉川も数時間後、病室で目を覚ました。
「あ……陽忍……?」
「家の人には連絡いれてるから。 もう来ると思う。 ……大丈夫か?」
「────あいつは? あの女」
「俺が行ったときは吉川だけだったけど」
女……。
「そいつに刺されたのか?」
「顔の半分が崩れててさ! 自転車のライトが眩しいってだけでだぜ? なんか妙に不気味でさあ」
「────ソイツ、髪を薄く脱色してたか?」
嫌な予感がする。
「ん、ああ…………そういえば、透明っぽかったかも」
──髪は俺より薄い色。 あ、コイツは脱色してんだけどな。
「服装は、どんなだった?」
「なんか……ゴスロリっていうのか? ヘンな格好だった」
──あんな奇抜な奴、そうそういねぇから。
曳詰が捜していた奴かも知れない。
名前は聞いてないから確信はできないけど。
「ていうか……あいつ、サイを捜してるって言ってた。 サイってもしかしてアイツか? 今日、転入してきた奴じゃねえの?」
「────ああ、そうかもね」
もう確信した。
吉川を刺したのは、曳詰サイが捜していた人物。 向こうも曳詰サイを捜しているらしいけど。
「警察にも連絡したけど……まあ、その後のことは家族の人と決めて」
ちょうど、病室の外で慌ただしい足音が聞こえた。
こちらに向かっていることから、きっと吉川の家族だろう。
「んじゃ、俺は帰るわ」
「おう。 ……ありがとな」
病室から出ると、ちょうど吉川の両親と鉢合わせした。
簡単に事情を説明して、先に帰宅する。
吉川の両親は、吉川に似てどこにでもいるような普通の家族だった。
「2時間も公園で何してたわけ」
家に帰ると、五鈴がテレビを見ながらくつろいでいた。
勝手に風呂に入ったらしく、ティーシャツとハーフパンツというラフな格好になっている。 少し長めの髪から滴が垂れて、きちんと拭いていないことが分かる。
「友だちが怪我したから、病院行ってた」
なんか、不思議だ。
10年も疎遠だった兄と同じ部屋にいるということは。
「────誰かに刺されたとか?」
動きを、とめる。
振り返って、ソファでくつろぐ五鈴を見る。
「なんで……わかったわけ……」
「テキトーに言っただけだよ」
本当に?
頭の中で何かが腑に落ちない。
何かが、腑に落ちない。

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