彼女が消えた理由。
作者/朝倉疾風

第2部 『傷が抉られ、身が弾けて』3
入院生活が4日経った頃、予想もしていなかった人物が来訪してきた。
いや……予想はしていたけど、のこのこやってくるとは思わなかった。
「オトートのくせに全然ぼくに似てないのが、ちょっと不服だね」
「帰れ」
陽忍五鈴が俺のギプスで固めた足を見て笑う。
「この間の件を除けば、ぼくとキミが会うのは10年ぶりか。 ん……両親の葬式のときにも一度会ったよな」
「どうして今さら顔を出しにきたんだよ。 しかも、足一本ダメにしてくれて」
「いや~サプライズのつもりだったわけよ。 いいじゃん別に」
さもなんでもないように言いのけて、五鈴がジロジロとこちらを見てくる。
五鈴の顔を見て、やっぱり父親に似ていると思った。 実の兄弟だといっても全然似ていない。
「────質問の答えになってない。 どうして今さら顔を出しにきた?」
両親と仲の悪いコイツは、高校入学を機に家から出た。 その後も一切の連絡もないまま、10年。
両親の葬儀の時に俺の様子を見に来たくらいのコイツが、今さら俺の前に現れる理由がわからない。
「ちょっと野暮用で。 それでこっちに来たから、ついでで」
「────本当にそれだけ?」
「そうだよ。 なあ、前に一緒にいたあの女……あれか。 10年前のあいつか」
「園松ミユキ。 むこうはアンタのこと、覚えてたよ」
10年前の葬式の日、ミユキにむかって暴言を吐いた彼は、親族たちから毛嫌いされていた。
もちろん、ミユキからも。
「挨拶しに行こうか」
「殴られるよ、きっと」
含み笑いをした五鈴が、ふいに視線を俺からはずした。
そして、不可思議なことを言いだした。
「────おまえは誰かに依存したことはあるか」
五鈴を見る。
彼は俺を見てはいなかった。
白い病室の中で、彼は俺を見ていなかった。
「ミユキのことは誰にも渡したくないな」
「それは独占欲だろう。 そうじゃない。 依存だよ、依存」
そういうのなら、ミユキだろう。
彼女は母親に依存したきりの生活だったから、他人の目が自分に向くことに快感を覚えている。 同情されるのが好きなのだと、前に言っていた。
「そいつが死んでからも、ずっと考えているのはそいつだけ。 もうどこにもいないのに、彷徨っていて、ずっと探してる」
「五鈴……?」
誰の話をしているんだ。
「なあ、チヒロ」
五鈴は、誰のことを話してる?
「俺は、×××を探してるんだ」

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