彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第2部 はじまり 『不穏の影が喰らう光』



念願の夏休みになった。
サマーバケーション。 字面にすると、さまあばけえしょん。

去年の夏休みもミユキと1度も会わなかったから、今年もどうせミユキは俺を避けて家から一日中出ないだろうと思っていた。
思ってたけど。

「ん。 ソーダーアイス」 「近寄らないで」

どうアイスを渡せっていうんだよ。
ミユキが蛆虫に触れるように手を伸ばし、サッとアイスバーを持つ。

「離れて歩いて。 息しないで」
「どうやって生きりゃいいんだよ」
「生きなくていいから」

そりゃあんまりだ。
俺は隣でアイスを舐めるミユキを見る。

そう、園松ミユキ。

彼女とは夏休み中会う機会が無いだろうと思ってたんだけど、なぜか毎日を一緒に過ごしている。
その理由は簡単だ。
ミユキの家のクーラーが壊れたから。

「蓮奈さんのぶん、アイス買ってないけど、いっか」
「たぶん怒ると思う」
「まあ、その時はその時」

ミユキの保護者であり、叔母でもある蓮奈さんも一緒だけど。
あの人が何の仕事をしているのか、いまだに分からない。

「そろそろ帰ろう。 アイスが溶ける」
「わかってる。 自転車だしてよ」
「あー……はいはい」

自宅のアパートから近所のスーパーマーケットに行くまで、自転車で15分もかかる。
従者(なったつもりはないけど)の扱いが非常に荒いお嬢様は、俺が自転車の鍵を落としても拾ってくれない。

「はやくして」
「うっせえな」

暑くてイライラ。 落ちた鍵を拾うため、かがむ。
ああ、とれない。
とりにくい。 自販機の陰にあるし。 ちくしょう。

「そんなトコで何してんだァ? ケツこっち向けてよお」

野太い声がした。
かがんでいるから声の主はわからない。

「なあ、オトート」 「え、なにぎゃばばばばば23j#$"%!#()△""#ーーーー!!」

おもいっきり、足、踏まれて痛い。 ぜってえなんか、ゴリッていった。 くそ、マジいてえ。
ていうか、なんだ。 ジンジンしてき、た。

うわ、ちくしょう。
こいつの存在忘れてた。 あーもう。

ちくしょー。