彼女が消えた理由。

作者/朝倉疾風



第4章 『彼女が死んだ理由』1



徳実柚木が自殺して、2週間が経った。



「もう7月で夏休みだけど……どっか遊びに行かねえ?」
「吉川、バイトあるんじゃなかったっけ」
「あーまあそうなんだけど。 まあ返ってくるテスト次第だな」

購買で買ったメロンパンにかぶりつきながら、吉川がグダグダとごねる。
7月に入って、恒例の席替えの日が明後日に迫ってきていた。

「ここの席がいいよなあ。 クーラーあんま効かんけど」
「どうせ授業中に携帯いじっても気づかれないからだろ」
「まあねえ」

吉川の視線が、俺の隣に行く。
俺も視線をそちらに向ける。 いつもの光景だった。

昼休みだというのに、園松ミユキは何も食べず、飲まず、爆睡している。
寝息のために上下する肩。 半そでからのぞく腕は白くて細い。

「幸せそうだよな」
「そうか?」
「うん。 なんか、新鮮だ。 いつも仏頂面しか見てないから」

吉川が微笑ましそうに彼女を見る。
自分を見つめる柔らかい視線に気づかずに、ミユキは眠り続ける。

「そういや、自殺した徳実が末長殺したかもしれねえんだろ。 なんか噂になってっけど」
「ああ…………そうかもしれないね」

彼女が死んだ理由。
それはきっと、本人にしかわからないし、理解できない理由だと思う。
自首すると言って、夜の中に消えた徳実さん。

俺は、彼女が自ら死を選ぶことに気づいていた。

「けっきょくウヤムヤだよな。 なんか……納得いかん」
「まあ、死んだ理由なんて本人にしかわかんないしね」

だから、深入りも詮索もしない。 警察に徳実さんが犯人だと言う気もない。
俺が立ち行っちゃならない場所があるから。