二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——完結——
- 日時: 2013/04/14 15:29
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=21394
今作品は前作である『ポケットモンスターBW 真実と理想の英雄』の続きです。時間としては前作の一年後となっておりまして、舞台はイッシュの東側がメインとなります。なお、前作は原作通りの進行でしたが、今作は原作でいうクリア後なので、オリジナリティを重視しようと思います。
今作品ではイッシュ以外のポケモンも登場し、また非公式のポケモンも登場します。
参照をクリックすれば前作に飛びます。
では、英雄達の新しい冒険が始まります……
皆様にお知らせです。
以前企画した本小説の人気投票の集計が終わったので、早速発表したいと思います。
投票結果は、
総合部門>>819
味方サイド部門>>820
プラズマ団部門>>821
ポケモン部門>>822
となっています。
皆様、投票ありがとうございました。残り僅かですが、これからも本小説をよろしくお願いします。
登場人物紹介等
味方side>>28
敵対side>>29
PDOside>>51
他軍勢side>>52
オリ技>>30
用語集>>624
目次
プロローグ
>>1
第一幕 旅路
>>8 >>11 >>15 >>17
第二幕 帰還
>>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
第三幕 組織
>>32 >>36 >>39 >>40 >>42 >>43 >>46 >>49 >>50 >>55 >>56 >>59 >>60
第四幕 勝負
>>61 >>62 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>72 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80
第五幕 迷宮
>>81 >>82 >>83 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>92 >>93 >>95 >>97 >>100 >>101
第六幕 師弟
>>102 >>103 >>106 >>107 >>110 >>111 >>114 >>116 >>121 >>123 >>124 >>125 >>126 >>129
第七幕 攻防
>>131 >>135 >>136 >>139 >>143 >>144 >>149 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>157 >>158 >>159 >>161 >>164 >>165 >>168 >>169 >>170 >>171
第八幕 本気
>>174 >>177 >>178 >>180 >>184 >>185 >>188 >>189 >>190 >>191 >>194 >>195 >>196 >>197 >>204 >>205 >>206 >>207 >>211 >>213 >>219 >>223 >>225 >>228
第九幕 感情
>>229 >>233 >>234 >>239 >>244 >>247 >>252 >>256 >>259 >>262 >>263 >>264 >>265 >>266 >>269 >>270 >>281 >>284 >>289 >>290 >>291 >>292 >>293 >>296 >>298
第十幕 強襲
>>302 >>304 >>306 >>307 >>311 >>316 >>319 >>320 >>321 >>324 >>325 >>326 >>328 >>329 >>332 >>334 >>336 >>338 >>340 >>341 >>342 >>343 >>344 >>345 >>346
弟十一幕 奪還
>>348 >>353 >>354 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>367 >>368 >>369 >>370 >>371 >>372 >>376 >>377 >>378 >>379 >>380 >>381 >>382 >>383 >>391 >>393 >>394 >>397 >>398 >>399 >>400
第十二幕 救世
>>401 >>402 >>403 >>404 >>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>412 >>413 >>414 >>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>433 >>436 >>439 >>440 >>441 >>442 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447 >>450 >>451 >>452 >>453 >>454
第十三幕 救出
>>458 >>461 >>462 >>465 >>466 >>467 >>468 >>469 >>472 >>473 >>474 >>480 >>481 >>484 >>490 >>491 >>494 >>498 >>499 >>500 >>501 >>502
第十四幕 挑戦
>>506 >>511 >>513 >>514 >>517 >>520 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>534 >>535 >>536 >>540 >>541 >>542 >>545 >>548 >>549 >>550 >>551 >>552 >>553 >>556 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>568
第十五幕 依存
>>569 >>572 >>575 >>576 >>577 >>578 >>585 >>587 >>590 >>593 >>597 >>598 >>599 >>600 >>603 >>604 >>609 >>610 >>611 >>614 >>618 >>619 >>623 >>626 >>628 >>629 >>632 >>638 >>642 >>645 >>648 >>649 >>654
>>657 >>658 >>659 >>662 >>663 >>664 >>665 >>666 >>667 >>668 >>671 >>672 >>673 >>676 >>679 >>680 >>683 >>684 >>685 >>690 >>691 >>695
第十六幕 錯綜
一節 英雄
>>696 >>697 >>698 >>699 >>700 >>703 >>704 >>705 >>706 >>707 >>710 >>711
二節 苦難
>>716 >>719 >>720 >>723
三節 忠義
>>728 >>731 >>732 >>733
四節 思慕
>>734 >>735 >>736 >>739
五節 探究
>>742 >>743 >>744 >>747 >>748
六節 継承
>>749 >>750 >>753 >>754 >>755
七節 浮上
>>756
第十七幕 決戦
零節 都市
>>759 >>760 >>761 >>762
一節 毒邪
>>765 >>775 >>781 >>787
二節 焦炎
>>766 >>776 >>782 >>784 >>791 >>794 >>799 >>806
三節 森樹
>>767 >>777 >>783 >>785 >>793 >>807
四節 氷霧
>>768 >>778 >>786 >>790 >>792 >>800 >>808
五節 聖電
>>769 >>779 >>795 >>801 >>804 >>809
六節 神龍
>>772 >>798 >>811
七節 地縛
>>773 >>780 >>805 >>810 >>813 >>814 >>817
八節 黒幕
>>774 >>812 >>818
最終幕 混濁
>>826 >>827 >>828 >>832 >>833 >>834 >>835 >>836 >>837 >>838 >>839 >>840 >>841 >>842 >>845 >>846 >>847 >>849 >>850 >>851
エピローグ
>>851
2012年冬の小説大会金賞受賞人気投票記念番外
『夢のドリームマッチ ver混濁 イリスvsリオvsフレイ 三者同時バトル』>>825
あとがき
>>852
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171
- Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——再びお知らせです—— ( No.730 )
- 日時: 2013/03/02 17:38
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
パーセンターさん
バトルがほとんどないので、たった四章で終わってしまいました。レイの過去は、恐らく7Pで一番やばいです。それが明かされるのは、次の幕ですかね。
シャンソンはダブルやトリプルバトルなら、解放状態の7Pとも渡り合えそうな気がしますね。
以前のイリスは相手が相手で舐めていたところもありましたが、それでも一対一のバトルに特化してますしね。
確かにシャンソンだったら勝つだけで終わりそう……結局、プラズマ団はシングルで戦わざるを得ないようです。
そうですね、三節は完全にハンゾウメインです。
それはよかったです。内心結構ハラハラでしたが……そう言って頂けるのは嬉しいです。
- Re: 494章 稽古 ( No.731 )
- 日時: 2013/03/02 20:22
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
スパーン! と、唐突に凄まじい勢いで襖が開かれた。
「ハンゾウ! いる!?」
「……騒々しいな。何事だ」
ハンゾウは回想を中断し、片目だけを開いて襖の方を見遣る。そこにはピンクと黄色を基調としたワンピースに煌びやかな装飾品の数々を付けた派手な身なりの女。和室には酷く不似合いな格好だが、若草色のツインテールだけは唯一、色合い的に畳みと合っていると言えなくもない。
彼女の名はティン。7Pフォレスが直属の配下に置いている人物で、見ての通り少々騒がしいところがある。
「ちょっと話があるんだけど、入るわよ」
と言ってティンはずかずかと土足で踏み入ってくる。板張りの廊下はともかく、一応敷居があるのだから靴を脱いでほしいものだ。
ちなみに、ハンゾウとティンは親しいとは言わないまでも、比較的よく一緒の任務についている。
というのもハンゾウの属する焦炎隊と、ティンの属する森樹隊、それぞれのトップはいつもべったりのフレイとフォレスであるため、その繋がりで一緒くたにされることが多いのだ。故にこの二人に限らず、焦炎隊と森樹隊の仲は他の部隊より比較的よい。あくまで比較的だが。
ティンはいろりを挟んだハンゾウの正面に座り込む。
「話、とな。何だ?」
「あんたんとこの怠慢女についてよ」
怠慢女という聞かない言葉に少し考え込むハンゾウだったが、すぐに答えは導き出せた。
「フレイ殿のことか。直接の配下でないとはいえ7Pであるお方をそのように呼ぶのは、感心しないな」
「別にかまいやしないわよ。私はフォレス様一筋だし」
と理由にもならぬ理由付けをし、ティンは話を戻す。
「で、あの女だけど、単刀直入に言いうわよ。あんたが世話しなさい」
「……どういう意味だ」
「そのまんまの意味よ。あの女の世話でフォレス様も迷惑こうむってるはずだし、それでフォレス様の時間がなくなると私にも不都合があるのよ。あんたあの女の護衛だか目付けだかなんでしょ。だったらついでに世話しなさいよ。そうすればフォレス様の時間は空いて、私もハッピー、あんたも主人に尽くせて一石三鳥よ!」
ティンは嬉々としてしたり顔で語るが、ハンゾウは、
「却下だ」
「なんでよ!」
ものの見事に一蹴した。それにティンが喰らいつく。
「拙者がフレイ殿に命じられているのは護衛だ。身の回りの世話はフォレス殿に任せる、とのことだそうだ。命じられていないことは行うべきではない。それが忍というものだ」
「だから、あの女のせいで私もフォレス様も迷惑だって言ってるでしょ!」
「拙者はフォレス殿の直接の配下ではないのでな。命令は主であるフレイ殿を優先させるのが道理だろう」
ティンが先に言ったこととほぼ同義のハンゾウの発言に、ティンはうっ、と言葉を詰まらせる。
「で、でも、あんたももっと主人に尽くしたいとか思わないわけ? フォレス様に任せるより、自分で徹底的に世話したいとか思わない?」
「残念ながら拙者、そこまで独占欲の強い人間ではない。それに、これは拙者の勝手な憶測だが、フレイ殿はフォレス殿に世話されたがっている節がある。だったらそこに拙者が出張る理由もない」
取りつく島もない、というより、話術の違いか。ティンはその後もあの手この手でハンゾウに説得を試みたが、すべて突っぱねられてしまった。
「ああ、もうっ! ほんっとに堅物ね、あんたは! じゃあもういいわ、こっちで勝手になんとかするから!」
そして遂にティンは逆ギレ。勢いよく立ち上がると、畳を抉らんばかりの勢いで和室から駆け出して行った。
「…………」
襖を閉め、ハンゾウは座禅に入る。しかし、やはり自我を取り払うことは出来ず、ティンの闖入で途切れてしまった記憶が再び蘇る——
「あっ……メラルバ!」
火炎放射はツチニンに当たらず、ツチニンは鋭い爪でメラルバを攻撃し、吹っ飛ばした。
「まだだ。一撃入れらたくらいで動揺するな。まだ反撃の手は残されているだろう」
「は、はい……えっと、メラルバ、虫のさざめき!」
木の幹に叩き付けられたメラルバは起き上がると、体を小刻みに振動させ、さざめく音波を放つ。
音波はツチニンに直撃し、吹っ飛ばした。効果はいまひとつだがダメージはそこそこ通っているだろう。
「今だ。好機を逃すな」
「はいっ。メラルバ、火炎放射!」
メラルバは灼熱の炎を放ち、態勢の崩れたツチニンを炎で包み込む。しばらく炎は燃え盛り、しばらくすると自然に鎮火する。そして燃えた跡には、倒れたツチニンの姿があった。
「やった……!」
同時に娘の表情がパァッと明るくなる。娘はメラルバを抱きかかえると、木の幹を背にしているハンゾウへと歩み寄り、ぺこりと頭を下げる。
「ハンゾウ様、今日もありがとうございました!」
「構わん。それより、今日の動きはよかったぞ。攻撃を受けてから反撃までの時間が短かった」
見ての通り、ハンゾウはこうして時々、娘に稽古をつけてやっている。稽古といっても、ほとんど傍で見ているだけで、たまに助言をする程度だが。
彼女が将来、家業を継ぐにしても、出稼ぎに里を下りるとしても、はたまた新しく生活するために里から出て行ったり、忍の道を歩もうとするにしても、ポケモンの鍛練は決して無駄にはならない。忍という存在はこの世から不必要になりつつあるが、ポケモンはいつの時代、どんな場所でも活躍できる。
次世代の育成も、今を生きる者の務めなのだ。
「……日も暮れて来たな。今日はもう終いにするか」
本職のハンゾウはともかく、夜目の利かない娘にとって夜は危険だ。ハンゾウは日が完全に落ちないうちに、町まで娘を送り届ける。
「あ、あの、ハンゾウ様。いつも本当にありがとうございます。お忙しい中、稽古をつけさせていただいて……」
道中、娘は改まってそんなことを言う。
「構わんと言っているだろう。それに、なにも忙しいことなどはない。むしろ暇なくらいだ」
実際その通りだ。最近は任務もめっきり減ってしまい、ハンゾウはかなり暇を持て余している。言うなれば暇潰しで付き合っているようなものである。
「……やはり、忍はもう、必要ないのでしょうか」
「かもしれん。いや、実際は不必要どころか、悪だと思う者たちもいる。いつかの諜報活動の最中、平和維持などと謳い、忍を狩っている集団がいると耳にした」
「そんな……」
しかし仕方のないところもある。忍と言えば、諜報活動だけでなく、破壊工作活動、浸透戦術……言ってしまえば姑息で卑怯卑劣な手段を用いる者だ。時代が時代なら暗殺だって行っていた。だから悪だと言われれば、反論しにくいところもある。
「そもそも善悪自体、一面的なものに過ぎん……忍として動くことで我々が利益を受けるのなら、その裏では不利益を被っている者もいる。その不利益を被っている者たちが、我々を滅しようとするのであれば、文句は言えんだろう」
童子には少々難解な話かもしれんがな、と言ってハンゾウは締め括る。娘も、ハンゾウの言っている言葉は難しくよく分からなかったが、言いたいことは概ね理解したようだ。
しばらく歩いていると、突然、ぷちっという何かが切れるような音がした。
「あ……」
「どうした?」
娘の方を見てみると、彼女は直毛になった頭の後ろに手を当てていた。恐らく、髪紐が千切れたのだろう。
ハンゾウはそれを見て、どこからか赤い紐を取り出す。忍は即席応用が得意なのだ。髪紐の代わりくらいなら、即座に用意できる。
「後ろを向け。結ってやる」
「えっ、あ、ありがとうございます……」
ハンゾウが髪を結うというのが意外だったのか、少し驚いたような顔で娘は背中を向ける。ハンゾウは娘の赤い髪を手に取ると、髪を括り始めた。
女の髪を触るのは初めてだが、ハンゾウは器用なので、というより不器用な忍はいないので、すぐに終わった。しかし、
「む……少し高いか?」
ハンゾウが結んだ位置は、娘がいつも括っている位置より少し高かった。結び直そうかとしたが、娘は首を振り、
「いえ、このままで大丈夫です。ありがとうございました」
と言って、歩き出してしまう。
「……そうか」
そしてハンゾウも、歩を進めた。
忍はじきに消えてなくなる。自然の摂理であるかのようになくなっていく。それでも娘は、いやさハンゾウも、そして他の里の者たちにしたって、これからもずっと、静かにこの場所で暮らしていきたいと思っていたし、それがずっと続くと思っていた。
しかし、変化というものは、理不尽な災いというものは、唐突に訪れるのだ——
第三節その二です。ティンが闖入して一旦回想中止になりましたが、勿論まだ続きます。とはいえ、もうすぐ終わりなんですけどね。たぶんあと一、二章分くらいで終わると思います。やっぱりちゃんとしたバトルがないと、すぐに終わっちゃうんですよね。それにしてもこの町娘、フレイとは全然性格違いますね。見た目はかなり似ている設定なのですが。それでは次回かその次くらいに第三節も終了です。お楽しみに。
- Re: 495章 炎上 ( No.732 )
- 日時: 2013/03/03 14:55
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
ガラッと。
今度はさっきよりも控えめに、言い換えれば、普通に襖が開かれた。
ハンゾウはまたぞろティンが戻って来たのかと思い身構えるが、今度はティンではなかった。
「失礼します」
入って来たのは、レイ率いる氷霧隊の工作員、サーシャだった。室内用なのか、若干カジュアルな軍服に身を包み、腰には小経口の黒い拳銃を吊っている。
サーシャの姿を見て、ふとハンゾウは思う。時代に即している工作員と言えば、ハンゾウよりも佐0社の方がよっぽど即している。やはり忍というものは、時代錯誤なのかもしれない。
だがそんなことはおくびにも出さず、ハンゾウは静かに口を開く。
「……また珍しい客人がきたものだな。拙者に何の用だ? とりあえず座れ。茶くらいは出すぞ」
そもそも他の部隊の居住区に来ること自体、珍しいことなのでハンゾウの言うことはもっともだ。しかし相手が相手なので、きっと断るだろうと思い、茶を出すつもりはさらさらなかったが。
そして案の定、サーシャは首を横に振った。
「結構です。用件もすぐに済みますので。それより、フレイ様がどこにいるか、ご存じないでしょうか? 少し用事があるのですが……」
どうやらサーシャもフレイ絡みの用件らしい。フレイは基本的に自分のことしか考えていないため、知らず知らずのうちに面倒事を引き起こす種となっていることが多々ある。まあ、それも彼女は「一級フラグ建築士フレイちゃんだよー」などと言って、むしろ喜んでいる節があったが。
それはともかく、ハンゾウはフレイの所在は知らない。この時間なら部屋にいる可能性が高いが、機動力が低いわりに神出鬼没なので、実際はどうだか分からない。
「悪いが、拙者はフレイ殿がどこにいるのかまでは把握していない」
それに、ハンゾウはなにもフレイに付きっきりというわけではないのだ。外での活動なら、終始どこかで監視しているものの、安全な基地の中では、他に世話する者がいるのだ。
その辺を勘違いするものが非常に多いため、ハンゾウは言えるうちに言っておこうと、続けた。
「拙者はフレイ殿の護衛が主な任務ではあるが、基地の中ではそれも意味はなかろう。なによりフレイ殿は、己の世話を他の方に任せている。拙者の出る幕ではないのだ」
「……その、他の方とは?」
面倒なことにならないようあえて名前は伏せたのだが、サーシャは喰いついてきた。どれだけ彼が嫌いなのだろうと思いつつも、ハンゾウは即答する。
「フォレス殿だ」
途端、サーシャは露骨に不機嫌そうな顔をした。
「貴方は……それでもいいですか? あのフォレス様ですよ? 何をしでかすか分かりませんし、むしろ心配では?」
などとサーシャは言うが、ハンゾウはフォレスがどれほどフレイに献身的であるかを知っている。口では面倒だのだるいだの言ってはいるが、それでも最後にはきっちり面倒を見ているのだ。それも毎回。彼の面倒見の良さには、頭が下がる。
なので再び、ハンゾウは即答する。
「いや、心配無用だ。フォレス殿がフレイ殿に手をあげることはありえぬ。それに、フレイ殿はフォレス殿に世話を焼かれたがっている節がある。ならば拙者たちは、フレイ殿の意向に従うまで」
「……そうですか。では、お邪魔しました」
真っ向から意見が対立し、サーシャはなにか言いたげだったが、他に優先すべきことがあるようで、ゆっくりと襖を閉めて去っていった。
「…………」
そしてハンゾウは、サーシャがいなくなったことを、気配が遠ざかっていくことを確認し、目を閉じる。
サーシャはプラズマ団でも屈指の工作員。工作員とは、言い換えれば諜報員でもある。さらに言えば、現代に生きる忍とも言えなくはないだろう。
正に時代に即した忍。姿こそ違えどやっていることはほぼ同じだ。それだけで彼女は、特に弊害もなく工作員としてやってきた。
しかしハンゾウは、忍は無理をしていた。無理をして自分たちという存在を残そうとした。その、無理をした末路は、酷く悲惨なものであった——
我が目を疑った。
ハンゾウは今まで忍として生きており、一瞬の物事を視覚でも判断せざるを得ない状況に何度も身を置いていた存在であるため、自身の目には自信を持っていた。そうでなくとも、今まで我が目を疑うほどの事態に直面したことはない。
逆に言えば、今は生涯初めて我が目を疑うほどの事態が起こっているというわけである。
ハンゾウが見たものを端的かつ率直に、分かりやすく言うなら、こうだ。
里が燃えていた。
里全体が見渡せる唯一の場所。とある山の切り立った場所で、ハンゾウは轟々と燃える生まれ故郷を見た。
忍の里も、カモフラージュの町も、すべてが燃えている。宵闇で光る赤い炎が、里を暗く照らしている。
自分が任務から帰る途中に何があったのか。ハンゾウはいてもたってもいられず、ボールを取り出した。
「出て来い、モアドガス!」
出て来たのは、三つ子のドガース、モアドガスだ。
ハンゾウはサッとモアドガスの体の上に飛び乗り、
「モアドガス、急いで里に降りろ!」
そう指示を出した。
そして指示通り、モアドガスはガスを噴出させながら里へと下る。
里に降りたハンゾウが真っ先に向かったのは、自身が仕える主の下だった。忍である以上、ハンゾウにとって最も大事な人間は主だ。その無事を確認することが、最優先事項だ。
忍者屋敷というにふさわしい外観の家屋の奥、隠し扉になっている壁をけ破るようにして、ハンゾウは主の部屋へと踏み入った。
しかし、そこには、
「……っ!」
地に伏した主の姿と、その周りには複数の見なれぬ者たちがいた。全部で五人。皆それぞれ違う服装をしているが、共通したデザインではある。恐らく何かの組織なのだろう。
「貴様ら……何者だ」
とは言うが、ハンゾウは既にこの者たちが何者であるか、概ね見当がついている。
平和維持を謳い、時代に即さない忍を狩る組織。ここへ来る途中にも、知らない人間の気配を多々感じたので、かなり大勢で来たのだろう。
組織の者たちはハンゾウの声で振り返り、
「……なんだ。まだ残ってる奴がいたのか。誰だよ全員捕縛したって言ったのは」
リーダー格と思しき男がそう言って、モンスターボールを取り出した。
「まあ相手は隠れるのと逃げるのが得意な奴らだし、一人二人くらいは取り逃がしてる奴がいても不思議じゃないか」
「貴様ら……!」
ハンゾウもボールを構え、戦闘態勢に入る。死なずとも主を失った今、ハンゾウにできるのは仇討くらいなものだ。いや、せめて仇を取らねば、気が済まない、と言った方が正しいか。
こちらがやる気になったのを見て、相手の残る四人もボールを取り出し、それぞれポケモンを繰り出す。
「出て来い、ドータクン!」
「行け、ドラピオン!」
「やれ、マグカルゴ!」
「頼んだぞ、メガヤンマ!」
そしてリーダー格の男は、
「叩きのめせ、ハンタマ!」
目の前に立ちふさがるポケモンたちを見つめ、ハンゾウは苦い顔をする。
なぜなら、相手は確実にこちらに対して有利なポケモンを使用しているからだ。忍はその性質上、地味かつ静かなポケモンを好む。そのため、毒や虫タイプのポケモンを多く所持する傾向にあるのだ。時代に即した忍の例として挙がった、カントーのジムリーダーや四天王も、毒タイプの使い手だ。
だがこの組織の者たちは、あからさまに毒や虫タイプのポケモンに対し、有利なポケモンを繰り出している。こちらの技は通りにくく、逆に相手の技はこちらの弱点を突くようなものばかり。それが五体も並んでいては、いくらハンゾウでも一人で相手取ることなど無謀だ。
(しかし、拙者にできることは、もうこれくらいしか……)
三つのボールを構え、ハンゾウは現在持ちうるすべてのポケモンを繰り出す。
「出陣だ、カミギリー! モアドガス! テッカニン!」
繰り出すのは、やはり相手のポケモンたちには不利な毒や虫タイプが中心のポケモン。数でも相性でも不利なハンゾウに、勝ち目は薄い。
(しかし、今の拙者にできるのはこのくらい。我が主よ、その身を守れず、最期を看取ることもできなかった拙者にお許しを)
心の中で嘆くように謝罪をして、ハンゾウは決死の覚悟で敵に向かう。
その時ふと、彼の頭の中に一つの影が差した。赤い総髪の、自分を慕ってくれていた、町に住む少女——
(……あの娘は、無事なのだろうか)
第三節その三、起承転結の転ですね。サーシャが登場で再び回想中断です。ちなみにお気づきだと思いますが、第二節と第三節……というか二節から六節までは時間軸はほぼ同じです。サーシャとの話の内容も、二節で書いたものとほぼ同じですしね。ただ区切りと地の文、その他にも少々手直ししてますが。それにしても、敵の組織は随分と嫌らしいですね。先に出したとはいえ、あからさまにハンゾウに対して有利なポケモンを使っています。今のところ忍よりよっぽど狡いです。さて、では次回、結末というか、第三節終了です。お楽しみに。
- Re: 496章 邂逅 ( No.733 )
- 日時: 2013/03/03 18:59
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
暗い夜の森を駆ける影が一つ。木々の鬱蒼と生い茂る森の中で、音も立てずに走るというのは普通の人間ではまず不可能なことだが、しかし彼にとって音や気配を殺すのは呼吸をするかのように容易く、また生まれてから慣れ親しんだ森の中を駆け抜ける程度は、家の門扉を潜るようなものであった。
しかしそれでも、彼の表情は酷く苦しそうで、辛そうだった。焦燥や不安が巡り、迷いが渦巻いているかのようだった。
「……くっ、もう来たか」
彼——ハンゾウは足を止める。すると次の瞬間、目の前には一人の男が現れた。
「流石はニンジャって奴だな。逃げ足の速いこって。だが、俺たちに目をつけられたが最後、逃がしはしないぞ」
男はモンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出す。
「出て来い、バフォット!」
繰り出されたのは悪魔ポケモン、バフォット。悪・鋼タイプのポケモンだ。
「……くっ。出陣だ、テッカニン!」
ハンゾウもテッカニンを繰り出すが、厳しい表情をしている。
主の安否を確認すべく屋敷に向かい、最初に戦った組織の五人は、辛うじて退けた。しかしその後に現れた増援は、こちらが疲弊していたこともあり、逃げるのが精一杯だった。モアドガスもカミギリーももう戦えず、残るテッカニンにしろ、追っ手を振り切るために戦い、消耗している。そんな状態で、決して相性が良いとは言えないバフォットと戦うのは、無謀というものだ。
(確かに、勝利を収めるのは不可能に近い状況……しかし、逃げる隙くらいは、見出せるはずだ)
ハンゾウの生まれ育った忍の里は大昔、武士から派生したのか、戦争において討ち死にをするのは不名誉なことだと言われている。故にハンゾウも、今は壊滅同然の里の理念に従い、討ち死にだけは免れたい。どうせ捕まるのなら、自害した方がよっぽどマシである。
「バフォット、ぶち壊す!」
バフォットは凄まじい勢いでテッカニンに突進する。
「テッカニン、影分身だ!」
テッカニンも無数に自らの分身を作り出し、バフォットの攻撃を回避。さらに分身でバフォットを取り囲むことにより、バフォットを惑わそうとするが、
「そういうのは対策済みなんだよ! バフォット、マグネットボム!」
バフォットは磁力を帯びた爆弾を浮かび上がらせ、すべてのテッカニンへと一斉に放つ。爆弾は次々と分身を消していき、最後に残った鉄筋へと吸い付き、爆発する。
「テッカニン!」
体力が残り僅かだったテッカニンは、それだけで戦闘不能となってしまう。
組織の者たちは、本気でハンゾウたちを滅ぼそうとしているようで、忍の常套手段に対して、徹底的に対策をしている。毒を無効化する鋼タイプや、必中技のマグネットボムがいい例だ。
結局テッカニンは逃げる隙すら作れずにやられてしまい、これでハンゾウは、いよいよ打つ手がなくなってしまった。
「さあ、観念してもらうぞ。言っておくが、もうお前は逃げられないからな」
「…………」
それは分かっていた。男がバフォットを繰り出してから、こちらにいくつかの気配が近付いて来ることを、ハンゾウは察知していた。それが味方であると思えるほど、ハンゾウも楽観的ではない。
そして今まさに、ハンゾウは十人余りの組織の人間に、包囲されてしまった。
「くっ……こんな、ところで……!」
よぎるのは後悔の念ばかり。里が襲われるという時にその場にいなかった自分。忠誠を誓い、命を賭してでも守ると決めた主。そして、
(あの娘は、無事だろうか……)
最後に思うのは、自分を慕ってくれたあの町娘だった。無事である可能性は絶望的。しかし、気休めでもなんでも、そう思いたい自分がいた。
組織の者たちが包囲網をじりじりと狭めていく。逃げることはおろか、戦うことすらできない。己の忍としての人生が終了する。それは覚悟の上であったが、しかし、それでも気がかりなことは多い。
今まで生きてきた記憶を走馬灯のように思い出しながら、ハンゾウはゆっくりと目を閉じる。そして、次に目を開く時、
灼熱の熱気と共に、森が焦土と化した。
「……!?」
再び、ハンゾウは我が目を疑った。里が襲われる以上に、恐ろしいことが起こったと言っても過言ではない。
もはや諦めるしか道がないという時、次に目を開いた時が自分の最後だと思い目を閉じて、開いたらこの有様だ。
一瞬にして焼野原となった森。どうやらここら一帯だけが燃え尽きたようだが、本当に一瞬、瞬きをするかのような短い時間で、ここまで大規模なことをしでかすことができるというのだろうか。
組織の者たちは熱気に当てられ、気を失っている。訓練を受けているハンゾウは無事だったが、しかし今この状況に困惑しているのは確かだ。
その時、一つの人影が現れた。
「はー……だーるいなー」
それは、小柄な少女だった。鉄足ポケモン、メタグロスの上に乗り、うつ伏せで寝そべっている。その場に陸亀のような石炭ポケモン、ストータスが黒煙を噴いていた。恐らく、このストータスが森を消し飛ばしたのだろう。
非常に場違いな少女の登場に、ハンゾウは戸惑う。しかし彼にとって、その少女の姿は場違いなどという言葉以上の意味があった。
(馬鹿な……まさか……!)
少女の姿は、簡素な紅色の浴衣に、赤い総髪、眠たげな眼。背中に奇妙な模様の団扇を差してはいるものの、ほとんど彼女と同じ姿だ。
そう、ハンゾウが気にかけていた、町に住む娘だ。
まさか無事だったのかと思ったが、ハンゾウはすぐにその考えを振り払う。まず口調が違うし、ポケモンだって彼女の持っているものではない。
「あーあー、かったるいなー。なーんでゲーチスはあたしにこんなことさせるんだろー? こーいうのはフォレスの方がいいはずなのにさー。んー、なんか面倒になってきたしー、もう帰ってブログでも更新しよっかなー?」
メタグロスの上でゴロゴロしつつ、やる気なさ気にそんな事をいう少女は、そこで初めてハンゾウの存在に気が付いたようで、視線を合わせる。
「あっれー? ストータスの噴火の熱気を受けても無事な人いたんだー。もしかして噂に聞くニンジャさんかなー?」
メタグロスからべちゃっと降りて——もとい落ちて。匍匐前進でハンゾウの足元まで少女はやって来る。
「へー、まだ生き残りがいたんだー。もうみんな捕まって連れてかれちゃったのかと思ったー」
興味深そうにハンゾウを見上げる少女。そこで初めて、ハンゾウはこの少女に助けられたことに気付いた。
(……このような娘に救われるとは、拙者も落ちたものだな……しかし)
ハンゾウは静かに片膝を着く。そして頭を垂れた。
「んー?」
少女は首を傾げて疑問符を浮かべていたが、ハンゾウは構わず、
「そなたに願う。どうか、拙者の主となってはくれないだろうか……」
と、懇願する。そして、
「いーよー」
少女は即答した。それはもう、呆気ない程に。
これが、7Pフレイと、ハンゾウの最初の邂逅。そしてこの一件で燃え尽きた森、炎によって焦土と化した地が、焦炎隊の名前の由来であった——
「ハンゾウー」
サーシャが去ってすぐ、ズザザザザとゆるやかに襖が開かれた。このとろい感じの開け方と声は、プラズマ団の中でも一人しかいない。
「……フレイ殿」
匍匐前進で入室してきたのは、フレイ。いつものように赤い簡素な浴衣を着て、背中にはプラズマ団の紋章が刻まれた団扇。眠たげな垂れ目。
そして本人曰くチャームポイントの赤いポニーテールは、今日は見られなかった。今はストレートロングの赤髪となっている。
ハンゾウも、フレイが髪を下ろしているところは初めて見た。なかなか新鮮で悪くはなかったが、何分フレイが小柄なのに対して髪が長いので、髪に埋もれているように見える。軽くホラーだ。
フレイは入って来るなりハンゾウの所へと寄って来る。少し不機嫌そうだ。
「ハンゾウ聞いてよー。今日さー、起きたらフォレスがいないんだよー。」
「それで、どうなされた」
「うーんとねー、とりあえず布団から出て、寝間着のまま来たんだけどー」
寝間着というが、いつも同じ浴衣を着ているようにしか思えない。浴衣も元は寝間着なのでおかしくはないが。
「髪括ってー」
ゴム紐を差し出しつつ、フレイはそんなことを言ってきた。
「いつもはフォレスがやってくれるんだけどー、どこにいるか分かんないんだよねー。だからハンゾウが代わりにやってー」
「……御意」
とりあえずハンゾウは、フレイを囲炉裏に座らせる。そしてフレイの赤い髪を手に取った。
(……これがあの娘に対しての償いになるとは思えん。だが、今の拙者には、これくらいしか出来ることがない。せめて、この方を最後までお守りするのが、拙者の使命にして、残された唯一の道だ)
その使命を果たすためなら、英雄だろうと、世界であろうと敵に回してみせる。
そんなハンゾウの決意が打ち砕かれるのは、そう遠くない未来だ——
第三節、これにて終了です。今回は本当にまともなバトルなかったですね。それとかなりグダグダになった感があります。やっぱバトルがないとどうしても上手く行かない気がしますね。ともあれ第三節も終了し、次は第四節 思慕。森樹隊の出番です。森樹隊唯一の直属配下、ティンがなにをしでかすのか。次回をお楽しみに。
- Re: 497章 行動 ( No.734 )
- 日時: 2013/03/06 01:40
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
流石にそろそろ悟った。自分じゃあの人を幸せにすることは出来ないと。
いや、幸せにする、などと自惚れたことはなかったが、幸福という存在さえも、あの人に教えることは出来そうにない。
癪な話だが、そうなると頼みの綱はあの男ということになる。
自分とはアプローチのベクトルこそ違えど、そもそも立場も当たり方も全く正反対であるが、彼ならあるいは、なんとかしてくれるかもしれない。
なんだかんだ言って、自分はやはりこういう組織には向かないのだろう。あいつを拾った時もそうだったし、今だってそうだ。このような組織にはそれなりの非情さが必要なのだろうが、自分にはそれが欠けている。
まあしかし、そんなことはもうどうでもいいだろう。他の連中も慌ただしくしているように、この組織も終わりに近づいている。そろそろ潮時かもしれない。
だが、そうにしたって、最後に何かしておかなくてはならないだろう。
それは何か。あの人を見届けることか、それともあいつとのけじめをつけることか。
どちらにせよ、覚悟を決めなくてはならないようだ——
プラズマ団基地、森樹隊居住区に隣接している、屋内ビオトープ。
そこはプラズマ団の科学力(の無駄遣い)によって作り出された超高性能温室機器で温度、湿度が完全に管理されており、四季折々の植物が存在する。
そんな自然豊かな空間の中心には白い丸テーブルと椅子が二脚置かれており、そのうちの一つに一人の人影が見て取れた。
まだ若い女だ。若草色の髪をツインテールにしており、ピンクや黄色を基調としたワンピースに、派手な装飾を多数付けている。
彼女は7Pフォレス率いる森樹隊、そして、フォレスが唯一直属の配下に置いている者、ティンだ。
いつもは昼夜四六時中フォレスを追いかけ回している印象のある彼女だが——実際、概ねその通りなのだが——今は難しい顔で手を組み、そこに顎を乗せている。その視線の先には、長さに違う二つの針が設置された円形の花壇、いわゆる花時計があった。
「…………」
じーっと時計を凝視するティン。そんなことは構わず時を刻む時計。針は少しずつ時を刻み、遂に長針が一周、短針30°移動した。
刹那、ガバッとティンは体を跳ね上げる。
「あーもうっ! またフォレス様来なかったー!」
ビオトープ中に響き渡るほど叫ぶと、ティンはぐったりとテーブルに突っ伏す。
ティンとフォレスは、よくこのビオトープで共に時間を過ごす……というのは過去の話、というか半分くらいはティンの幻想だ。そもそもフォレスはティンを避けているところがあるため、三回の一回程度の割合でしかビオトープを訪れない。
だがそれを差し引いても、最近のフォレスはティンに構うことがほとんどなくなっている。プラズマ団にとって最大の敵、英雄たちとの最終決戦も迫ってきている今、7Pが忙しいのは分かる話だが、それにしたってつれない。
はっきり言って、最近のフォレスは冷たいのだ。
「もうかれこれ半月ぐらいフォレス様とまともに話してない気がする……なんで? どうしてこなったの?」
テーブルに突っ伏しながら、ティンは自問自答する。行動派の彼女がそんなことで正しい答えが導き出せるとは到底思えないが、それでも彼女なりの解答は出たようで、ティンはまたしても体を跳ね上げる。
「そうよ! 元凶はあの怠慢女よ! そうに違いない、そうに決まってるわ!」
怠慢女とは、7Pフレイのことである。なかなか的を射た表現ではあるが、直接ではないとはいえ、一応上司である7Pをそのように呼ぶのは、あまり良いことではない。
無論、ティンがそんなことを考慮するはずもないが。
「……でも、あの女が原因だとして、問題はその原因をどうやって取り除くかよね……」
ティンは考える。フレイのどのような点が、ティンにとって邪魔になっているのか。元凶はフレイのどういう部分なのかを、考え、考え、考え抜く。
そして、
「!」
頭から電球でも出て来そうなほど、正に閃いた、というような表情で立ち上がる。
「そうか……そうよね。だったらあいつの所に行くしかないっ!」
そして思い立った日がなんとやら、椅子を蹴倒し、猛ダッシュでビオトープから出ていった。
向かった先は焦炎隊居住区。板張りの廊下を駆け、目的の部屋へと到達。スパーン! と凄まじい勢いで襖を開き、土足のまま中へと入る。
「ハンゾウ! いる!?」
「……騒々しいな。何事だ」
中にいたのは、忍装束を着た長身の男。フレイ焦炎隊のハンゾウだ。座禅を組んだ状態で、片目だけ開いてティンの姿を捉えている。
「ちょっと話があるんだけど、入るわよ」
ティンは囲炉裏を挟んだハンゾウの正面に座りドカッと込む。男らしいと言えば聞こえはいいが、正直に言って品のない座り方だ。
しかしハンゾウはそれを咎めることもなく、
「話、とな。何だ?」
と用件を聞く。早く出て行って欲しいという思いの表れだろう。
「あんたんとこの怠慢女についてよ」
ティンも時間はかけたくなかったので率直にそう言う。ハンゾウは少し考え込み、
「フレイ殿のことか。直接の配下でないとはいえ7Pであるお方をそのように呼ぶのは、感心しないな」
と返した。
しかしティンは、
「別にかまいやしないわよ。私はフォレス様一筋だし」
と一蹴する。
そしてすぐさま話の内容に入った。
「で、あの女だけど、単刀直入に言いうわよ。あんたが世話しなさい」
「……どういう意味だ」
「そのまんまの意味よ。あの女の世話でフォレス様も迷惑こうむってるはずだし、それでフォレス様の時間がなくなると私にも不都合があるのよ。あんたあの女の護衛だか目付けだかなんでしょ。だったらついでに世話しなさいよ。そうすればフォレス様の時間は空いて、私もハッピー、あんたも主人に尽くせて一石三鳥よ!」
嬉々として語るティン。ハンゾウは静かに目を瞑り、即答する。
「却下だ」
「なんでよ!」
真正面から切り捨てられるが、ティンは食い下がる。今にもハンゾウに飛びかからんばかりの勢いで身を乗り出し、ハンゾウを睨み付けている。
しかしハンゾウはそれを気にすることもなく、淡々と答えた。
「拙者がフレイ殿に命じられているのは護衛だ。身の回りの世話はフォレス殿に任せる、とのことだそうだ。命じられていないことは行うべきではない。それが忍というものだ」
「だから、あの女のせいで私もフォレス様も迷惑だって言ってるでしょ!」
「拙者はフォレス殿の直接の配下ではないのでな。命令は主であるフレイ殿を優先させるのが道理だろう」
「うっ……で、でも、あんたももっと主人に尽くしたいとか思わないわけ? フォレス様に任せるより、自分で徹底的に世話したいとか思わない?」
「残念ながら拙者、そこまで独占欲の強い人間ではない。それに、これは拙者の勝手な憶測だが、フレイ殿はフォレス殿に世話されたがっている節がある。だったらそこに拙者が出張る理由もない」
取りつく島もない。いくらティンがフレイの世話をハンゾウに任せようとしても、様々なパターンでアプローチを仕掛けても、ハンゾウはフレイの命令のみをこなすの一点張りで、意見は真っ向から対立していた。
こうなるともう根競べになるのだが、忍は文字通り、耐え忍ぶ者。そして逆に、ティンは短気だ。決着はすぐに着いた。
「ああ、もうっ! ほんっとに堅物ね、あんたは! じゃあもういいわ、こっちで勝手になんとかするから!」
交渉は決裂。逆ギレしたティンは、襖も閉めずに和室から飛び出していった。
つい頭に血が上って飛び出してしまったものの、こっちで勝手になんとかすると言ったものの、ティンにはもうどうすればいいのか分からなかった。
とりあえず何か手がないかと色々と考えたりしてみたが、やはり彼女は思考より行動の方が向いているようで、特に何も思いつかなかった。
とにかく基地の中を無意味に歩き回り、無い知恵を絞るように思考を続ける彼女は、肉体的にはともかく精神的に疲弊していた。好意を寄せるフォレスとまともに会わない時間が長く続いたのも関係しているだろう。
とにかく、ティンは非常に疲れていた。そんな状態ではまともな判断もできない。
そんな時、ティンは二つの人影を見つけた。どうやら片方がもう片方を抱きかかえているようだ。
抱きかかえているのは、青髪のストレートロングヘアーの女性。この時期には寒そうな薄手のワンピース一枚で、何故か毛先が焦げている。
抱きかかえられているのは赤い髪をポニーテールにしている少女。寝間着のような浴衣のままで、こちらも少し寒そうである。
しかしティンにとって格好などはどうでもよかった。なぜならその二人、特に浴衣の少女は、ティンにとって重要な立ち位置にいるのだから。
その二人とは、言うに及ばず——7Pレイと、フレイだった。
始まりました、第四節、思慕です。ティンがフォレストの時間を確保すべく、奔走していますが……なんだか空ぶっている感が否めないですね。それはともかく、今回はまともなバトルが書けそうです。前回はろくなバトルがなかったので、白黒的にも一安心です。では次回、ティンの戦いが始まります。お楽しみに。
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