二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——完結——
- 日時: 2013/04/14 15:29
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=21394
今作品は前作である『ポケットモンスターBW 真実と理想の英雄』の続きです。時間としては前作の一年後となっておりまして、舞台はイッシュの東側がメインとなります。なお、前作は原作通りの進行でしたが、今作は原作でいうクリア後なので、オリジナリティを重視しようと思います。
今作品ではイッシュ以外のポケモンも登場し、また非公式のポケモンも登場します。
参照をクリックすれば前作に飛びます。
では、英雄達の新しい冒険が始まります……
皆様にお知らせです。
以前企画した本小説の人気投票の集計が終わったので、早速発表したいと思います。
投票結果は、
総合部門>>819
味方サイド部門>>820
プラズマ団部門>>821
ポケモン部門>>822
となっています。
皆様、投票ありがとうございました。残り僅かですが、これからも本小説をよろしくお願いします。
登場人物紹介等
味方side>>28
敵対side>>29
PDOside>>51
他軍勢side>>52
オリ技>>30
用語集>>624
目次
プロローグ
>>1
第一幕 旅路
>>8 >>11 >>15 >>17
第二幕 帰還
>>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
第三幕 組織
>>32 >>36 >>39 >>40 >>42 >>43 >>46 >>49 >>50 >>55 >>56 >>59 >>60
第四幕 勝負
>>61 >>62 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>72 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80
第五幕 迷宮
>>81 >>82 >>83 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>92 >>93 >>95 >>97 >>100 >>101
第六幕 師弟
>>102 >>103 >>106 >>107 >>110 >>111 >>114 >>116 >>121 >>123 >>124 >>125 >>126 >>129
第七幕 攻防
>>131 >>135 >>136 >>139 >>143 >>144 >>149 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>157 >>158 >>159 >>161 >>164 >>165 >>168 >>169 >>170 >>171
第八幕 本気
>>174 >>177 >>178 >>180 >>184 >>185 >>188 >>189 >>190 >>191 >>194 >>195 >>196 >>197 >>204 >>205 >>206 >>207 >>211 >>213 >>219 >>223 >>225 >>228
第九幕 感情
>>229 >>233 >>234 >>239 >>244 >>247 >>252 >>256 >>259 >>262 >>263 >>264 >>265 >>266 >>269 >>270 >>281 >>284 >>289 >>290 >>291 >>292 >>293 >>296 >>298
第十幕 強襲
>>302 >>304 >>306 >>307 >>311 >>316 >>319 >>320 >>321 >>324 >>325 >>326 >>328 >>329 >>332 >>334 >>336 >>338 >>340 >>341 >>342 >>343 >>344 >>345 >>346
弟十一幕 奪還
>>348 >>353 >>354 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>367 >>368 >>369 >>370 >>371 >>372 >>376 >>377 >>378 >>379 >>380 >>381 >>382 >>383 >>391 >>393 >>394 >>397 >>398 >>399 >>400
第十二幕 救世
>>401 >>402 >>403 >>404 >>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>412 >>413 >>414 >>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>433 >>436 >>439 >>440 >>441 >>442 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447 >>450 >>451 >>452 >>453 >>454
第十三幕 救出
>>458 >>461 >>462 >>465 >>466 >>467 >>468 >>469 >>472 >>473 >>474 >>480 >>481 >>484 >>490 >>491 >>494 >>498 >>499 >>500 >>501 >>502
第十四幕 挑戦
>>506 >>511 >>513 >>514 >>517 >>520 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>534 >>535 >>536 >>540 >>541 >>542 >>545 >>548 >>549 >>550 >>551 >>552 >>553 >>556 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>568
第十五幕 依存
>>569 >>572 >>575 >>576 >>577 >>578 >>585 >>587 >>590 >>593 >>597 >>598 >>599 >>600 >>603 >>604 >>609 >>610 >>611 >>614 >>618 >>619 >>623 >>626 >>628 >>629 >>632 >>638 >>642 >>645 >>648 >>649 >>654
>>657 >>658 >>659 >>662 >>663 >>664 >>665 >>666 >>667 >>668 >>671 >>672 >>673 >>676 >>679 >>680 >>683 >>684 >>685 >>690 >>691 >>695
第十六幕 錯綜
一節 英雄
>>696 >>697 >>698 >>699 >>700 >>703 >>704 >>705 >>706 >>707 >>710 >>711
二節 苦難
>>716 >>719 >>720 >>723
三節 忠義
>>728 >>731 >>732 >>733
四節 思慕
>>734 >>735 >>736 >>739
五節 探究
>>742 >>743 >>744 >>747 >>748
六節 継承
>>749 >>750 >>753 >>754 >>755
七節 浮上
>>756
第十七幕 決戦
零節 都市
>>759 >>760 >>761 >>762
一節 毒邪
>>765 >>775 >>781 >>787
二節 焦炎
>>766 >>776 >>782 >>784 >>791 >>794 >>799 >>806
三節 森樹
>>767 >>777 >>783 >>785 >>793 >>807
四節 氷霧
>>768 >>778 >>786 >>790 >>792 >>800 >>808
五節 聖電
>>769 >>779 >>795 >>801 >>804 >>809
六節 神龍
>>772 >>798 >>811
七節 地縛
>>773 >>780 >>805 >>810 >>813 >>814 >>817
八節 黒幕
>>774 >>812 >>818
最終幕 混濁
>>826 >>827 >>828 >>832 >>833 >>834 >>835 >>836 >>837 >>838 >>839 >>840 >>841 >>842 >>845 >>846 >>847 >>849 >>850 >>851
エピローグ
>>851
2012年冬の小説大会金賞受賞人気投票記念番外
『夢のドリームマッチ ver混濁 イリスvsリオvsフレイ 三者同時バトル』>>825
あとがき
>>852
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171
- Re: 428章 能力 ( No.585 )
- 日時: 2012/12/30 16:27
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「ケヒャハハハハハハハ!」
ここは、知る者ぞ知るプラズマ団の拠点。その一角にある、とあるラボ。即ち、7Pが一人、アシドの砦である。
「……どうしたアシド。もとから変な奴だとは思っていたが、いきなり高笑いし出すとか、狂気の沙汰だぞ。ただでさえお前は笑い方が変だっていうのに……遂にネジがぶっ飛んだか?」
アシドの背後から現れたのは、同じく7Pの一人、フォレス。
「おう、フォレスか。別に自分の部屋で笑ってようと、僕の勝手だろ?」
「そりゃそうだが……で、なんで笑ってんだ? 最近、お前不機嫌だったから、なんかいいことでもあったのか?」
「まあな。いやなに、ちょっとばかし面白いもんを見つけたのさ」
そう言ってアシドは手元のモニターを操作し、いくつかの画面をディスプレイに表示する。
「んだこりゃ……? 英雄とそのポケモンのデータ……それと、その仲間のデータか?」
「それに加えて僕ら7Pのデータも、何人分かあるけどな。フォレス、これなんだと思うよ?」
アシドのその問いかけに、フォレスは首を捻る。
アシドはプラズマ団の中でもとりわけ性格が悪く身勝手ではあるが、ずば抜けた天才であることは確かだ。対してフォレスは、成り上がりで今の地位に付いたようなもの。生まれ持っての才能というものはない。
加えてアシドの性格の悪さから、答えが明確に存在するかも怪しい。フォレスはプラズマ団の中でも、アシドとウマが合う唯一の人物だったりするのだが、それでも彼の考えは読めない。その結果、
「分からん。何だ?」
率直にそう答えた。
だがアシドは気分を害することもなく、嬉々として説明し始める。
「これはな、英雄の持つポケモンの、能力値のステータスだ。仲間の方は、そいつらの性格をデータ化したもんだよ」
「あ? 性格をデータ化って、どういう意味だ?」
あえてそんなものがデータ化できるのかという問いかけはしない。プラズマ団の科学力は、今や世界有数、もしかしたら世界一と言っても過言ではないかもしれない。そんなこと、聞くだけ野暮というものだろう。
なのでフォレスは、その意味を問う。
「性格のデータ化っつうのは、ありていに言っちまえば、そいつの生い立ちや育った環境、人間関係を考慮して、そいつの人生における正常値かどうかを見るもんだ。普通この数値はゼロだが、いわゆる『道を踏み外した』って状況に陥ると、この数値が変動する。数値が大きくなればなるほど、大きく道を踏み外したことになるのさ」
いまいち分かるようで分からないアシドの説明だが、つまりは普通に生活していれば数値はゼロで、何か些細な切っ掛けで道を踏み外したり、ぐれたりすると数値が変動し、その変動幅が大きいほど大きく道を踏み外していることを示しているようだ。
「ん? 待てよ。そいつの生い立ち——人生での出来事を考慮した基本値がゼロなんだろ? だったら、例えばなんかの事件に巻き込まれて両親を亡くした奴が、心を閉ざしたりしたら、それは事件のせいで心を閉ざしているわけであって、つまりある意味まっとうな心理だろ? だったら数値はゼロのはずだ」
「事件の程度にもよるが、まあな。確かにそれだと、どんな大事件に巻き込まれようと、その事件が考慮されるから数値はゼロ。でもこの数値は、本人の性格が加味されない。まあ、本人のメンタルを表す数値だとでも思っといてくれ」
本題はこっからだ、とアシドは前置きし、説明を続ける。
「まず英雄のポケモンだがな、こっちが英雄のポケモン十二体の能力値。こっちが、それと同じポケモン十二体の能力値だ。相互関係における補正はかかってないぜ」
アシドはディスプレイの画面を二つ拡大させ、フォレスに見せる。
「……英雄のポケモンの方が能力値が高いな。でも、こんなの当然だろ? 腐っても英雄だぜ? 一般的なポケモンより強くて当たり前だ」
「確かにそうなんだが、こっちの十二体は一般的なポケモンじゃない。そのポケモンにおける能力の限界値だ」
「……なに?」
フォレスの顔が曇り、訝しげに目を細めた。
「つまり、英雄のポケモンは能力値が限界突破している。さらに英雄の仲間を見てみると」
アシドはモニターを操作して新たな画面を拡大させる。そこに移っているのは、英雄の片割れN、英雄の弟子であるミキ、そして7Pの一人レイの三人だ。
「まず英雄の片割れ、旧王様だがな……こいつはポケモンの言葉が分かるらしいが、その能力が弱まっている」
「そうらしいな」
「で、この数値を見てみろ」
先ほど説明していた、性格をデータ化したものの数値を表示する。見ると、Nとレイ、特にレイの数値はゼロから大きく離れていた。逆にミキの数値は、ほぼ原点のまま。
「レイさんの幅が大きいな……まあ、あの人なら分からなくもないが」
「そう思うよな。だがあのレイだぜ? あの絶対零度のクールビューティーが、ここまで精神をかき乱されているんだ。それも、英雄と関わり始めたあたりからな」
言われてみればそうだ。フォレスも最近のレイは様子がおかしいと氷霧隊の者——特にサーシャから言われていた。よく考えればそれは、英雄と本格的に接触し出してからだ。
「他にもいるぜ。英雄の幼馴染だとかいう奴ら、PDOにおける要注意人物ザキ、僕らで言えばエレクトロとかな。全員、最近おかしな点がある」
「そういやそうだな。フレイも、エレクトロの性格が変わってきてるとか言ってたような気がするわ。あと、あれは英雄のせいだとか——」
とその時、アシドがビシッと人差し指を突き出してきた。
「それだよそれ。どいつもこいつも、英雄と関わりだしてから、おかしくなっちまいやがった。まるで、英雄が道を踏み外させているようにな」
アシドは有頂天になりながらも、口を開き続ける。
「極東の辺鄙なところに、なんつったか……ランセ地方? とかいう場所があってだな、まあ時代遅れというか封建的というか、結構閉鎖した地方であんま情報がないんだが、ランセ地方ではこの地方でいうトレーナーに相当する人間は、ポケモンになにかしらの力を与える、いわば特殊能力みたいなのがあるって話だ」
「……まさか、英雄にもそれがあると?」
恐る恐るフォレスが問うてみると、
「そうだ」
アシドはあっさりと肯定した。
「そこで僕は一つの仮説を立てた。英雄には人やポケモンの道を踏み外させる……いやいっそ、運命を変えると言うべきか。そんな能力があるとする。無論無自覚なその能力が発動して、英雄のポケモン達は『限界値まで到達する』という運命が変えられ、能力値が限界突破してしまう。次にレイ。あいつも英雄の能力で『感情を押し殺したまま保つ』という運命が変えられ、鉄面皮を剥がされて今に至る、って感じだ」
聞いていてフォレスはこじつけっぽいと思ったりしたが、しかし妙に説得力があった。成程、そう考えれば、ここ最近気になっていた、人格のブレも説明がつくが、
「じゃあこれはどうなんだ、英雄の弟子。こいつの数値はほとんど変動してないぞ」
フォレスはミキの画面を指さして言う。
英雄に運命を変える能力があり、それが人の人格にまでも影響を及ぼすのなら、ミキの数値も変動していていいはず。しかし彼女の数値は、ほぼゼロだ。
「それはだな、たぶん英雄の弟子にも能力があるんだと思うぜ。運命を変えられないとか、他の能力を受けつけないだとか」
半ば投げやりな感じでアシドは言った。たぶん、まだ調査中なのだろう。
グッと背筋を伸ばし、アシドはこうまとめた。
「ま、僕が何を言いたいかっつーとだな。トレーナーの中には、そういう特殊能力みたいなもんが存在しているらしいってこった。んで英雄は、人の運命を変える、人の人格をずらすような能力を持っている。今の僕の見解はこんなもんだ」
しっかし、とアシドは続ける。
「ポケモンの生態を調べる研究者は数多くいるが、トレーナーについて調べる奴はいねぇよな。ケヒャッ、こりゃいいテーマが見つかったぜ。題して『トレーナーとトレーナーがもつ未知の能力』とでも言うのかね。ケヒャハハハ!」
愉快に笑うアシドだが、不意にピタッと笑いを中断し、フォレスに向き直る。
「そういやフォレス、お前何しに来たんだ? まさか僕の話を聞きに来たわけじゃねーだろ?」
「ああ、そうだった」
いきなりアシドが高笑いするので頭から飛んでしまったが、フォレスは元々アシドを呼びに来たのだった。
「これから例の作戦を実行する。俺はセイガイハシティ方面、お前はヒオウギシティ方面に向かえってよ」
今回はバトルのない回でした。前回のあとがきで、モスギスとバトルした後を書くみたいなこと書きましたが、ごめんなさい、違う話を入れてしまいました。しかも会話のみという面白みに欠ける話です。しかしここで、以前からフレイが言っていた『英雄によって性格が変えられた』ことについてのメカニズムが判明しました。ランセ地方は知る人ぞ知るポケノブの舞台です。あのゲーム、案外おもろいです。原作ポケモンとはまた違った戦略を要求されますしね。まあそんなことはさておき、次回こそモスギスとのその後を描きますが、プラズマ団がまた動きだし、親子対決になるのか? という感じです。では次回も楽しみに。
- Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——再開します—— ( No.586 )
- 日時: 2012/12/30 20:12
- 名前: 大光 ◆HynV8xBjBc (ID: geEvUTTv)
久々のプラズマ団の登場ですね〜。しかも、「作戦を実行する」ですか。何やら波乱の予感がしますね〜。しかし、アシドの笑い声は相変わらず特徴的ですね www 。他では見たことがありません www。
すみませんが白黒さん、ソンブラのキャラ設定をポケモンも込みでの追加をしてもいいですか?今まで散々してきましたが、今回は特に備考のところに生い立ちぽいことなどを追加しようと思っています。今後のストーリーに邪魔になるなら止めときます。
- Re: 429章 檜扇 ( No.587 )
- 日時: 2012/12/30 22:25
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「ディザソル……よくやった」
ディザソルはふらふらになりながらも、おぼつかない足取りでイリスに歩み寄る。クールな素振りを見せているものの、ディザソル自身も相当歓喜しているのが、空気で伝わってくる。
「いやはや負けてしまいました。けれど人生は挫折も必要。もすは気に病むことなく、これからを精進していかなくてはなりませんね。はい」
ティラノスをボールに戻しつつ、モスギスはそう呟いた。
「……で、モスギスさん、父さんからの言伝って何ですか?」
ティラノスとのバトルが劇的で忘れてしまいそうになったが、当初の目的はイリゼがモスギスに伝えた伝言。それを聞くためにイリスはモスギスとバトルをしたのだ。
あのイリゼがわざわざモスギスをけしかけてまでイリスに伝えようとしていること。それは、
「甘えんな!」
「……は?」
いきなりモスギスが声を張り上げたので……というか、言葉の意味が分からなかったので、呆けたような声が出る。
「いえだから、甘えんな、とイリゼさんは仰っていましたよ?」
「は、はぁ……」
そんなことだけ言われても、反応に困る。一体、何に甘えるなというのだろうか。それにそもそもイリスは、何かに甘えているつもりはない。
結局、イリゼが何を言いたいのかは、分からずじまいだ
「それではもすはこの辺で失礼します。アディオスヒーローもっすー!」
最後によく分からない台詞を残し、モスギスは去っていった。
「んー……繋がんない……」
ここはライモンシティ付近上空。モスギスとのバトルを終えたイリスは、とりあえず故郷であるカノコタウンに向かっていた。その道すがら、ライブキャスターでイリゼと連絡を取ろうとしているのだが、
「全然繋がらないし……ったく、一体どこで何やってるんだ、あの人」
毎度のことではあるが、しかしようやくイリゼと勝負する権利を手にしたのだから、早く戦いたいという気持ちがある。なのに連絡が取れないというのは、癪に障るのだ。
「そういや、ミキちゃんのお父さんも蒸発したとか言ってたな……」
たまに連絡は来るらしいので、正確には蒸発ではないのだが、しかしここ最近、まったく姿を現さないらしい。
「それでザキさんも苦労してるみたいだし、あの人が怒りっぽくなるのも分かるような——」
ピリリリリリリリリ!
とその時、ライブキャスターの着信音が鳴り響いた。
まさかイリゼか、と淡い希望を抱いて回線を開くと、相手はキリハだった。
「なんだキリハさんですか。どうしました?」
『なんだって……なんだか君、気が立ってるように見えるんだけど、何かあったのかい?』
父親じゃなかったからです、と正直に答えるほどイリスも馬鹿ではない。ここは別に、と流しておく。
「で、何か用ですか? もしかして、またケルディオとかいうポケモンが……」
『いや、それは大丈夫だよ。そっちはリオが対応してくれてる。って、そんなのんびりしてられる状況でもないんだった』
キリハの雰囲気が、今日に剣呑なものへと変わる。どうも、緊急事態のようだ。
『実はさっき、セイガイハシティとヒオウギシティに向かう、プラズマ団のものと思われる二つの飛行物体を確認した。君は今どこにいる?』
「ライモンシティ付近の上空です。ここからなら、セイガイハもヒオウギも、そう距離は変わらないと思います」
『そうか。なら、君はヒオウギに向かってくれ。何分そこはイッシュ本島から離れてて、PDOの支部もない。一応、リオとザキ、それからミキちゃんが向かってくれてるけど、人手不足なんだ。セイガイハの方は僕が行く。あっちには支部もあるし人手には困らない。それに、セイガイハにはジムリーダーがいる。もしもの時は協力を仰ぐつもりだ』
「分かりました。じゃあ、いますぐ向かいます」
『頼んだよ』
そうして、ブツッと回線が途絶える。
とんだ事態でイリゼとの再戦も延期になってしまったが、プラズマ団に動きがあったのなら仕方がない。イリスは進路を南西へと変え、ヒオウギシティに向かった。
ヒオウギシティはイッシュ地方の南西の端にある街だ。トレーナーズスクールが存在し、イッシュ地方全域を見渡せるほど高い見晴らし台が有名である。
そんなのどかなヒオウギシティだが、今現在に限っては、そんな空気は微塵も感じられなかった。
「これは……」
ヒオウギシティ上空まで来たイリスが見たものは、おびただしい数のプラズマ団。しかも今までのチェインメイルのような恰好ではなく、黒い強盗団のような衣装に身を包んでいる。
プラズマ団たちは街中を闊歩し、目につく人に向かってなにやら怒鳴りつけている。やたら人の数が少ないので、恐らく街の人々を外に出さないようにしているのだろう。
「となると、何かを探している……?」
考えられそうなのはそのくらいだが、となると何を探しているのか。キュレムを復活し、コントロールするための境界の水晶は、もう奴らの手に渡ってしまっている。となると、何を……
「考えててもしょうがない。とりあえず、人目のつかないところに着地しよう」
しかしウォーグルは体が大きく、建物が密集している街中には着陸しにくい。かといってこのままずっと空中にいても、ことは進展しないし、いずれ見つかってしまう。その時だった。
「ん、あれは……」
路地裏のような街の一角で誰かが戦っている。見る限り街の住民のようだ。
「どうも押されてるっぽいな……ウォーグル、あそこに向かってくれ」
イリスに指示され、ウォーグルは示された場所から少しだけ離れた位置に着地。ちょうどプラズマ団もいなかったため、好都合だ。
イリスは静かに降りてウォーグルをボールに戻すと、物陰から様子を窺う。
戦っているのはプラズマ団の下っ端と、イリスと同い年くらいの少女だ。少女はリオル、下っ端はゴルバットをそれぞれ繰り出している。
「リオル、真空波!」
「ゴルバット、エアカッター!」
波紋ポケモン、リオルが放つ真空波と、蝙蝠ポケモン、ゴルバットが放つ空気の刃がぶつかり合う。しかし真空波はエアカッターに切り裂かれ、そのままリオルを攻撃する。
「リオル!」
リオルはエアカッターを受け、片膝を着く。
戦況は明らかに少女が劣勢。そもそも格闘タイプのリオルと毒・飛行タイプのゴルバットでは、相性的にリオルが不利だ。
「そろそろそのリオルもおしまいだな。ったく、手間かけさせやがって。ま、リオルは珍しいポケモンだから、持ち帰れば俺の評価も上がるってもんだ」
そういえばプラズマ団は今、支給用のポケモンが不足しているのだったか。下っ端はマスクを付けていても分かるくらい悪い顔をしながら、少女に迫る。
「っ……させない。リオルは渡さないし、この街だって——」
「ごちゃごちゃうるせぇよ。ゴルバット、毒々の牙!」
少女の言葉を遮って、ゴルバットが動き出す。猛毒を含んだ鋭い牙を剥き出しにして、リオルへと襲い掛かる——
「エルレイド、サイコバレット!」
——がその時、念力を固めた銃弾がゴルバットの翼を撃ち抜いた。
「っ!? ゴルバット!」
ゴルバットはその一撃を受け、墜落する。弱点を突かれた上に不意討ちのような攻撃を喰らい、戦闘不能になった。
「何者だ!?」
下っ端はイラついたように刃が飛んできた方向に視線を向ける。そこに立っているのは、刃を構えたエルレイドと、イリスの姿。
イリスは軽く嘆息し、
「手間かけさせるなはこっちの台詞だよ。お前みたいな下っ端に構ってる暇はないっていうのにさ。どうせここも7Pが仕切ってんだろうから早く見つけたいのに。それに、ポケモンが不足してるからって、人のポケモンを奪うなよ。いつぞやの団員は、草むらでポケモン採集してたよ?」
余裕綽々のその態度が癪に障ったのか、下っ端は露骨に舌打ちし、ゴルバットをボールに戻す。
「こうなれば、お前もぶっ倒してポケモンを頂いていくぞ!」
「やれるもんならやってみな。下っ端のお前が知ってるか知らないけど、今回のお前たちの目的も、訊かなくちゃならないからね」
下っ端はさらに不機嫌そうな顔になり、次のボールを取り出した。
「出て来い、ザングース!」
下っ端が繰り出したのは猫鼬ポケモンのザングース。エルレイドより少し小さな体躯は白い毛で覆われており、片耳、両手の先、目の傷、そして腹のM字の部分だけは赤くなっている。
ザングースは姿勢を低くして鋭い爪を構え、エルレイドを威嚇する。
「言っておくが、俺は下っ端でも戦闘力は上位に位置するぞ。並大抵のトレーナーが敵うと思うな」
「その言葉、一部変更して返してやりたいよ」
エルレイドも両肘の刃を構え、ザングースと相対する。
このバトルが、ヒオウギシティにおける乱戦の幕開けになるのだった。
今回もバトルのない回になってしまいました。そしてイリスはまたもイリゼと戦うことができず。しかし今回はヒオウギシティに来ました。名前だけですがセイガイハシティも。全く関係ないですが、セイガイハシティって、ポケモンの街の名前の中で一番長いんじゃないですか? 調べてないんで知らないですけど、語感的にどうしても長く感じます。では次回は下っ端戦です。たぶんイリスが速攻で決めますので、あまり期待しないように。では次回もお楽しみに。
- Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——再開します—— ( No.588 )
- 日時: 2012/12/30 21:23
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
大光さん
ここしばらく四天王戦をやっていたので、プラズマ団の登場は確かに久々ですね。彼ら彼女らがどんな作戦を行うにしても、波乱は避けられないでしょう。
アシドはとにかく嫌な性格のキャラクターにしようとしたので、笑い方もそれっぽくしてみました。ちょっと誇張しすぎた気もしますが……
うーん、まあ設定やポケモンの追加は基本的には構わないですけど、それが生かされるかは分かりません。もしストーリーに支障をきたしてしまったり、挟み込む余地がなかったりすれば使えないですが、追加するのはOKです。
一応この作品は群像劇っぽく、プラズマ団側の過去も取り入れようとしていますので、そういう設定は大歓迎です。ただ、出来る限り使いたくはありますが、使うかどうかは見てから判断しますので、ご了承ください。
- Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——再開します—— ( No.589 )
- 日時: 2012/12/30 23:51
- 名前: 大光 ◆HynV8xBjBc (ID: geEvUTTv)
わかりました、白黒さん。とりあえず設定の追加しました。
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