二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Act1:ウィザード ( No.397 )
日時: 2016/10/02 00:01
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——最初の対戦相手は、中国——正確に言えば、その中の特別行政区の1つ・マカオのデュエリスト養成学校だ」



 ——数日前、D・ステラの対戦カードが決定したとき、フジはそういった。
 マカオとは、中国内にある特別行政区だ。元はポルトガルの植民地であったが、現在は中国内で大きな自治権を認められている。
 そして何よりも有名なのは——世界でもトップクラスのカジノの街ということだ。
 マカオは2002年にはカジノ経営の国際入札を実施した結果、ラスベガス・サンズなどの外国からの投資を得ることが出来た。そのため、コロネア島とタイパ島を繋ぐ埋立地であるコタイを中心に新たなカジノやホテルが出来るなど、発展が続いているのである。
 また、そこでは賭けデュエル等も行われており、そういったゲームの延長線上でのデュエル・マスターズが発展したことに続いて、マカオにもデュエリスト養成学校が出来たのである。
 
「その名は、ジンリュウデュエリスト養成校——まあ、流石中国というだけあって質の良いエリートを多く輩出している、いきなり強豪校だ」

 まあ、D・ステラに参加している学校に強豪じゃねえところなんざねえが、とフジは付け加えた。
 それはヒナタ達も重々承知していたことだ。
 しかし。

「だが、マカオはいち早く侵略の力を取り入れた行政区でもある。最新鋭のカードとデッキを揃えたデュエリスト達が何処にでもいるような状態だ」

 何よりも、その侵略に真っ先に影響を受けたのはマカオだったのである。
 特に、マカオを侵食した侵略者は——

「——気を付けるこったな。奴らの”奇天烈の侵略者”は、とんでもねえ戦法を使うからな」
「とんでもない戦法……」

 ごくり、とノゾムは息を呑む。
 まだその全貌こそ明らかになってはいないものの、侵略者特有の進化ビートダウン戦法をより研究する必要がありそうだった。

「次にD・ステラ本選のルールだ。前日渡された書類にもあったと思うが、再度確認する」

 D・ステラ本選では、最初はABCDの4つのブロックに分かれ、8チームが決勝トーナメントへの進出をかけて戦う。
 そこでは、まず5人のチームから3人を選出してぶつけ合うというもので、先に2勝した方が勝ちという単純なルールだ。
 そして、決勝リーグでは5対5のフルメンバー戦となる。
 Cブロックの日本の最初の相手は、隣国の中国となったわけである。



「……各自、くれぐれも準備を怠るな。D・ステラは、すぐそこだ」



 ***



「……やれやれ、とうとうこの日が来ちまったかぁ」
「そうっすね……」

 海戸国際空港のロビーで、ヒナタとノゾムは溜息をつく。
 ジェイコフやリョウなど、今まで学校で戦ってきたライバル達も、教師や親たちも見送りに来てくれた。
 だが何より——2人は、これから起こるであろう戦いのことを考えていた。
 世界。つまり元々のフジの思惑である、邪悪龍やコロナを自分たちに引きつけるという作戦が遂に始動したのだ。
 
「そういや、焔先輩居ませんでしたね。仲良かったんすよね?」
「……ま、仕方ねえや」

 はぁ、と溜息をつく。そういえば、彼は最近学校に来ていなかったらしい。同じクラスのコトハに聞いても、よくわからないの一点張りだった。

「んじゃ、オレトイレにでも行ってきますわ」
「おーう、まだ時間あるしなー」

 軽く返したものの、彼は胸の内では不安を隠せなかった。
 彼は、クリーチャーに関わった人物ではない。一番、一般人離れしていそうな割には一般人に近い存在だ。
 事件に巻き込まれている心配はないとみて良いのであるが——



「……ヒーナーター?」



 ぎゅうっ、と後ろから抱き締められるような感覚を、ヒナタは覚えた。
 後ろから覗き込むと、そこにはコトハの姿が。
 こんな人前で抱き着かれていることに少なからず羞恥を覚え、赤面しながらヒナタは叫んだ。

「おまっ、馬鹿ッ! こんな人前で!」
「最近ヒナタ分が足りてなかったし」
「何それ、俺栄養か何か!?」
「えへへ……冗談よ冗談」

 手を離すと、悪戯っ子のように彼女は笑みを浮かべた。
 ベンチに並んで座る。世界で戦うということは、彼女はとても楽しみだったらしく、期待に胸を膨らませていた。そして、にこにこ、と機嫌がよさそうに言う。

「最初の相手は中国、それもマカオなんでしょ? まさか、隣国と戦うことになるとはね」
「……なあコトハ」
「何よ」
「最近、クナイの奴が学校に来てなかったのは、何故か分かったか?」
「結局分からなかったわ。先生達もだんまりって感じ。ただ、これは兄貴に聞いたんだけどね——星目先輩が主催した強化合宿にも、あいつは来なかったみたいね」
「……そうか」
  
 根は真面目なクナイの事だ。先輩から呼ばれた合宿に参加しないわけが——と言いたいところだったが、肝心のテツヤがテツヤなので、嫌気が刺して行かなかったと言う事もあり得る。
 なんせ、鎧龍随一のド畜生の片割れなのだから。

「……なーんか嫌な予感がするのよね——ま、今は目の前の対戦に集中するっきゃないか」
「そうだな。此処で気を揉んでても仕方ねえか」

 聞けば、クナイは大将だったらしい。
 負けた責任をチームメイトやテツヤに追及された線もあり得るが——少し考えにくかった。
 
「先輩! そろそろ時間みたいっすよ!」
「お」

 たたっ、と駆けてくるのはノゾムだ。

「今、武闘先輩にたまたま会って話してたんですよ。これからの動きを」
「やっべ、もうそんな時間かよ」
「そうね。じゃあ、レンやホタルちゃんも呼びにいかないと」

 

 ***



 ——海戸国際空港から、目指すはマカオ国際空港となった。
 離れていく日本を見ながら、ヒナタは今までの事を追憶する。
 ノゾムと出会ったことから始まった、今回の長い戦い。英雄を狙う、邪悪龍の使い手・アンカや、身体と精神をそれぞれの理由で侵された英雄たちとの激闘。
 そして、世界に居る邪悪龍の使い手を引きつけるため、そして侵略に立ち向かうために始まったD・ステラへの挑戦。
 白陽を狙う少女・コロナの追撃も振り払わねばならないし、ノアの言っていた死神博士の存在も気になる。
 だが——

「先輩、何シケた顔してるんすか」
「……悪い、ちょっと考え事してた。らしくなかったな」
『全くだ。お前は、少しあっけらかんとしてる方が丁度いい』
「だよな」
「……先輩、何があろうとオレは諦めません。先輩と出会って、クレセント達と出会って——今日まで、此処まで頑張って来れたから」
『邪悪龍も、この世界の強豪とやらも、まとめてぶっ飛ばす! そうでしょ?』
「その通りだ」

 言ったのは、後ろの席から話しかけてくるレンだ。
 
「僕らの挑戦は今、始まったのだ。目の前に立ちふさがる相手は、誰だろうが打ち勝たねばならん」
『ですねえ。この旅に至るまでの僕らの戦い、決して無駄では無かったので。決着を付けにいきましょう』
「そうですよ! 頼もしい英雄達も居ますしね!」
『そうじゃのう。ワシらに任せておけい』

 レンの隣に座っているホタルも、言った。
 ノゾムを挟むようにして、隣の席のコトハがヒナタに拳を突き出す。

「大丈夫よ。あなたには、あたしが付いてるじゃない! そんな不安そうな顔、しないの!」
『コトハ様の言う通り、ですにゃ!』
「……そうだな」

 彼女と拳を合わせた。
 此処まで来たのだ。気を引き締めていかねばならない。
 


「絶対、勝つぞ——」



 言った刹那——機体が、揺れた。

Act1:ウィザード ( No.398 )
日時: 2016/10/02 01:42
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ***



「……流石だ、アマノサグメ」
『ワタシの速度とバリアがあれば、この程度、ってところだわ。ステルスを掛けているから、英雄達にもバレない』
「しかし、少し機体が揺れたようだが……」
『ワタシの体重のせいではない。マナが空間を揺らし、この機体も揺らしたということだ』

 飛行機にしがみつくようにしているのは、コロナとアマゾカゼ——ではなく、アマツカゼの進化形態・アマノサグメであった。
 彼らの張っているバリアは、飛行機の受ける風の抵抗も全て無力化するほどの力を持っており、ステルスと合わせて凄まじいマナのリソースを注いでいることは言うまでも無かった。
 
『それほどまでに、私の力は”アレ”に呼応するようにして大きくなっている。早く、見つけねばな』
「その前に、暁ヒナタのことも気になる。奴の動向——監視せねばな」



 ***



「……何か、行きの便で、やっぱり不自然に機体が揺れた気がするんだよなあ」
「まだ言ってるの? 気の所為でしょ。一応、サーチはさせたけど、何も引っかからなかったわよ」
「ま、どっちにしたって、だ!」

 ——マカオ国際空港。
 海の見える、綺麗な場所にある此処は、遂に海外に来たのだ、と実感させられる。標識の中国語を見て、此処が日本ではないと実感した。
 以前は、週2に福岡空港から直通便が飛び立っていたくらいだが、海戸国際空港が出来てからは、直通便が増えた。娯楽・頭脳スポーツの先端都市同士というだけあり、やはり需要が増えたのもあるのだろう。

「マカオ、来たァァァーッ!!」
「それ、大阪の時もやりましたよね……先輩」
「まさか毎度毎度やるの? 恥ずかしいからやめてほしいんだけど」
「別に良いだろ? なあ、ノゾム」
「……いや、ぶっちゃけ微妙っす先輩」
「えええ!?」

 飛行機の長旅で疲れ切っている一行は、唯一テンションが高くなっているヒナタに白い眼を送った。
 拘束されながら、長い時間狭い中にいるというのは、ストレスがやはり非常に溜まるのだ。
 楽しみと言えば、座席についていたモニターの映画を見るか、ゲームをするか、デッキを組み直すか(それでも多くのカードは手荷物ではなくスーツケースの中に入れてしまっている)……後は途中でやってくるキャビンアテンダントの持ってくる飲み物くらいなものか。

「もうテトリスもバトルシップも飽きました……敵の潜水艦を発見……敵の潜水艦を発見……」
「ダメだ!」
「おいテメーら、馬鹿やってる暇は無いぞ」

 時間感覚がマヒしていたが、今は午後の4時。
 ここからシャトルバスで、ジンリュウデュエリスト養成学校へ向かうことになっている。
 休む暇など無いのだ。
 加えて、決戦は明後日。メンバーを事前に登録する必要こそ無く、試合ごとにメンバーを選出することになるのだが——やはり、各々の戦法は確認しておく必要がある。

「指定された時間は6時だからな」
「……何で、こんな遅い時間に呼ばれたんでしょうか? 学校視察なら、午前とかにやりそうなんですけど」
「さあ、それは分からん。向こうから何も知らされてないのでな」

 言ったフジは、溜息をついた。

「……まあ、余り良からぬ予感がしないのは気の所為か」



 ***



 シャトルバスで、数十分。フレンドシップ橋を通り、マカオ半島に到達する。
 そして、しばらくすれば海戸同様に埋立地に作られたジンリュウデュエリスト養成学校が見えてきた。
 がーがー、とイビキを立てているのは、意外にもさっきまでテンションMAXだったヒナタである。
 その寝顔を、呆れ半分の表情で見つめるコトハ。

「全くもう、仕方ないんだから」
「調子に乗って、空港の中をウロウロしてましたもんね……」

 後ろの席からホタルが覗き込んで言った。ノゾムも頷く。

「……うーん、美学が……」
「……レン先輩がヒナタ先輩のストッパー役になってたんで、お疲れみたいっすよ」

 珍しく寝言を言っているのは、レンだ。
 腕を組んでいたので、一瞬分からなかったが、彼もつかれているのだろう。
 大方ヒナタが原因であるのだが。
 しかし、気持ちよく寝ている2人には悪いが、そろそろジンリュウに着く頃だ。起こすことにする。

「レン先輩、そろそろ着きますよ」
「むっ……もうか」

 声を掛けられて、起きるレン。
 彼は寝起きが良いので良かったのだが——問題はこのグラサンである。
 すっげーイビキをかいている上に、揺すって声をかけたくらいでは起きそうにない。

『コトハ様ァ、ヒナタ様すっごい深く寝てますよ、しかもうるさいですにゃ!!』
『やれやれ困った主だ。槍でもぶっ刺せば起きるだろうか』
『ぶ、物騒ですにゃ!』
「何、あたしに任せときなさいって」

 言うと、コトハはヒナタの耳元で囁く。



「——起きないと、キスしちゃうぞー——」



 成程誰に教えられたのか、一瞬で分かる文句である。大方あの兎にでも吹き込まれたのだろう。
 だが、これだけでは当然起きるわけがない。
 しかし、艶やかに、そして——淑やかに彼女は彼の耳にささやいた。



「あたしじゃなくて白陽が」
「!?」



 ガバッ、とグラサンは冷や汗をかいて起き上がった。
 白い眼差しを向ける白陽。苦笑いするニャンクス。当然全部聞こえている。

「何か、今すっげー悪寒がした気がする……」
『おい如月コトハ、私をダシに使ったな』
『これは100%起きますにゃ』
『男好きの言いがかりを掛けられた件について釈然としないのだが』
「良いから、さっさと行くわよ、ヒナタ! イビキかいて寝ちゃって、全くもう……」
「おーいテメェら。そろそろ降りる準備をしろ」

 フジの声が聞こえた。
 窓を見ると、既にシャトルバスは黒いアスファルトの駐車場に止まろうとしていた。
 そして、建物を見上げる。
 ジンリュウデュエリスト養成学校は、ガラス張りの近代的な校舎が目を引いた。
 
「……どうやら、着いたみてーだな」

 既に空は薄昏くなっていた。
 理由も知らされないまま、彼らはそのまま、指定された場所へ進むのだった——



 ***



「……そろそろ到着時間だが……」
「リーダー。着いた模様です」
「ククッ。良いだろう。鎧龍の選手達とは、明後日の試合で手合わせする以上、しっかり持て成さねばネ……まあ。”余興”もしっかり用意してある」
 
 シルクハットをかぶると、少年は言った。




「——俺はベットしよう。彼らがこの俺を——『運命天導(ウィザード)』をヒリヒリさせてくれる勝負師であることにネ——」

Act2:ギャンブル・パーティー ( No.399 )
日時: 2016/10/02 17:59
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——マジかコレ……」

 開口一口、ヒナタの台詞はそれだった。
 学校の視察——かと思って来たら、案内された場所はジンリュウデュエリスト養成学校内のホール。
 そこは、まるで、いやまさにパーティ会場であった。スーツを着た来賓客や、テーブルに盛られた料理の数々。そして、何故かあるダーツやルーレットといったギャンブルの用具。
 何故こうなっているのか、さっぱりわからないまま、アナウンスが聞こえてくる。

『——ご来場の皆さんッッッ!! 今日は我々、ジンリュウ代表の結団パーティに来てくれてありがとうございますッッッ!! サプライズゲストに、我らが対戦相手となる日本代表・鎧龍決闘学院の皆さまをお呼びしましたッッッ!!』

 おおおおお、と会場が盛り上がる。
 マイクを持ったまま、こちらへ歩いてくるのはシルクハットをかぶった少年だ。

「何だ、どうなってんだコレは……」

 呆れたように言うフジに、シルクハットの少年が言う。

「ニーハオ、武闘フジ氏」
「おい、説明しろ。何だコレは?」

 怪訝な顔のフジ。
 用を詳細には説明せず、来てみればこの大盛況っぷりのパーティー会場。
 ヒナタ達はもちろん困惑していたし、何よりも何があったのかさっぱり分からない。
 というわけで説明を求めるのは当然の反応と言えた、が——

「ふふ、驚かせてすまなかったネ……君達は我々マカオ代表の結団パーティーにサプライズで呼ばれていたのだよ」

 ——帰ってきたのは、ある意味予想していた回答であった。

「制服で来い、というのはそういうことだったのか」
「学校の視察に来てほしいってわけじゃなかったんですね」
「じゃないと、こんなもう生徒が帰っているような時間には呼び出すまい」
「いーや、いつもなら我々進学コースのメンツは訓練に励んでいるところだよ……だから遠慮はいらない」

 クックッ、と喉で笑うと、シルクハットの少年は帽子を外し、恭しく頭を下げた。
 そして、ヒナタに向かって歩み寄る。

「おっと失礼。自己紹介が遅れたネ……俺はジンリュウデュエリスト養成学校代表・リーダーの劉 汀洲(リュウ・テイシュウ)だ。よろしく頼むよ」
「テイシュウか……俺は暁ヒナタだ。こっちこそ、よろしく頼む」
「今日は、ホーム戦の対戦相手である君たちを歓迎する意味合いもあるんだ。それに、デュエル・マスターズ発展の地・日本のデュエリスト……我々としても注目してるんだよネ。ゆっくりしていってくれ」

 プログラムの紙を渡されると、ヒナタ達は席に案内される。
 どうやら、日程からすれば今からスクリーンで学校紹介があるらしい。

「そんじゃあ、早速まずは飯でも食いながら、その学校紹介とやらを聞くとするか!!」
「そうっすね、先輩!!」
「……随分とまあ、大掛かりにやりましたね……」
「派手好きなのかもしれんな、あの男」
「……まあ、嫌いじゃないけどね」

 早速料理にがっついているヒナタとノゾムを横目に、この豪勢っぷりにコトハとレン、ホタルの3人は軽く引いていた。
 が、しかし。彼らは気付かなかったのである。
 この時はまだ、テイシュウの思惑に——



「ところで先輩。この、次のプログラムの”レクリエーション”って何なんでしょうか……」



 ***



「——げふー、食った食った……」
「ポルトガル料理とか初めて食いましたよ俺……」
「貴様ら絶対学校紹介微塵も聞いてなかっただろう」

 マカオの料理は、かつての宗主国であるポルトガルと広東省の料理が占めているが、このパーティーではブッフェスタイルのバイキングとなっており、洋食や和食なども散見された。
 
「何か……もう疲れたわ……」
「食べてるだけなのにか?」
「いや、何か雰囲気とか……色々……」

 慣れない空気に酔ってしまったらしいコトハは、既に疲れ切った表情を浮かべていた。
 レンも何かフォローしてやろうかと思ったが、テンションの高いヒナタとノゾムを見ただけで、そんな意欲も失せてしまう。ああ……もうどうでもいいや、と言ったような投げやりな感情だ。



『それでは皆さんッッッ!! いよいよお待ちかね、レクリエーションの時間でございますッッッ!!』



 ざわ……ざわ、と観客がどよめきだした。
 司会の教師の言葉と共に、シルクハットを被った少女が、マイクを持った。
 
「それでは、今回の一大イベント。我がジンリュウ屈指の勝負師リュウ・テイシュウがゲストと”ゲーム”で何かを賭けあってバトルするというものなのでーす! テイシュウ、対戦相手を発表しちゃってくださいねー!」
「クックック……既に誰と戦うかは決めている……」

 芝居がかった彼の振る舞いに、白い目を向けながら「何だそりゃ、誰と何を賭けるってんだ」と言うヒナタであったが——



「——暁ヒナタッッッ!! 俺と”ゲーム”で戦ってもらおう!!」




 えっ、と言う声を出す前に。
 会場は暗転し、スポットライトがヒナタに当たる。
 しばらく沈黙していた彼であるが——マジで? と返した。

「ほら、早よこっちに来るんだ……」
「え、マジで? 俺? 俺なの?」
「はーい、こっちに来てくださいねー!」

 ぐいっ、とシルクハットの少女に腕を掴まれ、無理矢理ステージの上まで連れていかれて、テイシュウと相対することに。

「えーと……これはどういうことだ? 何すりゃ良いんだ?」
「簡単だ。ゲームで僕と勝負をしてもらいたい。ただし、ゲームという物には何か賭ける物が無ければつまらない」
「賭ける物……?」
「ああ」

 笑みを浮かべるテイシュウ。
 白い歯がキラリ、と光に反射した。
 
「要するに、勝ったら相手に言う事を1つ聞いてもらうとか……何か物を渡すとか。先に相手に賭けて貰うものを自分が決めるんだ。まあ、遊びだから明後日の勝負に影響することだとか、貴重な物だとかはナシだがネ」
「へーえ、面白そうじゃねえか。で、そっちは何を賭けるんだよ」
「おっと。”親”である俺から、賭ける物を決めてしまって良いのかい?」
「釣りあいってモンが必要だろ。そっちの賭ける物を聞いてこっちも決めたい」
「フフフ……分かってるよ。さっきも言っただろ? 遊びだと。ワイワイ皆で楽しめるものが良い。明後日の勝負のことは考えず、あくまでも純真な子供のようにレクリエーションにピッタリなものを決めようじゃないか」

 ちらり、と会場の方に目をやると、テイシュウは言い放った。
 再び会場がざわついた。
 一体彼は何を賭けるのか。余興だとあくまでも彼は言っていたが——



「暁ヒナタ——君のチームのメンバーある、如月コトハを賭けて貰おうか!!」

Act2:ギャンブル・パーティー ( No.400 )
日時: 2016/10/04 23:55
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「……え」

 次の瞬間、スポットライトが当たる。
 一瞬で、会場の注目はコトハに集まった。

「え、えええ!? 嘘ォ!?」
「おっと、言葉が足りなかったようだネ」

 この言い方であると、あたかも彼がコトハ自身を賭けて欲しいと言っているようだ。
 だが、これには語弊がある。
 彼の賭けの内容には、まだ続きがあった。

「勿論、彼女自体を寄越せとかどっかの悪者のようなことを言ってるわけじゃあない。ただ、君が負けたら、彼女に1つ俺の頼みを聞いてもらうだけなんだよネ」
「……おいテメェ。一体何を言って——」
「持って来い」

 パチン、とテイシュウが指を鳴らした。
 ガラガラ、と音を立ててやってきたのは——ハンガーラックだ。
 しかし、問題はそれに掛かっている衣服である。
 それを紹介するように、彼は言った。

「これでも俺は、物好きでネ——少々、日本の影響だとかを受けて、こういう趣味があるんだよ……」
「な、そ、それは——!!」

 ヒナタは、そして鎧龍チームの全員は驚愕した。
 フリルの付いたスカートに、首から胸元に掛けた結び目、そして黒と赤で構成されたカラーリング——



「ズヴァリ、チャイナメイド服だ!!」



 ——確かに趣味丸出しだァァァーッ!!
 全員は突っ込んだ。そもそもチャイナドレスとは、チャイナとは言ってはいるが満州人の服装をもとにしたもの。何処でどう日本の影響を受けたのかは知らないが、これを改造した結果、これに至ったらしい。
 ——何をどうしたら、この結論に至ったんだぁぁぁ!?
 


「そんなわけで。暁ヒナタ。お前が負けたら、貴様のチームメイトである如月コトハにこれを着て貰おう。そしてそのまま、記念撮影して貰おうかァァァーッ!!」



 会場の方から「ちょっとヒナタ!! 絶対に受けるんじゃないわよ、その勝負!!」という声が聞こえる。
 実際問題、この賭け——受けるかどうかかなり迷ったのである。
 が、しかし。例え負けたとして別にこの場で写真撮影するだけならば——とヒナタは思っていた。
 現に彼女は恥ずかしがってはいるが、あの姿は悪くはない。いや、むしろ良い。
 つまり、そんな思考をしていた時点でヒナタの頭の中では——
 ——メイドコトハ……メイドコトハ……また、見られるというのか!? だが、もしも引き受けて俺が負ければ、コトハは大恥をかく羽目になる。俺が負けたが為に、コトハが——だが、メイドだぞ……メイド。
 実は、文化祭でフジのメイド喫茶に徴集されたコトハのメイド姿を見たあの日から、ヒナタの趣味にはメイド属性が加わっていた。
 彼の奥手な癖して欲望剥き出しの脳には、あの彼女の姿が鮮明に焼き付いていたのである。
 が、しかし。それでも、自分の勝負に彼女を巻き込むことは、ヒナタとしても良しとするわけにはいかなかった。
 ここは、代わりの条件を突き付ける必要があるが、半端なものでは即・突っ返されるだろう。
 そして——一つの妙計を彼は思いついたのである。

「何でコトハなんだよ」
「特に意味は無い。無いが——美少女には、メイド服が似合うと相場が決まってるだろう? それも、気の強い奴がしおらしそうに着ているのが良い」
「だけどよぉ、負けて罰ゲームを受けるのが、俺じゃなくてコトハなのがちょっと気に食わねえんだよな——此処は1つ、提案があるんだが」
「何だ? 面白くなきゃ、即却下するがネ」

 ——面白い、ねぇ……なるほど。なら捨て身のアイディアだが——
 笑みを浮かべたヒナタは、会心のアイディアだと言わんばかりにそれを突き付けた。
 


「——俺が負けたらコトハの代わりに、俺がメイド服を着ようじゃねぇか」
「……何、だとッ……!?」



 会場は再びざわついた。
 この男は何を言っているんだ、と。

「ほほーう、サムライだネ日本人。あくまでも自分の勝負に他人を巻き込むことは良しとしない、か。例えそれがレクリエーションでも。……だが良いだろう。面白そうじゃないかぁ。女にさせるよりも、よっぽど。……まあ、女に着せるのはまた今度で良いか。誰にしようかネ」

 一方、席ではコトハが既に真っ青な顔をしていたことは言うまでもない。

「ちょ、良いのあいつ!? あたしを庇ってあんな賭けに出ちゃったけど!?」
「安心しろ。如何なる勝負でも、頭脳スポーツであるカードであいつが負けるはずは無い。多分」
「微妙な信頼だなオイ!!」
「まあ、良いじゃねーか。ヒナタが選んだ選択なんだからよォ」

 フジがそれっぽい事を言って〆るが、全く問題は解決していないことは言うまでもない。
 当のテイシュウは、面白ければ何でもOKという考えらしく、賭けの内容を呑もうとしているわけで。

「あ、それとテメェ、自分が勝つ前提で話を進めてねぇか。取らぬ狸の皮算用って言葉が日本にゃあるんだぜ。こっちが勝った時のことも考えてるんだろうな」
「それもそうだな。お前が賭けて欲しいものは何だ?」
「……」

 しばらく考え込む。
 明後日の試合に影響の出ない、ということはテイシュウのカードの要求やデッキの開示は出来ないし、そもそも勝負に対してフェアな考えのヒナタはそんなことをするつもりもない。
 いざ、何か相手に賭けるよう頼もうと思っても——考え込んでしまう。

「——むぅ、思いつかねえな」
「ほう。日本人らしいネ。遠慮しなくても良いんだぞ? なんなら、俺がお前の好きなカードをなんでも1枚、奢るってのはどうだ? 日本には出ていないカードで、《タツリオン》ってカードのシリーズがあってだネ。こいつの一番最後の奴がとても強いんだ。他にも、五文明に現れた巨大なファッティサイクル、”帝王(モナーク)”というのもある」

 ——《タツリオン》——!? ”帝王(モナーク)”——!? 成程、そいつらを手に入れれば更に戦力アップが期待できる——かもしれない……!? まあ、どっちにしたって悪い事はねぇな!!
 にやり、とヒナタは笑みを浮かべた。
 ——だが、此処は敢えて、だ! 思いつかねえと本気で思ってたのか? 最初っから俺のカードは——これだ!



「カードなんてこの際どうだっていいぜ。それよか、俺が勝ったらテメェにメイド服を着て貰う」



 おおおお、と会場から歓声が沸いた。

「ほーう。面白い。良いじゃないか。受けよう、その勝負」
「良いのか? 負けたら恥晒しだぜ」
「負けるつもりはないよ。結局、賭けの内容は両方ともお前に決めて貰うことになってしまったが——面白いから、良し……だネ」
「んじゃあ、勝負の内容を教えてくれねえか?」
「ああ。それか。ポーカー、ブラックジャック、バックギャモンにジン・ラミー……いろいろ考えたんだが、折角だ。これに落ち着いたネ」

 言った彼は、得意げに腕を広げる。
 その右手にはカードの束が握られていた。



「結局、デュエリストならばデュエマということに落ち着いたよ。 ただし、試合の時とは違うデッキを使っても構わんがネ——」

Act2:ギャンブル・パーティー ( No.401 )
日時: 2016/10/05 17:18
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ステージ上に展開されたホログラム・フィールド。
 これにより、臨場感のあるデュエルが繰り広げられることになった。

「2マナで《アクア少年 ジャバ・キッド》召喚」

 先攻2ターン目で、早くもテイシュウの場に現れたのは水のリキッド・ピープル閃。ノゾムも使っていたのが記憶に新しい。
 一方、会場では既に真っ青になっているコトハが、この馬鹿馬鹿しいようで割と洒落にならない賭けデュエルに突っ込んでいた。

「良いの!? お宅らアレで良いの!? こんな賭けデュエルで!!」
「もっといいモン要求すりゃ良かったのによォ、あいつも」
「そういう問題じゃないわよね!?」
「まあ、如月先輩。彼氏が助けてくれたから良いじゃないですかぁ」
「その彼氏がメイド姿になってるところなんて想像したくも無かったんだけど!?」

 と言い返してる間に、隣のノゾムが腕を振り上げて何か叫んでいる。
 どうせヒナタの応援だろう、と最初は思っていたが——どうやらそうではないようであった。

「此処は空気を読んで負けちゃって下さい、先輩!! あんたにオレと同じ苦しみを味わってもらうためとかそういうわけじゃねえけど!! あんたの所為でしばらくノゾミちゃん呼ばわりが定着したのを恨んでるわけじゃねえけど!!」
「で、ノゾム君は何で向こう側応援してんのよ」
「前に女装させられたことがあったからな……思えばその時もメイドだった」
「は、反省です……ノゾムさん結構根に持つんですね……」
「元凶は俺様だがな、HAHAHA」

 笑い飛ばす銀髪の元凶は後でシメておくとして、このデュエルの行き先がコトハは心配だ。
 どっちが勝っても野郎の女装を見ねばならないので、ある意味何のサービスにもならなさそうな……需要あるのかコレ、と頭の中でぐるぐると考えている。

「その効果で、山札の一番上を捲り、それがリキッド・ピープルならば手札に加える。加えるのは、《侵略者 BJ》! ターンエンドネ」
「俺のターン、ドロー!」

 カードを引くヒナタ。
 そのまま、2枚のマナをタップした。
 見れば、彼のマナゾーンには光のカードが落ちている。どうやら、いつものデッキとは本当に違うらしい。
 
「2マナで《聖鐘の翼 ティグヌス》を召喚! ターンエンドだ!」
「ほほう。では、俺のターン——ドロー」

 カードを引くテイシュウ。
 そして、そのまま3枚のマナをタップした。

「続いてお見せするのは——《侵略者 BJ》! 2マナで召喚だネ!」



侵略者 BJ(ビージェイ) C 水文明 (2)
クリーチャー:リキッド・ピープル閃/侵略者 2000
このクリーチャーが攻撃する時、相手のシールドが2つ以下なら、カードを2枚まで引く。




「出たな、侵略者——!!」
「クックックッ、これではまだ終わらない! 見せてやろう、我がマカオの誇る侵略速攻の力を!」

 続いて彼は、《ジャバ・キッド》に手を掛ける。

「《ジャバ・キッド》で攻撃——するとき、侵略発動ッ!!」

 そして、その頂きに1枚のカードを重ねた。
 それこそが、世界を侵食する略奪の力——侵略。
 進化の鼓動と共に、ヒナタへ殴りかかった《ジャバ・キッド》に鳳の紋章が浮かび上がった。

「侵略って——コマンドだけの特権じゃねぇのか!?」
「馬鹿め!! 侵略は既に、あらゆる種族を侵食しつつあるのだ——進化、《侵略者 バロンスペード》!!」



侵略者 バロンスペード UC 水文明 (4)
進化クリーチャー:リキッド・ピープル閃/侵略者 6000
進化−自分の水のクリーチャー1体の上に置く。
侵略−水の侵略者または水のリキッド・ピープル
W・ブレイカー
このクリーチャーは、コマンドにしかブロックされない。



「グッド! さあ、ゲームの始まりだ! 会場の皆さん、ご覧あれ!! これぞ我がジンリュウデュエリスト養成学校の水の侵略!! この《バロンスペード》は、コマンド以外にはブロックされない!!」
「ッ……!!」

 パリン、と音を立ててヒナタのシールドが叩き割られた。
 余りの速さに、彼がその姿を拝むことが出来たのは、シールドブレイクの直後であった。
 シルクハットに、カードを持ち、杖を得物に掲げた進化リキッド・ピープル閃特有のロボットのような姿。
 その胸には自らの名を体で表しているのか、スペードのマークが刻まれていた。

「ターンエンドだ。光のブロッカーデッキならば、圧倒できるとでも? 速攻すれば問題はないネ」
「へっ、何てこたぁねぇぜ。こっからだ!」

 カードを引いたヒナタは、3枚のマナをタップした。
 確かに、コマンド以外にはブロックされないという《バロンスペード》はかなり厄介なクリーチャーだ。
 しかし。それはあくまでもコマンド以外という話。まだヒナタには勝算があった。
 ——このデッキはタイガー・レジェンド天門!! S・トリガーに《ヘブンズ・ゲート》を仕込めば、エンコマ軍団で返り討ちだ! 

「3マナで《アクア・スーパーエメラル》召喚! その効果で、手札から1枚をシールドに置き、シールドから1枚を回収する——」

 ——ってゲッ……!
 ヒナタは落胆した。思わず表情に出そうになったほどだ。《スーパーエメラル》の効果で回収したのは、《ヘブンズ・ゲート》のシールドだったのである。手札には既に《ヘブンズ・ゲート》を握っていたため、完全に無駄発動になってしまった。
 仕方なく、もう片方の《ヘブンズ・ゲート》をシールドに置き、彼はターンを終える。
 得意げにテイシュウは笑みを浮かべた。

「ほう。牽制かカウンターを狙っているのかは知らないが——守りに入った時点でお前の負けだネ!!」
「何!?」
「俺のターン——ドロー!!」

 カードを引いた彼は——4枚の水のマナをタップする。
 そして——1枚のカードを盤面に叩きつけた。

「《アクア警備員 ラスト》召喚!! コイツの効果で、カードを1枚引く——」
「《アクア警備員 ラスト》だと——!?」

 その名前から想起されるのは、かつてとばっちりでプレミアム殿堂を食らった《アクア・パトロール》だった。
 意外だったのは、その体には革命軍を現す拳のマークがあったことだろうか。

「こいつは革命軍のカードだが——日本からわざわざ取り寄せたんだよ——お前みたいに、守りに入るチキン野郎でも駆逐できるようにネェ——!!」
「何ィ!?」

 思わず、ヒナタはテイシュウを睨むも構わず彼は続けた。まるで自らの持論に酔うかのように。
 だが、それは幾多もの勝負の中で培われた経験であった。

「ギャンブラーというのは、最後こそ天運に賭けるが——必要のない運の要素は求めていない。熱く、そして冷静に”勝負に狂える”最高の舞台——それさえ用意して負けるのならば悔いはない——出来るだけ、運の要素を排除したうえで——天命に賭け、負けるのならば悔いはないんだよネェ!!」

 つまり、勝負に賭けるならば最高の準備をしたうえで、可能ならばできるだけ運の要素を、不利になる要素を排したうえで戦う。
 これが彼の精神だった。
 次の瞬間、ヒナタのシールドの1枚が選択される。

「《ラスト》の効果発動! 相手のシールドを1枚選び、それを山札に加えてシャッフルさせる!!」
「なっ!?」
「当然、選ぶのはさっき《スーパーエメラル》で仕込んだシールドだ!」
「し、しまった——」

 ヒナタのシールドは、同時にこれで2枚。
 《ラスト》の効果で、ターンの終わりにシールドが1枚山札の一番上から戻ってくるが、今この状態では残り2枚であることには変わりない。
 しかも、仕込んだ《ヘブンズ・ゲート》は既に山札の中——

「《侵略者 BJ》で攻撃——するとき、侵略発動!! 進化、2体目の《侵略者 バロンスペード》!!」
「っ……やべぇっ!!」

 この一撃で、ヒナタの残るシールドは全て叩き割られた。《バロンスペード》はコマンド以外にはブロックされないため、ヒナタの場にあるブロッカーでは止めることすらままならない。
 S・トリガーも、革命ゼロトリガーも、何もない。
 そのまま迅速に、そして確実に——侵略者は彼の息の根を止める。



「——《侵略者 バロンスペード》でダイレクトアタック!!」


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