二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
- 日時: 2017/01/16 20:03
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。
また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。
”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”
『星の英雄編』
第一章:月下転生
Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25
第二章:一角獣
Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48
第三章:骸骨龍
Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73
第四章:長靴を履いた猫
Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114
第五章:英雄集結
Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204
『列島予選編』
第六章:革命への道筋
Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦
Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261
Act8:次なる舞台へ
>>262
第七章:世界への切符
Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352
『侵略世界編』
第八章:束の間の日常
Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393
第九章:侵略の一手
Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416
第十章:剣と刃
Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444
短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。
短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65
短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126
短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156
短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176
短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422
エイプリルフール2016
>>299 >>300
謹賀新年2017
>>443
登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします
オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。
お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新
- Act2:暁ヒナタという少年 ( No.272 )
- 日時: 2016/03/23 11:52
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
「……あの後」
如月コトハはふと思案した。
D・コクーン内でデュエルをしながら、彼女は回想する。
自分が倒れた後、ヒナタがずっと着いてくれた。そのまま彼は気まずそうな顔をして、自分にどこか異常が無いか聞いたらそのまま逃げるように帰ってしまった。
まあ、気持ちは分からなくもない。自分もキスされたと知られたら、それこそ羞恥で死にそうだった。
だが、どっちにしたってやることは変わらない。
今の弱い自分では、何も守ることが出来ないのだから。
——ヒナタは——他の奴には——渡さない!
「《ヴェロキボアロス》でダイレクトアタック!」
五文明の力を司る邪帝龍が、その大斧を振り下ろす。
そのまま、今日で30回目となるコンピューターへのダイレクトアタックを決めた。
——渡さない、か……。
彼女は目を伏せた。
今まで散々助けられてきた。
なのに自分は少々、ヒナタにきつく当たりすぎではないか、とツグミ戦の後に思うようになった。
——だけど、だけど、後一歩踏み出せないのは……やっぱ怖いから。ヒナタは元々はライバル。いずれは大きな場で倒す相手……! その対等な関係が崩れるのが……怖い。
D・コクーンの扉を開ける。
腕時計を見れば、既に午後の2時40分になっていた。
もう、昼食の時間はとっくに過ぎている。ぴりぴりとしているコトハの雰囲気を感じ取ってか、誰も呼びに来なかったのだろう。
——何も守れない……ただのエゴじゃない。嫌になるわ。あたしがヒナタが欲しいだけじゃない。誰かにとられるのが嫌なだけじゃない。
だけど、例え他のものを払いのけたとしても彼は独占出来ない。
ヒナタは眩しすぎるのだ。余りにも。
まるで皆を照らす太陽のようだから——
『コトハ様……』
「……行こう。ミーティングが始まる」
今日は3時からフジによるミーティングがあるという。
恐らく、昨日の件のまとめだろう。
有栖川ツグミが何のために海戸にやってきたのかがそれで分かるはずだ。
それで、朝からフジは「適当に特訓してろ。3時からミーティングやるから。あ、そこのD・コクーンは好きに使って良いぞ」と伝言を残して席をはずしているのだった。
「……?」
1つだけ、稼働中のD・コクーンがある。
もう、昼食を済ませて使っているのだろうか。
——いや、でもおかしいわね。確かレンが後輩2人相手に午後はスパークリングするって言ってたし……あとこれを使ってるのは……あっ
ガラス越しに覗くと、案の定そこにはヒナタの姿があった。
試合が終わったらしく、一息ついている。
しかし、もう1戦さらにおっぱじめようとするのを見兼ねたコトハは、ガラスをコンコンとノックする。それでようやく気付いたようだった。
「ああ、すまねえコトハ。もうこんな時間か」
「あんたねぇ……あたしも今終わったところだから何も言わないでおいてあげるけど」
「わりーわりー」
いつもお気楽な調子で返すヒナタ。
対戦が楽しかった、とでも言いたげな表情だ。
そのまま、コトハの顔を見つめると、彼は笑って言った。
「ま、俺はもう誰も失えないからな——もっと強くならねぇと」
しかし、その言葉は何処か重たげだった。
そのまま彼は「さー飯だ飯」と言いながら軽い足取りで部屋を去っていく。
だが、後姿が何処か、コトハには寂しげに見えた。
——誰も失えない……そうね。ヒナタは今まで私達と一緒に辛い戦いを経験してきた。それだけじゃない、要所要所で重いものを背負ってきたのもヒナタ……。
って、と此処でコトハは気付いた。彼が完全に弁当を食うつもりでいることに。
「ヒナタ! もうミーティングにいかないと!」
「えっ、あ……やべ、そういやそうだった……」
それでも、どこか抜けているところも如何にも彼らしいと言えば彼らしかったが。
***
「昨日、零央学園の代表チームの1人・有栖川ツグミとその関係者がビルを訪ねてきた」
予めヒナタとコトハからこの事を聞いていたレンとホタル、そしてノゾムは今更驚きはしなかった。
流石にキスだとかの部分は省いたものの、六人目の英雄のことなども知らせてある。
問題はその目的である。
——あれですよね、黒鳥先輩、完全にこれはこれでスクープものですよね理由の是非に関わらず。
——いや、淡島。問題はやはりそこではない。
——そーだよ、ホタル! 英雄に六人目が居たってことが驚きだろ!
——そして何のためにやってきたのかも、やはり重要だ。
というやりとりをしていたのが記憶に新しい。
「その要件の1つが、自身の所持する英雄——《姫英雄 混濁のアスピリン》を調べて欲しい、ということ」
「先輩《アスピリン》は鎮痛剤です、クリーチャーじゃありません」
「すまん《アピセリン》だった、畜生何て紛らわしい名前だ」
「でも調べて欲しい……?」
「ああ。今回の件で零央にも小さいながらクリーチャーを研究する機関があることが明らかになった。ただし、何でこちらのことが知られていたのかは疑問だ」
確かに、武闘財閥のクリーチャー研究は門外不出だったはず。
それを考えれば、また新たな疑問が沸いてくるのも無理は無かった。
そして、どうやらその技術では《アピセリン》を解析できなかったらしく、こちらに直接依頼してきたとのことだ。
「……だが、早速解析に掛けたところ、機械が故障しちまったらしくてな。カードのコピーだけ取っておいた」
「マジですか」
「今までにないクリーチャーってことは間違いねえ。今は敵ではないにしろ、いずれ暴走する可能性も無きに非ず、だ」
コトハは直接相手取ったから分かる。
あの英雄は今までのものとは何かが違う。
まずは人型だったことだ。一部が異形の形をしていたとはいえ。
「……そしてもう1つは——有栖川ツグミの海戸調査に伴う鎧龍対零央の試合の延期、つまりは繰り下げだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなこと、認められるんですか!?」
立ち上がったのはコトハである。
流石のフジも頭を掻いて「参った」と言わんばかりの表情で答えた。
「対零央の対戦選手は既に、暁と如月って届け出ちゃったからなぁ……てめぇらの試合は先になるのは申し訳ない」
「そ、そうじゃなくて、調査って一体……?」
「昨日のオラクリオンの出現だ」
ヒナタとコトハはぴんと来た。
オラクリオンは只のクリーチャーではない。オラクルが居ない場所には出て来ないクリーチャーだ。
それが突然現れたのだからこれは異変だろう。
「……どうやらこの時期、零央の方でも色々あったらしくてだな……出来るだけ有栖川ツグミの出場を遅らせたいという向こうの意図が見え見えだ。まあ、俺様としてはしばらく泳がせようと思っている。テメェらの手出しは無用だ」
「しかし、気になります。僕としては、こんなことがまかり通っていいのか……」
「それも何のために……? 陰謀の匂いがします」
「さあな? 俺様はそれ以上の事は聞かされてない。だが、そのために次の対戦相手はこうなるな」
タブレットを操作し、フジはそれを見せる。
「次の相手は蓬莱学園——対戦選手は黒鳥レンと淡島ホタルに決めてある——」
- Act2:暁ヒナタという少年 ( No.273 )
- 日時: 2016/03/23 15:32
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
***
「何よ……拍子抜けだわ」
ぶつぶつと呟きながらコトハは帰路に着くことにした。
折角戦うつもりだったのが、どこかへ行ってしまった気持ちだ。肩透かしを食らった、とはこういうことなのだろう。
もう5時だが、まだ空が明るい。やはり7月も今日で終わりということもあり、陽が長くなっている。レンは後輩をしごくために(後輩2人が希望したのもある。やる気)後輩共々残っているが、コトハはそんな気分ではなかったので先に出ることにした。
そういえば、ヒナタを見なかったな——と思っていると——
『コトハ様! ヒナタ様が!』
「え?」
見れば、いつもとは別の方面を歩いているヒナタの姿が。
交差点の奥の方に歩いているグラサンの少年が目についた。
住宅地とは別の方向だ。カードショップや他の店のある方向でもない。
一体どこに行くつもりなのだろうか。
「……気になる」
『えっ?』
「尾行するわよ! 隠蔽呪文お願い!」
『ふええ!? だけど、これってストーキン——』
「誰がストーカーよ!! ご主人様の言うことを聞きなさい!!」
『け、結界展開ですにゃぁぁぁ!』
ほんの好奇心であった。
ヒナタがいつもとは別の方向に行くのが気になったのだ。
思えば、ずっと一緒にいるが自分はヒナタのことを何一つ知らないのではないか。知らないのに取られたくない、なんておこがましいのではないか、と。
——ヒナタって何か隠してる……絶対。
今までに、そんな素振りは幾つか見せてきた。確かに一見フレンドリーで誰とも仲良くしているから分かりづらい。しかし、スケベな割にコトハがアプローチを仕掛けた時もあまり反応を示さなかった。前に呪いに掛かったコトハが迫った時も——振り払った。それ以外にも時折見せる寂しげな表情。そして、アウトレイジのデッキを最初は封印していた理由。
彼には分からないことが多すぎる。
——てか、何も言わずに出て行ったのね……誰も突っ込まなかったけど、影が薄いのやら……。
***
『あのー、コトハ様。やっぱこれまずいんじゃ……』
「ダメよニャンクス。タッグマッチで組む相方の事は出来るだけ知っておかないと!」
『それをプライバシーの侵害だとかいうのでは』
「はて何のことかさっぱりね」
電信柱に隠れながら彼女は言った。
あくまでも隠蔽率を上げているのに過ぎないため、下手したら見つかってしまうのだ。
「あっ!」
『どうしたんですかにゃ』
「自販機でまた炭酸買ってる! いい加減他のモノ飲みなさいよ!」
『何でそこに突っ込んでるんですかにゃぁ!?』
自販機でコーラを買ったヒナタはそのまま脇目も振らずに歩いていく。
『動き出しましたにゃ!』
「オーケー、分かったわ。取り敢えず——」
『取り敢えず?』
ごくり、と喉を鳴らして彼女は言った。
「”うぉ〜い、紅茶”を自販機で買いましょう」
『喉渇いただけじゃないですかにゃ!!』
久々にニャンクスの突っ込みがキレッキレに炸裂した。
とはいえ、ずっと尾行していて喉が渇くのも無理はないと思うがこの緊張感の無さよ。
身内が相手というのもあるだろうが。
***
「……何此処」
ヒナタを追って数分。バスなども乗っていった結果(隠蔽呪文を使っているので当然バレなかった……と思いたい)、海戸を離れていつの間にかコトハは——墓地に辿り着いていた。
デュエマの墓地ではなく、本物の公営墓地だ。
ひっそりと静かな場所に建てられたそこには、墓石が沢山建てられている。
煉瓦の壁に隠れながら、ヒナタが墓地に入っていくのを彼女はしっかりと見た。
『コトハ様、流石にこれ以上追うのは不謹慎……』
「そ、そうね」
流石に、墓参りに来た人間を尾行するなど不謹慎以外の何者でもなかった。猛反省しながら、立ち去ろうとした時だった。
『確かに不謹慎だな、ネズミ共——いや小娘共。破っ!』
次の瞬間、結界が音を立てて壊れた。
「えっ?」と声を上げる間もなく、身体が浮き上がる。
誰にも掴まれていない。体そのものが物理法則を無視して浮かび上がっているのだ。
「え、え、ちょおっ!?」
そのまま、身体がヒナタの方へふよふよ浮きながら向かってしまう。
そして、ぽとり、とヒナタが立っているところに降ろされたのだった。
呆れた表情を浮かべているのはヒナタであった。「あ、あははは……」と誤魔化し気味に笑みを浮かべるコトハ。いつもとは完全に立場が逆である。
見れば、険しい顔で白陽も後ろに立っていた。恐らく、念動力で結界を破壊するついでに自分たちを浮かせたのだろう。完全にバレていた。
「ったくよお、ストーキングなんて委員長様も偉くなったもんだな」
「ご、ごめん……いつもと違う道行ってたから、気になってつい……怒ってる?」
「別に。いずれ話さねえといけなかったしな」
さばさばとした態度で彼は言った。
実は以前、話しているのであるがそのこと自体が”無かったこと”になってしまったので当然コトハは知らないままだ。
墓石の名前を見る。
そこには、檜山家之墓と刻まれていた。家族が既に取り換えたのか、花は綺麗なままだ。
伏せがちに目を向けながら彼は言った。
「今日は7月の25日——俺の幼馴染、檜山ナナカの命日だ」
コトハは声も出なかった。
彼が度々呼んでいた”アイツ”、そして”失った”とは彼女のことではないか、と。
「……気が強くて姉御肌で……弱い俺はいつも助けられてばかりだった」
信じられなかった。
その言葉が。普段のヒナタからは考えられないほど弱弱しくて——儚げで。すぐに消え去ってしまいそうだった。
「俺にデュエマを教えてくれたのもあいつなんだ。アウトレイジのデッキは俺のカードを使って組んでもらったけど、《5000GT》はあいつに貰ったカードだったんだ。俺、デッキ組むの下手くそでさ。そーいや、アウトレイジは当時から海戸で発売されてたんだっけか。武闘財閥が開発したカードだし」
懐かしむように彼は言う。
「俺は……信じられなかった。自分が知らない間に、自分が見ていない場所であいつが突然死んだのが——」
ヒナタは語りだした。
遠い遠い日を思い出すかのように——
「俺が——小学生の頃の話だ。聞いてくれるか? コトハ」
振り返った彼の顔は——切なげに笑っていた。
首を横に振る理由など、何処にも無かった。
- Re: デュエル・マスターズ D・ステラ 〜星々の系譜〜 ( No.274 )
- 日時: 2016/03/23 22:22
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
モノクロさん
3話も更新してしまいましたが、コメントありがとうございます。
遂に鎧龍サマートーナメント編も大詰め。花村のデッキは、やっぱソニック・コマンドの顔見せということでソニックブームワンショットにしました。
本来ならクナイもいて、オリカまで作っていたのですが、《ドギラゴン》の見せ場が作りにくかったのが一番の理由ですね……。
まあ、彼もいずれまた出てくるでしょう。
というわけでヒナタと花村のデュエル。
此処では、如何に革命というギミックを魅せるかに苦労しました。そのために、本当にギリギリな状況と逆転できる道筋を作り出すということを考えた結果がこれです。
そんなわけで、《フェアリー・ホール》で出てくる《四つ牙》を見て嘆いている皆さんですが、まあ彼は割とそういう印象だったのでしょうよ。確かに人は見かけによらずって言いますが。前はスノーフェアリーのビートダウンを使っていたという設定です。
または緑単サソリスボアロの純粋なタイプですね。
完全に以前の精神の面影はなく、バイクに毒されてしまった花村は《ソニックブーム》をギフトから召喚して打点を完全にそろえます。まあ、このへんは創作で許される範囲でしょう。
サブの勝ち筋が見つかりにくいのも弱点だよなあ……。
別タイプのソニックブームも気になりますが、やはりソニックブームと言えばこのタイプですね。ワンショットが手軽に楽しめるのは良い。
しかし、それでもワンショットを防がれてしまいます。
今回のデュエルシーンのテーマは、ご都合主義のS・トリガーではなく、如何に運以外の要素で逆転するか、というか革命らしさを魅せるか、だったのですべての行動に無駄が無いというのが表現できたのなら満足です。
死亡フラグを建てまくった結果がこれです。ゾンさんがやってくるぞ。それはともかく、遂に現れた《ドギラゴン》。前回は回想に出て来たのに登場しなかった鬱憤を晴らさんとばかりにドギラゴンゲームの開始。
やっぱこいつは爽快ですよ。無限攻撃はデュエマにおける男のロマン。元の絵が絵師から明言されているのもあって《ボルメテウス》を意識してあるため、口上もそれを意識しています。
ところがどっこい、これで終わるわけがない、というのはもう読者は分かっているはず。
何も達成感ないですね。今回のトーナメントは導入という趣が強かったので。彼らには、これ以上に強い敵が待っているわけで。
その1人が今回本格的に姿を現したコロナです。公式化したアマゾカゼ共々、ヒナタに見せしめと言わんばかりのデュエルを始めたわけですが、此処は地味に悩みました。普通に3キルさせるか、それとも——って感じです。でも結局、今回は3キル阻止+アマゾカゼも見せる、というシナリオになりました。この辺はもうお約束になりつつあるし……うん。
後ソニコマ使いの台詞については……うん、反省しているんだ。だけど、同じようなことバサラも言ってたし……。
そんなわけで、これはもうソニコマの初発のお約束みたいなものということで。
そして《アマツカゼ》に加えて《アマノサグメ》のスペック。こいつらは大体、既存の連中のスペックに上乗せを加えた感じですね。
まだまだその全貌を全て明かしたわけではないですけど。
後、妖獣界は大方日本神話っぽい世界観をしており、一部の十二神話外の神話もこの世界にもいる、という設定です。パラレルワールド理論で。
そして今度現れたのは、ツグミです。
まあ、この酷評は正直覚悟してましたよ、モノクロさんキス自体好いてませんからね。だからといってあの蛇より酷いのはどうだろうか。あれに至っては人間じゃないわけだし。
これがコトハの怒りのトリガーに案の定なるわけです。
嫉妬、というかヒナタに勝手なことをされた怒りがやっぱ強いですね。当のツグミは全くと言っていいほど気に留めてないのが両者の認識の違いでしょう。明らかに一般的に見たらおかしいのはツグミですが。
零央戦がどうなるのかは、今回の更新でだいぶ先になることが判明してしまったので、まだまだですがね。
そんなわけで夏だ! 海だ! 水着だ! というわけで、まだリアルでは早いですがビーチにやってきたヒナタとコトハ。
案の定、アプローチを起こすコトハですが、超中学生級のフラグブレイカーのヒナタからなかなか返事が返ってこない——うちに今回の討伐対象であるオルタナティブが登場。人込みで近づけないので今回は肉弾戦を選んだ形ですね。
まあ、英雄2人やられてますけど。これは神にはオラクル関係か無法者しか及ばないという地味に相性関係の説明回でもありました。
幾ら英雄が強くても、神には神の加護があるということです。
しかしそんな中、颯爽とツグミがオルタクティスを使って倒していますがね。後、《オルタクティクス》ではなく《オルタクティス》です。タクティクスだの何だの言ってますが、こっちが正しいです。名前の中に《オリオティス》の要素を入れているので。これに限らず、オラクリオン零式は既存の他のクリーチャーの要素を入れています。アシッド+ザビ・ミラ=アシドミラ、シューゲイザー+イメンでシューメインです。
ツグミの口調については、自分の中でもはっきりとは決めてないのですが、名乗り口上の時は普通の口調になります。そして、伸ばす音のときに平仮名表記になることが多いですね。こーか、とかとーじょーじ、とか。
そんでもって、不憫なニャンクス(でも恐らく英雄の中ではクレセントに並んで結構喋ってる方)。
というわけで、ツグミのデッキはお察しの通り準緑単をベースに光と闇が入ってるデッキです。ただ、肝心の無色の方は余り入ってないですがね。零式の連中が山札、マナにあるときでも無色なので、あんまりサーチとかで困ることもないですが。
で、こいつらは最早完全に《ゾロスター》とかで呼ぶ意義が薄れちゃってるんですよねえ……零式はあくまでも零式なので。一応、《アシドミラ》以外は呼べますが。
そして、今回効果がまだ分からないのが《アピセリン》と《ニュークリア・デイ》ですね。両方とも重要なカードではあるので、色々予想してくださると幸いです。
さて、ようやっと最近この流れに戻れたと思います。まあ、自分でもよく分からないんですけどね。これが良い意味で言われているのか、悪い意味で言われているのかも分からない訳で。
まあ、手探りでやっていく所存です。
それでは、また。
- Act3:ヒナとナナ ( No.275 )
- 日時: 2016/03/24 12:55
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
***
「ちょ、ちょっとやめてよ!!」
「へっへっへー、流石お前のデッキだぜ。たーっくさんつえーカードがはいてんじゃねーか」
いじめっ子はにやにや笑いながらそう言った。
身動きが取れない。取り巻き2人に腕を抑えられているからだ。
体格の大きいいじめっ子のリーダーは、ヒナタのデッキケースを漁ると「おっ、レアカードみっけ! 貰ってくぜー」と言って抜き取ると他のカードを全て地面にぶちまける。
「《勝利のガイアール・カイザー》、《勝利のリュウセイ・カイザー》、うっひょー、収穫収穫、唯我独尊セットがこれで揃ったってわけだ!」
「ちょっと! やめてよ! それは折角俺が当てたカードなのに!」
「うるせぇ!! サーチだか何だかしたのか知らねえが、こーゆーレアカードはお前みたいな弱虫よか、俺達が持ってた方が良いってもんだよなあ?」
「い、今から大会なんだよ、勘弁してよ!」
「うるせぇ!! 黙らせろ!!」
暁ヒナタ——当時小学4年生——はデュエマのショップ大会に向かう途中であった。
が、しかし、度々いじめっ子に絡まれていた彼はカードショップの近くで待ち伏せを食らって今に至る。そのまま裏路地に連れて来られていたのだった。
3対1など勝てるわけも無く、あっという間に拘束されてしまう。
「しっかし、プレイングだけはとくいなお前がこんなつよいデッキをもってるってことは、やっぱりまた”あいつ”に組んでもらったのかー、調子に乗りやがって。女子のたすけ借りてはずかしいとはおもわねーのか?」
「仕方ねーよ、暁は弱虫だもんなー! 女子の背中に隠れてねーと、なんにもできねーんだから」
「ぎゃははは、ウケる! 他のカードはどうする?」
「ばら撒いとけ。持ってる奴ばっかだからな。犬が咥えてどっかに持っていくだろ」
「うう……俺のカード……」
既に泣き出しそうなヒナタ。
踏んだり蹴ったりとはこのことである。
「えーと、このボロ雑巾どうする? 泣きだしそうだけど?」
「逆さにしてゴミ箱に入れとけばいいだろ」
「つーわけで残念だったな、弱虫! お前のデュエマは此処で終わりだ! これからはこんな紙切れなんぞに縋らず——」
「弱虫はあんたらの方でしょうが」
鶴の一声。
全員は振り返る。
そこには——少女が居た。
長い黒髪を降ろしており、目を引くのは猫耳のように尖った帽子、そして鍔に乗せられたサングラスだった。
赤いパーカーを羽織っており、スパッツにスカートという活動的な容姿をしていた。
「な、ひ、檜山……何でお前がこんなところに……」
「ヒナタが心配だったからね。着いたらケータイで電話するって約束してたけど、いつまで経っても来ないから塾終わってすぐにカードショップまでの道を辿ったら案の定……ってわけ」
「ナナ……」
「3対1なんて卑怯だと思わない? 弱虫はあんた達の方でしょ」
「うるせぇ!! 女子の影に隠れてこそこそやってる弱虫の方が——」
「誰かの助けを借りるのは悪いことなの? そうやって皆、苦手なところを補ってるんだから。あんた達は力が強いのに、さらにそれを3人がかりで喧嘩が上手くないヒナタに暴力を振るってる。これは——臆病者のすること」
小学生にしてはキレッキレの言葉で正論を叩きつけるナナカ。
頭が回るとはこのことだろう。
普段から優等生というのもあり。
「来るならあたしに来なさい。相手になるわ。あたしは皆から思われてるほど良い子じゃないわよ」
「うるせぇ!! ぶっ潰す!! 空手習ってるっつっても、女子が男子に勝てるわけないだろ!」
そう言い、手が空いているいじめっ子のリーダーは駆け出した。
そのまま拳を振り上げる。
「空手?」
彼女は聞き返す。そして——サングラスを帽子から外し、目に掛けた。
いじめっ子のリーダーの拳をかわし、そのまま腹に蹴りを叩き込んだ。
そして、そのままよろけた彼の襟首を掴んで思いっきりアスファルトの地面に投げつける。
「おぶっ……」
背中を打ち付けたからか、そのまま悶絶したような声をあげるリーダー。
そのまま地面でのたうち回る。
そこから素早く、彼が盗ったカードを抜き取った。
「こ、このやろー!! お、覚えてろー!!」
格が違い過ぎる。
それを悟ったのか、残る取り巻き2人もヒナタを離すと、リーダーを担いでそのまま逃げてしまったのだった。
「残念だったわね。あたしは空手は勿論、柔道と合気道も習ってるのよっ——ってヒナタ!? 大丈夫!?」
どや顔でいじめっ子達を見送るも束の間、すぐさま彼女はヒナタに駆け付けたのだった。
***
「あんたをいじめる子は減ったと思ったんだけどなー。今度からは一緒にカードショップ行こ?」
「う、うん……」
あの後、結局大会には遅れてしまった。
しかし、幸いカードはスリーブに入れていたのもあって全て無事だった。
公園のブランコで2人で話しているうちに、気持ちも落ち着いてきたのだった。この年になってくると、だんだん気恥ずかしいものも感じてくるが。
「……俺が……弱いから……いっつもナナに迷惑掛けちゃうな」
「何言ってんの。あんたにはあんたの弱いところもあるかもしれない。だけど、あたしにだって弱いところはあるもの。2人なら、それも補い合える。昔からそうだったでしょ」
「そ、そうだけど……」
「ずっと一緒だったじゃない。また何かあったら助けてあげる」
「俺に……強いところなんかあるのかなあ」
「何言ってるの。あたしのデッキの力を一番引き出してくれるのは”ヒナ”だけだよ」
「その名前で呼ぶのやめよーよ……」
「お相子だって。あんたもあたしのことナナって呼んでるし」
「それはナナが呼ばせてるだけじゃん……」
「ま、プレイングはピカイチだし。鎧龍の模試も合格点いったんでしょ? あたしはまだまだだよー……あんた小4なのに凄いって皆言ってた」
ふふっ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべると、ナナカは続けた。
「あたし、夢があるの。ヒナと一緒に鎧龍に行って、一緒にプロのデュエマプレイヤーになって世界に挑戦する!」
「プロの……デュエマプレイヤーか……でもナナは開発部に行ってデッキを作った方が良いと思うよ」
彼女もまた、デッキビルダーとしては非凡な才能を見せていたのだ。
プレイングのヒナタ、ビルディングのナナカ。
2人が揃えば最強、というのが彼女がいつも言っていたことだった。
しかし。
「それじゃダメ! あんたのことが心配だもん!」
「反論できない……」
「今弱くたって気にすることないわ。あんたにはあんたの良いところがいっぱいあるの、あたし知ってるよ!」
「……ありがとう、ナナ」
「いつか、2人が2人の弱点を補う必要がないくらい強くなったら、どっちが世界で一番強いか決めよう! ね!」
彼女の夢は、完璧なデュエリストになった互いで世界一を決めるというものだったのだ。
- Act3:ヒナとナナ ( No.276 )
- 日時: 2016/03/25 02:24
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
檜山ナナカという少女は頭がとても切れる上に、運動神経も抜群な少女であった。
正義感が誰よりも強く、明るく快活な性格で、誰からも好かれていた。
そんな彼女とヒナタは赤ん坊の頃からの付き合いである。
幼稚園から小学校まで、ずっと一緒だったのだ。
気が弱くて度々いじめっ子から乱暴を受けていたヒナタをいつも助けていたのがナナカである。世話焼きで、いつも彼の事を見ていたのだ。
さて、彼女が誰よりも好いていたのが、デュエマである。
ヒナタにデュエマを教えたのも彼女だった。
「——というわけで、夏休みに学校の体育館でチームのデュエル大会があるみたいよ、ヒナ!」
「……マジで」
ランドセルを背負いながら、彼女は言った。
6月になって、雨がよく降るようになったこの季節。
正直、気分もじめじめしていたところにこのニュースであった。
学校を使ってデュエル大会を行うとは、学校の方も随分と思い切ったものである。
「だけど、チームって何人なんだ?」
「5人よ! あたしとヒナで2人だから、あと3人ね」
「後3人かー……」
「これを機に、ヒナもあたし以外の子と仲良くした方が良いと思うんだけど」
「べ、別に俺はいいよ……めんどーだし」
「だーめ! そんなんだからいつまで経っても根暗だの言われるのよ!」
内向的な性格の彼としては、あまり乗り気ではなかった。
「あ、そうだ! あたし、他のクラスにアテがあるから!」
「な、なにもそこまでしなくっても……」
「これはチャンスなんだよ! ヒナの消極的なところを変えるチャンスなんだから! 色んな人にとにかく関わってみることが大事なのよ!」
多少強引であったが、言いたいことは分かった。
要は自分の内向的なところを少しは直せということなのだろう。
いじめられる原因がそこにあるのも分かっているので、仕方なく彼は頷いたのだった。
***
次の日の昼休みであった。
「で、何此処」
「視聴覚室よ。見たら分かるでしょ?」
「いやそれは分かるけど、何で此処」
「入れば分かる!」
視聴覚室。別名パソコン部屋。
薄暗く、余り使わないので此処には昼休みでも寄り付く生徒は少ない。
……一部を除いて。
「知り合いが此処にいるのよ。あたしが一声かければ、すぐに応じてくれるはずだわ」
「交友関係の輪広いんだな、ナナ……」
「まーね。前に色々助けて貰ったのよ。家のパソコンがおかしくなったときに」
そう言いながら、入る。
そこには、幾つか電源が付いて明るいパソコンがあった。
何故部屋を明るくしないのか。そして暗幕で窓を覆っているのか。
さっぱり謎であるが。
——何か、俺よりもよっぽど根暗そうな奴らだな……。
パソコンを使っている生徒は何人かいた。
その中の1人に近づいていく彼女。ヒナタもそれに着いて行く。
そして、肩にぽん、と手を置いた。
「ひゃい!?」
「あ、驚かせちゃった? ノアちゃん」
「い、いや、大丈夫、檜山さん」
おどおどと返した景浦は振り返ると言った。
眼鏡が印象的な大人しめな少女だ。
ショートボブの黒髪で、理知的なものを感じる。
「ど、どうしたんですか? ひやまさん。またパソコンがこわれたとか?」
「ううん。今日はパソコンの相談に来たんじゃないんだ」
「え?」
「ノアちゃん、あたし達と一緒に夏休みの学校デュエル大会に出てくれない?」
「ええ!? で、”たち”っていうのは……」
「彼も出るからよ」
ぽん、とナナカはヒナタの背中を押した。
「よ、よろしく……」
「あ、暁ヒナタ君!? こないだのがいりゅうのもしでトップレベルのせいせきを取ったっていう……」
ヒナタは驚いた。
自分の名前はそこそこ知られているのか、と。
若干迷惑にも感じたが、と思っていたら。
「私、これでもこの学校のせいとのじょうほうはけっこう集めたりしてるので」
「マジかよ」
「ノアちゃんは情報集めのプロだからね」
「つっても、模試はプレイングの成績が良かったからなんだけど……他は平均より少し上、程度」
「ヒナタはあたしの幼馴染で、プレイングに関しては敵なしよ! 頼もしいでしょ!」
「ちょっと、んな勝手に」
「これは……たぎってきました……」
ふふふふ、と笑い声を漏らす景浦。
一種の不気味さを感じざるを得なかった。
さっきまでの大人しそうな雰囲気から一転。彼女は高めのテンションで言った。
「学年一のデッキビルダーとプレイヤー、そしてこの私……!! 燃えて来たわ、滾って来たわ! 白黒オールイエスを組み直さないと!! 3年の景浦ノアって言います、よろしくお願いします、暁ヒナタ君!!」
ヒナタは察した。急に饒舌に喋り出したこの子を見ながら。
この子もかなりガチでやる方だと。しかも自分より年下なのに。デッキの名前から既に殺意を感じる。
白黒オールイエスは、低コストの妨害クリーチャーに《至宝オール・イエス》で序盤から厭らしいハンデスを行うデッキだ。
当時はかなりの強さを誇っていた。鎧龍という外の都市とは違う環境では。
しかし、こうもデッキ名をぽんぽん言える辺り、かなり深くゲームにのめりこんでいるのが分かる。
「これで残り2人ね。後もう1人知ってるから、あたし。校庭に行きましょ」
「……校庭?」
「うー、陽にあたるのは苦手ですけどー……」
***
「パスパース!」
校庭でサッカーをする男子達。
サッカーボールがぽーん、と跳ねて跳んでいく。
そして、バンダナを巻いた少年がボールを蹴った。
それが明後日の方向に。
「おーい! どこ蹴って——」
と誰かが言いかけた時であった。
跳んで行ったボールを素早くぽんっ、と胸で受け止め、そのままパスを返す少女。
それを見るや、バンダナの少年は「悪い、俺少し抜けるわ」と言って駆けていくのだった。さっきのは挨拶代わりだったのだろう。
「檜山! 何か見ねえ奴もいるけど、どうしたんだ?」
「そうよ、ショウゴ! 今度の校内デュエマ大会なんだけど」
「あー、あれか! 俺も誰のチームに行こうか迷ってたところなんだよ!」
バンダナの少年は、納得したように言った。
背が高く、見たところ上級生だろうか。それに小学生とはいえタメ口で話しているということは相当仲がいいのだろうか。
「で、そこの2人も連れてきたってことか」
「ふっふーん、あたしが選んだんだから間違いないわよ。あたしの幼馴染の暁ヒナタと、知り合いの景浦ノア」
「ふーむ」
じっくり、とヒナタ、そしてノアを見ると彼は続けた。
「良い目だ。よろしく頼む。5年の野分ショウゴって言うんだ」
「あ、あの……暁ヒナタって言います……」
「景浦ノアっていいます、よろしく……」
「ビビらなくていいって。固い敬語もナシだ。俺達はチームだから常にフェアな関係でいようぜ」
手が差し出される。
本人のフレンドリーさもあって、とても取っつきやすい人物だということは確かだった。
「ね? ヒナタ。あたしが選んだから間違いないメンバーでしょ?」
「あ、ああ……だけど後1人はどうするんだ?」
「大丈夫大丈夫! ショウゴ、確か貴方の友達に——」
「ああすまん」
ばっさり、と彼は言った。
「実は俺の知り合いでデュエマやってるやつは、殆どチーム組んじまってな……」
え、とその場に重い空気が流れだす。
此処で察した。
彼女の残るアテがそれしか残っていなかったということに。
ともかく、各員は残る1人のチームメイトを探すことになったのだった——
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