二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
- 日時: 2017/01/16 20:03
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。
また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。
”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”
『星の英雄編』
第一章:月下転生
Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25
第二章:一角獣
Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48
第三章:骸骨龍
Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73
第四章:長靴を履いた猫
Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114
第五章:英雄集結
Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204
『列島予選編』
第六章:革命への道筋
Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦
Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261
Act8:次なる舞台へ
>>262
第七章:世界への切符
Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352
『侵略世界編』
第八章:束の間の日常
Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393
第九章:侵略の一手
Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416
第十章:剣と刃
Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444
短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。
短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65
短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126
短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156
短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176
短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422
エイプリルフール2016
>>299 >>300
謹賀新年2017
>>443
登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします
オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。
お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新
- Act9:fire fly ( No.177 )
- 日時: 2015/10/04 01:05
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
「——あんまりすぎる……」
校門への坂を登りながら、ノゾムは呟いた。
——親を助ける為に戦いを挑みに行ったのに、あいつは結局自分が連れ去られることになっちまうなんて……!
今頃は、アヴィオールの養分になるため、概念体として囚われているだろうか。
または、あの不死鳥座の男にもっと酷い目に遭わされているかもしれない。
どちらにせよ。
彼女が居ないのは、それだけで彼の気持ちを沈ませた。
それを一番心配したのは、クレセントであった。
『ノゾム……』
「早く、あいつを見つけてやらねぇと……」
『分かってるよ! 今のあたし達ならアヴィオールを倒せる!』
「ただ、倒すだけじゃ駄目なんだ。それも分かっているはずだ、クレセント」
『だけど……』
「早く、闇の適合者を見つけないといけねーな」
「おい、ノゾム!」
声がした。
振り返ると、そこには見慣れた先輩の姿があった。
「ヒナタ先輩……」
頬には絆創膏、頭に包帯こそ巻いてはいたが、もう大丈夫のようだった。
『白陽は?』
「疲れて今日は寝てる。ただ、1人は危ないから、カードの中でだ。起こしてやるな」
『う、うん……』
すう、すう、という寝息がカードの中からでも聞こえてくる。相当疲れていたのだ。当然だ。
さて、とノゾムの顔を見たヒナタは切り出した。
「浮かねぇ顔してるが、まあ当然か」
「先輩……オレ、ホタルにアヴィオールを任せてよかったのか、今でも……」
「アホか、お前」
がしっ、とヒナタはノゾムの頭を鷲づかみにすると、そのまま髪をくしゃくしゃっとした。
「それは、ホタルの意思を踏みにじることになるぞ。だからこそ、あいつの無念を俺らが晴らす! そして、何としてでもホタルを助け出すんだろうが! 違うか?」
「ですが……あの時、せめて近くに居てやれれば……」
うぐ、とヒナタは言葉を詰まらせた。
その気持ちは、彼も痛いほど理解していたからだ。
幼い頃の、あの事故。
自分が居れば、自分が大会にさえ行かなければ助かっていたかもしれない少女を思い出したのだ。
だから、自分の気持ちに嘘をつかないように、彼は慎重に言葉を選んだ。
「まあ、まだあいつは助けられるんだ。助かる見込みがあるんだ。後悔してる暇は無いと思うぜ」
「……そうですね、先輩」
——ホタルは死んだわけじゃねえ……まだ生きてる……まだ生きてるから、助けられるから良いんだぜ、ノゾム……。
生きているか否か。それが不確定要素だったとしても、それにすがるしか今は方法が無かった。
助ける間もなく、死んだと言う事を告げられるしか無かった自分に比べれば。
ミンチよりも酷い死に方をした幼馴染を見ることも出来なかった自分に比べれば。
ノゾムはよっぽどマシに見えたのだ。
しかし。そんな中で、彼はとんでもないことを言い出した。
「やっぱオレ、学校をサボってでもホタルを……」
「いや、駄目だ」
ピシリ、と彼は突きつけるように言う。
それは、学校をサボることというより、別のことのためにノゾムを咎めたからだ。
「フジ先輩の指示があるまでは単独行動は危険すぎる。相手がどれだけ恐ろしいか、お前には分からないか?」
「で、でも、オレ達は一度アヴィオールを……」
「慢心!!」
びくり、と彼は肩を震わせた。
ヒナタが急に声を張り上げたからだ。
「慢心は、自分への過信は、自分どころか仲間も滅ぼすぞ」
「——っ!」
低く、諭すような声に、ノゾムは反論が出来なくなってしまった。
いや、実際その通りであることも分かっていた。
「安心しろ、って言っても無駄だろうが、武闘財閥が必死こいて探しているんだ。もしかしたら、ひょっこり出てくるかもしれねえんだぞ」
「そ、それでも今の今まで——」
「お前が勝手な行動を取るよりも、よっぽどマシだ。二重災害ってのはこの事だ、大馬鹿野郎。お前がヘマして浚われたら、俺達の戦力は大幅ダウン、しかも、今度はお前まで探さないといけなくなっちまう」
「す、すいません……」
「ホタルは俺達の戦力だったことも忘れるな。今、俺達の中で生きたクリーチャーを持っているのは、フジ先輩とコトハ、俺、そしてお前の4人だけなんだからな——って、実際にはまだ居たりするが、多分フジ先輩の指示で別の方面に動いてるから、真っ当な戦力になるかは知らん」
それじゃあ、とヒナタは彼の背中に手を置いて言った。
「早くしねーと始まるぞ」
「は、はい!」
気付けば。歩きながら話していたからか、校門に既に辿り着いていた。
***
「おい、暁。どーしたんだその怪我……」
「チャリこいでたら色々まずった」
「いや、説明になってねーよ」
クラスメイトの何人かに怪我について言われたが、そつなく返しておくヒナタ。
だが、そんなことよりも気になるのはレンのことだった。
居ない。いつもならば、この時刻には来ているはずの彼が。
「あれ、レンいねーのか?」
「そうだな。妙だぜ。しかも最近あいつ、全然喋らないしな」
「……うーむ」
まさか、学校にも来なくなるとは。まだ決め付けるのは早いとはいえ、彼は薄々感づいていた。
それは見事に当たり、彼は学校には来なかったのだ。
どうやら、風邪らしいとのことだった。
***
昼休み。コトハがまた、心配そうな面付きで、わざわざ2−Cまでやってきた。
内容は大方予想できた。
「結局来なかったわね。レンの奴」
「風邪っつっても、あいつまで学校に来ないのはな……ったく、どいつもこいつも心配かけさせやがって」
「ねえ、一応武闘先輩に聞いといた方が良いわよね、いろいろ」
「そうだな……」
ふぅ、と息を吐くと、そのままヒナタとコトハはフジのいるであろう4回生の教室錬へ向かったのだった。
何か動きがあったとはヒナタには思えなかったのだが。
- Act9:fire fly ( No.178 )
- 日時: 2016/02/01 20:41
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)
***
——4年の教室に辿り着き、フジに会った2人だったが、話が話なので、すぐに空き教室に案内された。
そして——
「アホか」
——当のフジから開口一口告げられたのはその一言であった。仲間の身を案じているだけなのに、流石にそれは酷いのではないか。少々反感を覚えたが、フジはそんなことに構わず続けた。
「見つけていたら、とっくにお前らに連絡を飛ばしている。お前らが一番心配しているからな」
「じゃあやっぱり……」
「未だ音沙汰無しってことはそうだろうな」
彼の向かわせた人員は、未だにホタルやアヴィオール、不死鳥の少年・アンカの居場所を特定できていないようだった。
それでもやはり、悔しさは覚えた。力はあるはずなのに、どうしようもできないやるせなさがヒナタとコトハを苦しめたのだ。
「何が武闘財閥だ、無能の集まりだ、とでも思ったか?」
「い、いや、とんでもない!」
一瞬本当にそう思いかけたのは秘密である。
「これでも最善は尽くしてるんだがな」
「先輩が言っても全く説得力が無いんですが、それは」
「今回ばかりはヒナタに同感です、先輩」
「マジで? 俺様そんなに信用ねぇの?」
普段の行動が普段の行動なので仕方が無いことではある。若干げんなりした表情を見せた彼は弁解し始めた。
「仕方ねえから、じっくりと説明していくぞ。まず、この学園には、お前ら英雄所持者以外にも決闘空間を開ける奴がいるのは知っているな?」
「いや、それは勿論……そんなこと何の関係が」
「アホか、大有りだから話してるんだろうが、シメるぞヒナタ」
「すいませんでした」
「……でも、本当に何の関係があるっていうんですか?」
「如月までそう言うか……全く、俺様は本当に信用されてねーのか」
「それは仕方ないと思います」
「同感です」
「うるせーうるせー、お前らに関わるんだぞ、聞け」
英雄所持者以外に、決闘空間を開ける者。
レン以外にも、オラクルと共に戦った仲間達、そして数年前の海戸で起こった事件に関わった、フジの一部の同級生、等々がそうである。
しかし、それはヒナタにとってもコトハにとっても分かりきった話であった。
だが、本筋はそこではない。
「——決闘空間を開けるのは、今まで特定のカードを所持した人間と思われていた」
「生きたカードですか」
「そうだ」
それも、聞き慣れた言葉だ。
超獣界などから現れたクリーチャーが、この世界に於いてあるべき姿に成ったモノ、”生きたカード”。
それを持つ者のみが決闘空間を開ける。それが今までの常識だった。
「本来の名称は『決闘封獣(クリーチャーズ・アーティファクト)』だが、ぶっちゃけ長いから弁机上”生きたカード”と呼ばれている。一部のアウトレイジやオラクルのカード、そして全てを超越した神クラスのカード……実際、この世界と向こうはパラレルワールドのようなもので、この世界ではカードでしかないクリーチャーが向こうでは、カードの中のイラストそのままで生きているんだ。しかし。如何なる力を持っても、この世界ではカードの状態になってしまう。それが理だ。驚きだな」
「あんたがそれ言っちゃうんですか」
「実際そうだしな。んでもって、だ。それらは強力な力を持ち、持ち主に力を与える。他のクリーチャーと戦う力、そしてそれを具現化させる力、そして一定のルールの中でそれを戦わせる力、だ」
秩序無き力は暴走しか生まないように、最初からそれらのクリーチャーには決闘空間を生み出す力が付けられているのだろう、とフジは結論付けた。
「しかし。どうやらそうでもないことが、最近明らかになったんだ」
「え?」
「ちょっと待ってください、それってどういう——」
「まず、ドラポンやオーロラ、スミスが居なくなった後のお前らが決闘空間を広げられるようになったのは何故だか分かるか?」
「そ、それは、力が残っていたから?」
何となくは分かってはいた。
フジは結論付けるように言った。
「そう、”力の残留”だ。一度クリーチャーに関われば、もうそいつは異形と戦う運命からは一生逃れられない。そして、クリーチャーと能動的に関わるのみならず、受動的に関わったもの。つまり、過去に実体化したクリーチャーに襲われたことがあるものも同じく”力の残留”が発生するんだ」
「——!!」
1つの言葉が浮かんだ。
”教団襲撃事件”。かつて、鎧龍の生徒がオラクルに襲われた事件であった。それに巻き込まれたのが、全ての始まりだった。
そして、ヒナタは浮かんだ疑問をフジにぶつけた。
「それじゃあ、過去にオラクル教団に襲われた生徒も——」
「本来なら、その力を持つことになるな。しかし、ヨミの消滅と共に、深くクリーチャーに関わっていなかった者以外は、つまり、クリーチャーを相棒にした者以外は記憶を失ったのは知っているな?」
「は、はい……」
あれだけの大事件だったにも関わらず。ヨミが完全消滅した後は、生きたクリーチャーという概念が人々からは消えていたのだ。
「じゃあ、実質その人達は、自分が力を持っているのを知らない、というわけですか」
「そうだ。しかも、そいつらは自分達がクリーチャーに襲われた、という自覚をしていない。何故ならば、オラクルの殆どは皆人間の姿で活動をしていたからな。そんでもって厄介なのは、決闘空間のデュエル中で実体化した連中はカウントされないという性質だな」
だが、と彼はそれを否定した。
「オラクル以外、つまり明らかな異形の者に襲われたことがある人間は、自らが人間以外に襲われたのをはっきりとわかっている。つまり、残留した力が防衛本能を呼び起こし、決闘空間を引き起こす能力を手に入れることができる」
2人に衝撃が走った。
コトハがまくし立てるように言う。
「そ、それじゃあ、学園以外にもあたし達の味方がいるってことなんですか!?」
「そうなるな。正確に言えば、武闘財閥の元で動いている1つのグループだ。グループといっても、そこまで組織性はねぇんだが、そいつらが各地でクリーチャーについて調べるために動き回っている」
つまり。クリーチャーと戦う力を手に入れた者達のグループが、武闘財閥には存在したのだ。
「『遊撃調査隊(クリーガー)』。少数精鋭で、生きたクリーチャーを所持しているお前らに比べると危険も多いが、その上で活動しているガッツのある連中だ」
「そ、それって何人くらいいるんですか?」
「十数人。はっきり言って少ない。だが、お前らくらいの年のやつから、40くらいのおっさんまで様々だよ。海戸で起こったあの事件以来、クリーチャー事件は少ないのは少ないが、起こっているからな。世の中の怪奇現象の殆どはクリーチャーの仕業やもしれんというデータもある。眉唾ではあるが、間違ってねぇような気もするな」
「は、はぁ……」
「それだけじゃねえ。前に言ったドラグハートの件も関わってきてだな」
「世界に散らばった武器、ですか?」
「ああ。奴らの調査結果、それが既に何者か達の手に渡っていることも分かっている」
彼らは戦慄した。
ソウルハート1つだけでも厄介だったのに、此処に来て残る存在も別の人間の手に渡っているということに。
ドラグハートが他にもあることは最初から分かっていたので、薄々そうではないかと感付いてはいたが、やはりというべきか、それは敵が世界に居ることを意味していた。
そう言ったフジは、「分かったか?」と念を押した。
「俺だって、ふざけてばっかいるわけじゃねえ。むしろ学校と平行して必死こいてこれらの管理を手伝っているんだ。今は多少危険でも、手段を選んでいられねぇってこった。何せ、こんなところで手こずってる暇はねぇかんな」
彼の顔は、心なしか疲れているように見えた。
ただただ、2人には申し訳なさとやるせなさが残ったのだった。
「だからと言って、今お前らに無茶をしろとは言わん。むしろ、お前らを今動かすのは逆に危険だからな。それはお前らだって分かってるはずだぜ? そこらの雑魚ならともかく、不死鳥使い達はやばすぎる。決戦戦力に勝手に動いて貰うと困るってこった。万が一失敗したその日には——お前らはホタルの二の舞になる。それだけは俺様の意地にかけて避けねばならんからな」
***
- Act9:fire fly ( No.179 )
- 日時: 2015/10/04 01:06
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
***
——悪いことをしたな。
具合が悪いと嘘をつき、学校を休んでしまった。だが、親は共働きで、しかも両方とも遠出している。どうということはない。
もうこのまま引きこもってしまおうか、という負の気持ちが巣食ったが、仲間の顔を思い出してそれを振り払う。
しかし。最近、自分は本当に失敗ばかりだ、彼らからも必要とされていないのではないか、と彼は思った。
ヒナタもコトハも、自分のことを疎ましく思っているのではないか、と。
——思えば。あれが全ての始まりだったか。
入学初日。校門への坂を登る途中、自分のカードを眺めていたレンは、訳あって全速力で走っていたヒナタとすれ違った。
しかし。問題はその日が大雨明けで地面に水溜りが沢山できていたこと。そして、ヒナタの踏んだ水溜りの水が盛大に跳ねて、スリーブの上からだったとはいえカードを汚してしまったことがきっかけになり、彼にいちゃもんを付けてデュエルを申し込んだのだった。一応、ヒナタの名誉のために言っておくが、彼はこの日、登校中にケータイをスられて、犯人を追いかけている途中だったのだ。
——当時からあいつに酷い目に遭わされていたのか、僕は……。
その後、デュエルは勿論負けた。この日から、2人はライバルの関係になったのである。
——しかし……何故だ。
同じ日に入学したにも関わらず。どこで自分とヒナタに差がついたのか。デュエルの実力はほぼ互角だ。そのことに不満はない。
が、しかし。
片やサマートーナメントで名を馳せ、片や敵に捕まっていて何も覚えておらず。
片やその後もヒーローの如き活躍をして称えられ、片やその後遺症で妙な癖を発症して完全に変人扱いされるようになり。
片や仲間を守りきったのに、片や目の前で1人を死なせ、1人は守るどころかその記憶を奪ってしまった。
——僕は、あいつに比べて劣っているのではないか?
レンはヒナタの過去も、また彼が経験した竜神王との戦いも知らない。だから、自分だけが酷い目に遭い、自分だけが嫌な立ち居地に立っているのではないか? と錯覚してしまった。
——僕は誰も守れていない。
相棒を死なせ。共通点を見出した友人を失い。
表面ではいつも通りを装っていても。既に彼の心には、埋まらない穴が幾つも存在していた。
——それどころか。怒りに任せて——!
もしも。自分がヒナタだったなら。
もしも。自分が彼だったなら。
もしも。自分が彼のような力を持っていたならば。
——僕は、こんな思いなんかせずに済んだのに!!!!
湧き上がるのは、理不尽なヒナタへの憎悪だった。
屈折した感情と、心の奥底に眠る闇が彼の意思を歪め、あらぬ方向へ持っていく。
黒鳥レンは、闇を持っていた。
最初は無色透明のクリアなものだったが、1人の少女に関わったことで、多くの悲しみを経験したことで、そして自らの無力さを嘆いたことで、それはドス黒いものになった。
もう、元には戻らない。
もう、洗い流すことはできない。
もう、真っ直ぐには戻らない。
「——レン先輩」
——レン先輩。
一瞬、記憶の中の少女と声が重なった。
しかし。今起こっていることが明らかな異常であることは見てとれた。ベッドから起き上がれば、そこには少女がいた。
やはり、ありし日の少女とは違った。
しかし。
その姿には明らかに見覚えがあった。
何故、今彼女が此処に居るのか。
何故、今彼女が自分を呼びかけたのか。
何故、今彼女が凄まじい闇を放っているのか。
「——淡島ホタル……何故、貴様が今、此処にいる!?」
今は何時だ、と時計を見た。
14時。まだ、部活どころか学校も終わっていない。
なのに、何故、彼女が此処にいるのか、どうやって入ってきたのか、皆目検討がつかない。
「どうしても知りたいですかぁ?」
「何を世迷い事を!! まだ学校は終わっていないんだぞ!?」
「それはこちらの台詞です。何で、先輩は学校を休んで自宅にいるのでしょうか?」
言葉に詰まった。
完全に反論が出来ない。
「それより先輩……私のところに来ませんか?」
「何!?」
何を言っているのか、意味が分からない。
どこに来い、と言うのか。
そもそも、それはどういうところなのか。
さっきから疑問が沸いてばかりで仕方がない。
そういえば、あのデュエルのときもそうだった。あの男とのデュエルだ。ステラアームド・クリーチャーなどという訳の分からない者に理解が追いつかず、結局負けてしまった。
そのときと同じように、頭の中で理解が追いつかない。
ひょっとして、これは夢なのではないか、という感覚さえ覚えた。レンは、まだ彼女のことをよくは知らない。
しかし。少なくともこんなことをするような人間ではないはずだ。
そのまま、彼はベッドの上で彼女に押し倒される形になってしまう。
流石の彼も、胸の高鳴りを覚えた。
いけない。今は、そんなことを考えている暇は無い。
目の前の彼女は、明らかに異常だ。
誘っている。自分を、深い深い深淵へと誘っている。
彼女の瞳を見れば一目瞭然だった。
闇だ。
おぞましいほどに強い闇が、ともっている。
「いけない先輩には、おしおきが必要みたいですね」
ぴっ、と彼女は1枚のカードを見せ付けた。
それには見覚えがあった。
「ハーシェル!? 何故、こんなことに——!?」
「闇の力で——ハーシェルは、強くなったんですよ?」
レン先輩、と彼女は続けた。
「私、知っているんですよ? 貴方がヒナタ先輩に劣等感を感じていることを」
「何だと!?」
「それに、ヒナタ先輩を恨み、憎んでいることも」
「ち、違う!!」
「ハーシェルの力を使えば、すぐに分かるのに……強情な先輩ですね……」
レンは思い出した。
今のホタルは、あのときの彼女に似ている。神の傀儡と成り果てた、あのときの彼女に。
そして、彼女は言い放った。
「先輩には、お仕置きがやっぱり必要ですね——」
次の瞬間。彼女の背後から、黒い靄が現れ、辺りを包み込んだ——
「決闘空間、開放です」
- Act9:fire fly ( No.180 )
- 日時: 2015/10/04 00:50
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
***
「——どうしても、この僕とデュエルをするというのか、淡島」
「——ハーシェルの力があれば、貴方になんて簡単に勝てますよ?」
挑発的な物言いのホタル。しかし、今回もレンは嫌な予感をしていた。
あのカードは明らかに邪悪だ。以前見たハーシェルのカードとは真逆に。
未知にして、それは不気味だ。慎重に行かねば。
ひりひりと感じる邪悪が、肌を焼いていく——
——出来れば、身内とは戦いたくなかったが、仕方があるまい!!
そんな痛々しい願いは、彼女に届くはずもなかった。
***
序盤は互いに睨み合いが続いた。
5ターン目。レンの場には《一撃奪取 ブラッドレイン》に《暗黒鎧 キラード・アイ》の2体が並ぶ。
一方のホタルの場には、《墓守の鐘 ベルリン》に《強欲ジェラシー・シャン》の2体のブロッカーが守りを固めていた。更に、《フェアリー・ライフ》でマナまで増やしている。恐らく、光/闇/自然のデッキ構成であることは見て取れた。
しかも、《ベルリン》の効果でハンデスは意味を成さず、《ジェラシー・シャン》はスレイヤーの上に、破壊される代わりに手札から光のクリーチャーを捨てることで、自分だけ生き残る厄介なクリーチャーだ。
墓守の鐘ベルリン UC 光/闇文明 (2)
クリーチャー:イニシエート/ヘドリアン/ハンター 3000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
呪文の効果によって、相手がクリーチャーを選ぶ時、このクリーチャーは選べない。
相手の呪文の効果またはクリーチャーの能力によって、自分の手札が捨てられた時、カードを2枚まで、自分の墓地から手札に戻してもよい。
強欲ジェラシー・シャン UC 光/闇文明 (4)
クリーチャー:イニシエート/ヘドリアン/ハンター 1500
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
ブロッカー
このクリーチャーは攻撃することができない。
スレイヤー
このクリーチャーが破壊される時、かわりに光のカードを1枚、自分の手札から捨ててもよい。
そして、後攻のホタルのターンとなった。
「私のターン。《口寄せの化身》を召喚しますね」
口寄の化身(シャーマン・トーテム) VR 自然文明 (6)
クリーチャー:ミステリー・トーテム 4000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある自分の、ミステリー・トーテム以外の種族1種類につき1枚、カードを引いてもよい。
《口寄せの化身》は、バトルゾーンのミステリー・トーテム以外の種族1種類につき、カードを1枚引けるクリーチャー。
そして、今のホタルの場には、へドリアンとイニシエート、そしてハンターを兼ね揃えた《ベルリン》と《ジェラシー・シャン》がいるので、合計3枚引くことができるのである。
——手札を増やされたか……何をしてくる? しかも、《ベルリン》がいるから、ハンデスも意味を成さない……!
「ターン終了です。どうですか? 怖気づいちゃいましたか?」
「僕のターン……! 《暗黒鎧 ゴルドバット》を召喚! マナ武装3で、山札から1枚、カードを墓地に置いて、クリーチャーの《ホネンビー》を手札に、ターン終了だ」
墓地と手札を増やし、着々と準備を進めるレン。しかし、肝心の切札が手札に来ない。
「へーえ。やっぱり殴らないんですね。それじゃあ、そろそろ本領発揮しちゃいますか」
ホタルのマナゾーンのカードが6枚、タップされた。そして——
「呪文、《ヘブンズ・ゲート》! 効果で、手札から光のブロッカーを2体、バトルゾーンに出しますね! 《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》、そして《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》をバトルゾーンに!」
「なっ——!?」
数多いメカ・デル・ソルの中でも、強力な部類に入る《ジャンヌ・ダルク》。それが一気に2種類、レンの行方を阻むようにして現れた。
勝利を賛美し、処刑の炎を遠ざける《勝利の女神》。
破滅を賛美し、世界を憎み破壊する《破滅の女神》。
この2体が揃ってしまったのだ。
「まずは、《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》の効果で《キラード・アイ》と《ブラッドレイン》をタップしますね」
勝利の女神の聖なる光が、闇に潜む悪夢の騎士を2体、白昼の元へ曝け出す。
そのまま、無防備な姿を2体は晒すことになってしまった。
勝利の女神ジャンヌ・ダルク SR 光文明 (7)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/ハンター 7500
ブロッカー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、または、このクリーチャーが攻撃あるいはブロックした時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを2体まで選び、タップしてもよい。
W・ブレイカー
火の呪文または火のクリーチャーの能力によって、相手がバトルゾーンにあるクリーチャーを選ぶ時、このクリーチャーを選ぶことはできない。
「そして、バトルゾーンに光のハンターが4体いるので、《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》の効果で、手札を4枚捨ててください」
「くっ……! まずい、手札が——!!」
破滅の女神の邪悪な光が手札を焼いた。
全部だ。レンの手札は、4枚全て墓地へ叩き落された。
破滅の女神ジャンヌ・ダルク VR 光/闇文明 (7)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/デーモン・コマンド/ハンター 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある自分の光のハンター1体につき、相手は自身の手札を1枚選んで捨てる。
「そして、《口寄せの化身》で《キラード・アイ》と相討ちにして破壊。さらに、《ベルリン》で《ブラッドレイン》を攻撃して破壊しますね」
「タップキルか——!!」
重要なシステムクリーチャーが2体共倒された。これで、墓地から進化クリーチャーが召喚できなくなってしまう。
さらに、クリーチャーのコスト軽減も出来ない。完全に不利だ。
——認めるか……違うんだ!! 僕は、僕は——!
「僕のターン!」
今引いたカードをしっかりと見た。
——こいつなら、いける!!
「進化、《ゴルドバット》を《悪魔龍王 キラー・ザ・キル》に! 効果で、《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》を破壊だ!」
遂に来た切札。禍々しい邪眼を持つ悪魔龍の王。
それは一瞬で、勝利の女神の神々しい装甲を貫いて地獄へと叩き落す。
「ターン終了だ」
「へえ、それが先輩の切札ですか」
しかし。
彼女はそれを鼻で笑ってみせる。
「全然、闇を感じられませんね」
「……何?」
思わず聞き返してしまった。
——何の話だ——!?
しかし。答えはすぐに出た。
「私のターン。7マナをタップして——」
邪悪に染まるバトルゾーン。そして、禍々しくも雄雄しい一本角。光と闇のマナを纏い、魔方陣と共に現れた。
それは、今までの彼の者とは似て非なる存在。
それは、まさに負の化身、血の化身、破滅の化身——
「忠実なる我が僕よ、今此処に現れて、全ての歯向かう愚か者を処刑しなさい。
血に塗れた角で全てを貫くは——《惨劇の一角星 ハーシェル・ブランデ》」
- Act9:fire fly ( No.181 )
- 日時: 2015/10/05 19:22
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
「——ハーシェル……!?」
現れたのは、漆黒に染まった体に黄金の装甲を身に纏った猛々しくも邪悪な一角馬だった。
それも、自分が知っている小柄な一角馬ではない。
これが本来の姿だと言わんばかりに、その体は成長しきっていた。
「これが本当の闇の力……レン先輩。真の闇は、神々しい光の影にあってこそより暗く、そしてより美しくなるものなんですよ?」
「ふ、ふざけるな!! 美しくなど、無い!!」
余りにも、その瞳は穢れきっている。ホタルと同様に。
彼はそのおぼろげな目の光に恐怖すら覚えた。
「一体、お前達に何があったっていうんだ!!」
「そんなこと、どうでも良いじゃないですかぁ」
それと、と彼女は続けた。
「知っていますか? 蛍(ファイアフライ)って獰猛な肉食昆虫ってことで海外では通っているんですよ?」
「それこそ、どうでも——」
「まだ分からないんですか? レン先輩」
にやり、と彼女は嫌な笑みを浮かべた。
「既に、貴方は獰猛なケダモノの罠にかかっているんです——《ハーシェル・ブランデ》の効果発動!! 超次元ゾーンからU(ユニオン)・コアを持つステラアームド・クリーチャーをバトルゾーンに!!」
次の瞬間、ハーシェルが足を踏み鳴らすと、そこに魔方陣が現れた。
そこから、更に暗黒に染まった聖なる乙女が姿を現す——
汝の罪を問う。
女に溺れ、怒りのままに全てを滅ぼした罪深い色欲の一角獣よ。
純潔などとは程遠い罪深いケダモノよ。
これは汝の罪の象徴——
「ステラアームド・クリーチャー、《鋼神姫 ドラドルイン》をバトルゾーンに!!」
現れたのは、鋼の門に艶やかな女体像が伸びたようなクリーチャーだった。
しかし。その門は絶えず開閉しており、その中には無数の鉄の棘が黒光りして見える。
鋼鉄の処女。ありし時代で用いられたと言われる恐怖の拷問器具の1つであるが、レンはまさしくそれを連想した。
同時に、焦りを感じていた。
ステラアームド・クリーチャーは危険だ、と。
以前、あの男の使っていた《アクロガンドラー》と同様に、いや今回はそれ以上に危険な香りがするのだ。
「ターン終了です……さあ、どうしますか?」
場には大量のブロッカー。これをどうにかしなければ、自分に勝ち目は無い、とレンは感じていた。
「僕のターン……くっ、《暗黒鎧 キラード・アイ》を召喚、そして墓地進化で《死神術師 デスマーチ》を墓地から召喚し、ターンエンドだ……!」
しかし、もうこれ以上やることはない。何とか耐え切りたいところではあるが、もうレンには成す術がないのだ。
「私のターン——それでは、貴方の罪を、欲望を、今此処に!!」
『御意……』
「ターンの始めに、私の場に光か闇のクリーチャーが合計5体以上いるならば——《ドラドルイン》の武装条件は達成されます」
「何!? ま、まさか、もう武装とやらをするつもりか!?」
「その通りです——格の違い、そしてこれが、貴方と私の闇の深さの違い——星芒武装です」
《ドラドルイン》の門が大きく開いた。そこに、《ハーシェル》が駆け込んでいく。
そして、それを閉じ込めるように、門が閉まる。同時に、そこから真っ赤な血が流れた。
次の瞬間、《ドラドルイン》の目が赤く光った。
女体像が崩れ落ち、門は鎧となり、腕が生え、巨大な甲冑が現れる。そして暗黒の騎士としての姿を象っていく——
「数多の屍を食らいし破滅の一角獣よ。
冥界の騎士として昇華し、咎人を裁け。
《串刺しの騎士(レイニーズデイ) ハーシェル・ディストーション》、武装完了」
現れたのは、ずんぐりとした人型の黒騎士だった。
武装前とは一点、完全に人のそれと同じ姿だった。
しかし。
甲冑から覗く1対の不気味な瞳。
黒光りする鎧に、幾つ物白骨化した頭蓋骨の刺さったレイピア。
それらはいずれも黒くこびり付いた血で汚れてしまっている。
正に、罪を貫き、拷問し、処刑するだけの存在。
それが《ハーシェル・ディストーション》だった。
『血が……血が取れぬ——どんなに洗っても、血が取れぬ——ワシの犯した罪の象徴——次は誰に向けるべきなのじゃ!!』
次の瞬間、ホタルのシールドが全てレイピアに貫かれた。
それらが展開され、中の《光器 セイント・マリア》、《真実の名 バウライオン》、《悪魔聖霊 アウゼス》が手札に加えられ、残りが墓地へ送られる。
「《ハーシェル・ディストーション》の効果発動。自分のシールドを武装成功時に、全て墓地に置き、その中からクリーチャーを全て手札に加えます」
無理矢理、貪るように命を奪い取る《ハーシェル》。しかし、残った魔力の力も決して無駄にはしない。
それらをレイピアに蓄え——
「そして、その数だけ敵のクリーチャーに裁きを与えます」
——突貫した。
眼にも留まらぬ神業だった。
《キラー・ザ・キル》、《デスマーチ》、《キラード・アイ》が一瞬で身体を滅多刺しにされ、肉塊(ミンチ)に。
目玉は刳り貫かれて瞳の真ん中を貫かれ、顎は裂かれて真っ二つに。
更に頭からぐちゃぐちゃになった脳がぼろぼろと零れていく。
そして、腹に空いた幾つ物小さな穴が、そのうち綻びていき、大きな穴となる。
肝臓が。胃が。腸が。全て地面へ落ちた。そして、無数の血が止め留め無く流れていた。
バトルゾーンはたちまち屍の山に。いつもは爆発四散するはずのクリーチャー達が、そのまま残ってしまっており、それがレンの眼に焼き付いてしまった。
——そ、そんな、僕のクリーチャーが……!!
「うっ……」
見るも無残な光景に、レンは吐き気すら催した。
流石に、見るに堪える光景だった。
最早、デュエルでもバトルでも何でもない。
一方的なリンチ、惨たらしい虐殺だった。
それを見て、ホタルはただただ笑っていた。
「そして、こうして最終的に墓地に置いたカードの数だけ、山札の一番上からカードをシールドゾーンに。墓地に置いたのは2枚、よって2つの盾を展開します」
「こ、こんなことをして何が楽しいんだ……!!」
「《ハーシェル・ディストーション》でT・ブレイク」
質問をする権利など与えられるわけもなく。シールドが3枚、レイピアで滅多刺しにされた。
しかし、そのうちの1枚がカードとなり、収束する。
「S・トリガー、《凶殺王 デス・ハンズ》を召喚!! 効果で……」
「《ハーシェル・ディストーション》の効果発動です。《デス・ハンズ》の効果を無効化し、破壊します」
「な!?」
次の瞬間、シールドから現れた《デス・ハンズ》は先のクリーチャーのように、一瞬でバラバラの肉塊と鉄屑になった。
レンはその光景を直視できず、目を逸らしてしまう。
何が起こったのか、またわからなかった。
「《ハーシェル・ディストーション》がいるときに、相手がコストを支払わずにクリーチャーを出したとき、そのクリーチャーの効果は発動せず、破壊されます」
「ば、馬鹿な……!!」
「そして、《ベルリン》でシールドをブレイク」
「っ!! そんなことが出来るわけが——」
しかし。レンの意思に反して、4枚目のシールドは無情にも叩き割られた。しかし、驚いたのはそこではない。《ベルリン》は相手プレイヤーを攻撃できないクリーチャーと、彼は記憶していた。何故、シールドを割れたのか分からなかったのだ。
しかし。
「おや? 《ベルリン》がシールドを割ったことに驚いているんですか? 《ハーシェル・ディストーション》が居る限り、自分のクリーチャーの攻撃できない効果は全て制限解除されるんですよ?」
「そ、そんな——!!」
永続的なダイヤモンド状態の追加。
それが、《ハーシェル・ディストーション》による奇襲性を大幅に上げた。
「《ジェラシー・シャン》で最後のシールドをブレイク」
最早、放心状態だった。また、負けた。
自分には何が足りなかったのか、レンには最後まで認知できなかった。
「残念でしたね」
この日。黒鳥レンは、人生で最大の恐怖を味わうことになる。腰が抜けてしまい、もう動けなかった。
絶望の中で、最後に浮かんだのは。
在りし日の、あの少女の顔だった——
「——《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》でダイレクトアタック」
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