二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Re: デュエル・マスターズ D・ステラ ( No.192 )
日時: 2015/10/11 21:25
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 遂に現れてしまった、人型の騎士。 
 武装前とは完全に変わってしまった彼を見て、思わずクレセントは恐怖で息が荒くなっていた。
 不気味に覗く1対の眼。
 血で汚れた鎧とレイピア。
 吹き出てきそうな程に強い覇気に、ノゾムは完全に気おされていた。隣に立っているクレセントでさえ、慄いているのだ。人間の彼の精神では、それを前にして立っているのがやっとだった。
 騎士は、全てのシールドを薙ぎ払う。そう。自らの主であるホタルのシールドを。

「なっ!?」

 その光景に驚愕するノゾムだが、次の瞬間にそこから2体のクリーチャーが表向きになる。 
 《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》と、《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》だった。
 そして次の瞬間、《ハーシェル・ディストーション》が突貫する。

「《ハーシェル》の効果発動です! 自分のシールドを全て墓地に送り、その中にあったクリーチャーを全て手札に! そして、手札に加えたクリーチャーの数だけ——相手のクリーチャーを破壊します」
『!!』

 直感で分かった。この後、恐ろしいことが起こる、と。
 次の瞬間、《ハーシェル・ディストーション》のレイピアが神業のように、夷敵を何度も、何度も素早く突く。

「なっ……!?」

 細切れになり、ミンチになっていく身体。
 クレセントも戦場で死体は腐るほど見てきたが、此処まで酷いものは初めてだった。 
 悲鳴を上げる間もなく、地獄の苦痛を感じる前に。
 《メタルアベンジャー》と《ニュートン》は死んだのだ。

『むごすぎる……』

 見れば、2体に、大穴が幾つも空いていた。
 目が、臓器が、ぼとぼと、と零れ落ちていく。
 殺すだけではない。それは、死体で遊んでいるようにも見えた。
 それだけでは飽き足らないのか、《ハーシェル・ディストーション》は、その死体を両方共鷲づかみにすると、地獄の門となっている自らの鎧の腹部に放り込む。ガスが抜けるような音、そして、絶叫が空間に響き渡った。
 見せしめともいえる、むごたらしい死者への冒涜だった。
 クリーチャーと言えども、息はしているし、心はある。《メタルアベンジャー》や《ニュートン》のようなクリーチャーなら、戦士としてのプライドも尊厳もあるはずだ。
 しかし。それら全てを一切無視し、《ハーシェル・ディストーション》は、容易くそれを踏み躙った。
 その光景を、ノゾムは放心状態で見ることすら出来なかった。
 途端に、今まで抑えていた吐き気が、あふれ出す。

「うえっ……!」

 げほっ、げほっ、と膝をついて胃の中の物が口から零れ出た。
 余りの凄まじさに精神が限界を超えてしまったのだ。

『ノゾム!?』
「ご、ごめん、クレセント……みっともないところを見せちまったな……」

 しかし。2体の凄まじい最期が脳裏に焼き付いて離れない。
 あんな残酷な殺し方、死ぬまで忘れないだろう。
 ——やっぱり間違ってる……!! こんなことをするための力なんて、間違ってるんだ!! 
 立っているのがやっとだったが、ようやく起き上がった。
 身体も、精神も、ふらふらで、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。もう、発狂する一歩手前だった。
 ——怖い……!! それに、気持ちが悪い……!! 
 

「《ハーシェル》の効果で、最終的に墓地に送られたシールドの数だけ、シールドゾーンにカードを置きますよ?」

 ホタルのシールドが3枚に増えた。
 そして、と彼女は続ける。

「呪文、《ヘブンズ・ゲート》! 効果で、《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》と《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》をバトルゾーンに!」

 天空より、2体の女神がその姿を表した。
 方や勝利の女神。
 方や破滅の女神。
 それが揃ったとき、更なる惨劇がノゾムを襲う。

「《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》の効果で、場にあるハンターの数だけ貴方の手札を墓地送りに!」

 破滅の光が、ノゾムの手札3枚を焼き払った。
 しかし。その中の1つに、《電脳提督 アクア・ジーニアス》があった。
 それを出そうとするノゾム。しかし。
 クレセントがその手を止めた。

「な、何を……!!」
『駄目!! よく、相手を見て!』
「——あっ!」

 見れば、既に《ハーシェル・ディストーション》が構えを取っていた。
 舌打ちをするホタル。「もう少しで血祭りだったのに」と語散った。

「よく気付きましたね。《ハーシェル・ディストーション》の効果を」
『殺気が漏れてるもん……バレバレだったよ!!』

 ノゾムは危うく、自分のクリーチャーを再びむごたらしく死なせてしまうところだったのだ。
 ふふ、と艶っぽく笑ったホタルは言った。

「《ハーシェル・ディストーション》は相手がクリーチャーのコストを支払わずに召喚したとき、”その効果を一切無効化”して破壊できるんですよ? 後もう少しで細切れだったのに」
「う、嘘だろ!? それじゃあS・トリガーもマッドネスも、ニンジャ・ストライクも全部駄目ってことじゃねえか……!!」

 まあ、そんなわけなんで——とホタルは《ハーシェル・ディストーション》のカードに手を掛けた。
 
「さっさとシールド全部割ってあげるんで、楽になっちゃいましょう。ノゾムさん?」

 見れば、ホタルのブロッカーが全て臨戦態勢に入っていた。
 まるで、今すぐ攻撃できるようだった。《メスタポ》1体くらいならどうにかなかったかもしれない。
 しかし。今ホタルの場にいるクリーチャーの殆どが、”今すぐ攻撃できる”。



「《ハーシェル》の効果で、私のブロッカーは——全員、攻撃できないという効果が無効化されます」
「——は?」



串刺しの騎士レイニーズデイ ハーシェル・ディストーション 光/闇文明
スターダスト・クリーチャー:ユニコーン・コマンド・ドラゴン/ダーク・ナイトメア 13500
U・コア
T・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、自分のシールドを全て墓地に置き、その中からクリーチャーを全て手札に加える。その後、こうして手札に加えたクリーチャーの数だけ、相手のクリーチャーを破壊する。その後、こうしてシールドを墓地に置いた数だけ、山札からシールドゾーンにカードを置く。
相手がコストを支払わずにクリーチャーをバトルゾーンに出したとき、そのクリーチャーを破壊する。そのクリーチャーの効果は発動しない。
自分のクリーチャーが相手プレイヤー、またはクリーチャーを攻撃することができない効果はすべて無効になる。(召喚酔いや、「このクリーチャーは攻撃することができない」または「このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない」などの効果が無効になる)
武装解除



 
 それは、死刑宣告に等しかった。
 再び、ホタルの場を見る。
 《ハーシェル・ディストーション》、《ベルリン》、《ジェラシー・シャン》、《メタスポ》、《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》、《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》。
 とすれば、その中で攻撃できるのは召喚酔いの《ジャンヌ・ダルク》2体以外の5体全てであろうか。
 つまり。
 並大抵のカードでどうにかできる状況ではないということは、理解した。
 ひっ、と彼は悲鳴を漏らした。

「それじゃあいきますよ?」

 にこり、と笑った彼女は。
 容赦なく命じた。




「殺っちゃってください、ハーシェル」

Act11:暁の太陽に勝利を望む ( No.193 )
日時: 2015/10/16 04:25
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 このターンでホタルはノゾムに止めが刺せる。 
 それも、オーバーキルも大概と言わんばかりの軍勢で。
 ノゾムのS・トリガーが1つや2つ発動したところで、それは関係ない。 
 ターンをすっ飛ばせる《クロック》もいるが、《ハーシェル・ディストーション》は、コストを支払わずに出たクリーチャーの効果を無効化して破壊するので、関係ない。
 刹那、《ハーシェル・ディストーション》のレイピアがノゾムのシールドを3枚、叩き割った。
 T・ブレイクだった。
 破片が一気に彼の身体に降り注ぐ。
 服が破れた。肌が裂けた。肉が抉れた。
 血が、全身から吹き出た。
 シールドを割られながら、彼の脳裏にふと浮かんだ。
 ——オレは……負けるのか?
 見てはいけない、敗北へのビジョン。しかし、それでもやはり見てしまった。
 自分が、あのレイピアで貫かれる光景を。
 ——オレも、ああなるのか——!?
 自分のクリーチャーのように、むごたらしく殺される光景を。
 ——怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い——!!
 恐怖で膝が折れた。
 腰が抜けて、立って居られなくなった。
 もう、だめだ。此処で殺される。
 13歳という余りにも若い少年の精神は、もう崩壊寸前だった——



「大丈夫だよ」



 声が聞こえた。
 ふわり、と柔らかい毛皮が自分の肌に触れる。

『——あたしが——いるよ。貴方は1人じゃない』
「——クレセ——むぐ」

 彼がその名を言う前に、口はふさがってしまう。
 ぎゅ、と優しく抱きしめられる中で。
 崩壊寸前だった彼の精神は、だんだん落ち着いてきた。

『ホタルを、助けたいんでしょ?』
「だけど——怖い」

 怖いものなんか無いと思っていた。
 自分1人で助けられると思っていた。
 だけど。彼にはもう、立ち向かう勇気が無くなっていた。

「オレさ。小さい頃に親を亡くして、以来ずっと思ってたんだ」

 虚空を掴む。
 夢を、握るように。

「ヒーローになりてえって。でも、オレはただの人間だ……ヒーローにはなれない。ホタルも救えない」
『ノゾムはね。白陽に似てるんだよ?』
「白陽に……?」
『うん。大切な人を助けるためなら、どんな無茶でもしちゃう。多分、それって絶対褒められることじゃないと思うけどね?』

 ふふっ、と笑った彼女は言った。



「ヒーローの資質なんて、立ち向かう気持ちさえあれば、十分なんだよ? あたしにとっては、あたしを人生のパートナーとして選んでくれた白陽も、あたしをクリーチャーのパートナーとして選んでくれたノゾムも——ヒーローだから」



 揺らいでいたノゾムの思いが、だんだん固まっていく。
 決意となって、強く、硬くなっていく。
 だからね、とクレセントは続けた。



「もし、貴方が折れそうになったその時は。命を賭してでも、あたし達クリーチャーが支えるから!!」



 いつの間にか。
 ノゾムは自分がデュエリストであることを忘れていた。
 クリーチャー無くして、デュエリストは戦えない。
 そして、デュエルに於いてクリーチャーの死は付き物だ。
 それから目を逸らし、自分と重ねて怯えていては、闘えない。

「……クレセント。オレ、ホタルのことが——」
『うん。その気持ちを素直にぶつければ、あの子も戻ってきてくれるよ』 
「……ああ」

 今も怖くて足が震えている。
 胸の奥から気持ち悪いものがこみ上げている。
 視界はブレブレだし、頭もくらくらだ。
 しかし。それでも今は、戦うしかない。
 全力で彼女に、自分の魂をぶつけるしかないのだ。

「ホタル——!!」

 彼女の名を叫ぶ。
 今、正に自分に止めを刺そうとしている彼女に、立ちはだかる。
 ——特別なヒーローなんかじゃなくたって!! 戦う気持ちがあれば、前に進めるんだよ!!
 そう、クレセントが背中を押してくれたから。



「S・トリガー発動!! お待ちかねのヒーロータイムだ!! 《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》!!」



 それは、英雄にのみ与えられた奥義だった。
 諦めない意思に。
 飾らない真のヒーローに。
 チャンスは必ず訪れるから。
 まずは、《ハーシェル》がその激流に包まれる。しかし、武装解除で生き残ってしまった。

「何を……! 一匹戻したところでまだ——!!」
「いーや、こっからだ!! マナ武装7発動!! ヒーローの力、見せてやるぜ!!」

 ぐっ、と拳を握り締めるノゾム。
 それに呼応したか、激流は更に激しくなる。



「《スパイラル・ハリケーン》のマナ武装効果で、お前の場のクリーチャーを全て手札に戻す!!」



英雄奥義 スパイラル・ハリケーン R 水文明 (4)
呪文
S・トリガー
バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻す。
マナ武装 7:自分のマナゾーンに水のカードが7枚以上あれば、バトルゾーンにある相手のクリーチャーをすべて持ち主の手札に戻す。



 今まで崩れなかったホタルの表情が、一瞬で驚愕の表情に変わった。
 神々しい女神も、奇妙な巡霊者も、嫉妬に燃える光の使徒も、そして破滅の騎士も、全て激流に飲み込まれて消えた——

「……ターン終了」

 一瞬で、バトルゾーンのカードが全て消えた。
 この事実に、彼女は驚きが隠せなかった。
 
「力を……!! 私の力をよくも!!」

 自分の力を奪った彼に、激しい怒りを燃やすホタル。先程までの艶やかなメッキは剥がれ落ち、完全に闇に墜ちた者としての本性を表したのだ。
 殺意。その瞳には、明確な殺意が現れていた。

「オレのターン!! 《エビデゴラス》の効果で、1枚追加でドロー!」

 消し飛ばされた手札が戻ってきたことで、余裕が戻る。
 
「げほっ、げほっ……!! 更に、7マナをタップ!!」

 彼の言葉と共に、水文明の7枚のマナがタップされた。
 突如。
 決闘空間に、三日月が昇る。
 それは、玉兎の武神姫の登場を、意味していた。



「満月に誓い、永久の約束を! そして、邪悪なる者に怒りの鉄槌を!
《上弦の玉兎星 クレセント・ニハル》召喚!!」



 今度は、ホタルが気圧されてしまっていた。
 余りにも強い覇気。
 先程まで怯えていた彼女ではないようだった。

『ノゾムの戦う姿に、あたし達も元気が出たんだよ! 行くよ、ノゾム!』
「ああ! 《クレセント・ニハル》の効果発動! 超次元ゾーンから、《月影機構 ルーン・ツールS(ストライク)》をバトルゾーンに!!」



月影機構 ルーン・ツールS 水文明 (5)
クリーチャー:ムーン・ラビー・ツール 4000
L・コア
相手はL・コアの付いたクリーチャーを選ぶことは出来ず、攻撃もできない。
このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、相手の手札を1枚選んでも良い。相手はそのカードを自身の山札の一番下に置く。
自分の水のクリーチャーはブロックされない。
星芒武装--ターンの終わりに自分の手札の数が相手の手札の数を上回っており、バトルゾーンにL・コアを持つクリーチャーがいる場合、このカードを裏返してそのクリーチャーの上に重ねる。



「ターン終了だ」

 彼女の瞳が、再び殺意で光った。
 赤く、不気味に輝き、目の前の獲物を狩る野獣と化していた。

「成る程……! これは私も本気を出さざるを得ませんね!!」

 ホタルのマナゾーンのカードが6枚、タップされた。
 そして、神々しい光と共に、天空に門が開く。

「呪文、もう1度《ヘブンズ・ゲート》! 《光器 セイント・マリア》、《ハーシェル・ブランデ》をバトルゾーンに! そして、《ドラドルイン》を召喚!」



光器セイント・マリア SR 光文明 (9)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/ハンター 11500
ブロッカー
自分のターンの終わりに、バトルゾーンにある自分のハンター・クリーチャーをすべてアンタップする。こうしてアンタップした光のハンター1体につき、自分の山札の上から1枚を裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加えてもよい。
W・ブレイカー



 《ハーシェル・ブランデ》の後に続くように、《ドラドルイン》、更に《セイント・マリア》が現れる。
 しかし。
 そんなことは最早、彼には関係無かった。

「ホタル。聞いてくれ」

 目の前の少女を助けたい。
 そして、伝えたい。その一心で彼は叫ぶ。



「オレは、もっとお前のことを知りたいんだ!!」



 興味、と言ってしまえばそれまでだった。しかし。女子で初めて彼に深く関わったのは、ホタルだった。
 彼女の笑顔は、まだノゾムの中では未知の領域だった。
 親がいなくなったため、彼女は笑うことはあっても、それは心からのものとは思えなかった。
 だから、知りたかった。
 彼女の笑顔を。

「な、何を……!」
「オレは、お前には思いっきり笑顔でいてほしい。もう、お前が悲しむ姿を見るのは嫌なんだ!! オレは、お前の笑顔をもっと知りたい!! オレは、お前のことをもっと知りたい!!」
「違う!! 一体、何を世迷いごとを!!」
「だから!! お前を縛り付けている力の執着から、オレがお前を救う!!」

 決意の魂を込めたドロー。
 《エビデゴラス》の効果で、更に1枚。
 もう、勝利への方程式は整っていた。
 


「暁の太陽に、勝利を望む——龍素記号Og抽出、完了!! 
実体化せよ、《龍素記号Og アマテ・ラジアル》!!」



 結晶が現れた。Og、即ちオリジナルの力。
 そして、天さえも照らす、かつての彼の力。
 それは今、彼のアレンジを経て、遂にオリジナルの領域に達したのだ。
 その能力により、更なる呪文を自由自在に操ることが出来るようになっていた。
 
「行くぜ! 《アマテ・ラジアル》の効果発動! 山札から、コスト4以下の水の呪文を唱える!」

 《メスタポ》がいなくなった今、ノゾムは山札の中を見ることが出来るようになっている。
 その中から選ばれたのは、《サイバー・ブック》だった。

「呪文、《サイバー・ブック》! 山札の上から3枚を引いて、1枚を山札の一番下に! そして、ターンに5枚カードを引いたとき、《エビデゴラス》の龍解条件達成だ!」

 巨大な空母が姿を変えた。
 彼の、誰かを助けるヒーローになりたいという意思が、激流のように伝わり、結晶龍の王を光臨させる——



「弱き者の盾となれ! そして世界を導け! 今、最期の龍解を成し遂げろ!!
《最終龍理 Q.E.D+》をバトルゾーンに!」



 現れたのは、機械仕掛けの結晶龍。
 そして、それによって《クレセント》の鉄槌に力が篭る。

「オレの水のドラゴンは、これでブロックされない!」
「それがどうしたって言うんですか! 打点は足りていないはずです!」
「ああ、わかっているさ! だから、まだ此処では決めない!!ターンの終了時に、お前の手札の枚数を、オレが上回っているならば!! 《ルーン・ツールS》の武装条件が達成される!」

 ホタルは、大量にバウンスを食らったとはいえ、先のターンでクリーチャーの召喚に手札を使ってしまっていた。
 一方のノゾムは、《エビデゴラス》や《サイバー・ブック》で手札を補充していたので、枚数は最終的に彼女を上回っていたのだ。
 《ルーン・ツール》の怪しい瞳が光った。
 それらが分離し、パーツとなって、クレセントの身体を覆っていく。
 そして、美しく、そして強靭な三日月の龍を顕現させた。
 青く。蒼く。まるで、美しい海のようなボディ、強大な主砲。
 そして、大きな鉄槌。
 それらが全て、ノゾムのヒーローへの思いを投影する——

「その鉄槌で悪を砕け。正義を胸に今、ここに武装完了!!」

 蒼き鉄槌が振るわれた。
 これで、全ての因果を断ち切るために。



「《循環月影 クレセント・ベクトル》!!」



 それは、正義を執行する。
 その正義は、何のためにあるか。
 弱者を助け、強者を挫くため。
 誰かを助けたいという夢を、現実に、そして真実にするため。
 その主砲を全て、撃ち込んだ。

「《クレセント・ベクトル》の効果発動! お前の場のクリーチャーを全てバウンスする!!」
「なっ……!?」

 次の瞬間、再びホタルの場のクリーチャーが消えた。
 しかも、もう《ヘブンズ・ゲート》は彼女の手札には無い。残りはマナゾーンと山札にでも眠っているのだろう。
 あ、ああ、と声を漏らし、最後の抵抗を彼女は続ける。

「力がないと!! 何も出来ない!! 力がないと!! 全部失ってしまう!! 親も、仲間も、守る事ができないじゃないですか!!」
「お前が欲しかった力は、誰かを傷つけるために手に入れた力じゃないはずだ!! 《ハーシェル》から感じた力は少なくとも、誰かを守るために使えるような代物じゃなかった!!」
「だって——!!」

 バトルゾーンに、《ドラドルイン》を引き連れて現れる《ハーシェル》。
 しかし。最早、それは空しい抵抗だった。
 もう、そのままターンを終えるしかない。
 だって、だって、と涙声で彼女は訴えるしかなかった。
 彼女は崩れ落ちる。
 その眼に浮かび、流れる涙を隠すように。
 そして、溢れる邪悪が彼女を包み込む。
 背後に、悪魔が見えた。
 近づくものを全て飲み込んでしまいそうな勢いだった。
 彼はそれでも、手を伸ばした。
 彼はそれでも、踏み込んだ。
 彼女を、完全に深淵から引っ張り出すために。

「待ってろ——今助けるから!!」

 ばっ、とマナゾーンのカードを全てアンタップさせる。
 そして。
 一気に最後の攻勢に打って出た。

「《アマテ・ラジアル》でW・ブレイク!!」

 シールド・トリガーは無い。
 更にそのまま、そこに結晶龍の王が続く。

「《Q.E.D+》で最後のシールドをブレイク!!」

 《Q.E.D+》の二門の副砲と、超巨大な主砲がホタルの最後のシールドを狙い打った。
 そして。ホタルを、ハーシェルを、大きな深淵から切り離すため。
 《クレセント・ベクトル》の全主砲が彼女の背後の闇を撃った——!!




「《循環月影 クレセント・ベクトル》でダイレクトアタック!!」

Act11:暁の太陽に勝利を望む ( No.194 )
日時: 2015/10/12 13:12
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

***



 仰向けになったまま、ヒナタは暗い空間で放心状態になっていた。
 此処がどこか、自分が誰なのかさえ、最早どうでもよくなっていた。


 ——でも、大丈夫です。私は、この道で生きていくって決めましたから。絶対に挫けません——


 ふと。誰の言葉だったか、それが思い出された。
 そうか。あれは確か——
 そして。今度は、咽び泣くような声。
 悲しみと苦しみの中で必死にもがく声。
 かすれてしまうほどに小さいが、彼は誰の声なのか、なんとなく理解できた。
 それは——先程、自分の最後のシールドを割った《リュウセイ》の声だ、と彼は判断した。

「泣いてる」

 ぽつり、と彼は言った。



「《リュウセイ》が泣いてる——」



 いや、それだけではない。断定するのに時間が掛かった理由。
 それは——その泣き声に、レンの声が混じっていたからだ。
 普段、絶対に涙を見せない彼の泣き声なんて知らないはずなのに。



「レンも、泣いてる——」



「……先輩」

 さらに、声がする。とても、近くから。
 死んだ幼馴染の声ではない。
 これは、まだ生きているはずの人間の声。
 しかし。遠くに行ってしまった人間の声だ。

「大丈夫ですか」
「……ちーと無理かもしれねえな」

 力なくヒナタは返した。
 仰向けになった彼は、自分の顔を覗く彼女に、情けない返事しか出来なかった。

「……俺は、あいつがあんなに苦しんでたのに気付かなかった。馬鹿だよな——大切な人を失ったときの気持ちは、俺が一番分かっているつもりなのに。俺はやっぱり分かっていなかった。とんだ大馬鹿野郎だ」
「先輩が諦めてどうするのですか」
「……」

 彼は答えられなかった。
 ——そうだ。俺が諦めたら、誰がレンを止めるんだよ。
 コトハも、フジも、鎖に縛られている。空間から戻ったレンに何をされるか分からない。
 ノゾムが負けるとも思ってはいないが、それでも疲労した彼にレンを任せるのは心苦しい。

「……そうだな」
「デュエマに於いて、真剣勝負は至極当然です」
「そういや、それがお前の口癖だっけか」

 途中で諦めたら、真剣も何も無い。
 諦めたら楽になれるかもしれないが、その先に何が残る?
 恐らく、何も残らない。

「レン先輩は、私に仲間のことを教えてくれたのです。孤独だった、私に」
 
 彼女は続けた。



「先輩は、望みますか? 仲間の居ない孤独を」



 ヒナタの顔が動揺に変わる。



「先輩は、望みますか? また、誰かを失うことを」



 違う。誰も、そんなことは望んでいない。
 自分も、レンも——


「俺は——仲間と歩む未来を望む」


 起き上がり、彼は更に続けた。
 力の抜けた自分の体に渇を入れるように。



「俺は——そのために、レンを何が何でも連れ戻さねえといけねえんだ!!」



 それを聞いた彼女は、笑みもせずにそのまま文字通り、消えた。
 しかし。それが彼女のいつもだと知っていたヒナタは、笑って返した。
 
「ありがとな……」

 そして、再び意識が切れた——


 
 ***



 ——そうだ。
 彼はぎりぎりの中で、1つのことを思い出した。
 目が覚めた。全身5箇所に、抉られた様な強い痛みがある。
 しかし。それはまだ、自分が生きている証拠だ。彼は、痛みに生を見出したのだ。
 ——もう、誰も傷つけさせない、俺だって、そう決めたんだ……!! ”あいつ”の分まで、生きるって決めたんだ……!! レンを助ける。あいつの復讐心の牢獄から、絶対に!!



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 暁ヒナタは、ひたすら叫んだ。痛みをかき消す程に。
 自らを奮い立たせるように。
 全身の激痛など、関係は無かった。腹にまともに力もはいっていない。
 すぐに、白陽の心配そうな声が飛んでくる。

『ヒナタ、大丈夫なのか!? 倒れたから心配したんだぞ!?』
「大丈夫じゃねえ……多分、ぎりぎりのところで持ってるだけだ……!! それでも、俺はまだ闘える!!」
『しかし、今度こそ死ぬかもしれんのだぞ!? それも、デュエルの途中にだ!!』
「どうせ今此処で、退いても進んでも死ぬしかねーなら、俺は進んで死ぬって決めたんだ……それに、俺は死ぬつもりなんざ、さらさらねーよ……!! 俺は何が何でも、あいつと生きて、この空間から出るって決めたからな……!!」

 かすれかすれの声だったが、それは確かに白陽の心を動かした。
 冷静ではあるが、決して冷たい心の持ち主ではなく、むしろ熱い心の持ち主である彼の心を。

『そ、そこまでして……その心意気を踏みにじるのは余りにも無粋——私も最後まで乗らせてもらうぞ!! お前という、暁ヒナタという大船に!!』
「今じゃボロ船だけどな……!! それに、思い出したんだ」
『何?』

 立ち上がったヒナタは言った。



「——シオの、ことをな……!!」



 ギラリ、とレンの瞳が怒りで揺れる。

「その名を呼ぶな……貴様の汚らわしい口から、彼女の名を呼ぶな……!!」

 低く、唸るような声で彼は威圧した。
 自分を苦しめる枷に。
 どう足掻いても外せない枷に触れられることを拒絶した。
 しかし。それでも彼は続けた。

「思い出したんだよ。あいつは自分の境遇にめげずに、諦めず戦っていたのを」
「やめろ……シオは、もう……」
「俺達の事を覚えてない?」

 ぎりっ、とヒナタはレンの顔を睨みつける。



「ふざけんなっ!! そんなことは関係ねぇっ!! それが、お前が諦める理由にはならねぇはずだ!!」



 彼の顔が、動揺の色に変わる。
 そして。

「記憶が無くても……シオは少なくとも、復讐心に囚われたお前を見たくなんかねぇはずだ!!」
「うるさい!! それで僕の心を乱すつもりか!! この大罪人め——!!」
「7マナをタップ」

 ヒナタのマナゾーンのカードが7枚、タップされた。
 そして——

「お前が背負いたかったものを、否定させやしねえ!! お前にも、他の誰にもだっ!! これは俺の独りよがりかもしれねぇ、俺の偽善かもしれねえ!! それでも俺は、お前が仲間を理由に墜ちるのだけは、絶っっっ対に嫌だ!! 他の誰かの所為にして、全部捨てちまうお前なんて、見たくねぇんだ!!」

 魂の叫びを上げた。
 それに呼応するように。将龍の大太刀が炎を吹いた——



「《怒英雄 ガイムソウ》召喚!! マナ武装7で手札より——《王・龍覇 グレンモルト「刃」》をバトルゾーンに!!」
 

 
 赤き勝利の鎧に身を包んだ龍はヒナタの心に答えた。
 その大太刀が切り裂いた虚空から現れたのは、ドラグハートを身に宿した若き戦士だ。
 そして。巨大な勝利の龍の剣が天空に現れる。
 しかし、その程度ではレンの問題にはならなかった。

「馬鹿め!! ウェポン如きで、今更何ができる!!」

 ウェポンを持ったドラグナー如き、ブロックして破壊すれば問題は無い。
 場には《ゼッキョウ・サイキョウ》が居るのだから。
 だが。
 彼の自信を、ヒナタは打ち砕いて見せた。

「誰がこの”面”で出すって言った? 《グレンモルト「刃」》はコスト6以下のドラグハートをバトルゾーンに出せるんだ!! ウェポンだろうが、フォートレスだろうがな!!」
「何!?」




王・龍覇 グレンモルト「刃(やいば)」 R 火文明 (9)
クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン/ヒューマノイド爆/ドラグナー 9000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト3以下のドラグハート・フォートレスを2枚まで、または、コスト5以下の火のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。(それがウエポンであれば、このクリーチャーに装備して出す
スピードアタッカー
W・ブレイカー



 次の瞬間、天空で龍の剣が要塞と成り、大きな音を立てて地面へ。
 燃える炎と共に、熱血と友情を証明するために、龍の天守閣が顕現した。
 その名は——



「燃えろ闘魂、呼び出せドラゴン!! 燃えろ、俺の2D龍解!! 《爆熱天守 バトライ閣》!!」



爆熱天守 バトライ閣  ≡V≡  火文明 (5)
ドラグハート・フォートレス
自分の火のドラゴンまたは火のヒューマノイドが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目をすべてのプレイヤーに見せてもよい。それが進化ではないドラゴンまたは進化ではないヒューマノイドであれば、バトルゾーンに出す。それ以外なら、自分の山札の一番下に置く。
龍解:自分のターン中、ドラゴンをバトルゾーンに出した時、それがそのターンに出す最初のドラゴンでなければ、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップしてもよい。



 戦闘龍の王、《バトライオウ》の魂を封じ込めた巨大な城閣。
 それは、新たなる戦闘龍を呼び出す、火文明の拠点となる。

「《グレンモルト「刃」》で攻撃!! 火のヒューマノイドにしてドラゴンである《グレンモルト「刃」》が攻撃したから、《バトライ閣》の効果発動だ!!」

 火のドラゴン、ヒューマノイドが攻撃したとき。その要塞は更なる龍を生み出した。


 それは時をも越えて。


 それは空間をも越えて。


 それは歴史をも覆す、最強の戦士——



「暁の光が差すとき、数多の戦場駆け、勝利を宣言せよ
——《勝利宣言 鬼丸「覇」》!!」


 
 現れたのは、巨大な赤き勝利の龍に跨る若き戦士、《鬼丸》。それは、高らかに勝利を宣言するように、大剣を抜いた。
 レンの顔は驚愕に染まっていた。
 それは、コトハのかつての切札だったのだ。

「つくづく仲間ってのは大切にしねえといけねぇな……!! ありがたく、使わせてもらうぜ!!」
「おのれ、このゴミカスが……!! 仲間など、ただの枷だというのに!!」

 自分の枷となりえる全てを否定するレン。彼は拒絶した。
 自分を苦しめてきたモノを。
 彼は疲れてしまったのだ。仲間を、過去をも背負い込むことを。
 だから全て捨ててしまおう。
 捨ててしまえば楽になれる——
 
「まだそんなこと言ってんのか、レン!! 好い加減、目ェ覚まさせてやるぜ!! ドラゴンがバトルゾーンに出たとき、それがターンの最初のドラゴンじゃないならば、《バトライ閣》の龍解条件が達成される!!」

 しかし。ヒナタはそれを許さなかった。
 無かったことになんかさせない。
 今までの自分達の軌跡を。
 苦しみも、悲しみも、そして喜びも共にしてきた仲間だから。
 目の前の痛みだけに囚われた彼を放っておけなかったのだ。
 ——違うんだ、レン!! 俺達も苦しんだんだ!! お前だけが、辛い思いをしただけじゃねえんだ!! 

「おのれ、まだ足掻くつもりか!! 《オドル・ニードル》!! 奴の攻撃軌道を変えろ!!」

 大太刀をレンのシールドに向けた《グレンモルト「刃」》だったが、その前に《オドル・ニードル》の肉薄による特攻により、敢え無く爆散した。

「すまねえ、《グレンモルト「刃」》。だけど——お前の想い、こいつが確かに受け取った!!」

 叫んだヒナタの魂に呼応するように。
 太陽が昇天する。
 暗闇の決闘空間を明るく照らす。
 《バトライ閣》を背にして——



「暁の水平線に」



 ——火柱が上がる——



「勝利を刻み込め」



 ——城閣は、龍の姿を成し——



「時は加速する」



 ——最強の武神へと昇華した——



「新しい明日の太陽が昇るまでに——」



 ——轟!! と、炎が爆ぜ、彼の者は立ち上がる——



「——3D龍解!!」


 ——今此処に。熱き魂と、時空をも切り裂く大太刀を手にした最強の龍が現れた。王を超えた、武神へと成るべくして成った龍が。
 さあ、拳を突き上げろ。
 その名は——




「——《爆熱DX バトライ武神》!!」

Act11:暁の太陽に勝利を望む ( No.195 )
日時: 2015/10/13 22:55
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 熱い魂に呼応して、最強の熱血龍が現れた。
 暁の日差しで輝く戦場に、勝利を齎すために咆哮を上げる。
 そして、それに奮い立たせられたのか、《鬼丸「覇」》が剣を振るう。

「《鬼丸「覇」》で攻撃!! こいつが攻撃したとき、相手とガチンコ・ジャッジを行う!!」
「おのれ、ヒナタ……僕はコスト8の《偽りの王 フォルテッシモ》だ!! これでどうだっ!!」
「コスト8? 奇遇だな——」

 笑みを浮かべた彼は、山札の上から捲ったカードを見せた。



「俺も、コスト”8”の《永遠のリュウセイ・カイザー》だぜ!!」



 互いに捲られたクリーチャーのコストは8。
 しかし。ガチンコ・ジャッジにおいて、コストが同じカードが捲られたとき、それは仕掛けた側の勝利となるのだ。
 大太刀と、龍の炎がレンのシールドを狙う!!

「俺の勝ちだ!! 《鬼丸「覇」》でT・ブレイク!! パワーアタッカーで、攻撃中はパワー14000だ!!」

 しかし、その前に《ゼッキョウ・サイキョウ》がその攻撃を受け止めた。
 そして、《鬼丸「覇」》の身体も実影を失って、完全に崩れ落ちてしまう。

「馬鹿め、《ゼッキョウ・サイキョウ》でブロック!! どうだ、止めきったぞ!! スレイヤーだから、貴様の切札も道連れだ!!」

 《鬼丸「覇」》は、勝利の化身は崩れ去った。
 もう、跡形もない。

「はははは!! 貴様の場に、攻撃できるクリーチャーはもういない!! 《バトライ武神》も召喚酔いで攻撃できないからな!! 断罪だ!! 貴様を死刑にしてやる!! 殺してやる!!」
「……おい、レン。お前、《鬼丸「覇」》の効果も忘れちまったのかよ?」
「何——!?」

 彼の勝利を確信した笑みは、壊された。
 何故ならば。
 もう、ヒナタのターンは終わったはずなのに。
 レンのターン。つまり暗い暗い、復讐の夜は来なかったから——

「し、しまった——!!」
「《鬼丸「覇」》が攻撃したとき、ガチンコ・ジャッジに勝てば、”もう1回俺のターン”が来る!! お前のターンは、夜は、もう来ない!!」

 時間は加速する。
 新しい日が昇る程に。



勝利宣言(ビクトリー・ラッシュ) 鬼丸「覇(ヘッド)」  ≡V≡  火文明 (10)
クリーチャー:ヒューマノイド/レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター/エイリアン 9000+
スピードアタッカー
パワーアタッカー+5000
このクリーチャーが攻撃する時、相手とガチンコ・ジャッジする。自分が勝ったら、このターンの後にもう一度自分のターンを行う。
T・ブレイカー



「《グレンモルト》の遺志も!! 《鬼丸》の遺志も!! 《バトライ武神》が背負う!!」

 カードを再び引いたヒナタ。
 それを見て、白陽が言った。

『ヒナタ! そのカードが、私達の希望となる!! クリーチャーを、私達を信じてくれ!!』
「言われるまでもねえ!! まずは《バトライ武神》で攻撃!! このとき、山札から3枚を表向きにする!! 虚空をこじ開けろ!! 《バトライ武神》ーっ!!」

 《バトライ武神》の、身の丈もあろう程かという大太刀が空気を切り裂いた。
 そして、そこから熱風が舞い上がる。
 3枚のうち、2枚。
 2枚のカードに、熱血の炎が灯った。

「そして、それが進化ではないドラゴンかヒューマノイドなら、バトルゾーンに出せるんだ!! 出て来い、《熱血龍 GENJI・XXX》! そして——」

 最後に巻き起こるは、英雄の旋風だった。
 全ての闇を消し去る、暁の九尾。



「黄金の九尾を携えし、聖獣よ!! 今、この俺と鼓動をあわせろ!! 咆哮せよ、そして開闢せよ!!
《尾英雄 開闢の白陽》!!」



 神聖なる彼の者は、降り立った。
 全ての闇を祓うように。
 
『私はどんな逆境に遭っても——今使える力を、全て使い切るだけだ!! たとえ、武装が出来なくたって!! 戦い抜いてやる!! 守り抜いてやる!! そう決めた!!』
「《バトライ武神》でシールドをT・ブレイク!!」

 薙ぎ払うように放たれた大太刀が、レンのシールドを3枚、焼き尽くす。
 そして、それに続くように怒りの英雄が突貫した。
 しかし。
 彼の復讐への執念は、それでも燃え尽きなかった。



「S・トリガー、発動!! 《デビル・ハンド》2枚!! 《ガイムソウ》と《GENJI》を破壊し、僕の山札から3枚を墓地へ!! そして、《インフェルノ・サイン》でブロッカーの《崩壊の悪魔龍 クラクランブ》をバトルゾーンに!!」



 もう少しでトドメが刺せた。
 しかし。今度こそ、これ以上のアタッカーはいない。

「ターンエンドだ」

 その言葉を聞いて、彼は舌なめずりした。
 最早、盲目的にヒナタを殺すことだけしか考えていないレンは、凄まじい目で彼を睨んだ。
 そして次に、《「白陽」》に眼を向ける。

「そいつさえ殺せば、僕の勝ちだ……!! 僕のターン、ドロー……!!」

 そして、引いたカードを見て、彼の目は踊った。
 死神の断罪の始まりだった。

「呪文、《煉獄超技 骸骨方陣》!!」

 《「白陽」》には、ドラゴンの攻撃を完全に封じる能力があった。
 しかし。それさえ除去してしまえば、最早レンを邪魔する物は無い。
 ダイレクトアタックと同時に、ヒナタの脳天に鎖を突き刺すだけだ。

「僕の手札を全て捨てる。《凶殺王 デス・ハンズ》と《悪魔龍 ダークマスターズ》が墓地に落ちたので——コストは合計13。《「白陽」》のパワーを0にして破壊だ!!」

 煉獄の魔方陣が、《「白陽」》を囲んだ。
 そして。地獄に引きずり込んでいく。
 そして彼は、完全に消滅した—— 

「これで貴様を守る者はいなくなった!! 死ね、ヒナタ!! お前の負けだぁぁぁーっ!! 新しい朝も、貴様の未来も、何も来やしない!! 貴様は此処で処刑されるのだからなぁぁぁーっ!!」
『哀れな子狐座……勝つのは、何時の時代も罪と罰の力だというのに、下手に足掻くからこうなる!! さあ、大人しく死になさいっ!!』

 もう、彼には勝利しか見えていない。ヒナタのシールドは0枚。白陽以外に、守る手段はないはずだ。
 仮にあったとして。これだけの軍勢を、どうやって止めるつもりなのか。彼には思いつかない。少なくとも、火文明にそんな手段はない。
 荒ぶる龍が、ヒナタの魂を食い付くさんとばかりに襲い掛かる——



「——やれやれ。気の早い連中だぜ」



 ——刹那。
 龍の動きが止まった。
 レンの意思に反して、だ。

「!? 馬鹿な!! どうした!! 何故動かない!!」

 見れば。
 赤い螺旋状の炎と共に、《「白陽」》の身体が蘇る。
 大胆不敵に、彼は槍を振るって得意げに言った。

『残念だったな。トリックだ。九尾の妖術を舐めるな』
「な、何があった!! 説明しろ!! 一体、どうしてそいつは生きている!!」

 血走った目で喚き立てるレン。
 逸れに対し、ヒナタは既に落ち着き払っていた。

「自分の場の《白陽》と名のつくクリーチャーがバトルゾーンを離れたとき。手札の《陰陽超技 炎熱乱舞》を捨てれば、そのクリーチャーは移動したゾーンから再び、バトルゾーンに戻ってくる」

 

陰陽超技・炎熱乱舞 火文明 (6)
呪文
S・トリガー
名前に《白陽》とあるクリーチャーがバトルゾーンを離れたとき、このカードを手札から捨てても良い。そうした場合、送られたゾーンからそのクリーチャーをバトルゾーンに出す。
自分の場にあるカードのコストの合計以下のコストを持つ相手のクリーチャーを2体まで破壊する。
マナ武装7--自分の山札を見る。その中から、コスト9以上のカードか、名前に《白陽》とあるクリーチャーを手札に加える。その後、山札をシャッフルする。 



 最早、レンは声も出なかった。
 完全に、抜かった。
 どうせなら、彼の手札も破壊しておくべきだったのに。

「前にも言ったはずだぜ。やるなら、俺の手札も破壊してからにしろってな」
「こ、の……馬鹿な!! 過去も、思い出も、仲間もいらないんだ!! 苦しめられるなら!! それが僕の足枷になるならば!! いらないんだぁぁぁーっ!!」
「馬鹿野郎が」

 ぴしゃり、と彼はそれを否定した。

「誰もが皆、何かを背負って苦しんでんだよ。何かに一筋に向かってる人だって、全部捨ててそれだけに向かって突っ走ってるわけじゃねえ。色々抱えて、重い足取りで、ゆっくりと歩んでるんだよ!!」

 誰もが、必ず何かを背負って生きている。それだけは伝えたかった。
 熱い思いを、彼にぶつけるために。
 真剣な眼差しを向けて言った。


「それでも前向いて進んでるんだ……前を向いて進むってのは、自分の抱えているものを捨てることじゃねえ!! ”引きずって”いくことなんだよ!! 重い足取りでも、ゆっくりと、確かに、一歩ずつ進んでいくことなんだよ!!」



 叫んだ彼は痛みにも負けずに言った。腹に力はこもらなかったが、それでも魂に身を任せ、彼に伝えたいことを伝えた。

『騙されてはいけません!! 貴方は——』
「うるさい!! 貴様は、黙っていろ!!」

 アヴィオールの邪悪な声を振り切り、彼は叫んだ。

「それでも、どうしようもなくなったらどうしたら良い!? 自分1人で抱え切れなくなったら、どうしたら良い!!」
「仲間がいる」

 断言した。
 そして、彼は力強く、静かに言った。
 彼に、思い出させるために。



「それを、あいつに——シオに教えたのは、お前のはずだ。レン」



 気付けばレンは、自分の心に巣食っていたものから、全て開放されていた。
 憎しみと苦しみが消えていく。



「お前が何て言ったって、俺達は仲間だ。お前の味方なんだ」



 九尾が、槍を振るう。
 大罪の鎖を、”自責”という罰を切り裂くため。
 ——馬鹿な、そんな、馬鹿なーっ!!
 ふと、レンの脳裏に浮かんだのは、ありし日のあの写真だった。
 彼女は。自分が変えてしまった彼女は。一体、今何を考えているのか。
 ——シオ……僕は……!
 次の瞬間。
 彼の脳裏に、1つの映像が更に浮かんだ——



 ***


 
 ——此処は——

 黒鳥レンの意識が目覚めた。
 良心という名の意識が。
 見れば、自分の腕に、冷たいものが繋がれていた。
 鎖だ。
 そして、辺りを見回すと、此処は独房のようだった。冷たい空気、コンクリートの床と天井、壁。
 正面には鉄格子の戸がある。
 自分はまるで、囚人のようだ。
 ふと、何かの気配を感じた彼は、正面を睨んだ。

「そこに、誰かいるのか?」

 反応は無い。
 しかし。彼は確かに見た。
 鉄格子の間に繋がれた、黒い龍の姿を——


 
 ***


 映像はそこで途切れた。
 だが、熱血の魂を叩き込むように、白陽が突貫して来ることにレンは気付いた。
 彼は、それを受け入れることにした。
 自分の中の悪鬼を、滅ぼすために。
 
「頼む」

 その声に、ヒナタは頷いた。
 《「白陽」》の効果で、レンのドラゴンは、もう攻撃もブロックも出来ない。
 障壁は、もう存在しない。
 それは、2人の間も同様だった——








「——《尾英雄 開闢の「白陽」》で、ダイレクトアタック」

Act12:真相 ( No.196 )
日時: 2015/10/13 01:45
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

 ***


 
 光が溢れる。
 声が聞こえる。
 ああ。これは暖かい、自分の知る声——
 
「ホタル、大丈夫か!?」

 はっきりと、ようやくその声が耳に入った。
 視界はとてもぼんやりしているが、彼の姿が目に入る。
 気付けば、自分の中に巣食っていた悪魔は消えていた。
 もやもやも、力への異様な執着も、全部消えていた。
 思わず、起き上がり、もう1度彼の顔を見る。
 そして、自分の体を触った。
 生きてる。
 自分も、彼も。
 元に戻ったのだ、と。
 安堵した瞬間、ぺたん、と座り込んでしまう。
 そして、自然と熱いものがこみ上げてきて、彼の胸に倒れこんだ。

「ごめんなさい……! 私、私……!」
「良かった。起きなかったらどうしようかって思ってたんだ。助けに来たのに、お前に大怪我を負わせちまったら、意味ねーもんな」
「ごめんなさい、本当に……!」

 彼に大きな迷惑を掛けてしまったこと。
 彼を苦しめてしまったこと。
 それに対する罪悪感で一杯の胸のうちを吐き出すように、泣きじゃくりながら彼女は謝った。

「私……怖かった……! 弱い自分が……! だから、アヴィオールにも付け込まれて……!」

 ひっく、ひっく、と止め処めなく嗚咽は続いた。
 
「弱かったら、全部失ってしまうから……! だから、力が欲しかった……! 武装の力が欲しかった……! 気付いたら、目的も全部見失って、アヴィオールにあんな力を与えられて——」

 涙が零れて、落ちる。
 際限なく、落ちていく。
 地面をぬらし、彼女の顔もぬれていく。
 
「弱かったら——皆に——ノゾムさんに見放されちゃうと思ったから——私、迷惑ばっかりかけてたから——」

 彼女は吐き出すように喋りだした。
 自分の無力さを痛感し、絶望したこと。
 クレセントの事を深追いして事件に巻き込まれて助けられ、彼女はいつか彼にお礼をしたいと思っていたこと。
 アヴィオールによって親が居なくなったことも、ヒナタによってバレてしまい、後には引けなくなってしまったこと。
 思えば、自分は助けられてばかりで迷惑を掛けてばかりだったのではないかと思いつめていたこと。

「だから、アヴィオールをこの手で倒すことで、自分の力で倒すことで決着を付けたかったのに……それが結局叶わなかった……それどころか——」

 ホタルはアヴィオールに連れ去られてしまった。
 相棒のハーシェルも巻き込んでしまった上に、彼に酷いことを言ってしまった。
 こんな自分が許されるわけがあるだろうか。
 いや、無い。
 気付けば、身動きが取れなくなってから、ひたすら力が欲しいと望むようになった。
 そうしたら——

「アヴィオールが言ったの。”武装の力”をあげましょうって——私、凄く苦しかった——拒むことも出来ずに、恐ろしいものが流れ込んできて——」

 思えば、一種の洗脳状態だったのだろう。
 力に酷く陶酔し、目的を完全に忘れ、アヴィオールに感謝すらするようになってしまった。アヴィオールが自分に何をしたのかも忘れて——
 気付いたら、ノゾムが正面に立っていた。
 互いの5枚のシールドを挟んで。
 闇に本来の意識を縛られながら、彼と戦うことを必死で拒絶しようとした。
 その思考も途切れて——

「怖かった……本当に、怖かったよ、ノゾムさん……」

 彼女はノゾムの顔を見た。
 決して少なくは無いであろう疲れや、口元についた血が自分のやったことの恐ろしさを嫌でも理解させた。

「ごめんない……私の所為だから……! もう、ノゾムさんには関わらないから……!」
「何言ってんだよ」

 ホタルは、自分の頭の上に温かいものを感じた。
 彼の、優しく、少し小さな手のひらだった。
 笑みを浮かべて、彼は言葉を紡ぐ。

「オレはお前を助けに来たんだ。そんなこと言うんじゃねえ。此処に来た意味が無くなっちまう」
「ノゾム……さん」
「それに、誰もお前を見放したりしない。少なくとも、オレは絶対にお前の近くに居る。約束する」

 ぎゅっ、と彼女の手を握り締める。
 大丈夫だよ、と伝えるために。
 そういえば、と彼はデッキを取り出して彼女に問うた。

「オレとお前、デュエマしたこと無かったよな?」
「そ、そういえば……」
「だから、今度デュエマをしよう。な?」
「……はい!」

 思い返せば、ホタルはノゾムとは違うクラスだったし、いつもクリーチャーと戦っていたからか、彼とは一度もデュエルをしたことがなかった。
 D・リーグのマッチングでも、彼と当たったことはまだ無かった。
 それに、と彼は繋げる。
 彼女の瞳を真っ直ぐ見つめながら。

「オレ、お前が笑った顔を見てきたけど、心の底から笑ってる顔ってやっぱり無かったと思うんだ」
「……そう、なんですか?」

 少し、気恥ずかしいものを感じる。自分の顔をちゃんと見てくれたんだ、という嬉しさも入り混じって。
 やはりこの少年は純朴すぎるのだ。

「ああ。今思えば、やっぱりお前が1人で無理してたからじゃねーかって」

 だから、と彼は続ける。



「オレはホタルのことをもっと知りたい。お前の笑顔も、お前自身のことも」



 笑顔でそう言ってみせた彼の言葉に、また1粒、涙が流れた。
 これは多分、自分が期待している意味ではない。
 彼はまだ、余りにも純粋すぎるから。
 それでも彼女は嬉しかった。
 胸が熱くなっていく。彼の言葉に、首を横へは振れなかった。
 
「だから……帰ったら、まずはデュエマし……」

 ずるり、と彼の頭がゆっくりと自分の胸元へ落ちたのが分かった。
 見れば、もう既に彼は寝息を立ててしまっている。
 余程疲れていたのだろうということが分かった。
 さっきまで、あんなに凛々しかったのに、まるで年下の子供のように幼く感じられてしまった。
 ふふ、と自然と笑顔が零れる。そして、まるで母親に対する子供のように、彼の髪を撫でた。 
 ストレートで真っ直ぐな、彼の心そのもののような手触りが心地よく伝わってきた。
 
「——ありがとう、ノゾムさん——私、やっぱり貴方が——」

 言いかけた口を、そのまま閉ざした。
 自分でもまだ、この気持ちが何なのかはっきり分かっていないのに、それを寝ているとはいえ、彼に言うのは憚られたからだ。
 いや、多分もう分かっているのだろう。
 それでも。 
 今はまだ、この関係で居たかった。
 友人、という関係で——
 でも、少しだけでもノゾムの近くに居たい。普通の友達で終わらせたくない。
 そう思った彼女は、少し考え始めた——




 ***



「ふむ。すまなかったのう、クレセントよ。とはいえ、わしは何も覚えておらんのだ、情けない」
「良いんだよ、ハーシェル。どっち道、あんたもついでに助けないといけなかったしね」
「ついでか、わしは。……まあ、とはいえ主をこんな目に遭わせてしまったのは、クリーチャーであるわしの責任じゃわい。反省しても足りんよ」
「アヴィオールが狡猾だっただけだよ。貴方達は悪くない」
「それよりも、ホタルとノゾムが良い感じになっておるのじゃが……心を見透かしたが、ありゃ完全に”ホ”の字が付いてるぞ。わし出て行って良いか」
「全くもう、本当に無粋だね。それにノゾムは鈍感だからそう簡単に落ちはしないってば。……あのキスさえ無ければ」
「なっ!? 十六夜ノゾムめ、許さん!! ホタルの純潔を!! 羨まけしからん、突き殺してや——」
「落ち着きなさい、種馬」
「酷い!! その言い方は流石に酷い!! 折れたぞ、わしの心の角は!!」
「仕掛けたのはホタルの方よ。アヴィオールに操られていたからだけど。それも、唇からノゾムに病魔を送り込ませるためにね。全く、大胆すぎてこっちが恥ずかしかったよ」
「誰もヌシに言われたくは無いわ」
「何か言った?」
「いや何も」
「それでも、デュエルに勝ったら消えたみたいだから全然オッケーなんだけどね。後、アヴィオールは白陽達に任せれば良いよ。あんたはしばらく休んでれば? 相当、消耗してるはずだよ?」
「そ、そうだったのか……まあ、ええわい。わしにとっては、主の幸せが何よりの幸福だからな——」

 遠くからカードの姿で、ハーシェルは笑みを浮かべた。


「お前さんは良い仲間を持ったよ——ホタル」


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